AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science April 20, 2007, Vol.316


そこを越えないで(That's Far Enough)

シロイヌナズナの成長中の根端においては、SHORTROOT(SHR)という転写制御因子が細胞から細胞へ移動している。しかし、この移動性転写信号の目標となる細胞が構成している層の厚さはほんの一細胞分である。Cuiたち(p. 421; Dolanによる展望記事参照)は、移動性信号がちょうどその範囲に収まるように制限している相互作用を明確にした。SHRが隣の細胞層に移動すると、SHRの相手であるSCARECROW(SCR)というタンパク質に出合い、結合する。SHRとSCRは一緒に核に移動し、SCR遺伝子の転写を制御している。SCRタンパク質の過剰が発生すれば、巡回しているSHRは除去されるので、要求に応じてSCRがじゅうぶん利用できる状態のときは、SHRとその信号が隣の一細胞層からは出られないことになるのである。 (PA)
An Evolutionarily Conserved Mechanism Delimiting SHR Movement Defines a Single Layer of Endodermis in Plants
p. 421-425.
PLANT SCIENCE: SCARECROWs at the Border
p. 377-378.

熔解したマントルの混合(Mantle Melt Mixing)

対流するマントルの不均一性は、マントルの中に海洋地殻や一部の大陸地殻の名残りが循環している結果である。Sobolev等(p.412; 3月29日オンライン公開、Herzbergによる展望記事参照)は、Ni, Ca, Co.,Mn, CrそしてAlなどの様々な成分の計測を組み合わせることにより、玄武岩中に含まれる循環していた地殻の構成要素を分離する手法を開発した。彼等は、中央海嶺や大洋諸島(ocean islands)そして巨大火成岩岩石区(large igneous provinces)の玄武岩から収集されたかんらん石の斑晶(olivine phenocrysts)の試料を大量に集めた。232個の試料から取り出した17,000粒に対してイオンマイクロプローブ分析を行った。それらの組成を共同で分析することにより、玄武岩のタイプが異なると組成が変化することが見つかった。これは地殻物質の混入によって生じると考えられる。熔解している環境のほぼ全てで循環物質が検出され、そして循環物質の熔解物に対する寄与は、温位(potential temperature)と岩石圏の厚みとに関係している可能性がある。(TO,nk)
The Amount of Recycled Crust in Sources of Mantle-Derived Melts
p. 412-417.
GEOCHEMISTRY: Food for a Volcanic Diet
p. 378-379.

土星の回転以上のものを測る(Measuring More Than Saturn's Rotation)

土星は、その内側よりもゆっくり回転する厚い雲の層に包まれているため、ガス惑星のひとつである土星の真の内部回転率を決定することは困難である。これまで用いられてきたひとつの測定法は、惑星の磁気双極子の回転によって引き起こされる強烈な電波放射(土星のkmレベルの放射)の変調である。しかしながら、土星を取り巻くプラズマの回転に滑りが存在することを示唆するような、あるタイミングの変化が見つかっている。これもまた、電波信号を変調している可能性がある。Gurnett たち (p.442,3月22日にオンラインで公表された; Bagenal による展望記事を参照のこと) は、変化の多くが、特別な経度で、かつエンケラドス衛星の軌道の近くで起こることを示している。その地点ではまた蒸気の注入が見られる。著者たちは、プラズマ円盤の両側に双子の対流セルが築かれ、そこではイオンが一方向に注ぎ込まれるため、ある経度での電子密度と電波放射とが増大するというモデルを提案した。これによって、ある経度における電子密度と電波放射とが増加させられるのである。(Wt,nk)
The Variable Rotation Period of the Inner Region of Saturn's Plasma Disk
p. 442-445.
PLANETARY SCIENCE: A New Spin on Saturn's Rotation
p. 380-381.

銅塩の歪み(Cuprate Contortion)

X線や電子線の回折技術の発達によって、固体の構造が光学的励起によって突然変化する瞬間の詳細な観察が可能になってきている。ピコ秒の時間解像度での電子線回折を利用し、Gedikたち(p.425)は、銅塩(cuprate)のセラミックス(32ケルビン以下では超伝導となる)が光誘発で膨張することを明らかにした。特に、800ナノメートル波長の光子のパルスをある閾値以上の強度で与えると、数十ピコ秒以内にc軸方向に離散的な格子膨張が生じ、その固体は10倍ゆっくりした時間スケールで縮小していく。膨張の規模は光子の量に比例しているが、これは、光励起による酸化物から銅への電荷移動は反発的相互作用に起因するとしていた一過性の幾何学的モデルについての予備的なモデルとも整合性がある。(Ej,hE)
Nonequilibrium Phase Transitions in Cuprates Observed by Ultrafast Electron Crystallography
p. 425-429.

可視光を後ろ向きに曲げること

調整可能な電気・磁気応答を持つ人工的な物質あるいはメタマテリアルは、負の屈折率を実現することができる。負の屈折率内での電磁放射は自然の物質で予測される方向とは逆方向に曲げられる。また、完全レンズとクローキング(物質の遮蔽効果)のような別の効果も、より長い波長のところで示されている。Lezecたち(p. 430,3月22日のオンラインで公開)はこのたび、可視域において負屈折率を示す物質の存在を実証した。この研究はスーパレンズのような実用的なデバイスがこの重要な波長域で実現される可能性を示すものである。(hk,nk)
Negative Refraction at Visible Frequencies
p. 430-432.

高熱でのクリープを阻止する(Beating Creep in the Heat)

熱を利用するエンジンは、高温で作動するほど効率が良いが、材料特性、特にクリープ耐性強度は高温で劣化しやすいという問題点がある。ニッケル系の超合金はこの問題点を克服できるが、一般的に利用するには値段が高すぎる。また、ある種の鋼鉄には充分なクリープ耐性があるが、このために利用されている酸化クロムは高温での充分な耐酸化強度がない。酸化アルミニウムはもっと優れた耐酸化性を示すが、アルミニウムの含有量が多くなると、鋼は強度の弱いフェライト相に転移する。Yamamoto たち(p. 433)は、鉄鋼合金からチタンとバナジウムを除去し、ニオブだけを使った炭化析出物を利用して、アルミニウムの低成分合金であれば、クリープ耐性のある材料が得られることを示した。このようにして、高温で低コストでクリープ耐性を持った鋼鉄合金を作ることが出来た。(Ej,hE)
Creep-Resistant, Al2O3-Forming Austenitic Stainless Steels
p. 433-436.

軽量な切断機構(Lightweight Cleaver)

ほとんどの遷移金属がHをたやすく結び付けるのは、水素から金属に対して電子が与えられるという一次的な要因に、逆方向の二次的な付与が組み合わさることに起因するとされてきた。Freyたちは、同様のプロセスが電子が豊富なアルキル(アミノ)カルベンへのH添加を促進していることを明らかにしている(p. 439)。遷移金属と同様、安定した一重項カルベンは電子対一組と空軌道の双方をもっているが、計算からは、その一次プロセスはカルベンから水素へ求核性電子を与えることである、と示唆される。この求核性機構はまた、カルベンにアンモニアのN-H結合の切断を許すが、これは、めったにみられない、求電子性金属中心における反応である。(KF)
Facile Splitting of Hydrogen and Ammonia by Nucleophilic Activation at a Single Carbon Center
p. 439-441.

色でコードされた紡錘体の組立て(Color-Coded Mitotic Spindle Assembly)

RNA干渉技術を用いてショウジョウバエ細胞の全ゲノムをスクリーンする能力は、これまでにない詳細さで細胞内プロセスのさまざまな側面を検討する機会を提供するものである。Goshimaたちは、計算機的解析を用いて、紡錘体機能に関与するタンパク質の高スループットの顕微鏡画像から表現型のスクリーニングを行ない、全ゲノムのスクリーン結果を提示している(4月5日オンライン発行されたp. 417)。紡錘体は現在までスクリーンされたもっとも複雑な細胞内構造であり、この自動化されたスクリーニング技術と詳細な表現型解析は、紡錘体微小管がいかにして産生され、中心体がいかにして位置を定めているか、について洞察を与えてくれるものになっている。(KF)
Genes Required for Mitotic Spindle Assembly in Drosophila S2 Cells
p. 417-421.

自閉症の遺伝性についての洞察(Insight into Autism's Heritability)

双生児研究は、すべての神経精神医学的障害の中で自閉症が "もっとも高く遺伝性である" ことを明らかにしてきたが、その事例の大部分では、自閉症の家族歴はなく、それについて理解できる理由もなかった。連鎖と会合(linkage and association)研究は、強力な遺伝子候補を曖昧性なく同定することができずにいるが、これは自閉症の遺伝性危険因子が複雑であることを示唆するものである。遺伝のパターン(伝統的な遺伝的アプローチが焦点を当ててきたもの)を見るのではなく、Sebatたちは、マイクロアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーションを用いて、コピー数における自発性変動の出現を探した(3月15日にオンライン発行されたp. 445)。彼らは、自閉症の個人がコントロール対象の人たちに比較して、コピー数の変異体の頻度で10倍になっていることを発見した。染色体の変化が小さな領域に見つかり、それは単一遺伝子の変化を含むものであった。(KF)
Strong Association of De Novo Copy Number Mutations with Autism
p. 445-449.

ちょうどじゅうぶんなだけの酸素活性化(Just Enough Oxygen Activation)

多くの鉄含有酵素はOを活性化し、反応性oxo-ferryl種の酸化力を利用しているが、一方それ以外のものは、活性化酸素から細胞を保護している。2つの結晶学研究が、O活性化と非活性化の双方の機構についての洞察を提供している(Wilmotによる展望記事参照のこと)。KovalevaとLipscombは、O活性化におけるsuperoxoとalkylperoxo、さらに結合してできる中間物の構造と、エクストラジオール環切断ジオキシゲナーゼ(extradiol ring-cleaving dioxygenase)の挿入反応について報告している(p. 453)。これら構造は一緒になって、ジオキシゲナーゼ機構の主要な化学的ステップを定めているのである。Katonaたちは、スーパーオキシド還元酵素中の鉄過酸化中間物を捉えて、この酵素が反応性のoxo-ferryl中間物ではなく反応産物であるHOをいかにして形成しているかを示唆している(p. 449)。(KF)
BIOCHEMISTRY: An Ancient and Intimate Partnership
p. 379-380.
Crystal Structures of Fe2+ Dioxygenase Superoxo, Alkylperoxo, and Bound Product Intermediates
p. 453-457.
Raman-Assisted Crystallography Reveals End-On Peroxide Intermediates in a Nonheme Iron Enzyme
p. 449-453.

勝者が記憶を想起する(The Winners Recall Memories)

電気生理学的な細胞の画像診断というものは、所与の記憶に関与するニューロンのほんの一部を示してくれるに過ぎない。なぜ、その隣にあるニューロンではなく、あるニューロンが、特定の記憶に関与しているのだろう? Hanたちは、聴覚性恐怖のコード化の時点で転写制御因子であるcAMP応答配列結合タンパク質(CREB)の最高水準の機能を含む外側扁桃体が、活性を制御されている遺伝子Arcをその記憶の想起後に優先的に発現している当のものであることを発見した(p. 457)。つまり、記憶形成の間、ニューロンは競合しており、cAMP応答配列結合タンパク質が勝者を決定しているのである。(KF)
Neuronal Competition and Selection During Memory Formation
p. 457-460.

高圧を使わないで高硬度を達成(Hardness Without High Pressures)

超硬材料は磨耗材や切断材料として利用される。最も高硬度の物質としてはダイアモンドがあるが、これは鉄合金の切断には使えない。なぜなら、温度が上昇すると鉄カーバイドができてしまうためである。この欠点を克服できる安定性の高い材料が求められてきた。しかしこれらの代用品は一般に超高圧下で合成される材料であった。Chung たち(p. 436)は、常圧で2ホウ化レニウムをアーク溶融法で合成したことを報告した。この物質は、ダイヤモンドに匹敵する硬度と耐圧縮性をc軸方向に示すものである。(Ej,hE)
Synthesis of Ultra-Incompressible Superhard Rhenium Diboride at Ambient Pressure
p. 436-439.

[インデックス] [前の号] [次の号]