AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 10, 2006, Vol.314


溶融ケイ酸塩移動のスライドショー(Silicate Slide Show)

溶融したマグマや他の地球物理学的液体が岩石間をどのように移動するかは、地質学における基本的な疑問点であった。Schianoたち(p. 970; Holnessによる展望記事参照) は、温度勾配によってケイ酸塩が駆動する場合はケイ酸塩はオリビン中の格子構造の中を通過するが、ガス成分の豊富な液体含有物( gas-rich fluid inclusions)の場合は通過できないことを示した。溶離したガス成分は留まろうとするため、溶融物から取り除かれる。溶融物は鉱物マトリックス中を移動するのであって、結晶のエッジに沿っての移動ではなく、融解と再結晶を繰り返しながらの移動となる。この過程は界面の動力学に支配されており、化学的拡散によるものではない。この結果、溶融成分が0.1%以下の溶融物の結晶間の移動は粒子間の多孔質の流れより高速であり、溶融物成分の少ない初期マントル溶融物が粒子サイズでの浸透や分離の物理的説明が可能となった。(Ej)
Transcrystalline Melt Migration and Earth's Mantle p. 970-974.
GEOCHEMISTRY: How Melted Rock Migrates p. 934-935.

コアに関する難問(Core Conundrum)

地球の内核は外核の凝固によってゆっくり成長する。これで放出される熱が外核の対流を助ける結果、地磁気ダイナモの駆動エネルギーとなる。Wen (p. 967, 9月28日のオンライン出版参照)は、内核境界で反射された地震に起因する疎密波を用いて、境界のある一箇所における内核半径の成長を直接測定した。1993年と2003年に南サンドウィッチ諸島で起きた二つの地震について、中央アフリカ真下の内核表面で反射した地震波の到達時間をロシアとキルギスタンの地震観測所で計った結果、2003年の方が数十ミリ秒だけ早かった。これは内核境界面が10年間で1キロメートル成長したと言う解釈に整合する。これは、以前、内核の熱履歴から推測された値よりはずっと大きい。このような急激な変化は、でこぼこした内核境界が地表と異なる回転速度を持つために10年の間に反射地点の半径が見かけ上変化して見えたのか、内核の成長速度が短期的には変動するかのどちらかを意味する。(Ej,nk,og)
Localized Temporal Change of the Earth's Inner Core Boundary p. 967-970.

多方面の食物(Well-Rounded Diet)

初期の人類の祖先の食物が何であったかを知ることはこれまで難しかった。我々に最も近い共通の祖先であるチンパンジーは、主にC3光合成経路を用いている植物由来の果実や木の実を食べている。後のヒト属の類人(hominins)は、草類(C4光合成経路を用いている)を食べる草食動物を含む多様な食物を食べていたことははっきりしている。ヒト属が道具を発達させたことが、こうした食物の多様性を与えたと考えられてきた。Sponheimerたち(p. 980; Ambroseによる展望記事参照)は、パラントロプス・ロブストス(Paranthropus robustus;180万年前位のヒト祖先の一種)の歯のエナメル層の炭素同位体の特徴を調査した。この初期の類人は、C3植物が豊富な食物からC4供給源の食物へと季節的に切り替えていた。この結果、パラントロプス・ロブストスの絶滅(彼らは明らかに道具を使っていなかった)は、食物が制限されたからであるという説明が難しくなった。(TO) Isotopic Evidence for Dietary Variability in the Early Hominin Paranthropus robustus p. 980-982.
ANTHROPOLOGY: Enhanced: A Tool for All Seasons p. 930-931.

ナノチューブ・エレクトロニクスへの道を描く(Etching a Route to Nanotube Electronics)

カーボンナノチューブの作成において、通常では半導体性と金属性のナノチューブの混合物が生じ、大規模エレクトロニクスの進展を阻害している。Zhangたち(p.974)は、メタンのプラズマ処理とアニーリング処理により選択的に金属性のナノチューブを除去できる方法について述べている。成長過程でのナノチューブの直径を制御する方法と結び付けることで、高電流トランジスターの製作により実証されたように、純粋な半導体デバイスが信頼性よく得られた。(KU)
Selective Etching of Metallic Carbon Nanotubes by Gas-Phase Reaction p. 974-977.

実現されたマイクロ波の透明マント(Microwave Cloaking Realized)

近年、物質の電磁波応答を調整できるようになり、理論家に“透明マント”の構成を提唱するきっかけになった。この透明マントは電磁波の放射を抑えるだけでなくあたかもその周りに電磁波が存在しないかのように作用する空間である。Schurigたち(p. 977,10月19日オンラインで出版;Choによる10月20日のニュース記事参照)は、マイクロ波領域においてスプリットリング共振器からなるメタ物質からこのような透明マントが作成できることを実証する実験結果を示している。この系は光損失も多く、2次元で作用するだけだが、その結果は透明マントの原理を実証している。(hk,Ej)
Metamaterial Electromagnetic Cloak at Microwave Frequencies p. 977-980.

単一ドメインを持つ磁気分離(Magnetic Separation with Single Domains)

ゼオライトといったメソポーラスな物質は高い吸着能力によって分離を可能にしているが、これらの物質を通しての大量の輸送処理が限定要因となっている。ナノ粒子は潜在的に大きな表面積を持ち、試料とすばやく接触するが、しかしながらサイズが減少するに従い溶液中からのナノ粒子の分離が困難となる。磁気分離方式は、溶液からのバッチ方式であれ、連続的な方式であれ、より大きな粒子に関しては有用な方法であるが、マイクロメートル以下の粒子に対しては法外に大きな磁気勾配が必要になると見なされていた。Yavuzたち(p.964)は、このように想定されていた制限が直径10nm程度の単一ドメインの磁性粒子には当てはまらない事を示している;比較的穏やかな磁場の強さで、磁性粒子が凝集し、明らかにマルチドメインの粒子に比べて遥かに高い表面磁場の強さに起因している。様々な大きさの粒子が分離され、磁性粒子表面への吸着により、水から砒素の不純物を捕まえて除去するのに用いる事ができる。(KU,Ej,og)
Low-Field Magnetic Separation of Monodisperse Fe3O4 Nanocrystals p. 964-967.

脂質による脱毛の真実(The Bald Truth About lipids)

髪の毛の喪失は、病気と関連したものであれ、或いは加齢と共に自然に生じる単純なものであれトラウマとなる可能性があり、この根本的なメカニズムを詳細に調べる事は大いに関心のある事柄である。Kazantsevaたち(p.982)は、ロシア人ファミリーの或るグループにおいて元凶となる遺伝子を同定した。このグループは髪の毛の成長に遺伝性の欠陥を示すが、他は健康体である。変異遺伝子であるLIPHは脂質-シグナル伝達分子の生成を制御していると考えられているホスホリパーゼの一つ、リパーゼHをコードしている。この発見はリパーゼHの発毛における役割や、発毛メカニズムの詳細を明らかにし、更にLIPH遺伝子が普通の人のより一般的な脱毛症状に寄与しているのかどうかを調べるきっかけにもなるであろう。(KU,Ej,so) そもそも、原文にある "hair follicle biology"という学問が存在するのでしょうか?「毛包生物学におけるリパーゼHの正確な役割の理解」の箇所を、「リパーゼHの発毛における役割や、発毛メカニズムの詳細を明らかにし」などとしてみてはいかがでしょうか?
Human Hair Growth Deficiency Is Linked to a Genetic Defect in the Phospholipase Gene LIPH p. 982-985.

私は病原体、ここから出して(I'm a Pathogen, Let Me Out of Here)

ある種の微生物病原体は宿主細胞内で複製し、病原性を持つには宿主内で細胞から細胞へとバクテリアの拡散が必要である。Yoshida たち(p. 985; Gorvelによる展望記事も参照) は、細胞内の赤痢菌がシステインプロテアーゼ様のVirAを宿主細胞内に分泌することを示し、これが微小管を壊し、その結果、細胞内の運動性を促進していることを示した。この過程によって赤痢菌の細胞内拡散を促進し、結果として隣接上皮細胞内への播種も助けている。(Ej,hE,so)
Microtubule-Severing Activity of Shigella Is Pivotal for Intercellular Spreading p. 985-989.
MICROBIOLOGY: Bacterial Bushwacking Through a Microtubule Jungle p. 931-932.

高齢者の失明の打破に向けて(Toward Defeating Blindness in the Elderly)

加齢黄斑変性(AMD)は、高齢者における失明のよくある原因であり、視野の中心がだんだん見えなくなっていく結果をもたらす、網膜の光感受性細胞の崩壊によって特徴付けられる。AMDの新生血管型、すなわち「ウエット」型は患者にとって特に痛烈なものだが、それは視覚損失が急速なためである。中国人の集団を調べることで、DeWanたちは、ウエット型AMDを発生するリスクを非常に増大させる、HTRA1遺伝子中の一塩基多型(SNP)を同定した(p. 989、10月19日にオンライン出版)。このHTRA1遺伝子は染色体10q26上に位置していて、熱ショック・セリンプロテアーゼをコードしており、そのSNPは遺伝子のプロモーター領域に存在している。Yangたちは、同じSNPがコーカサス人種の集団においてもまたAMDリスクを増大させ、HTRA1メッセンジャーRNAとタンパク質のより高いレベルでの発現を伴っている、ということを見出した(p. 992、10月19日にオンライン出版)。この遺伝子の同定は、究極的にはAMDの診断と治療の改善を導く可能性がある(10月20日のMarxによるニュース記事参照)。(KF,hE)
HTRA1 Promoter Polymorphism in Wet Age-Related Macular Degeneration p. 989-992.
A Variant of the HTRA1 Gene Increases Susceptibility to Age-Related Macular Degeneration p. 992-993.

侵入者の特定(Spotting Invaders)

宿主が、本来持っている核酸配列と感染源が持ち込んだDNAやRNAとを区別する能力は、潜在的に有害なダメージからゲノムを保護する際に決定的役割を果たしており、望まない外来の遺伝子を嗅ぎつけ、細胞応答の引き金を引くよう進化してきたシステムもいくつかある(Fujitaによる展望記事参照)。細胞質中の細胞警告システムの一部をなすレチノイン酸-誘導性タンパク質I(RIG-I)は、いくつかのRNAウイルスを特異的に認識するのだが、ではRIG-Iが実際に感知しているのは何なのだろう?  Hornungたち(p. 994、10月12日にオンライン出版)およびPichlmairたち(p. 997、10月12日にオンライン出版)は、RIG-IがウイルスRNAの5'末端の異常な特色、5'リン酸基を特異的に検出し、それに結合していることを示している。(KF,so)
VIROLOGY: Sensing Viral RNA Amid Your Own p. 935-936.
5'-Triphosphate RNA Is the Ligand for RIG-I p. 994-997.
RIG-I-Mediated Antiviral Responses to Single-Stranded RNA Bearing 5'-Phosphates p. 997-1001.

チャネル選択性を選ぶ(Choosing Channel Selectivity)

イオンチャネル・タンパク質は細胞膜の中にポアを形成し、電位または小さなメッセンジャー分子によって制御されて、細胞の情報の出入りの流れを制御している。K+チャネルは神経細胞の興奮性にとって重要なもので、K+イオンだけを伝導する一方、より小さなNa+を完全に排除する。Valiyaveetilたちは、この選択性が2つの方法で達成されていることを示している(p. 1004)。K+の存在下ではポアは開いたまま伝導性を保つが、K+濃度が低いとつぶれて、Na+を排除する。さらに加えて、伝導性の状態においては、ポアは K+に特異的な複数の結合部位に沿って並ぶ。(KF,so)
Ion Selectivity in a Semisynthetic K+ Channel Locked in the Conductive Conformation p. 1004-1007.

ありさまを見る(Viewing the Landscape)

タンパク質と核酸がいかにして折り畳まれるかを理解することは、それらの機能を理解する鍵となる。自由エネルギー状態でのランドスケープは、折り畳みを記述するための概念的枠組みを提供するものであるが、実験的には折り畳みのありさまの限られた側面しか特徴が明らかにされてこなかった。Woodsideたちは、多様にデザインされた配列を用いて、DNAヘアピンの可逆的折り畳みについての自由エネルギー状態でのありさまの完全な形状を決定した(p. 1001)。この実験的エネルギー地形は、高分解能の単一分子折り畳み軌道からの逆重畳積分によって決定され、計算されたエネルギー特性とよく合致するものである。(KF,hE,so)
Direct Measurement of the Full, Sequence-Dependent Folding Landscape of a Nucleic Acid p. 1001-1004.

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