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[インデックス] [今週のサイエンス]

Science June 2, 2006, Vol.312

特集:小惑星イトカワの「はやぶさ」 (Hayabusa at Asteroid Itokawa)

Hayabusa Image 小惑星に到着した「MUSES-C」イメージ画
提供 宇宙航空研究開発機構(JAXA) [オリジナル]


「はやぶさ」の着陸成功(The Falcon Has Landed)

Joanne Baker

地球に接近する小惑星による地球の危機を扱った空想科学映画はおなじみのものであるが、長い期間で見ればこれは現実の脅威でもある。小惑星は数百メートルから何十キロメートルの大きさで、ごつごつした岩でできていて、ひょっとすると凍りついた表面を持っているかもしれない。この天体が何で出来、どのように出来たかを知ることで、何時かは衝突軌道上の対象物を逸らしたり壊したり出来るだけでなく、地球誕生の謎にも迫ることができる。小惑星中には、45億年前に惑星を生成した瓦礫円盤の残り物を取込んでいる。それ以来、ほとんどの小惑星は衝突を繰返し、ぶつかり、傷跡を残している。隕石ののコレクションの中にはそれらの衝突の結果放出されたと考えられるものさえ存在する。(Ej,Fujiwara)


近地球天体探査における冒険(Adventures in Near-Earth Object Exploration)

Erik Asphaug

小惑星は地球に災害を起こす可能性があるため、ロボットや人間による宇宙探査の対象になる。しかし、極端に小さな重力環境のため、単純に表面に着地することでさえ、5年10年前に考えたよりもずっと困難であると思われる。日本による世界初の小惑星試料を持ち帰るという野心的な探査機打ち上げのお陰で、この目標が手の届くところにやってきた。(Ej,Fujiwara)


「はやぶさ」によって観測された瓦礫の山の小惑星イトカワ(The Rubble-Pile Asteroid Itokawa as Observed by Hayabusa)

A.Fujiwara, J. Kawaguchi, D. K. Yeomans, M. Abe, T. Mukai, T. Okada, J. Saito, H. Yano, M. Yoshikawa, D. J. Scheeres, O. Barnouin-Jha, A. F. Cheng, H. Demura, R. W. Gaskell, N. Hirata, H. Ikeda, T. Kominato, H. Miyamoto, A. M. Nakamura, R. Nakamura, S. Sasaki, K. Uesugi

2005年9月から12月初めにかけて、ハヤブサ探査機は地球軌道近傍小惑星のイトカワ(25143 Itokawa)に接近し、その形状、質量、表面地形、および、鉱物や元素の存在量などの多様なデータを取得した。小惑星の直交座標サイズは535, 294,および 209メートルであり、質量は3.51× 1010キログラムである。また推定されたバルク密度は1立方センチメートル当たり1.9 ±0.13グラムであった。表面の滑らかな領域(ミューゼスの海と相模原)と重力的に低い領域が対応することから、衝突による衝撃によって質量の移動と効率的な再表面形成プロセスが生じたと考えられる。イトカワは瓦礫で出来た天体であると考えられるが、その理由として、バルクの密度が低いこと、空隙が多いこと、岩石に富む外観と形状をしていることがあげられる。大きな岩や柱状物は、以前存在していた小惑星が衝突で壊れ、続いて再集積化して瓦礫の山の天体となったのだろう。(Ej,Fujiwara)


探査機「はやぶさ」から得られたイトカワ小惑星の近赤外スペクトル分析の結果(Near-Infrared Spectral Results of Asteroid Itokawa from the Hayabusa Spacecraft)

M. Abe, Y. Takagi, K. Kitazato, S. Abe, T. Hiroi, F. Vilas, B. E. Clark, P. A. Abell, S. M. Lederer, K. S. Jarvis, T. Nimura, Y. Ueda, A. Fujiwara

日本の探査機「はやぶさ」に乗せられた近赤外スペクトル分析器によって見つかった小惑星25143のイトカワの表面反射率によるアルベド(albedo)と吸収帯深度(absorption band depth)の変動は10%以上もあった。1マイクロメートル以上の吸収帯スペクトル形状は、この天体がオリビン(橄欖石)に富む鉱物の集合体であり、潜在的にはLL5, LL6コンドライトと似たものであることを示している。イトカワの表面の物理的条件の変動幅は、433エロス(Eros)のような他の探査機によって以前探索されたS型小惑星よりも大きいように見える。(Ej,M.Abe)


「はやぶさ」による小惑星イトカワのX線蛍光分析(X-ray Fluorescence Spectrometry of Asteroid Itokawa by Hayabusa)

Tatsuaki Okada, Kei Shirai, Yukio Yamamoto, Takehiko Arai, Kazunori

「はやぶさ」に搭載されたX線蛍光分析器は、2005年11月19日の最初の着陸の間、小惑星25143イトカワのX線蛍光分析を行った。これらの観測データは、太陽活動の比較的強い間のものを使って、平均的元素質量比を以下のように求めた;Mg/Si = 0.78 ±0.09, Al/Si = 0.07 ±0.03. この予備的な結果から、イトカワは普通コンドライトの組成と矛盾は無いが、原始的エコンドライト(achondrite)の可能性は排除できなかった。イトカワは、普通コンドライトの内では、Hコンドライトよりも、LLおよびLコンドライトの仲間であるように見える。小惑星表面での組成の地域的な差は見られず、組成は均一であると思われる。(Ej, okada)


小惑星25143 イトカワの「はやぶさ」からの詳細画像(Detailed Images of Asteroid 25143 Itokawa from Hayabusa)

J. Saito, H. Miyamoto, R. Nakamura, M. Ishiguro, T. Michikami, A. M. Nakamura, H. Demura, S. Sasaki, N. Hirata, C. Honda, A. Yamamoto, Y. Yokota, T. Fuse, F. Yoshida, D. J. Tholen, R. W. Gaskell, T. Hashimoto, T. Kubota, Y. Higuchi, T. Nakamura, P. Smith, K. Hiraoka, T. Honda, S. Kobayashi, M. Furuya, N. Matsumoto, E. Nemoto, A. Yukishita, K. Kitazato, B. Dermawan, A. Sogame, J. Terazono, C. Shinohara, H. Akiyama

日本の探査機「はやぶさ」と近地球小惑星25143イトカワとのランデブーが2005年9月から11月までの間に実施された。これに乗せていたカメラがこの小さな小惑星 (535 メートル× 294 メートル× 209 メートル)を画素あたり70センチメートルの空間解像度でしっかりした表面を撮影した画像から、多様な表面形状が明らかになった。以前に探査された小惑星とは異なり、イトカワの表面地形は粗い地域と滑らかな地域の2つに明瞭に区分されることが分かった。クレータは一般的に形状が不明瞭である。イトカワ表面には多数の岩塊があることから、瓦礫が集積した構造が推測される。(Ej,Saito)


探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワの質量と局所地形の計測(Mass and Local Topography Measurements of Itokawa by Hayabusa)

Shinsuke Abe, Tadashi Mukai, Naru Hirata,Olivier S. Barnouin-Jha, Andrew F. Cheng,Hirohide Demura, Robert W. Gaskell, Tatsuaki Hashimoto,Kensuke Hiraoka, Takayuki Honda, Takashi Kubota,Masatoshi Matsuoka, Takahide Mizuno, Ryosuke Nakamura,Daniel J. Scheeres, Makoto Yoshikawa

探査機「はやぶさ」に搭載された測距装置(高度計)により、小惑星25134イトカワの表面地形とその質量が測定された。イトカワ上の典型的なラフ領域は、小惑星433エロス上の巨大クレータ内部壁の岩屑の粗さに似ており、この事はイトカワの表面構造がErosのクレータ放出物に似ている事を示唆している。イトカワの質量は(3.58±0.18)×1010kgと推定され、体積(1.84±0.09)×1073に対してバルク密度は(1.95±0.14)g/cm3となり、LL隕石(含有鉄が少ないコンドライト)成分と仮定すると空隙率は〜40%で、不定形砂の空隙率に似ている。イトカワ表面形状観測と共に考えると、これらのデーターは、固い単一岩の小惑星ではなくラブルパイル構造を示す初めてのサブkmサイズの小惑星である事を示している。(KU,S.Abe)


2513イトカワの極と全体的な形状(Pole and Global Shape of 25143 Itokawa)

Hirohide Demura, Shingo Kobayashi, Etsuko Nemoto, Naoya Matsumoto, Motohiro Furuya, Akira Yukishita, Noboru Muranaka, Hideo Morita Ken'ichi Shirakawa, Makoto Maruya, Hiroshi Ohyama, Masashi Uo, Takashi Kubota, Tatsuaki Hashimoto, Jun'ichiro Kawaguchi, Akira Fujiwara, Jun Saito, Sho Sasaki, Hideaki Miyamoto, Naru Hirata

小惑星25143イトカワの自転軸の方向が探査機「はやぶさ」に搭載されたマルチバンド分光カメラのデータから得られた。自転は公転と逆向きで、その北極は、赤経 90.53、赤緯 −66.30°、あるいは黄経128.5°黄緯-89.66°を指しており、3.9°の誤差で決定された。表面積は0.393km2、体積は5%の誤差で0.018378km3である。そして、3軸の長さは、535m、294m、209mである。イトカワ全体はふたつの塊から成るブーメラン形状を示し、部分的に面取りされた地域とくびれた環構造で特徴づけられる。(KU,Wt,Demura)


はやぶさ探査機による、小惑星イトカワ上の「ミューゼスの海」地域へのタッチダウン(Touchdown of the Hayabusa Spacecraft at the Muses Sea on Itokawa)

Hajime Yano, T. Kubota, H. Miyamoto, T. Okada, D. Scheeres, Y. Takagi, K. Yoshida, M. Abe, S. Abe, O. Barnouin-Jha, A. Fujiwara, S. Hasegawa, T. Hashimoto, M. Ishiguro, M. Kato, J. Kawaguchi, T. Mukai, J. Saito, S. Sasaki, M. Yoshikawa

「はやぶさ」探査機による小惑星(25143)イトカワの全球観測の後、我々は探査機の着陸地点として、滑らかな領域である「ミューゼスの海」を選んだ。弾丸撃ち込み式試料採取装置を用いて、史上初の小惑星表面試料採取を行うべく、世界時2005年11月9日および25日に計二回、同地域へのタッチダウンを実施した。本稿では、第一回タッチダウン時の降下過程に取得した探査機の科学観測データおよび工学情報を駆使して求めた、「ミューゼスの海」地域の地質学的特徴、表層状態、レゴリス粒子の大きさ、構成物質・元素の均質性、物理特性への制約などに関する初期見解を報告する。例えば近接画像からは、第一回タッチダウン地点近辺のレゴリス表層は、数mmから数cm大にサイズが揃った粒子が密に敷き詰められた平原であることが明らかになった。(KU,Ej,Yano)


Asteroid Itokawa イトカワの特徴的な地形
誰も想像できなかった微小天体の素顔
提供 宇宙航空研究開発機構(JAXA) [オリジナル]


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