AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 24, 2006, Vol.311


成層圏の温度傾向を吟味する(Dissecting Stratospheric Temperature Trends)

1980年以降、成層圏下層はかなり寒冷化してきた。この寒冷化傾向は人為的効果の影響、主に成層圏オゾンの消滅と温室効果ガスの蓄積によるものとされている。しかし、この寒冷化プロセスには2つの火山大噴火という重要な2段階において発生している。Ramaswamyたち(p.1138)は自然的な影響と人為的な影響の役割を明確に詳述するため、気候モデルのシミューションを用いてこの傾向の時間的構造を調査した。全体的な気温の下降傾向は人為的要因による結果とはいえ、太陽照射の変化や火山性エアロゾルの自然的な影響は長期間にわたる緩慢な減少傾向に、観測上記録されているより短期間の時間スケールの構造が重ね合わさっている。このように、人為的要因は25年にわたる成層圏の寒冷化傾向に原因がある一方、その2つの段階は自然的要因によって引き起こされた。(TO)
Anthropogenic and Natural Influences in the Evolution of Lower Stratospheric Cooling p. 1138-1141.

初期の水生哺乳類(Early Aquatic Mammal)

中生代の哺乳類は小型で夜行性であり、そして6500万年前に恐竜が消滅するまではささやかな陸上での生態的地位(niches)に閉じ込められていたと考えられてきた。そのほとんどの記録は下顎の破片や歯が単独にあるだけである。Ji たち (p. 1123; 表紙とMartinによると展望記事参照)は、この考えを打ち砕くような中国で見つかったジュラ紀の哺乳類について述べている。その化石は保存状態がよく、その体には毛皮の痕跡が見られ、幅広い尾(全体的にビーバと類似する)には鱗が見られた。その動物はかなり大型で長さではほぼ半メートルにまで達し、肢の形状は泳ぎと穴掘りに適していることを示している。この初期の哺乳類に見られる原始的および発展的な両方の特徴と、哺乳類がこの時期に水生環境を占有していたという確証を組み合わせると初期の哺乳類における革新的進化が以前考えられていたより広範であったことが分かる。(TO,nk)
A Swimming Mammaliaform from the Middle Jurassic and Ecomorphological Diversification of Early Mammals p. 1123-1127.
PALEONTOLOGY: Early Mammalian Evolutionary Experiments p. 1109-1110.

古い染色分体と新しい染色分体を分離する(Segregating Old and New Chromatids)

染色体が複製する過程で 染色分体対は細胞分裂の間に、究極的に娘細胞中の独立した染色体に成る。染色分体の娘細胞への分離(古いDNA鎖と新しく合成されたDNA鎖)はランダムになされると期待されるが、ある研究によると分離はランダムに起きない場合があると言う。Armakolas と Klar (p. 1146) は、各種細胞型の中に、ランダムでない、染色体に特異的なDNA鎖の分離が存在する証拠を探した。有糸分裂の組換え後、マウス7番染色体が、心筋細胞やすい臓や中胚葉細胞中で、ランダムな分離をしていることを示す一方、胚性幹細胞や内胚葉細胞や神経外胚葉細胞中にはランダムでない分離が見られることを示した。これらの分離バターンは、発生の決定に重要であり、また刷り込みや遺伝にも関与しているかも知れない。(Ej,hE)
Cell Type Regulates Selective Segregation of Mouse Chromosome 7 DNA Strands in Mitosis p. 1146-1149.

巻き上げる(Wind Up)

最近の証拠によると、短い持続時間のガンマ線バーストは、中性子連星や中性子星とブラックホールの連星のようなコンパクトな天体の高速な合体によって生み出されることが示唆されている。しかしながら、明るいガンマ線バーストのあとの数百秒の間見られる長期のX線放射は、このモデルにとって未だ課題のひとつである。というのは、シミュレーションではこの合体が数秒で起こるはずだと予言しているからである。Daiたち (p.1127) は、合体過程はそれほどカタストロフィックではなく、最終段階であるブラックホールよりは、微分回転するミリ秒オーダーのパルサーを生み出すことを示唆している。パルサーの層はさまざまな速度で回転するため、その磁場は巻き上げられ、磁力線のリコネクション(再連結)により引き起こされる爆発的なX線フレアにより、散発的にエネルギーが放出される。(Wt)
X-ray Flares from Postmerger Millisecond Pulsars p. 1127-1129.

赤と青(Red and Blue)

楕円銀河における球状星団は、赤と青の二つの色に分類される。多くの天文学者は、この二色が星の年齢差を反映しているものと考えてきた。即ち、青色星団は赤色星団よりもより新しく作られたものであり、楕円銀河の成長過程での球状星団に関する二つのエポックを暗示するものであると。しかしながら、Yoonたち(p.1129,1月19日のオンライン出版;Freemanによる展望記事参照)は、球状星団の単一の同じ時期の集団が星の色と星の金属量との間の非線形性な関係により二つの色に分かれることを示している。水平分枝分星の適切な扱いを含む銀河スペクトルモデルでは、似たような年齢の星団に対してもこのような色分布を再現できるので、球状星団に関し複数の種族を想定する必要性はなくなった。(KU,nk)
Explaining the Color Distributions of Globular Cluster Systems in Elliptical Galaxies p. 1129-1132.
ASTRONOMY: Sorting Out the Colors of Globular Clusters p. 1105-1106.

量子コンピュータへの道のり(Finding the Path for Quantum Computing)

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは手に余るような難解な問題を解くものとして期待が大きい。しかしながら、アルゴリズムを見つけたり、或いはそのアルゴリズムを実行する量子回路を見つけることは現実的にきわめて難しい。その理由は、量子回路における構成要素の数が解こうとする問題の複雑さとともに多項式的に増加するからである。単一キュービットの操作は球における単位ベクトルの回転として見なされるが、量子コンピュータでは通常n個の相互作用するキュービットを有しており、2n次の空間が生じる。Nielsenたち(p.1133、Oppenheimによる展望記事参照)は、効率的な量子アルゴリズムを見いだす問題をある種の曲線幾何学、或いはリーマン幾何学における二点間の最短経路を決定する問題として見直した。その後、リーマン幾何学の数学的な手法を用いて、量子コンピュータに関する理解と効率的な量子アルゴリズムの決定可能な道筋を与えている。(KU)
Quantum Computation as Geometry p. 1133-1135.
PHYSICS: Implementing a Quantum Computation by Free Falling p. 1106-1107.

バクテリアにも社会生活が存在する(Bacteria Have Social Lives Too)

バクテリアは、quorum sensing メカニズムによって、他の個体の存在を観測することによって互いの存在を知り、個体数密度に応じて遺伝子発現を調節することができる。Camilli と Bassler (p.1113) は、バクテリアの個体検知に関わっている小分子の自己誘導物質に応答し、同時に、集団の個体数が影響を受け、社会的行動にどのように影響するかをレビューしている。自己誘導物質は色々な方法でパッケージされており、役割に応じて半減期も異なる。自己誘導物質のシグナルは第2メッセンジャーによって個々の細胞内に積算されるが、多分cdiGMPのシグナル伝達に拠っているのであろう。(Ej,hE)
Bacterial Small-Molecule Signaling Pathways p. 1113-1116.

正と負の転写制御因子(Positive and Negative Transcription Regulators)

ショウジョウバエ(Drosophila)のエピジェネティック制御因子のポリコーム群(PcG)とTrithorax群(trxG)はそれぞれ、染色体転写状態の抑制状態と活性化状態のいずれかを維持している。この制御因子は同一の二機能性の染色体要素を介して作用し、その機能を発揮する。これらの要素を介した転写により、制御因子をサイレントなポリコーム応答要素(PRE)から活性なTrithorax応答要素(TRE)へと転換する。Sanchez-Elsnerたち(p. 1118)は、Ultrabithorax(Ubx)遺伝子座においてPRE/TRE転写により作製された非コードRNAが、Ubx発現の活性化因子であるヒストンメチルトランスフェラーゼAsh1を補充する様に機能することを示した。Ash1はクロマチン-結合TRE非コードRNAと特異的に相互作用する。TRE非コードRNAはUbx TREにて保持されるが、おそらくはRNA-DNA相互作用を通じて、片割れのTREに対してAsh1を補充するようにトランス作用し、そしてUbx転写を活性化することもできる。(NF)
Noncoding RNAs of Trithorax Response Elements Recruit Drosophila Ash1 to Ultrabithorax p. 1118-1123.

時に応じて消滅し、免疫を調節(Timely Demise and Immune Control)

アポトーシスあるいはプログラム細胞死は、免疫系がそれ自体を制御するための基本的な手段である。細胞死装置の構成成分、例えば細胞表面受容体FasとFasリガンドが変異したり欠損した場合に、自己免疫が生じる。一般的に、このような変化がリンパ球では直接的に欠損するため、リンパ球の異常な活性化や増殖を引き起こしていると考えられている。しかしながら、Chenたち(p. 1160;Marxによるニュース記事を参照)はこの仮説に挑戦し、別の中心的な免疫細胞--樹状細胞(DC)--の正しく制御された細胞死もまた、免疫調節を維持するために必要であることを明らかにした。アポトーシスを防止するため、カスパーゼ阻害剤をコードする導入遺伝子をマウスのDCにターゲット導入し、結果としてこれらの細胞の休止期の状態、および抗原-プライミングの状態の両方において、DC細胞の蓄積を引き起こした。結果として、これらの動物におけるT細胞は長期的に活性化され、そして異常制御されたものとなり、自己免疫の警告徴候を引き起こす。(NF)
Dendritic Cell Apoptosis in the Maintenance of Immune Tolerance p. 1160-1164.

DNA損傷と転写の関係(DNA Damage-Transcription Links)

細胞中のDNA損傷は(いくつかの抗癌剤により産生される損傷と同様に)、細胞により感知され、細胞が生きるか死ぬかを決定する細胞反応を引き起こす。Wuたち(p. 1141;BartekとJiriによる展望記事を参照)は、核から細胞質へとこのシグナルを伝達する未知の関連性を明らかにした。タンパク質キナーゼATM(ataxia telangiectasia mutated)が、DNA損傷に反応して活性化され、そして転写因子NF-κBの活性を制御するIκBキナーゼ(IKK)複合体中のタンパク質の一つ、NEMOを直接的にリン酸化した。NF-κBは続いて、細胞の生き残りを促進するシグナルを媒介した。DNA損傷の後、ATMは核から運び出され、次いで、細胞質中でIKK複合体中の別のタンパク質、ELKSと相互作用した。活性化されたIKKは、次に、NF-κB-依存性の転写を活性化させた。(NF,KU)
B Signaling in Response to Genotoxic Stimuli p. 1141-1146.
CELL BIOLOGY: The Stress of Finding NEMO p. 1110-1111.

DNAの山から傷んだ針を探す(Searching for a Damaged Needle in a DNA Haystack)

DNA修復酵素は、正常な塩基対が大量にある中で害となりうる破壊された塩基どのようにして見つけ出すのだろう? Banerjeeたちは、細菌性のDNAグリコシラーゼが無傷のDNAらせん体を調べるが、損傷した塩基対を追い出す必要はないことを示している(p. 1153)。代わりに、保存されたフェニルアラニン残基がらせん状のスタック中に挿入し、挿入部位でゆがみを引き起こす。このプローブ残基が無傷のらせん体中の変形した塩基を検知し、損傷部位においてだけ塩基追い出しイベントが可能となる。(KF,hE)
Structure of a DNA Glycosylase Searching for Lesions p. 1153-1157.

長期にわたるプランクトンのカップリング(強い相互作用)(Long-Term Planktonic Coupling)

細菌プランクトンは主として植物プランクトン産生に依存して産生されるが、これは植物プランクトンが大量発生した後に細菌プランクトンが増えることから明らかである。海洋では、植物プランクトンと細菌プランクトンは短い一生(何日というレベル)を生き、また短距離(マイクロメートルというレベル)でのみ相互作用している。一般に、そうした栄養性のカップリング(強い相互作用)を、水に含まれる葉緑素と細菌の存在量の間の相関で記述するのは困難であるとわかっている。Liたちは、過去10年間にわたる幾つかの海岸と開けた海洋中の場所における葉緑素と細菌プランクトンの連続的観察結果を分析し、そうした微生物グループが一緒になって何年間にもわたり増加したり減少したりしていることを見出している(p. 1157)。(KF,Ej,hE)
Coherent Sign Switching in Multiyear Trends of Microbial Plankton p. 1157-1160.

過剰なXのサイレンシング(Silencing the Supernumerary X)

哺乳類では、メスはX染色体を2つもっているが、オスは1つしかもっていない。潜在的に致死的となるX染色体遺伝子の不均衡は、メスの細胞中の2つのX染色体の1つが不活性化され(Xi)、他方が活性状態(Xa)のままになる遺伝子量補償によって守られている。この、メスの過剰なX染色体のサイレンシングは、X染色体上のX染色体不活性化センター(Xic)によって制御されている。この相互に排他的なXa/Xi選択の性質は、2つの染色体間に何らかの情報交換がなされている事を示唆している。Xuたちはこのたび、遺伝子量補償とX不活性化を経験するマウス細胞では、そうした情報交換が2つのX染色体のXic間の一過性の物理的相互作用の形をとっていることを示している(p. 1149、1月19日にオンライン出版; またCarrelによる展望記事参照のこと)。Xicの付加的な複製を常染色体上に置くと、染色体不活性化の正常なプロセスを妨害する異所性のX-常染色体相互作用が引き起こされる。(KF)
Transient Homologous Chromosome Pairing Marks the Onset of X Inactivation p. 1149-1152.
MOLECULAR BIOLOGY: ENHANCED: "X"-Rated Chromosomal Rendezvous p. 1107-1109.

電離層の応答(Ionosphere Response)

太陽風を形成している粒子や磁場は惑星の電離層をかく乱する。Mendiloたち(p.1135)は、地球と火星の電離層に衝撃を与える太陽光x-線フレアを捉え、その発生直後に火星電離層に起きた変化を記録した。2001年4月に得られたそのデータ中で見出されたフレアが、火星の周回軌道にいるMars Global Surveyor探査機に搭載された電波測定器と地球でのイオンゾンデステーション及びx-線衛星によりキャッチされた。この連結した測定により、この二つの惑星電離層が太陽風のかく乱事象への応答に関する直接的な比較が可能となる。(KU,nk)
Effects of Solar Flares on the Ionosphere of Mars p. 1135-1138.

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