AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 24, 2004, Vol.306


競争が緩和されたときの多様性(Diversity with Less Competition)

大量絶滅の後、種の多様性はおおよそ百万年以内に急速に回復してきた。しかし、 大量絶滅は種相互の生態系にも大きな影響を与えているようで、この影響は長期に わたって継続し、潜在的でもあるようだ。Dietl たち(p. 2229)は、後期鮮新世(約 300万年まえ)の絶滅における海性巻貝の捕食行動について調査した。実験による と、他の巻貝と競争したり、互いに捕食の競合関係にあるとき、二枚貝の縁から攻 撃する。単独で存在するときは貝壁に孔を空けて攻撃する---遅いけれどもより安全 に捕食できる方法をとる。化石の記録から、絶滅前は貝の縁を攻撃する場合が多い が、大量絶滅後は今日まで貝壁攻撃による捕食だけとなる。大量絶滅自体は急速に 回復したが、競争レベルはそうは行かなかった。(Ej,hE)
Reduced Competition and Altered Feeding Behavior Among Marine Snails After a Mass Extinction
p. 2229-2231.

金属の単分子層を溶かす(Melting Metal Monolayers)

液体やアモルファス金属のような物質は長距離秩序が欠如しているため、通常の多 くの実験測定方法の有効性は限定的である。このため、これらの電子特性の詳細な 情報を得ることは困難なことであった。Baumberger たち (p.2221, 2004年11月25日 のオンライン出版; Petroff による展望記事を参照のこと) は、銅の基板上に堆積 させた単分子層の鉛を調べることにより、長距離秩序の欠如を巧みに回避してい る。鉛の層の融点を越えて温度を上げるにつれて、液体鉛との相互作用が極めて小 さい銅基板の格子秩序が、鉛の液相薄膜において失われるエネルギーと運動量の情 報の代理を務めるようになり、鉛金属の溶融につれて生じる電子の状態密度の変化 を調べることが可能である。(Wt,nk)
Electron Coherence in a Melting Lead Monolayer
p. 2221-2224.
PHYSICS:
The Electronic Structure of Liquid Lead

p. 2200-2201.

地中深くの微生物の活動 (Microbial Activities of the Deep)

地下深くに生活する細菌生物相は代謝速度が極めて低いが、地球全体ではこれらの 代謝量は非常に顕著な大きさとなる。大洋掘削プロジェクトで得られた海底堆積物 のプロファイルデータによって、細菌の呼吸作用の電子受容体に関する洞察が可能 になった。これには、硫酸塩、硝酸塩、酸化鉄のみならず、硫化物やメタンのよう な代謝性最終生成物も含まれる。D'Hondtたち(p. 2216; DeLongによる展望記事も 参照)はこれらデータを使って、堆積物深部の微生物活動を推測した。これによる と、予想された層構造は、玄武岩帯水層からの硝酸 塩や硫酸塩のような酸化物の侵 入によって逆転する。(Ej,hE)
Distributions of Microbial Activities in Deep Subseafloor Sediments
p. 2216-2221.
MICROBIOLOGY:
Microbial Life Breathes Deep

p. 2198-2200.

探し、見つけ、殺す(Seek, Sense, and Destroy)

高度病原性の腸球菌株は、quorum-sensing メカニズムを用いて自己誘導に影響を及 ぼす細胞溶解性の毒素をコードする部分をゲノム中にもっている(訳 注:quorum-sensing とは、ある一定数のバクテリアが集合したことをバクテリア自 身が感知し応答する機構のことをいう)。Coburn たち (p. 2270;Garsin による展 望記事参照) は、このバクテリアが、オートインデューサーと抗−オートイン デューサーという2つの成分を活発に分泌することを示した。 標的細胞がないとき には、これらの2つの成分が相互作用し、オートインデューサーがフィードバック してサイトリシンが高発現することを防ぐ。しかし、標的細胞があるときには、 抗−オートインデューサーは標的細胞と結合して、オートインデューサー濃度を上 昇させて、サイトリシンのオペロンが誘導される一定濃度までオートインデュー サーを蓄積させる。抗−オートインデューサー自体は毒素成分であり、標的を破壊 するために効率よくタグ付けをする。(hE)
Enterococcus faecalis Senses Target Cells and in Response Expresses Cytolysin
p. 2270-2272.
MICROBIOLOGY:
Peptide Signals Sense and Destroy Target Cells

p. 2202-2203.

木星の衛星にある有機物(Organics on Jovian Orbiters)

アマルティアやテーベは木星のごく近くを回っている小さな、いびつな形状の衛星 である。Takatoたち(p. 2224)はハワイにあるスバル望遠鏡とNASA赤外線望遠鏡 を用いて、この衛星の赤外線スペクトルを測定した。そのスペクトルはアマルティ アの表面に含水性鉱物や有機物の存在を示している。もしこの衛星が木星を取り囲 んでいる星雲から形成されたとすると、このような物質が激しい形成過程をくぐり 抜けて存在しているはずは無い。それ故に、恐らくこれらの衛星は木星系を形成す るのに使われた有機物の豊富な小天体の残存物であろう。(KU,nk)
Detection of a Deep 3-µm Absorption Feature in the Spectrum of Amalthea (JV)
p. 2224-2227.

複雑な細胞壁(Complex Cell Wall)

植物細胞壁は個々の植物細胞や究極的には植物を全体として支える構造体として役 立っているが、この細胞壁は、おそらく1000個ほどの多さの異なる遺伝子の指令の 基で作られている。一方、この細胞壁は沢山の別の機能を持っている。Somerville たち(p.2206)によって行われたシステムアプローチの解析により、細胞壁の複雑 な機能に関する新たな洞察がもたらされた。そこでは成長や発生、病原体への応答 やシグナル伝達等の制御が含まれている。(KU)
Toward a Systems Approach to Understanding Plant Cell Walls
p. 2206-2211.

タンパク質の相互作用(The Proteins Came in Three by Three)

タンパク質の相互作用ネットワークのマップにより、細胞機能についてのある種の 青写真が提供される。様々な種における一組のタンパク質の存在、または非存在の 比較により、このようなネットワークにおける機能的な関連についての手掛かりが 得られる可能性がある。Bowersたち(p. 2246)はこのような論理を一歩進め、67種 の配列決定されたゲノムにおいて、3種のタンパク質のグループが存在するかどうか について調べた。3種のタンパク質のあいだの論理的関連(例えば、BおよびCが存在 する場合にのみAが存在する)についての検索により、タンパク質ファミリーメン バー間で750,000個の新規な関連が明らかになった。これらの、そしてより高次の論 理関係は生物学的システムをモデル化したり、操作したり、そして理解する際に有 用となるであろう。(NF)
Use of Logic Relationships to Decipher Protein Network Organization
p. 2246-2249.

移動と羽毛の衣更え(Of Migrations and Moltings)

詳細なる鳥の移動に関する卓越した考察には、個々の鳥の追跡とサンプリングが必 要である。鳥の羽のサンプルからの安定同位体を用いて、Norrisたち(p. 2249;Hill による展望記事参照)は、カナダから熱帯地方へと渡るアメリカショウビタ キ(American redstarts)が、移動の最中に優れた羽毛の衣更えを行っていること を示している。このことは年間のサイクルにおける効率面とコスト面の二つのアク ティビティの重なりに帰結する。移動中の羽毛の衣更えと、成長した雄鳥がその直 前の子育ての季節で行なう親として世話した時間、及び量の間にはトレードオフが 観測された。かくして、年サイクルの短い間におけるこのような事象は移動性動物 の持続性への影響をもたらす。(KU)
Reproductive Effort, Molting Latitude, and Feather Color in a Migratory Songbird
p. 2249-2250.
ECOLOGY:
A Head Start for Some Redstarts

p. 2201-2202.

ホスホリルが扉を閉める(Phosphoryl Moiety Closes the Hatch)

筋小胞体のカルシウム-依存性アデノシントリフォスファターゼ(ATPase)は、イオ ンポンプの中では最も研究が進んでいるものの一つであり、反応サイクルにおける2 つの中間状態の構造的記述により、酵素の膜貫通領域内部におけるカルシウムイオ ンの結合部位を規定するために役に立った。反応サイクル中での他の段階で捕捉さ れている酵素の新しい一連の結晶構造が、Olesenたち(p. 2251)により提出され た。彼らは対向輸送されるプロトンに対する結合部位を同定した。ATPから酵素への ホスホリルの移動により、カルシウム-結合部位に対する入り口が閉じられること、 そしてアデノシン2リン酸の放出により出口が開放されて、カルシウムをプロトンに 交換することが可能になることを、彼らは見いだした。ホスホリルは酵素から水へ 移動して出口が閉じる。最終的に、ホスフェートの放出により、入り口が開放され てプロトンのカルシウムへの交換が可能になる。(NF)
Dephosphorylation of the Calcium Pump Coupled to Counterion Occlusion
p. 2251-2255.

ヘッジホッグ、Smoothened、およびβ-アレスチン(Hedgehog,Smoothened, and b-Arrestin)

ヘッジホッグ(Hh)タンパク質は、脊椎動物の胚形成のあいだのパターン形成に必 須なシグナルを保持している。細胞外Hh分子は、細胞表面上の受容体に結合 し、Smoothenedと呼ばれる膜貫通タンパク質を活性化する。この活性化により、細 胞内にシグナルが伝達される。β-アレスチンタンパク質は、Gタンパク質結合型受容 体(GPCR)のシグナル伝達の阻害物質であり、内部移行とGPCRによるシグナル伝達 をも促進する。Chenたち(p. 2257)は、哺乳動物の細胞中において、活性化され たSmoothened分子がβ-アレスチン2と優先的に結合することを見いだした。β-アレス チン2のレベルを減少させると、Smoothenedの内部移行が阻害された。さら に、Wilbanksたち(p. 2264)は、ゼブラフィッシュにおいてβ-アレスチン2を欠失 させると、Hhシグナル伝達経路における変異体の発生異常と同様の発生異常が生じ ることを見いだした。β-アレスチン2を過剰発現させると、Hhシグナル伝達を欠損し た胚においていくつかの異常を部分的に回復させることができ、β-アレスチン2の欠 失により、Hh-応答性遺伝子の発現が減少した。同時に、これらの知見により、発生 のあいだのβ-アレスチン2の機能に関する洞察、およびHhシグナル伝達が胚形成から 癌に至るまでの発生過程に影響を与えるメカニズムに関する洞察が得られる。(NF)
Activity-Dependent Internalization of Smoothened Mediated by ß-Arrestin 2 and GRK2
p. 2257-2260.
ß-Arrestin 2 Regulates Zebrafish Development Through the Hedgehog Signaling Pathway
p. 2264-2267.

神経発生における転写因子の役割(Role of Transcription Factors in Neural Development)

神経発生はしばしば、軸索が正しい関連づけを見つけることに関する問題であると 考えられている。Grayたち(p. 2255)は、神経発生における転写の重要性に焦点を あてた。マウスゲノムの解析により、転写因子をコードする1000個以上の遺伝子が 示された。In situハイブリダイゼーションを用いた研究により、更に300個以上の 転写因子が、発生のあいだに中枢神経系中で異なった形で発現することが示され た。(NF)
Mouse Brain Organization Revealed Through Direct Genome-Scale TF Expression Analysis
p. 2255-2257.

in vitroでのβ細胞の再生成(Regenerating Beta Cells in Vitro)

ランゲルハンス島には、一生を通じて補充され続けなければならないインシュリン 産生β細胞が含まれている。Gershengornたちは、in vitroでは成熟β細胞が不十分に しか増殖しないことを示している(p. 2261:2004年11月25日のオンライン出版)。し かし、適切な環境を与えられると、このような細胞はより増殖するが、インシュリ ンを産生できない間葉細胞型に分化する。この増殖する細胞は、それに続いてイン シュリン産生β細胞へと再分化させることができ、これは糖尿病に対するβ細胞置換 療法において役立つであろう。(KF)
Epithelial-to-Mesenchymal Transition Generates Proliferative Human Islet Precursor Cells
p. 2261-2264.

ヒトのトランスクリプトーム(A Human Transcriptome)

ゲノムの翻訳された領域の解明は、ヒト生物学の基礎的側面の構成要素であ る。Bertoneたちは、ゲノム全体にわたる高分解能のタイリングアレー(tiling array)を設計、利用して、ヒト肝臓の転写マップを開発した(p. 2242:2004年11月 11日のオンライン出版)。この方法によって、多くの既知の、また推定上の遺伝子が 確認でき、さらに加えてゲノム全体にわたって1万以上の新規な翻訳された領域が同 定された。(KF)
Global Identification of Human Transcribed Sequences with Genome Tiling Arrays
p. 2242-2246.

全原子が動いているときのポテンシャルエネルギー (Potentials with All Atoms Moving)

量子力学的計算により、原理的にはいかなる化学反応の速度をも予測することがで きる。しかしながら、実際上は2,3個の原子の反応においてさえ、最も効率的なコ ンピュータであっても太刀打ちできない。問題は、1つの原子が動くとき、反応系 内の他の全ての原子の可能な動作範囲を考慮しなければならないということであ る。しばしば、理論家たちは原子のいくつかに制約を加えることによって近似計算 をしている。言い換えると、ポテンシャル・エネルギー面(PES)を反応に最も関連 性があると思われる1次元あるいは2次元に制約している。以前に、系全体の量子力 学的ポテンシャル・エネルギー面(PES)を考慮した最大の反応系として、4原子を 扱ったものがあった。今回Wuたち(p. 2227)は内挿法を用いて、メタンと水素(H) 原子の反応に対して、全6原子の可能な動きを考慮した12 次元のポテンシャル・エ ネルギー面(PES)を考察した。結果として得られた速度定数は、原子数がそれほど 多いとは言えないにしても、すでに報告されている実験データの精度と同程度に正 確である.(hk,Ej)
First-Principles Theory for the H + CH4 → H2 + CH3 Reaction
p. 2227-2229.

気候と生態系の非同期性(Climate and Ecosystem Asynchrony)

陸上や海洋の記録に残された気候や生態系の変化の時期は、生態系がいかに急速に 気候変化に適応できたか、あるいはできなかったかに関する重要な洞察を明らかに するものである(Maslinによる展望記事参照のこと)。氷河の周期はおおざっぱに は、地球の軌道変動によって定まる太陽日射のパターンによって制御されている が、温暖な期間と寒冷な期間との切り替わりが実際にいつ起きるかは、他の要因に よっても影響されうる。Tzedakisたちは、ポルトガル沖で採収された堆積物コ ア(sediment core)を用いて、35万年から19万年前にかけての、気候変化に関する陸 上のデータと海洋のデータを比較した(p. 2231:2004年12月2日のオンライン出 版)。大気中のメタンの減少と同時期の、陸生の生態系における急激な変化は、海洋 の記録にそのような変化が見られない期間に、しばしば生じていた。こうした陸上 と海洋の記録の非同期性は、陸上の間氷期の持続期間が特定のいかなるパターンに も合致しないこと、また1千年単位の気候の可変性を生み出すプロセスが温暖な間 氷期の持続期間の重要な決定要因になっていること、を明らかにするものである。 海洋の記録と陸上の記録の両方が、気候の再構成のためにあたりまえに用いられて おり、また正確な記録を生み出すのもかなり容易ではあるのだが、これら2つの異 なったタイプの記録について共通の年代学を確立するのは、ずっと難しいことなの である。Jennerjahnたちは、 ブラジルの大陸境界からの海洋の沈殿物コアの分析か ら得られた、陸上の変化が海洋における変化に1000年ないし2000年遅れている可能 性を示す結果を報告している(p. 2236:2004年12月2日のオンライン出版)。この時 間スケールは、他の短期間の研究によって見出されていた地上の植物が気候の変化 に生態学的な応答に要すると推定された時間より、ずっと長いものになってい る。(KF,nk)
ATMOSPHERE:
Ecological Versus Climatic Thresholds

p. 2197-2198.
The Duration of Forest Stages in Southern Europe and Interglacial Climate Variability
p. 2231-2235.
Asynchronous Terrestrial and Marine Signals of Climate Change During Heinrich Events
p. 2236-2239.

外殻を条件つける(Constraining the Outer Core)

地球の外核(outer core)は、主に液状の鉄とその他に重量にして約10%のより軽い 元素により構成されている。外殻中にS(硫黄)やSi(珪素)、O(酸素)やH(水素)と いった幾つかの元素が存在することは示唆されているが、このような成分がどのく らいの量でどれだけの種類で存在しているのかはあいまいであった。Helffrichと Kaneshima(p.2239)は、Fe-O-S系の液体非混合性(immiscibility) が原因で、外核を 囲むように形成されるであろう液層の厚みを計算した。彼らは外核内部で反射する 地震波を使い、外核において外殻において適切な厚さの層が存在しないことを結論 付けた。従って、彼らはOやSが非混合性(immiscible)の層を生成しない組成である という 理由から、Oの量は外核中で重量にして4%以下であり、Sの量は2%から11% の間のであると条件付けした。(TO,og,nk)
Seismological Constraints on Core Composition from Fe-O-S Liquid Immiscibility
p. 2239-2242.

細胞死の促進と保護(Promoting and Protecting from Cell Death)

タンパク質リン酸化酵素Rafの変異は、しばしばヒトの腫瘍と関連している。Rafは 成長促進のシグナル伝達において機能し、また細胞をアポトーシスから保護する。 これは、非管理の細胞増殖を停止させる正常なフェイルセーフ機構の回避を癌細胞 に許す重要なイベントである。驚くべきことに、Rafのアポトーシスに対する保護性 効果には、Rafの酵素活性が必要ではないらしい。O'Neillたちは、Raf-1ともうひと つの タンパク質リン酸化酵素MST2の哺乳類細胞中での相互作用を記述してい る(p.2267)。Raf-1は試験管内ではMST2の活性を直接的に抑制しているらしく、この 効果はアポトーシスに対するRaf-1のそれと同様にRaf-1の触媒作用活性とは無関係 であった。Raf-1を欠く細胞はMST2の活性の増加を示し、これがアポトーシスをこう むる性向の増加と相関していた。MST2の発現が減少すると、細胞はアポトーシスか ら保護された。つまり、MST2は、正常な細胞と癌細胞の増殖と細胞死の制御の助け となりうる、Raf-1の新たな重要な標的を代表しているのである。(KF)
Role of the Kinase MST2 in Suppression of Apoptosis by the Proto-Oncogene Product Raf-1
p. 2267-2270.

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