AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 17, 2004, Vol.305


CO2をまっすぐに配位する(Standing CO2 on Its End)

植物がCO2を砂糖に還元する方法を理解したり、この化学反応を見習ったやり方を容 易に行うには中心金属へのCO2の特異的な結合の仕方に関する更なる洞察が必要とさ れる。この課題を解決しようとしている合成化学者たちは、通常金属から遠くにあ る1個か2個の捩じれたO原子を持ったC原子を通してCO2が配位している金属錯体から 始める。Castro-Rodriquezたち(p. 1757)はウラニウム錯体を作り、その錯体におい て配位しているCO2は線形性を保ち、一個のO原子を通して金属にまっすぐに結合して いる。X線結晶解析によりこの異常な結合構造が解明された。(KU)
A Linear, O-Coordinated η1-CO2 Bound to Uranium
   Ingrid Castro-Rodriguez, Hidetaka Nakai, Lev N. Zakharov, Arnold L. Rheingold, and Karsten Meyer
p. 1757-1759.

二段階反応で砂糖を作る(Sugar in Two Steps)

六炭糖の砂糖は自然界に豊富に存在しているが、これらの構造を修飾することは化 学や生化学の研究にとって有益なことである。標準的な合成法はステップが長くて 面倒な方法となりがちで、多くの保護反応ステップが必要となる。Northupと MacMillan(p.1752, 2004年8月12日のオンライン発行版)はアキラルなアルデヒド前 駆体から、たった2ステップで砂糖を作る反応方法を記述している。そこでは多数の 構造異性体を作る便利な方法が提供されている。第1ステップではL-プロリンの触媒 反応によるα-オキシアルデヒドの2量化反応である。第2ステップにおいて、アル ドールの付加-環化反応ステップが溶媒やルイス酸を変えることで制御され、任意の 3つの立体異性体の生成物がすべて高収率で立体化学的な純度でもって生成され た。(KU)
Two-Step Synthesis of Carbohydrates by Selective Aldol Reactions
   Alan B. Northrup and David W. C. MacMillan
p. 1752-1755.

ジシリネの初登場(Disilyne Debut)

第一列の元素である炭素や窒素、及び酸素の化合物では2重結合や3重結合はありふ れたものである。対照的に、より重い主族の同族体では、内殻の反発により1重結合 のネットワークを作る傾向がある。Sekiguchiたち(p. 1755;Westによる展望記事参 照)は2個のSi原子を強く密に接近させて、Si-Siの3重結合を作った。彼らは臭素化 前駆体を還元したが、その前駆体においてSi原子は通常の結合選択をより不安定に するような非常に大きな側鎖をもっている。X線結晶解析により、剛直な直線形のア ルキンにおいて炭素化合物が形成する混成軌道をシリコンは形成しないという理論 予測と一致する捩じれ構造が明らかにされた。(KU)
A Stable Compound Containing a Silicon-Silicon Triple Bond
   Akira Sekiguchi, Rei Kinjo, and Masaaki Ichinohe
p. 1755-1757.
CHEMISTRY:
Japan Bats a Triple

   Robert West
p. 1724-1725.

破壊の影響を除去した年代決定法(Damage-Free Dating)

地質学的境界の多くは、生物種の数の急激な変化や新しい種の出現がおきている。 このような訳で年代の正確な決定は、進化速度の決定には極めて重要である。最良 の年代決定法の一つである、Uの同位体がPbに崩壊することを利用した方法には問題 がある。この方法は、元来ウラニウムを含んでいたジルコンの破壊された部分で、 放射生成されたPbや捕獲されたコア(微結晶)が消失すると、年代決定に影響が出る からである。Mundil たち(p. 1760, Kerrによるニュース記事も参照) は、最新の手 法によってこれらの損傷を受けた部分を取り除き、ぺルム紀最後の絶滅年代とぺル ム紀-三畳紀境界の年代を、より詳しく決定した。2箇所から得られた火山灰層の データから、絶滅年代を2億5260万年前としたがこれは以前の決定値からは約100万 年古い。この結果は、この手法の精度限界すなわち、数十万年以内の短期間に絶滅 が起きたことを指示している。(Ej,so,nk)
Age and Timing of the Permian Mass Extinctions: U/Pb Dating of Closed-System Zircons
   Roland Mundil, Kenneth R. Ludwig, Ian Metcalfe, and Paul R. Renne
p. 1760-1763.
GEOCHEMISTRY:
In Mass Extinction, Timing Is All

   Richard A. Kerr
p. 1705.

初期の酸素の歴史(Early Oxygen History)

太陽系星雲中で形成された原始の状態をとどめる隕石中の三種の安定な酸素同位体 の測定によると、太陽系星雲では、16O は初期には豊富であったが、そ れが急速に枯渇したことが示されている。分子雲の観測によると、紫外放射は選択 的に C17O や C18O を分解するが、C16O は分 解しないことを示している。この結果、分枝雲の内部では酸素原子のう ち、16O が低存在量となる。Yurimoto と Kuramoto (p.1763; Yin によ る展望記事を参照のこと) は、天文観測を用いて、その隕石学的データを説明する モデルを開発した。酸素同位体の相違は、光分解によって分子雲中で進展した。そ の分子雲が太陽系星雲である円盤にむけて崩壊した時、その同位体差は氷状のダス トによって内部円盤に輸送された。このダストは太陽に接近した時に蒸発したので ある。(Wt,nk)
Molecular Cloud Origin for the Oxygen Isotope Heterogeneity in the Solar System
   Hisayoshi Yurimoto and Kiyoshi Kuramoto
p. 1763-1766.
PLANETARY SCIENCE:
Predicting the Sun's Oxygen Isotope Composition

   Qing-zhu Yin
p. 1729-1730.

なぜそこで氷が?(Why the Ice?)

現在、南極大陸を占めている巨大な永久氷床は、全世界的な寒冷化の局面に入った 1400万年程前から形成が始まった。しかし、氷床の成長と寒冷化との時間的な関係 とともに、こうした変化をもたらした気候プロセスは不明瞭なままであ る。Shevenellたち(p.1766)は、1500万年から1320万年前の年代に相当する南半球の 海洋堆積物からの海底性有孔虫に含まれるMg/Ca率(気温の代理尺度)、酸素同位 体(気温と海水中の酸素同位体組成との結びつきの記録)、そして炭素同位体(大気 CO2濃度の代理尺度)を分析した。深海の寒冷化は氷床成長のおよそ6万 年前から始まり、これらのプロセスは共に大気中のCO2が増加する期間 で起こった。これらの発見は、放射強制力(radiative forcing)以外の、例えば海 洋熱の伝導のような他の要因がこの気候変化の重要な要素であることを示唆してい る。(TO)
Middle Miocene Southern Ocean Cooling and Antarctic Cryosphere Expansion
   Amelia E. Shevenell, James P. Kennett, and David W. Lea
p. 1766-1770.

2つの膜、2つの融合メカニズム(Two Membranes, Two Fusion Mechanisms)

ミトコンドリアは細胞のエネルギー源であるが、これは2重の膜で囲まれている。 細胞内では常にミトコンドリア同士が融合しているが、2つの膜が忠実に融合する メカニズムは不明確なままであった。Meeusen たち(p. 1747, 5 August, 2004のオ ンライン発行版、および、Pfannerたちによる展望記事参照)は、in vitroで効率的 なミトコンドリア融合を再構成するセルフリーアッセイを提示している。このアッ セイではミトコンドリアの内膜と外膜が個々に調べられ、2つの融合事象が機構的 に異なるものであることが識別された。(Ej,hE)
Mitochondrial Fusion Intermediates Revealed in Vitro
   Shelly Meeusen, J. Michael McCaffery, and Jodi Nunnari
p. 1747-1752.
CELL BIOLOGY:
Double Membrane Fusion

   Nikolaus Pfanner, Nils Wiedemann, and Chris Meisinger
p. 1723-1724.

体の発達期への長期的遺産(Lasting Legacy of Formative Years)

平均余命は、昔と比べ、伸びてきているが、その原因としては医療の進歩や公共衛 生の拡充が強調されてきた。病気の進展と病気への感受性は遺伝形質だけによるも のではない。生物の形成と崩壊には、環境が及ぼす影響がもっと大きい。しかも、 受精初期、胎性そして乳児の段階においても環境が影響を与え始めている。病気の 発生原因の概念が、疫学的、臨床的研究においても認められつつある。Gluckman and Hanson (p. 1733) は進化的展望から、基本的観察の再検討、行動メカニズムの 考察と、病気の進展原因の概念の考察をおこなった。Finch and Crimmins (p. 1736) は、乳児期・幼児期において感染症や他の炎症環境に被爆させることが、老 年になってからの罹患率や平均余命に、持続性刷り込みとなっているのではないか と示唆している。(Ej,hE)
Living with the Past: Evolution, Development, and Patterns of Disease
   Peter D. Gluckman and Mark A. Hanson
p. 1733-1736.
Inflammatory Exposure and Historical Changes in Human Life-Spans
   Caleb E. Finch and Eileen M. Crimmins
p. 1736-1739.

喘息のマウスモデルにおける好酸球の影響(Eosinophil Effects in Mouse Models of Asthma)

喘息症状の発現の際には、白血球のサブセットを寄せ集めたものが肺に補充される が、これは長期の気道再造形と粘膜を補強するための即時的な変化に随伴してい る。好酸球はそうした浸潤性細胞の中では支配的なものであるが、その存在は、こ れまでのところ、病気とは間接的にのみ結び付けられてきた(Wills-KarpとKarpによ る展望記事参照のこと)。Leeたちは、好酸球の細胞系列を特異的に欠失する、ある マウスモデルを用いた(p. 1773)。そのマウスは、頑強な喘息様応答を通常誘発しう るアレルゲンにさらされても、肺の有意な機能障害や粘液蓄積は生じなかっ た。Humblesたちによって生み出された好酸球-欠乏性の別のマウス系統では、そう した急性の症状は有意な影響を受けなかったが、長期間にわたってみると、そのマ ウスは細気管支周囲の(peribronchiolar)コラーゲン沈着から保護され、気道平滑筋 の量を増すの である(p. 1776)。(KF,hE)
BIOMEDICINE:
Eosinophils in Asthma: Remodeling a Tangled Tale

   Marsha Wills-Karp and Christopher L. Karp
p. 1726-1729.
Defining a Link with Asthma in Mice Congenitally Deficient in Eosinophils
   James J. Lee, Dawn Dimina, MiMi P. Macias, Sergei I. Ochkur, Michael P. McGarry, Katie R. O'Neill, Cheryl Protheroe, Ralph Pero, Thanh Nguyen, Stephania A. Cormier, Elizabeth Lenkiewicz, Dana Colbert, Lisa Rinaldi, Steven J. Ackerman, Charles G. Irvin, and Nancy A. Lee
p. 1773-1776.
A Critical Role for Eosinophils in Allergic Airways Remodeling
   Alison A. Humbles, Clare M. Lloyd, Sarah J. McMillan, Daniel S. Friend, Georgina Xanthou, Erin. E. McKenna, Sorina Ghiran, Norma P. Gerard, Channing Yu, Stuart H. Orkin, and Craig Gerard
p. 1776-1779.

サイン言語(手話)の進化を解剖する(Dissecting the Evolution of a Sign Language)

ヒトの言語は、離散的な単位で形成されているという意味でデジタルなものであ る。脳が、音や単語、フレーズなどを取り扱うようにできているのか、それともわ れわれが学習する現存の言語がたまたま離散的に構造化されているのだろうか? Senghasたちは、新しいサイン言語(手話)を発達させたニカラグアの聴覚障害者の集 団を例に、前者の見方を支持する証拠を提供している(p. 1779; また、Siegalによ る展望記事参照のこと)。複雑な運動イベントの記述は、運動の様式(横にゆれる、 など)と向き(下向き、など)を表わす個別の身振りに分解されるのである。(KF)
Children Creating Core Properties of Language: Evidence from an Emerging Sign Language in Nicaragua
   Ann Senghas, Sotaro Kita, and Asli Özyürek
p. 1779-1782.
NEUROSCIENCE:
Signposts to the Essence of Language

   Michael Siegal
p. 1720-1721.

そのトマトはどのくらい甘い?(How Sweet Is Your Tomato?)

特定の表現型特性の段階的変化は、その特性自体が顕在化するため、定量的特性は 代謝の基本的な複雑性を示唆する。トマトの甘さ、特にケチャップを製造するため に使用されるトマトの甘さは、そのような特性の一つである。Fridmanたち(p. 1786)はここで、トマト内部の甘さの段階的変化の原因となる転化酵素における特 定の点変異を同定するため、同種同系に近い系統を解析した。いくつかの変異が組 み合わさった結果として生じる多くのその他の定量的特性とは異なり、この甘さ遺 伝子は、それだけで作用する。(NF)
Zooming In on a Quantitative Trait for Tomato Yield Using Interspecific Introgressions
   Eyal Fridman, Fernando Carrari, Yong-Sheng Liu, Alisdair R. Fernie, and Dani Zamir
p. 1786-1789.

サメの重鎖構造、明らかに(Shark Heavy Chain Structure Revealed)

軟骨魚類は、約5億年前に、その他の有顎脊椎動物から分岐したものであるが、脊椎 動物の適応的免疫システムの構成要素を有している。通常の重鎖および軽鎖抗体に 加えて、軟骨魚類はまた、新規抗原受容体と呼ばれる重鎖ホモ二量体(IgNAR)も含 有する。Stanfieldたち(p. 1770、2004年8月19日のオンライン発行版)は、テンジ クザメ(nurse shark)のIgNAR可変ドメイン(Vドメイン)であってリゾチームに結 合したものについての、1.45Åの解像度の構造を決定した。ラクダ科の動物の重鎖V ドメインとは異なり、IgNARは、通常の抗体-可変Igドメイン中に見られる3
Crystal Structure of a Shark Single-Domain Antibody V Region in Complex with Lysozyme
   Robyn L. Stanfield, Helen Dooley, Martin F. Flajnik, and Ian A. Wilson
p. 1770-1773.

遺伝子発現パターンから、機能まで(From Gene Expression Patterns to Function)

マイクロアレイの一つの目的は、機能と関連する遺伝子発現のパターンをマッピン グすることである。Aoたち(p. 1743)は、様々な咽頭細胞種において発現される遺 伝子クラスターの期待値が最大となるようなアルゴリズムを使用して、線 虫(Caenorhabditis elegans)の前腸内部に生物学的活性を有する5つのシス-制御 性要素を同定した。タンパク質DAF-12は、これらの要素の一つに結合し、食物有用 性に対する反応を調節する。前腸遺伝子と推定されるものの大規模なデータ集合 は、転写因子およびその結合部位を同定するため、そしてこの因子が機能する生理 学的条件を示すために処理される。(NF,Ej)
Environmentally Induced Foregut Remodeling by PHA-4/FoxA and DAF-12/NHR
   Wanyuan Ao, Jeb Gaudet, W. James Kent, Srikanth Muttumu, and Susan E. Mango
p. 1743-1746.

アクチンによって前進する(Moving Forward with Actin)

細胞が基質上を移動するとき、その先端は膜状仮足を形成して突き出ることにな る。アクチンの集まりが、細胞の運動性を増進するキーとなる役割を果たしている として、知られている。Pontiたちは、細胞の先端における詳細なダイナミクスを、 蛍光スペックル顕微鏡を用いて調べた(p. 1782)。彼らが観察したのは、それぞれ異 なった動的特性を有し、先端の運動性に関して別々の側面を増進すると思われる、 重なり合って分布している独立した2つのアクチン集団であった。(KF)
Two Distinct Actin Networks Drive the Protrusion of Migrating Cells
   A. Ponti, M. Machacek, S. L. Gupton, C. M. Waterman-Storer, and G. Danuser
p. 1782-1786.

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