AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 23, 2004, Vol.304


回転速度の減少(Spinning Down)

気候モデルはどれも一般的に、地球規模の温暖化によって大洋循環が低下する可能 性があると予測している。もしこれが本当なら低緯度から高緯度への熱輸送が減少 し、高緯度と低緯度間の気候の海流による関連性が影響を受けることにな る。Haekkinen and Rhines (p. 555; Kerrによる4月16日号のニュース記事、およ びWeaverによる展望記事、そして Broeckerの投書を参照)は一連の人工衛星の高度 計測データ、および、海流計測値を紹介し,北大西洋の極地方のgyre(subpolar gyre)循環が、過去10年間で減少していることを示した。また、衛星のデータは、こ の領域の海面高度が1990年代初期から上昇しており、ラブラドル海(Labrador Sea) の海流値から得られた結論に一致しているし、その他の海流地理データとも矛盾し ない。この循環速度の減速が気候変化によるものなのか、あるいは、北大西洋振動 のような気候サイクルに関連した周期的変動の一部なのかは、依然として謎のまま である。(Ej)
(訳注):gyreとは、海盆を巡るほぼ閉じた海流。 (
http://www.physicalgeography.net/fundamentals/8q.html
Decline of Subpolar North Atlantic Circulation During the 1990s
   Sirpa Häkkinen and Peter B. Rhines
p. 555-559.

遠く離れたスピンの制御(Remote Spin Control)

量子ドットを経由する電子の伝導性は、そのドット上にある電子の個数が奇数か偶 数かに依存している。Craig たち (p.565; Glazman と Ashoori による展望記事を 参照のこと) は、ある距離はなれた、しかし、小さな電子の貯水池でつながれた二 つの量子ドットを用いて、その量子ドットの一つを経る伝導性がもう一つのドット 上の電子の個数を変えることによって制御しうることを示している。このような遠 隔スピン制御は量子情報処理、スピントロニクス、量子的非破壊測定に有用であろ う。(Wt)
PHYSICS:
Coupling Qubits by Waves on the Electron Sea

   L. I. Glazman and R. C. Ashoori
p. 524-525.
Tunable Nonlocal Spin Control in a Coupled-Quantum Dot System
   N. J. Craig, J. M. Taylor, E. A. Lester, C. M. Marcus, M. P. Hanson, and A. C. Gossard
p. 565-567.

中国の気候変化(Chinese Climate Change)

極地方のアイスコアは高緯度での沈殿物に関する詳細な記録を与えている。しか し、低緯度においては他の自然代用物を探す必要がある。鍾乳洞の床上に生じる炭 酸カルシウムからなる筍状の突起物、石筍は過去の気候変動に関する卓越した記録 を与える。なぜなら、石筍の酸素同位体成分はそれを形成した沈殿物の同位体成分 を反映しているからである。その年代は230Thによる年代推定法によっ て正確に決めることが出来る。Yuanたち(p. 575)は、西中国での石筍に関する酸素 同位体成分の測定値を報告している。彼らは過去16万年に渡るアジアモンスーンの 記録として、それらを説明している。観測された変動の年代測定から、彼らは熱帯 や亜熱帯地方での沈殿物の変化が地表面における日射や、1,000年スケールでの大気 と海洋循環の再編成によりもたらされたものであると結論付けている。(KU)
Timing, Duration, and Transitions of the Last Interglacial Asian Monsoon
   Daoxian Yuan, Hai Cheng, R. Lawrence Edwards, Carolyn A. Dykoski, Megan J. Kelly, Meiliang Zhang, Jiaming Qing, Yushi Lin, Yongjin Wang, Jiangyin Wu, Jeffery A. Dorale, Zhisheng An, and Yanjun Cai
p. 575-578.

ペプチド生成と分解(Making and Breaking Peptides)

プロテアソームは種々の細胞内基質に作用するサイトゾルタンパク質分解装置であ る。タンパク質スプライシングから生じる細胞溶解性Tリンパ球(CTLs)によるペプチ ドの認識に関して、最近報告されたが、このスプライシングの源は不明であっ た。Vigneronたち(p. 587; Cresswellによる展望記事を参照)は、ヒトの黒色腫細 胞が自己CTLsへスプライシングされた抗原性ペプチドを提示している可能性を発見 した。スプライシングされたペプチドの生成は、ペプチド転移反応経由の新たに同 定されたプロテアソームの活性に由来する。このメカニズムはT細胞に提示される 多様な抗原性ペプチドの増加に有効であるらしい。(hk)
CELL BIOLOGY:
Cutting and Pasting Antigenic Peptides

   Peter Cresswell
p. 525-527.
An Antigenic Peptide Produced by Peptide Splicing in the Proteasome
   Nathalie Vigneron, Vincent Stroobant, Jacques Chapiro, Annie Ooms, Gérard Degiovanni, Sandra Morel, Pierre van der Bruggen, Thierry Boon, and Benoît J. Van den Eynde
p. 587-590.

古代の溶岩の生物(Ancient Lava Life)

微生物は、海洋地殻が形成され生存できる温度まで冷却した直ぐ後に、新たな噴火 により現れた玄武岩でも、より深い岩石でもどちらにでも住み着く。微生物は黒耀 石(volcanicglass)の外表面を掘り進み、有機(organic material)物質とともに特有 な孔を残す。こうしたプロセスは実験室でも再現されている。Furnesた ち(p.578;Kerrによるニュース記事参照)は、35億年前の海洋地殻において、マイク ロメートルサイズの孔の中に有機物質を含む微生物によるものと類似する特徴を発 見した。それは南アフリカのバーバートングリーンストーン帯(Barberton Greenstone belt)にある岩石においてである。微生物による変質の後で鉱物の変 性(34億年前と年代付けられる)が重ね刷りされていることから、その変質は玄武岩 の噴出直後に起こったと思われる。(TO)
PALEONTOLOGY:
New Biomarker Proposed for Earliest Life on Earth

   Richard A. Kerr
p. 503.
Early Life Recorded in Archean Pillow Lavas
   Harald Furnes, Neil R. Banerjee, Karlis Muehlenbachs, Hubert Staudigel, and Maarten de Wit
p. 578-581.

同期的発火チェーンの記録(Recordings from Synfire Chains)

神経系が高度に特異的なネットワーク活性パターンで働いているというアイディア は、神経回路網モデルと実験的神経生理学の間のギャップを小さくする重要なス テップになるかもしれない。理論家たちは長い間、皮質の活性は同期的発火チェー ン(synfire chains)と呼ばれる同調性活性の連続の形態をとる、と提案してき た。Ikegayaたちは、シナプス後電流のパターンを示すための脳薄片細胞内記録と、 薄片の光学的記録、さらには生体内多細胞記録を用いて、そうした同期的発火 チェーンの存在を実証した(p. 559; また、Abelesによる展望記事参照のこ と)。NMDAあるいはドーパミンD1受容体をブロックすることによっても、チェーンは 抑制された。(KF)
NEUROSCIENCE:
Enhanced: Time Is Precious

   Moshe Abeles
p. 523-524.
Synfire Chains and Cortical Songs: Temporal Modules of Cortical Activity
   Yuji Ikegaya, Gloster Aaron, Rosa Cossart, Dmitriy Aronov, Ilan Lampl, David Ferster, and Rafael Yuste
p. 559-564.

石油化石の木(Petroleum Fossil Tree)

珪藻は浮力を得るためと栄養物として、珪質組織(silicaceous skeletons)に油脂を 蓄える。地質学年代を通して珪藻は化石燃料の重要な源となり、そして特徴的な化 石珪藻種(fossil diatom species)は石油含有層(petroleum-bearing strata)の分布 の年代を測定したり、位置を調べるために使われる。しかし、珪藻の系統発生や発 達史は、化石記録におけるギャップがあるために多々論争がなされている。珪藻は 炭素鎖の中に「T-junctions」を持つ特徴的なイソプレノイド系のアルケンを合成す る。Sinninghe-Damsteたち(p.584)は、リボソームDNA記録の「分子時計」を補正す るために、年代測定された堆積コアと石油サンプルからのT-junctionを含むアルカ ン誘導体(alkane derivatives)の出現に関するデータを組み合わせて、化石記録の ギャップを埋めようとした。イソプレノイドを作る珪藻の起源は、正確には9150万 年前であると決めることができ、このことは石油の探鉱や、生物化学者や分類学者 にとって重要なニュースである。(TO)
The Rise of the Rhizosolenid Diatoms
   Jaap S. Sinninghe Damsté, Gerard Muyzer, Ben Abbas, Sebastiaan W. Rampen, Guillaume Massé, W. Guy Allard, Simon T. Belt, Jean-Michel Robert, Steven J. Rowland, J. Michael Moldowan, Silvana M. Barbanti, Frederick J. Fago, Peter Denisevich, Jeremy Dahl, Luiz A. F. Trindade, and Stefan Schouten
p. 584-587.

T細胞記憶の選り分け(Marking Up T Cell Memory)

宿主からの病原体を消した後で、来るべき日に再び戦うために記憶細胞の小さな一 団を残して、ほとんどのT細胞は死んでしまう。どのような内因性および外因性の要 因によって、非常に大きな細胞集団の中で、どれが記憶の前駆体となるのかという 運命が決定されるのだろう。Madakamutilたちは、抗原による刺激の後にCD8α 補助受容体のホモタイプを一過性で発現するCD8+T細胞の集団について記述してい る(p. 590; また、KimとFlavellによる展望記事参照のこと)。このCD8αα T細胞は、活性によって引き起こされる細胞死への抵抗性とウイルス感染後に も生き残る能力によって、対応するCD8αβ T細胞とは区別される。じゅう ぶんなCD8α発現を誘発してhomodimersを形成させることのできない、CD8 α遺伝子エンハンサー要素を欠く動物のT細胞は、欠陥のある記憶反応を生み出 した。CD8ααは主要な組織適合性複合体クラスI様の胸腺白血病抗原に対す る高親和性を示したが、これは、記憶前駆体が免疫応答の最中にこのリガンドとの 特異的相互作用によって選び抜かれた可能性のあることを示唆するものであ る。(KF)
IMMUNOLOGY:
CD8αα and T Cell Memory

   Sangwon V. Kim and Richard A. Flavell
p. 529-530.
CD8αα-Mediated Survival and Differentiation of CD8 Memory T Cell Precursors
   Loui T. Madakamutil, Urs Christen, Christopher J. Lena, Yiran Wang-Zhu, Antoine Attinger, Monisha Sundarrajan, Wilfried Ellmeier, Matthias G. von Herrath, Peter Jensen, Dan R. Littman, and Hilde Cheroutre
p. 590-593.

ナノ粒子の三次元配列(Nanoparticle Arrays in 3D)

ナノ粒子を薄膜中に内包させると、多くの場合不規則に凝集してしまう。ナノ粒子 の規則的な配列構造を薄膜中で実現する事ができれば、応用範囲は大きく広がると 期待されている。Fanらは(p. 567)界面活性剤を含む水中に分散された金ナノ粒子 マイクロエマルションをゾル−ゲル法によりシリカ薄膜中に内包させる方法につい て記している。この際金ナノ粒子は、メソポーラスシリカと同様のメカニズムで規 則的な三次元配列構造を形成するという。著者らは、同構造体の電子伝導特性が二 次元配列構造体のものとは異なることも示している。(NK)   
Self-Assembly of Ordered, Robust, Three-Dimensional Gold Nanocrystal/Silica Arrays
   Hongyou Fan, Kai Yang, Daniel M. Boye, Thomas Sigmon, Kevin J. Malloy, Huifang Xu, Gabriel P. López, and C. Jeffrey Brinker
p. 567-571.

危険度の定義(Defining Dangerous)

気候変動に関する国連枠組み条約(The United Nations Framework Convention on Climate Change)は、「気候に及ぼす危険な人為的干渉」を回避するための気候に関 連する政策を策定する目標を採択した。Mastrandrea and Schneider (p. 571)は、 将来の気候変動の不確実性を考慮した「危険度」閾値を超える確率を定量的に評価 する手法を紹介している。現在知られている気候と経済活動に関するキーパラメー タを組み込んだ簡単な評価モデルを使って、彼らは、気候政策を採択しない場合に この閾値を越える危険度45%から、現在使われている炭素税のようなブレーキが掛け られる政策が採用された場合のほぼゼロの危険度にまで下げられることを示した。 この種の研究は政策決定者の助けになるだけでなく、気候に関する各種政策の利益 とリスクをより良く理解するためにも役立つだろう。(Ej)
Probabilistic Integrated Assessment of "Dangerous" Climate Change
   Michael D. Mastrandrea and Stephen H. Schneider
p. 571-575.

嚢胞性線維症にスパイス効果(Spicing Up Cystic Fibrosis)

一般に知られている致死的遺伝子疾患、嚢胞性線維症(CF)は、分泌上皮の細胞に おける塩素イオンチャンネルとして機能する嚢胞性線維症膜貫通型コンダクタンス 制御因子(CFTR)タンパク質をコードする遺伝子の変異により、引き起こされ る。CF患者の約90%が保持しているδF508 CFTR変異により、結果として異常な折り 畳み構造をしているが機能的には活性なCFTRタンパク質が産生され、それが小胞体 に保持されそして分解の標的となる。Eganたち(p. 600)は、組織培養細胞中で、 スパイスのターメリックの主要成分であるクルクミン(curcumin)によ り、δF508CFTRタンパク質が小胞体中でのシャペロンとの相互作用から解放され、そ のタンパク質が腎臓細胞の細胞表面に移動されることを見いだした。クルクミン は、ヒトに対して安全に投与することができる、非毒性のCa-アデノシン三リン酸ポ ンプ阻害剤である。経口的にクルクミンで処置すると、δF508嚢胞性線維症のマウス モデルと関連している主要な生理学的欠失を矯正し、そして胃腸の疾患発現を阻害 した。(NF)
Curcumin, a Major Constituent of Turmeric, Corrects Cystic Fibrosis Defects
   Marie E. Egan, Marilyn Pearson, Scott A. Weiner, Vanathy Rajendran, Daniel Rubin, Judith Glöckner-Pagel, Susan Canny, Kai Du, Gergely L. Lukacs, and Michael J. Caplan
p. 600-602.

組換えホットスポットのマッピング(Mapping Recombinational Hotspots)

組換え率の変化の性質およびスケールは、多数の種に関して多くの場合未知であ る。McVeanたち(p. 581)は、組換え率についての高い分離度である状況および低 い分離度である状況を生み出す、遺伝子変化を調べるためのアルゴリズム方法を記 載する。ヒトゲノムの複数の領域において、かなりの率変化とともに、複雑な状況 が観察された。組換えホットスポットを定義し、マッピングした結果、200 kb未満 ごとにホットスポットが生じていることが分かったが、組換えは主として遺伝子の 外で生じていた。(NF)
The Fine-Scale Structure of Recombination Rate Variation in the Human Genome
   Gilean A. T. McVean, Simon R. Myers, Sarah Hunt, Panos Deloukas, David R. Bentley, and Peter Donnelly
p. 581-584.

HOXにおけるマイクロRNA(MicroRNA in HOX)

ホメオボックス(HOX)遺伝子は、高等真核生物の発生およびパターン形成において 中心的な働きをする、非常に保存的な転写制御因子である。マイクロ RNA(miRNA)、すなわち遺伝子サイレンシングに関与する小型の22-ヌクレオチド RNA、をコードする遺伝子がほとんどすべての真核生物において見いだされ、そして 細胞および発生の多数の重要な経路に関連していた。Yektaたち(p. 594)はここ で、miRNAmiR-196に対する進化的に保存された必須の相補的結合部位が、HOX遺伝子 HOXB8中に見いだされることを示した。miR-196は、マウス発生の間にHOXB8mRNAの切 断を指示し、そしてその他の証拠からは、miR-196がマウスHOXクラスター中のその 他のHOX遺伝子の翻訳を制御することができることが示唆される。(NF)
MicroRNA-Directed Cleavage of HOXB8 mRNA
   Soraya Yekta, I-hung Shih, and David P. Bartel
p. 594-596.

過酸化物シグナル伝達と抗酸化性防御(Peroxide Signaling and Antioxidant Defense)

細胞は、反応性酸素分子および窒素分子から細胞を保護するための、頑健な抗酸化 防御システムを有する。しかしながら、真核生物においては、過酸化水素は、シグ ナル伝達分子でもあり、そして過酸化物を還元する酵素、ペルオキシレドキシ ン(peroxiredoxin;Prx)が、触媒中心の過酸化により不活性化されて、シグナル 伝達を可能にすることができる。Budanovたち(p. 596)は、p53により発現が修飾 されているタンパク質ファミリーであるセストリン(sestrin)が、活性なPrx類の 再生のために必要とされることを示した。セストリンは、バクテリアPrxの還元反応 を触媒する酵素であるAhpDに相同な、予想酸化還元活性ドメインを含有する。しか しながら、AhpDがジスルフィド還元酵素である一方で、セストリンは、システイン スルフィニル還元酵素である。(NF)
Regeneration of Peroxiredoxins by p53-Regulated Sestrins, Homologs of Bacterial AhpD
   Andrei V. Budanov, Anna A. Sablina, Elena Feinstein, Eugene V. Koonin, and Peter M. Chumakov
p. 596-600.

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