AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 30, 2002, Vol.297


短信(Brevia)

乳児のバブバブに対応する左脳の特殊化(Left Hemisphere Cerebral Specialization for Babies While Babbling) 乳児は、言葉を話せるようになる前に、乳児語、いわゆるバブバブを発声するがこれが言 語と関連があるのか、あるいは単に発声運動の発達過程に過ぎないのか、ほとんど分かっ ていなかった。成人の場合、単に口を開閉する場合は、口の形状は左右対称であるが、言 語を使うときの口の形状は、右側が非対称であり、これは左脳の非対称の反映として容易 に観察される指標になっていた。Holowka と Petitto( p. 1515)は、10人の乳児について このバブバブ音の発声の間、口の対称性について観察した結果、口の右側の非対称性を見 つけた。このことは、左脳はすでに言語用に特殊化していることを示唆している。(Ej,hE)
Left Hemisphere Cerebral Specialization for Babies While Babbling
   Siobhan Holowka and Laura Ann Petitto
p. 1515.

性的反射作用の解剖学(The Anatomy of Sexual Reflexes)

オスの性行動には、嗅覚や体知覚、あるいは内臓変化などの複雑な生理学的行動を伴う 。体知覚や内臓変化の情報が生殖器から多様な脳領域へと伝達して行く神経経路について は未だに良く分かってない。Truitt と Coolen (p. 1566)は、ラットの脊髄中の少数のニ ューロンが視床と脊髄の自律神経核に投影されて射精に関与していること、および、射精 には関与しているが他の性的応答には関与してないらしいことを発見した。これらの結果 はヒトの性生理やオスの性障害の治療にも関連があると思われる。(Ej,hE)
Identification of a Potential Ejaculation Generator in the Spinal Cord
   William A. Truitt and Lique M. Coolen
p. 1566-1569.

銀を用いない写真(Imaging Sans Silver)

カラー写真では銀が潜像形成の役目と同時に現像の過程でフィルム各層の色素を定着する 役割も果たす。Marshall達は(p. 1516)、酸-塩基反応のみに基づくカラー画像形成のもう ひとつの手法について報告している。各色に対応する異なるフィルムの層は感光性の色素 を保持し、光に当たると少量の酸を生成する。この酸は後工程の熱処理による反応でその 量がおよそ100倍に増幅される。この過程で、未露光部は塩基で中和され、隣接層の酸性 度に感受性を持つ色素がしみ込んで拡散し最終的に定着された画像を形成する。現時点で この方法は写真を撮る目的には銀使用の方法に比べて感度が低いが、副産物を全く出さな いので、印刷などの用途では対抗できる可能性がある。(Na,KU)
A Silver-Free, Single-Sheet Imaging Medium Based on Acid Amplification
   John L. Marshall, Stephen J. Telfer, Michael A. Young, Edward P. Lindholm, Richard A. Minns, and Larry Takiff
p. 1516-1521.

ダイアモンドの核となる(Nucleating Diamonds)

人工ダイヤモンド膜の応用には、電子製品、ヒートシンク、切断用工具、光学に関するも のなどが考えられる。バイアス増強核形成方法では、表面に降り注ぐ高エネルギーの炭素 原子は、ダイアモンドの核形成を引き起こす。Lifshitz たち (p.1531) は、実験とコン ピュータシミュレーションを用いて、核形成は表面ではなく、表面直下の水素添加アモル ファスカーボンからなる高密度な母材において起こるというモデルを提案している。その 核は、ゆるく結合した炭素原子は新しいダイアモンドの存在位置に移動するが、すでに存 在するダイアモンド原子は動かないままであるという、選択的な移動メカニズムにより成 長する。(Wt)
The Mechanism of Diamond Nucleation from Energetic Species
   Y. Lifshitz, Th. Köhler, Th. Frauenheim, I. Guzmann, A. Hoffman, R. Q. Zhang, X. T. Zhou, and S. T. Lee
p. 1531-1533.

塩水の滑走(Saltwater Slide)

これまでの水溶塩(NaCl, KNO3)溶液の薄膜上の実験は、層厚が分子の大きさ に近づくと、その摩擦力は数オーダーも大きくなることを示している。これらの実験の意 味するところは、水分子はイオンに固く結合し、これらのクラスターはかなり動きにくい ということである。Raviv と Klein (p.1540) は、非常に清浄な表面を用いると、水和し た層は動くことができ、粘度の最大値はずっと低いことを見出した。著者たちは、水分子 がさまざまなイオンを溶媒和するという交換メカニズムにより、圧縮状態での高移動度を 説明することができると考えている。(Wt)
Fluidity of Bound Hydration Layers
   Uri Raviv and Jacob Klein
p. 1540-1543.

多色コーティング( A Coating of Many Colors )

最近、DNA検出方法が開発されているが、そこでは標的DNA鎖が表面プローブDNAと金のナ ノ粒子に連結したDNAの双方に結合する。金のナノ粒子は、その後グレースケールとして 読み出される銀皮膜の形成を触媒する。Caoたち(p. 1536)は、蛍光ではなく表面‐増強ラ マン散乱(Surface-enhanced Raman Scattering(SERS))を利用して、白黒模様を「カラ ー」の多重情報として用いる。ナノメートルスケールにおいて、「粗」な銀、或いは「粗 」な金の表面に結合すると、分子の多くはそのラマン散乱の顕著な増加を示し、振動スペ クトルの「識別特徴」と、それによる幾つかの色素カラーを示す。ラマン‐活性色素が DNA‐ナノ粒子プローブ中に含まれた際には、金粒子は小さすぎてSERS効果を発揮できず 、色素はほとんど見ることが出来ない。銀皮膜の形成はSERS効果を活性化し、DNA検出限 界が20フェムトモル程度まで容易に達成された。(KU)
Nanoparticles with Raman Spectroscopic Fingerprints for DNA and RNA Detection
   YunWei Charles Cao, Rongchao Jin, and Chad A. Mirkin
p. 1536-1540.

化石の中の有機物( Organics in Fossils)

一般的に、その生物学的な源を区別するさいに用いられる極性有機化合物は、地中に埋も れた有機物や化石には保存されないものと推定されていた。Ottoたち(p. 1534)は、約 1500万年前と4000万年前と推定された針葉樹の化石の中で異なる極性テレペノイド化合物 の同定に成功した。これらの化石は、又、現存する針葉樹に間違いなく関係づけられ、近 年の系統発生分析を支持するものである。(KU)
Natural Product Terpenoids in Eocene and Miocene Conifer Fossils
   Angelika Otto, James D. White, and Bernd R. T. Simoneit
p. 1543-1545.

クラスリンがない場合の生と死(Life and Death Without Clathrin)

クラスリンは、受容体-媒介性エンドサイトーシスにおいて重要な働きをしており、細胞 膜が変形してクラスリン-コートされた小胞を形成する、物理的プロセスを媒介する 。Wetteyたち(p. 1521)は、条件付きでクラスリンを欠損する2つの細胞株を生成した ;クラスリン発現を抑制することにより、アポトーシスが誘導された。しかしながら、変 異体細胞株により、クラスリンの非存在下においてエンドサイトーシスが減少されたとし ても、リソゾームなどの細胞内構造の生成は、完全にはクラスリン発現を必要としてない ことが示された。(NF)
Controlled Elimination of Clathrin Heavy-Chain Expression in DT40 Lymphocytes
   Frank R. Wettey, Steve F. C. Hawkins, Abigail Stewart, J. Paul Luzio, Jonathan C. Howard, and Antony P. Jackson
p. 1521-1525.

新しい結びつきを作る(Making New Ties)

ニューロンは、非常に丈夫でホモジナイゼーションしても残存する、シナプスと呼ばれる 特殊化した接合部を介して互いに伝達している。いくつかの細胞表面受容体-リガンド対 が、シナプスの形成および維持に参加していることが提唱されたが、候補となるファミリ ーの中で最もよいものの一つ--イムノグロブリン-ドメインタンパク質--は、無脊椎動物 においてのみ見出された。Biedererたち(p. 1525)は、IGSF4が、グルタミン酸受容体と ともに非ニューロン性脊椎動物HEK細胞中にコトランスフェクションされた場合に、完全 に機能的なグルタミン酸作動性シナプスの形成を誘導することができる、ホモフィリック (homophilic)なタンパク質であることを報告している。(NF)
SynCAM, a Synaptic Adhesion Molecule That Drives Synapse Assembly
   Thomas Biederer, Yildirim Sara, Marina Mozhayeva, Deniz Atasoy, Xinran Liu, Ege T. Kavalali, and Thomas C. Südhof
p. 1525-1531.

生物多様性の傾向(Trends in Biodiversity)

種の分布や多様性をコントロールする要因は生態学の本質であり、そこに対し研究に集中 的に焦点が当てられている。Jetz と Rahbek (p.1548)は、広く分散する種と局地的な種 との間に、分布と生態系との相関関係に関して顕著な差異があることを発見した。アフリ カの鳥類の分布に関するデータ集合を用いて、彼らは狭く分布する種に対して広く分布す る種では、この相関関係に意外な差異を見つけた。特に、生殖力と多様性との相関性の強 さは、狭い分布範囲の種では弱くなる。他方、生息地域が狭くなると、地形的に不均一な 場所は、種の多様性への寄与が大きくなる。これらの結果は、種のホットスポットや生物 地理学的モデルに基づく保護政策は今後再考すべきであることを示している。極地から赤 道へと生物多様性が緯度に沿った勾配は、地球上において最も普遍的な生命の特性の1つ である。Allenたち(p.1545)は、生化学速度論(biochemical kinetics)の第一原理に基づ く一般モデルを表し、このモデルにより気温の緯度的および高度的な勾配に沿った、陸生 、淡水および海洋の分類群(taxa)の変異を説明した。そのモデルは、種の多様性や生態学 的なコミュニティの組織を調節する熱力学的基礎となる。(TO)
Global Biodiversity, Biochemical Kinetics, and the Energetic-Equivalence Rule
   Andrew P. Allen, James H. Brown, and James F. Gillooly
p. 1545-1548.
Geographic Range Size and Determinants of Avian Species Richness
   Walter Jetz and Carsten Rahbek
p. 1548-1551.

モジュラーネットワーク(Modular Networking)

ポストゲノム時代(postgenome era)の課題の1つは、細胞組織化の理解である。細胞機能 においては、モジュラー組織および分子の相互作用の複雑な関連性の両方でその例が見ら れる。Ravaszたち(p. 1551)は、43生物体の代謝のネットワークが階層的ネットワークに 組織化されており、このネットワークでは、高度に結合した小さなモジュールが複製され 結合されて、より大きくてゆるやかな単位を作ることを示している。このネットワークは 、少数の高度に結合したノードから成るネットワークのトポロジーはスケールに依存せず 、固有なモジュラー構造を持つ。著者は、大腸菌においてこの階層的組織が既知の代謝機 能によく整合することを示し、これが生物学的ネットワークの一般構造であることを示唆 した。(An)
Hierarchical Organization of Modularity in Metabolic Networks
   E. Ravasz, A. L. Somera, D. A. Mongru, Z. N. Oltvai, and A.-L. Barabási
p. 1551-1555.

メンフクロウの脳における空間表現(Representing Space in the Barn Owl Brain)

視覚と聴覚の空間マップが相互作用して、動物がものを見るようにできるニューロンの回 路は何であろうか?メンフクロウにおいて、視蓋が下丘に投影される。この入力は、視覚 マップと聴覚の空間マップとの整列に必要であることが示された。視蓋において抑制を薬 理学的方法でブロックすることによって、Gutfreundたち(p 1556)は、極めて特異的な視 覚応答が下丘に記録されることを示した。視覚の投影点が聴覚の空間マップの点に一対一 に対応し、非特異的に視覚入力が集中しないようにしている。(An)
Gated Visual Input to the Central Auditory System
   Yoram Gutfreund, Weimin Zheng, and Eric I. Knudsen
p. 1556-1559.

脳腫瘍増殖の情報伝達(Signaling Brain Tumor Growth)

子供の癌関連死の第一の原因は、脳腫瘍である。この脳腫瘍で最も一般なのは髄芽腫であ るが、これは小脳に現れる極めて攻撃的な腫瘍であり、分子レベルでの病因はまだよく理 解されていない。Bermanたち(p. 1559)は、この腫瘍の開始と継続的な増殖には Hedgehog(Hh)細胞情報伝達経路が必要であることを示している。マウスをHh情報伝達を抑 制するシクロパミン(cyclopamine)という植物由来の分子で処置すると、外見上の副作用 なしで髄芽腫の退行を引き起こした。従って、Hhの小分子拮抗物質をヒトの髄芽腫の新し い治療として評価する研究は価値があるかも知れない。(An)
Medulloblastoma Growth Inhibition by Hedgehog Pathway Blockade
   David M. Berman, Sunil S. Karhadkar, Andrew R. Hallahan, Joel I. Pritchard, Charles G. Eberhart, D. Neil Watkins, James K. Chen, Michael K. Cooper, Jussi Taipale, James M. Olson, and Philip A. Beachy
p. 1559-1561.

分けられるとより不活性になる(Nobler When Divided)

金は酸化しにくいが、全くしないわけではない。王水に入れられるかあるいはプラズマ内 で活性化酸素にさらされると金は酸化する。Boyenたち(p. 1533)は、“同様のプラズマ酸 化条件下の二酸化珪素(シリカ)表面上にある孤立した金の小クラスタ ー(Au55)は、x線光電子分光学では金のより高い酸化状態がもつピーク特性 を示さない”ことを明らかにしている。しかしながら、最終的に集塊状態に至る Au55の厚膜は酸化する。ミセルの中に形成された大きい金クラスターと、よ り小さい金クラスターの同様な実験の比較から、著たちは“クラスター・サイズの安定状 態は電気的効果というよりはむしろ酸化抵抗力による”と主張している。(hk,KU)
Oxidation-Resistant Gold-55 Clusters
   H.-G. Boyen, G. Kästle, F. Weigl, B. Koslowski, C. Dietrich, P. Ziemann, J. P. Spatz, S. Riethmüller, C. Hartmann, M. Möller, G. Schmid, M. G. Garnier, and P. Oelhafen
p. 1533-1536.

一緒になるだけでじゅうぶん(Getting Together Is Enough)

大腸菌では、いくつかのプロモータにおける転写は異化産物活性化タンパク質(CAP)に依 存している。DNAおよびRNAポリメラーゼとの結合を介して、CAPは、RNAポリメラーゼのそ のプロモータへの結合を促進し、そのことによって転写の開始を刺激するのである 。Benoffたちは、DNAに結合したCAPとRNAポリメラーゼのα-サブユニットC-末端領域 (αCTD)の結晶構造を3.1オングストローム波長で決定した(p. 1562)。CAPとαCTDとのイ ンターフェースは小さく、CAPないしαCTDにおける大規模な立体配置の変化はないが、こ れは活性化が単純に補充を介して生じることを示唆するものである。(KF)
Structural Basis of Transcription Activation: The CAP-alpha CTD-DNA Complex
   Brian Benoff, Huanwang Yang, Catherine L. Lawson, Gary Parkinson, Jinsong Liu, Erich Blatter, Yon W. Ebright, Helen M. Berman, and Richard H. Ebright
p. 1562-1566.

熱帯林におけるβ-多様性(Beta-Diversity in Tropical Forests)

Conditたちは、β-多様性、これは種の組成が距離によってどう変化するかを示す、が西 アマゾンの森よりもパナマの森林において高いということ、またこのパターンが「制限さ れた分散と種の分化だけからは説明できない」ということを発見した(2002年1月25日号の 報告 p. 666)。Duivenvoordenたちは、パナマのデータ集合をさらに分析した(2002年1月 25日号の展望記事 p. 636)。RuokolainenとTuomistoは、パナマ調査区には気候や地質 、森林年齢の多様性があるので、アマゾン調査区と比較するのは不適切であり、また Duivenvoordenたちによる分析も情報価値がない、とコメントしている。Chaveたちは、そ のコメントは元の研究の主眼点、「周辺性の隔離集団を介しての、制限された分散と種の 分化の結びつきの、種のターンオーバーに対する影響を探究する」、を無視していると応 じている。これとは別の反論として、Duivenvoordenたちは自分たちの方法を擁護し、分 散は「熱帯性森林のβ-多様性にはかなり小さな効果しかもたない可能性がある」と主張 している。これらコメント全文は、下で読むことができる。(KF)
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/297/5586/1439a
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