AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 29, 2002, Vol.295


速報(Brevia) 揺れを伴わないサイレント地震(Silent earthquakes without producing measurable seismic shaking)

プレート境界の連続測地測定から、深部の過渡的クリープは、検出できるほどの地震を 起こさないで大量の歪みエネルギーを放出していることが明らかになってきた。これは スロー地震とかサイレント地震とか呼ばれている。沈み込み帯で生じる最大級の地震に よる被害を軽減するためにこのサイレント地震を理解することは大切である。Cascadia プレート境界に沿って(カナダのブリティッシュコロンビアから北カリフォルニアに至 る1500 km)モーメント・マグニテュードが8以上の地震がたびたび起きている。この地 方の1992以来の動きをGPSでモニタリングした結果、海岸沖のプレート境界からCascade 火山の間における変形量が顕著であり、1999年には前弧収縮から短期間の拡大へと突然 変化し、深部サイレント地震を生じた。GPSの観測結果から1992年以来8回のサイレント 地震が生じていたことが分かった。これらサイレント地震は、通常1〜2週間の変形を 継続させ、関連する周囲の地域に8週間程度の変形が継続して生じる。シミュレーショ ンによれば、数cmの地表の変位は、深さ30〜50 kmの断層によるものと思われる。そし て、最新のクリープが2002年2月7日にJuan de Fucaプレート沈み込み帯に沿って始まっ た。(Ej)
Periodic Slow Earthquakes from the Cascadia Subduction Zone
   M. Meghan Miller, Tim Melbourne, Daniel J. Johnson, and William Q. Sumner
p. 2423.

微小ロッドで太陽電池効率を高める(Taking Nanorods to Solar Cells)

導電性ポリマーをベースとする太陽電池は、製造コストが安いために無機材料ベースのも のより低価格であるが、ポリマー内の電荷キャリヤ移動効率の低さから発電効率が著しく 劣る。ポリマーにCdSeのような無機半導体粒子を加えると無機半導体粒子が良好な電子受 容体であり、ポリマーは良好な電子供与体であるために、電荷移動性が改善する 。Huynhたちは(p. 2425)、CdSe微粒子が高いアスペクト比を持つ微小ロッドを形成し 、3-hexylthiopheneのポリマー内に良好に分散された時に、この薄膜光起電素子は高い外 部量子効率を示した(515 nmの照明に対しておよそ7%、模擬太陽光照明では1.7%)。電子顕 微鏡による観察で、これらの無機半導体微小ロッドが電荷輸送を促進するように配列して いることが分かった。(Na)
Hybrid Nanorod-Polymer Solar Cells
   Wendy U. Huynh, Janke J. Dittmer, and A. Paul Alivisatos
p. 2425-2427.

たやすくはなびかない(Disinclined to Yield)

金属が塑性的に変形させられると、転位のネットワーク(原子位置における並進性欠陥)が 生成され、次に続く変形過程がより起こりづらくなる。この、"加工性硬化"は、一般に強 靭で微細な粒子からなる金属を作るのに用いられている。しかしながら、回転的な欠陥で ある回位もまた形成されうる。大きく応力変形した鉄の高分解能透過型電子顕微鏡による 研究の中で、Murayama たち (p.2433; Ovid'ko による展望記事を参照のこと) は、楔形 の転移配列の領域を観察した。この領域を、彼らは部分的回位双極子からなると信じてい る。彼らは、物質が強い塑性的な剪断歪み下ではどのように変形するかの説明に有用であ る、この双極子の変形のメカニズムを提案している。(Wt)
MATERIALS SCIENCE:
Deformation of Nanostructures

   I. A. Ovid'ko
p. 2386.
Atomic-Level Observation of Disclination Dipoles in Mechanically Milled, Nanocrystalline Fe
   M. Murayama, J. M. Howe, H. Hidaka, and S. Takaki
p. 2433-2435.

壁を離れて (Off the Wall )

珪藻類のアモルファス状シリカの細胞壁は、種に特異的な複雑なパターンを示す。このよ うなパターンが細胞小器官や小胞の複雑で高度に制御された組織体の結果なのか、或いは 物理化学的な相互作用の結果によるのだろうか?Sumper(p.2430)は、珪藻類の一種である Coscinodiscusのパターン形成において後者の証拠を提出しており、彼は細胞壁の生物形 成の間に繰り返される相分離(phase separation)現象により、自己相似のパターンがだん だん小さなスケールで形成されていると推定している。三つの異なるCoscinodiscus種の 高分解能走査電子顕微鏡の画像はこのモデルを示持している。種−特異的なパターンは異 なる壁間距離によってもたられる束縛に由来しており、これが次のパターン形成のレベル を指示している。(KU)
A Phase Separation Model for the Nanopatterning of Diatom Biosilica
   Manfred Sumper
p. 2430-2433.

地球のダイナモと軌道力学(Earth's Dynamo and Orbital Dynamics)

地球磁場の強度変化は、堆積岩の層の中に捕らえられた磁性鉱物に記録されている。そし て、それは地球ダイナモがどのように働いたかに対する手がかりを与えている。地球の軌 道と気候の変化は、ともに地磁気の変化とわずかな相関がある。Yamazaki と Oda(p.2435) は、West Caroline Basin からの海洋の 225万年間の堆積コアの断面におけ る磁場の傾斜と強度に見られるある10万年の周期を測定した。その10万年の周期は、気候 ではなく軌道の離心率と相関があり、周期は軸方向の双極子場の強度とともに変化してい る。(Wt)
Orbital Influence on Earth's Magnetic Field: 100,000-Year Periodicity in Inclination
   Toshitsugu Yamazaki and Hirokuni Oda
p. 2435-2438.

不規則な上昇(Irregular Rise)

最後の退氷期における最も劇的な出来事は、14000年前に起こった急速(500年間)かつ大幅 (20メートル)な海面上昇である。この出来事は、meltwater pulse IA mwp-IA)と呼ばれ 、大陸氷床が融解してできた真水が海洋に流れ込んだ結果である。どこの氷床からこの水 が作られたのであろうか?Clarkたち(P.2438;Sabadiniによる展望記事参照)は、全世界的 に海水面高が変化する著しく不均一なパターンを用いて、さまざまな融解のシナリオに対 する全世界的な海水面の識別特徴(fingerprints)を決定した。この手法の試行として、彼 等はバルバドス(Barbados)大陸棚とスンダ(Sunda)大陸棚における海水面の変化を計測し 、北ローレンタイド(Laurentide)氷床がmwp-IAの単一の源ではなかったこと、そして南極 大陸からの融解が現存する海面高の記録と一致することを示した。(TO)
PALEOCLIMATE:
Ice Sheet Collapse and Sea Level Change

   Roberto Sabadini
p. 2376-2377.
Sea-Level Fingerprinting as a Direct Test for the Source of Global Meltwater Pulse IA
   P. U. Clark, J. X. Mitrovica, G. A. Milne, and M. E. Tamisiea
p. 2438-2441.

テレビ漬け (Too Much TV)

若い子供たちがテレビを見ることはどんな時点で悪影響を及ぼしているのだろうか ?Johnsonたち(P.2468;AndersonとBushmanによる展望記事参照)は、思春期あるいは青少 年期にテレビを過度に見ていることにより攻撃的な振る舞いがもたらされることが分かっ た。こうしたデータを集めるため、1才から10才までの子供がいる707家族をインタビュ ーし、17年間調査した。一日に1時間から3時間のテレビを見る14才の少年たちは、1時間 以下の少年たちと比べて攻撃性の増加が示された。(TO)
PSYCHOLOGY:
The Effects of Media Violence on Society

   Craig A. Anderson and Brad J. Bushman
p. 2377-2379.
Television Viewing and Aggressive Behavior During Adolescence and Adulthood
   Jeffrey G. Johnson, Patricia Cohen, Elizabeth M. Smailes, Stephanie Kasen, and Judith S. Brook
p. 2468-2471.

全身性RNA干渉のための遺伝子(Genes for Systemic RNA Interference)

短い二本鎖のRNA分子が配列関連メッセンジャーRNAの発現を中止する能力であるRNA干渉 (RNAi)の珍しい側面のひとつは、全身性になり、ひとつの細胞か組織から別の細胞か組織 へ伝播できることである。例えば植物において、RNAiはウイルス感染の防衛に用いられる 。Winstonたち(p 2456)は、全身性RNAiの効果に必要な3つの遺伝子を線虫から単離した 。この座位のひとつsid1は、マウスとヒトにも存在する膜貫通のタンパク質をコードする が、このタンパク質は、推定上の細胞間RNA信号として機能するmのかもしれない。(An)
Systemic RNAi in C. elegans Requires the Putative Transmembrane Protein SID-1
   William M. Winston, Christina Molodowitch, and Craig P. Hunter
p. 2456-2459.

ハブにおいて(At the Hub)

タンパク質の翻訳後修飾は、発生期のタンパク質機能を制御するための重要な戦略である 。Dittmarたち(p 2442)は、ユビキチン結合と関連するHub1という修飾を発見した。酵母 において、標的タンパク質にHub1を加えることは、分極化した形態形成の制御に重要であ ったと分ってきた。Hub1と標的タンパク質と連結できない細胞は接合が不完全となる。つ まり、shmooという分極化した接合突起の形成を必要とするプロセスが出来ない。(An)
Role of a Ubiquitin-Like Modification in Polarized Morphogenesis
   Gunnar A. G. Dittmar, Caroline R. M. Wilkinson, Paul T. Jedrzejewski, and Daniel Finley
p. 2442-2446.

老化からの保護(Protection from Senescence)

初代ヒト細胞は、限られた回数しか分裂することができず、そしてこの増殖捕捉(複製老 化とも呼ばれる)の状態は、テロメア(染色体末端の核タンパク質複合体;Marxによるニ ュース記事を参照)の短縮化により引き起こされる。Karlsederたち(p. 2446)は、染色 体末端を融合しないように保護するテロメアDNA結合タンパク質(TRF2と呼ばれる)を過 剰発現することにより、初代ヒト細胞の老化を遅らせることができることを示す。この結 果は、複製老化が、短縮テロメアの保護状態が変化することにより誘導されていることを 示しており、長い間言われている見解、すなわち老化が、テロメアDNAが存在しないこと により、DNA-損傷経路を介して引き起こされる、という見解と矛盾している。(NF)
Senescence Induced by Altered Telomere State, Not Telomere Loss
   Jan Karlseder, Agata Smogorzewska, and Titia de Lange
p. 2446-2449.

勾配に沿って(On the Slopes)

紡錘体を形成する間の微少管の集合と分解との間のバランスを理解するためには、染色体 周辺の様々な集合因子のレベルを知ることが必要である。Kalabたち(p. 2452)は、有糸 核分裂アフリカツメガエル卵抽出物中の染色体から広がるそのGTP-結合構造において、小 型グアノシントリホスファターゼ(GTPase)Ranの濃度勾配を直接的に可視化した。その ような勾配は、微少管動力学を制御することができる染色体由来タンパク質の放出を促進 することができる。(NF)
Visualization of a Ran-GTP Gradient in Interphase and Mitotic Xenopus Egg Extracts
   Petr Kalab, Karsten Weis, and Rebecca Heald
p. 2452-2456.

AからBへの移動(Moving from A to B)

内側上側頭(MST)領域中のニューロンは多様な視覚的パラメータの符号化に関与している 。場所細胞(place ells)と呼ばれているいくつかは環境の場所にたいするマップを符号 化し、方向細胞( heading cells)と呼ばれているその他は視覚的景色を拡大あるいは収 縮することによって推論される移動方向を符号化する。Froehler と Duffy(p. 2462; Bradleyによる展望参照)は、経路細胞(path cell)によって実行される方向と場所を統 合に対応するサルのMST中における第三の種類のニューロンの活性について記述している 。(hk)
NEUROSCIENCE:
Moving Through the Landscape

   David Bradley
p. 2385-2386.
Cortical Neurons Encoding Path and Place: Where You Go Is Where You Are
   Michael T. Froehler and Charles J. Duffy
p. 2462-2465.

ニューロンがその優先度をスイッチする(Neurons Switch Their Preferences)

目覚めているとき、目は小さな急激な動きを行って、一つの凝視点から他の凝視点にジャ ンプする。このような断続性運動は一秒間に数回発生している。Thieleたち (p.2460;Barinaga によるニュース解説参照)は、断続性運動誘導のイメージ運動 (saccade-induced image motion)と受動的にものを見ている間で、二つの運動専門の脳 領域、領域MTと領域MSTにおけるニューロン活性を比較検討した。細胞の内には断続的運 動の間、選択的にその応答を抑制するものもあるが、一方受動的条件においてはこのよう な速度に応答している。更に注目すべきことには、彼らは断続的運動の間にその方向優先 度の反転を示すニューロンに関して記述している。極めて急速に生じているこのような調 律の変化はレチナール由来ではなく、内部シグナルによって媒介されている。(KU)
NEUROSCIENCE:
Neurons Turn a Blind Eye to Eye Movements

   Marcia Barinaga
p. 2347.
Neural Mechanisms of Saccadic Suppression
   A. Thiele, P. Henning, M. Kubischik, and K.-P. Hoffmann
p. 2460-2462.

望まれない補充(Undesirable Recruitment)

タモキシフェンは、乳癌の処置と予防に非常に効果のある薬であるが、それが広く使われ ていることに対しては懸念が生じてきている。というのも、それは子宮内膜癌のリスクを 増してもいるらしいからである。タモキシフェンは、エストロゲン受容体に結合し、その 転写活性を変えることによって作用している。しかし、それの示す、乳房組織における抗 エストロゲン性活性と子宮内膜組織におけるエストロゲン活性の根底にある機構は、不十 分にしか分かっていない。ShangとBrownによる細胞培養研究は、この薬の組織特異性の効 果を、少なくとも部分的に明らかにしている(p. 2465;また、Katzenellenbogenと Katzenellenbogenによる展望記事参照のこと)。子宮内膜細胞においては、--乳房細胞に おいてはそうならないが--タモキシフェンは、自分自身のエストロゲン活性にとってその 発現が必要となる転写性活性化補助因子タンパク質(SRC-1)が補充されるよう刺激するの である。この機構についての洞察は、乳癌やその他エストロゲンが主要な役割を果たす病 気のためのよりよい薬の開発を加速することになるであろう。(KF)
BIOMEDICINE:
Enhanced: Defining the "S" in SERMs

   Benita S. Katzenellenbogen and John A. Katzenellenbogen
p. 2380-2381.
Molecular Determinants for the Tissue Specificity of SERMs
   Yongfeng Shang and Myles Brown
p. 2465-2468.

最短経路を求めるためのの量子マッピング(Quantum Mapping for the Shortest Route)

統計力学的問題と最適化問題は、どちらも、有効温度というものを用いて記述することが できるが、この2つを結び付けることは、タンパク質折りたたみや電子システム設計など の複雑な問題を解くためのシミュレーテッド・アニーリング法というものをわれわれが利 用できることになる。エネルギー面の凹凸(energy landscape)の地形をなぞって山を乗り 越える従来法と異なり、その障壁を通り抜けるトンネル効果によってマップ化するとされ る量子アニーリング法の最近の提案は、最適化問題を解く速度をさらに速くできるという ことを示唆している。Santoroたちは、Isingスピングラス・モデルにおいて、量子アニ ーリングと熱アニーリングの比較研究を行なっている(p. 2427)。彼らは、前者の利点の 概要を述べ、さらに最適化を進展させたアルゴリズムの開発に至る可能な道筋を示唆して いる。(KF)
Theory of Quantum Annealing of an Ising Spin Glass
   Giuseppe E. Santoro, Roman Martoňák, Erio Tosatti, and Roberto Car
p. 2427-2430.

エージェントの要素の結び付き(Linking the Elements of Agents)

ワーム(虫)やげっ歯類モデルシステムの加齢プロセスにそれぞれ別々に関係するとされ てきた3つの要素が、NemotoとFinkelによって、哺乳類の寿命を調節する可能性のある情 報伝達経路に、関連付けられた(p. 2450)。細胞内オキシダントの増加によって、その抑 制が加齢に関わっているとされてきたforkhead転写制御因子の活性を減少させた。この効 果には、細胞内タンパク質p66shcの発現が必要であった。forkhead活性を保存すると、よ り多くのオキシダント除去が行なわれ、細胞のオキシダント・レベル全体の減少がもたら された。情報伝達エージェントとしての活性酸素種の利用には、重要な治療上の意味があ る可能性がある。(KF)
Redox Regulation of Forkhead Proteins Through a p66shc-Dependent Signaling Pathway
   Shino Nemoto and Toren Finkel
p. 2450-2452.

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