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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science August 17, 2001, Vol.293
光波発生装置に向かって(Toward a Light-Wave Generator)
異なった周波数の光波合成は、任意の波形とスペクトル成分を合成するお決まりのテク ニックである。コヒーレント量子制御応用のために、波長範囲の長さの超高速光パルス が要求されるであろう。Sheltonたち(p. 1286; Brownたちによる展望記事参照)は、フ ェムト秒光パルスの位相ロック、櫛歯状の光周波数発生、そして光周波数の高精度測定 を含む最近における技術向上の上に、彼らは、コヒーレントなパルス列を形成するため に、二つの波形を別々のフェムト秒レーザからコヒーレントに合成できることを示した 。(hk)
カーボンナノチューブがループを閉じる(Carbon Nanotubes Close the Loop)
Sano たち(p.1299) は、単壁のカーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotubes SWNT)から大きな環を形成する方法を記述している。切断の技法により、SWNT を可溶性に した後、軽くエッチングを行い、両端を酸素添加処理を行ったチューブの一群を生成した 。中間的な長さのナノチューブは、続いて行う化学反応とアニーリングの後には、開環さ せる反応物で処理したり高温に晒しても、形成した閉じた環は、安定性を保っていた 。(Wt)
ラングミュア-ブロジェット膜が整列する(Langmuir-Blodgett Films Come to Order)
ラングミュア-ブロジェット膜の形成においては、表面における両親媒性の整列した単 分子層がしっかりした支持体に転換するのであるが、これは、ナノメートルスケールの 組織化方法としてはもっとも古いものの一つである。しかしながら、膜が形成されるに つれ、再整列を引き起こす転移によって欠陥が導入されるため、これらの膜の利用範囲 は限定されていた。Takamoto たち(p.1292)は、溶液の pH がより高い状態(典型的な pH の7の代わりに 8.5 )で操作することにより、カドミウム arachidate の膜は、実 際に作るのはより難しくはあるが、ほとんど欠陥のない膜が形成されることを報告して いる。高 pH 膜は、水の相においては「擬似杉綾模様(ニシンの骨のような)」構造を形 成するが、デポジションの後は六角形の構造に変換する。これでは、pH-7 の膜の場合 のような、膜の層構造を崩壊させる再組織化は起こらない。(Wt)
COの燃焼(COmbustion)
好気性と嫌気性微生物は両方ともCO脱水素酵素(CODH)という酵素を含んでおり、この酵 素はCOをCO
2
に変えて、そして地球規模で炭素をCO
2
と酢酸塩の 間で循環させる正方向反応と逆方向の反応に対して重要な働らきをする。或る場合には 、CO
2
がアセチルーCoA中へ取り込まれて炭素源として役立っている 。Dobbekたち(p.1281;表紙、及びThauerによる展望記事参照)は1.6オングストローム分 解能で、嫌気性微生物Carboxydothermus hydrogenoformansからのCODHの結晶構造を記 述している。この酵素は、COがNiへ結合している変わった〔Ni-4Fe-5S〕クラスターを 利用しており、このことは隣接しているFeに結合している水酸基からの攻撃に鋭敏なる 反応性を付与している。(KU)
女王蟻の思い通りに(The Queen Gets Her Way)
蟻における性比の研究は、親-子の葛藤や血縁淘汰理論に関するより秀れた試験法とな っている。理論的には、女王蟻よりも働き蟻の方が雌性-偏在の性比の優先権を持って ているということを予言しており、働き蟻がこの関争に勝利しているというのが有力な 考え方である。しかしながら、Passeraたち(p.1308;Pennisiによるニュース記事参照) は、性比が時折女王蟻の支配下にあることを示している。 Fire ant Solenopsis invicta(熱帯地方にいるハリアリ類) の女王蟻は、働き蟻に働らきかけて雌性の卵の 数を抑制し、雄を産ませるようにする。この発見は、この種の蟻や多くの別種の蟻にお いて働き蟻最適化から逸脱した性配分比に対する説明を与えるものである。(KU)
ナノメーターサイズのセンサー(Sensing with Nanoscale Surfaces)
平面構造の電界効果型半導体(FET)を液晶と一緒に使うと、化学的又は生物学的なセン サーとして応用が可能である。例えば、荷電分子とかイオンを半導体表面に吸着させる と、表面の伝導度が変化し、化学センサーとして活用できる。Cuiたちは(p. 1289)、平 面構造の代わりに半導電性のナノチューブを用いることで、この効果の感度を高めた 。PH、抗体濃度とCa
2+
イオンの変化をリアルタイムで検出するために、酸 化シリコン基板上に形成されたホウ素を注入したシリコンナノチューブが用いられた 。分子受容体に対するターゲット分析物と液晶の競合結合により、有機分子10億分の 1の感度を持つ液晶配列ベースの比色センサーが作られた。ShahとAbottは(p. 1296)、分子受容体(例えば、アミンをターゲットとするカルボン酸のグループ)を含む 自己組織化したアルキルチオールの単層をもつナノメートル単位のひだ(10-30nmの波長 で1-2nmの振幅が理想的)をガラス表面に形成した。この層は分子受容体と弱く結合して いる液晶のフィルムで覆われている。この弱く結合された液晶配列は(偏向光で観察出 来る)、分析物のより強力な結合により乱され、配列方向が変化する。現在、様々な環 境物質を正確に測定する装置は実験室レベルの設備しかない。今回の、これらのシステ ムは様々な環境物質に対する被爆限界をモニターする着用可能なセンサーとして用いる ことが出来るだろう。(Na)
鉛を北極地方の循環に投じる( A Lead into Arctic Circulation)
前世紀の間に北極地方における水循環の変化性については、そこで人為による汚染物質 がどのくらい多く運ばれているかを理解することと同様に、限られた知識しかない 。Gobeilたち(p.1031;Mysakによる展望記事参照)は、トレーサとして鉛を使い、北極境 界流の全体像を明らかにした。それは、北極境界流と北極海との関連をはっきりと同定 し、大気ではなく海洋が人為的な鉛の運搬を支配していることを示している。そして汚 染物質の鉛の分布や同位体組成によって、過去50年間における北極海の海流の安定性を 再構築した。(TO)
マグロを尾行して(Tailing Tuna)
最も商業的価値の高い魚の一つである大西洋のホンマグロ(bluefin tuna)の漁獲量は 1970年代はじめに比べ、1980には、20%に落ち込んでいる。しかし、ホンマグロの遊走性 移動や産卵地域、あるいは個体集団の混合などの知識が不充分なため、その管理が十分 にはできなかった。マグロの移動を記録するため、Blockたち(p. 1310, および Magnuson による展望記事参照)は、マグロに関する少なくとも1年間のデータを保管す るようプログラム化された電子タグをつくり、これが自動的に浮き上がり、衛星を経由 して蓄積したデータをダウンロードできるようにした。西部大西洋に住んでいるマグロ はメキシコ湾や地中海の繁殖地域に戻ることが分かった。このことから、もし、ホンマ グロを維持する必要があるなら、これらの産卵地域では、もっと厳しい保護が必要であ ることが示唆される。(Ej,hE)
ミオシン-Vの制御(Myosin-V Regulation)
ミオシン-Vは、細胞内でのオルガネラの運動、特にメラノサイト内でのメラニン色素胞 の移動、を促進するのに寄与している、微小管をベースとするモーターである。有糸分 裂の間、微小管機構は紡錐体集合体中に取り込まれ、そして膜輸送は閉鎖されることか ら、ミオシン-Vの活性は、おそらくはリン酸化により、下方制御される。Karcherたち (p. 1317;CheneyとRodriguezの展望記事を参照)は、タンパク質のオルガネラ結合カ ルボキシ末端に存在する、一ヶ所のセリン残基からなる正確なリン酸化部位を記載する 。リン酸化部位は、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ II(CaMKII)のコンセンサス配列を有しており、そしてCaMKIIの阻害物質は、ミオシ ン-Vの放出を阻害した。著者たちは、オルガネラ結合を排除するためのこのようなリン 酸化を、もっと一般的に使用できることを示唆する。(NF)
結びつき(The Tie that Binds)
細胞分裂の間、姉妹染色分体は、コヘシン(cohesin)と呼ばれるタンパク質の複合体 により、集められる。酵母において、Scc1pとして知られるコヘシンのサブユニットを プロテアーゼであるセパラーゼ(separase)によりタンパク質分解することが、染色分 体を実際に解放するという事象であると考えられており、その後染色分体が分裂後期に 娘細胞に移動すると考えられている。しかしながら、脊椎動物においては、分裂中期以 前に、ほとんどのコヘシンは染色体腕から切断非依存的なメカニズムで解離している 。Haufたち(p. 1320)はここで、染色体に残っていて、分裂後期の開始時には動原体 からなくなっている少量のコヘシンが、姉妹染色分体を分離させるために切断されるに 違いないということを示す。彼らは、ヒトコヘシンのサブユニットSCC1に2箇所のセパ ラーゼ切断部位を同定し、そのようには切断することができない、ヒトコヘシンサブユ ニットSCC1の変異を作成した。生理学的量の変異SCC1を発現するヒト細胞株において 、染色分体の分離およびそれに引き続いて起こる細胞質分裂が起こらなかった。著者た ちは、このメカニズムの欠損が、腫瘍細胞におけるゲノム不安定性に寄与している可能 性に、注目している。(NF)
カルシウム電流の最近の流れ(Current Trends in Calcium Currents)
カルシウム依存性シグナル伝達を調節するために機能することができる新規のカルシウ ムチャンネルの同定および特性決定が、依然としてものすごい勢いで進められている 。Sanoたち(p. 1327;LevitanとCibulskyによる展望記事を参照)は、イオンチャンネ ルの一過性受容体ポテンシャル(TRP)ファミリーのメンバーであり、血液中で広く発 現されている、ヒトLTRP2チャンネルについて記載する。チャンネルは、その細胞質尾 部に、ヌクレオチドヒドロラーゼ活性に関連する、あるモチーフを含有する。LTRP2を トランスフェクトした細胞内において、チャンネルのコンダクタンスは、アデノシン 2リン酸リボース(ADPR)あるいはb-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (b-NAD)により、直接的に活性化され、そしてそれらはCa2+透過性非選択的カチオン チャンネルとして機能している。この活性は、細胞内アデノシン三リン酸により抑制さ れる。免疫系細胞株において、彼らは、細胞をADPRあるいはb-NADに曝露した場合に 、同様な内向きのカルシウム電流を観察した。展望記事において、Levitanと Cibulskyは、最近のほかの研究において、別のTRP-ファミリーのメンバーを特性決定し 、別の制御特性およびADPRピロフォスファターゼ活性がLTRP2に基づくものであるとし たものについてまとめている。(NF)
記録専用メモリ(A Write-Only Memory)
我々の主観的観点から見ると、外傷や加齢によって妨害されない限り、記憶の過程は連 続的で、容易であるように見える。McGuire たち(p. 1330; WaddellとQuinnによる展望 記事参照)は、ショウジョウバエにおいて、条件付きで遺伝子shibireを発現させること によって、このような妨害の制御が可能な方式を開発した。この遺伝子はショウジョウ バエの脳の茸体(mushroom body)中でdynamin guanosine triphosphataseをコードして いる。このタンパク質はシナプス小胞再利用における基本的役割を果たす。温度を変え ることで、この遺伝子の発現をオン・オフさせ、匂い認識課題の異なる場面において 、mushroom-body機能をオンにしたりオフにさせたりすることができる 。mushroom-bodyは記憶検索には必要なものであるが、記憶したり、これを強化するに は必要無い。このように、このショウジョウバエでは情報の学習と蓄積をすることがで きるが、後でこれを思い出せなくなる。(Ej,hE)
海床の雨量計(Sea Floor Rain Gauge)
Cariaco海盆は、ベネズエラの北部大陸棚上にある小さな無酸素海盆(anoxic marine basin)であり、またそこは熱帯地方の古気候に関する情報のめったにない宝庫である 。夏の期間、膨大な量の降雨が直接その海盆やあるいは近くのオリノコ川に流れ込み 、堆積物(terrigenous)がその海盆や周りの大陸棚に運搬され、そこで堆積していく 。冬の間は、降雨や局所的な川の表面流去(river runoff)は細り、海岸に沿った湧昇が 海面での生物増殖を促進する。この季節性リズムは、過去14500年間に渡って、明るい 色をしたプランクトンの豊富な地層と、暗い色をした陸成の穀物が豊富な地層とが交代 しあってできる薄い堆積の途切れのない連続を生成してきた。Haugたち(p.1304)は、こ れらの堆積物を分析し、熱帯大西洋の降雨量変化の記録を示した。これは太平洋におけ るエルニーニョ‐南方振動の変動と同期して、北アメリカ熱帯収束帯の位置の変化が原 因であることを示唆している。(TO)
制御不能(Out of Control)
生物学的制御エージェント(天敵、寄生生物、病原体)を導入することによって、(導 入したものとか、天然の)害虫は制御できるかもしれないが、標的とされない種にも害 を与えるかも知れない。Henneman と Memmott (p. 1314; Stokstadによるニュース記事 も参照)は、生物学的制御エージントは、固有種のガのいる遠隔のハワイにまで大きく 侵入したことを示した。彼らによると、ハワイのKauai島のAlaka’i沼地のトランセク トから、天然のlepidopteran幼虫から生じた捕食寄生虫の83%が導入した生物学的制御 エージェントであり、14%が偶然に導入されたものであり、たった3%が常在種であった 。(Ej,hE)
腫瘍抑制のための血管経路 (Vascular Pathways to Tumor Suppression)
Peutz-Jeghers症候群は、胃腸のポリープの発生やガンのリスク増加によって特徴付け れらる遺伝性障害である。その原因となる変異はLKB1遺伝子にあり、これがセリン/ス レオニンキナーゼをコードする。LKB1の機能をよく知るために、Ylikorkalaたち(p. 1323)は、このキナーゼを欠失するマウスを作り上げた。LKB1が欠失すると胚死亡を生 じ、これは脈管形成の重度の欠陥や、血管形成誘導因子 (VEGF)の異常な上方制御が原 因となっている。このことから、LKB1の腫瘍を抑制する役割の一部は、腫瘍が進行する ために必要な血管の成長を阻止することによるのかもしれない。(Ej,hE)
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