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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science June 15, 2001, Vol.292
紫外光自由電子レーザーの飽和(Saturation of Ultraviolet Free-Electron Lasers)
自由電子レーザー(Free-Electron Laser EL)は、放射波長をチューニングできる能力と 、既存のシンクロトロンの強度より10桁強くなりうるX線光度を達成する潜在力とを 兼ね備えている。FEL中では、電子ビームはアンデュレーターと呼ばれる変調された磁 場領域を通過し、電子ビームと磁場との相互作用を通して放射が行われる。この相互作 用の飽和は、FELの開発の鍵を握る問題であるが、これまで波長はミリメートルのオ ーダーに限定されていた。Milton たち (p.2037) は、より短い可視および紫外領域の 波長での飽和することを示している。これは、はるかに短いX線波長に到達する途上に おける決定的な一歩である。(Wt)
ブレイザーの跡を追う(Trailing Blazars)
クエーサーの極限的な明るさを発生する高エネルギー輻射源は、降着円盤と二つの極方向 のジェットを有する超大質量のブラックホールであると考えられている。およそ 10%の クエーサーが、電波領域の波長で強い放射を示す。これらの強い電波を出すクエーサーの 一部は、放射の大きなアウトバーストを示す。これらの"ブレーザー" のアウトバースト は、ジェットが光速に近い相対論的粒子ビームを照射するためとされてきた。新たな統一 モデルでは、すべての強い電波を出すクエーサーの、光学的、あるいは、電波での相違は 、ジェット放射を相対的に異なる視野から見ているに過ぎないのではないかと示唆してい 。Ma と Wills (p.2050; Schilling によるニュース解説を参照のこと) は、強い電波の クエーサーのサーベイにおいて、見込む幾何的な配置に独立なブレーザーが存在している 間接的な証拠を見出した。彼らは、すべての強い電波のクエーサーは、類似の物理過程に より発生していると結論している。(Wt,Nk)
形のくずれた粒子からの直線偏光(Linearly Polarized Light from Out-of Shape Particles)
球形の半導体量子ドットは、荷電キャリアが再結合すると光学的波長の光を放射し、そ して粒子の大きさを変えると放射強度と波長を変えることが出来る。この放射光は面偏 光であり、もしもこの放射光が直線偏光の光であればディスプレーのような応用にもっ と有用となる。Huたち(p.2060)はアスペクト比が僅か2程度の細長いCdSe量子ドットで も、直線偏光の光を放射することを実験的に示している。(KU)
全てが動きまわる(All Astir)
アキラルな分子の中には、固体になると光学活性の結晶を形成するものがある。静止条 件下では、通常、等量の右手と左手の結晶を形成する。しかし、塩素酸ナトリウム (NaClO
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)の結晶化といったあるケースでは、撹拌によりバッチ全体が総て 一方向の掌性をもつ結晶を形成するようになる(しかしながら、別の場合にはバッチは 右手と左手の結晶になる)。Riboたち(p.2063;Feringaによる展望参照)は、高濃度にお いてリオトロピック液晶を形成するアキラルな2個プロトン化した(diprotonated)ポル フィリン分子の蒸着凝集体を研究した。形成された集合体はキラルであり、そのキラリ ティは蒸着プロセスの間の撹拌している渦流の方向に依存しており、ポルフィリン間の 特殊な結合サイトにおける渦流の非対称性の影響によるらしい。(KU)
受容体から核へ(From Receptor to Nucleus)
細胞膜上で細胞外リガンドが受容体と結合すると、様々な応答を引き起こし、その応答 が核内での遺伝子発現や転写に変化を起こすことがある。Santagataたち (p.2041;Cantleyによる展望記事も参照のこと)は、形質膜受容体での結合が起きると 、核に転写因子が移行するという新しい経路について記述している。不活性状態におい ては、これまでマウスで成人性肥満と関連があるとされたきたずんぐりタンパク質 (tubby protein)が形質膜脂質のリン酸化された頭部基に結合する。このGタンパク 質と結合したセロトニン受容体が活性化されると、ホスホリパーゼCが脂質を加水分解 してtubbyを放出する。放出されたtubbyは、多分一連の核局在化経路によって核内に入 る。面白いのは、なぜセロトニン受容体ノックアウトマウスが成人性肥満の症状を示す のかをこの結果で説明できそうなことである。(hE)
磁場におけるナノメータ・スケールのイメージ化(Nanometer-Scale Imaging in a Magnetic Field)
磁性部材はサイズにおいて超常磁性限界に向かって小さくなり続けているので、磁場の 存在下でのナノメータ・スケールのこれらシステムの基礎物理的な振る舞いを理解する 必要がある。いままでのところ開発されたたいていのイメージ化技術は、高い空間解像 度かあるいは磁場への適用かのどちらかを提供していたが、両者を同時に提供はしてい ない。Pietzschたち(p. 2053)は、スピン偏向走査トンネル効果顕微鏡を鉄ナノワイア ・アレイにおける磁気的スイッチングと履歴現象をイメージ化するために使えることを 報告している。(hk)
暗闇での藻の水性培養(Algae Aquaculture in the Dark)
珪藻類や他の藻類、これらは夏の池での水泳には歓迎されないが、食物や有益な植物化 学物質(phytochemicals)の重要な源である。しかし純光合成独立栄養生物である藻類に とっては、水中でうまく生きられるかどうかは、確実に受け取ることできる光の量によ って制限されている。Zaslavskaiaたち(p.2073;StephanopoulosとKelleherによる表紙 と展望記事を参照)は、ヒトグルコーストランスポータ(human glucose transporter)を コードする遺伝子により珪藻を形質転換することにより、グルコースを供給すれば光な しで成長できる従属栄養生物(heterotrophs)に変換できることを示した。(TO,Hn)
Gαサブユニット、大忙し(A Busy Ga Subunit)
典型的な動物のゲノムは、Gタンパク質αサブユニットをコードするいくつかの遺伝子 を含有するが、シロイヌナズナ(Arabidopsis)のゲノムは、たった一つのみをコード しているようである。2報の論文が、植物においてはこの1つのGαが忙しく生理学的機 能を制御して回っていることを示している(EllisおよびMilesの展望記事を参照 )。Wangたち(p. 2070)は、Gαが、アブサイシン酸による気孔の開口サイズの制御を 媒介しており、したがって植物における水の保持に影響を与えていることを見出した 。Ullahたち(p. 2066)は、同じGαタンパク質が細胞増殖の制御に関与していること を示している。(NF)
ヒト細胞内では沈黙を守るテロメア(Telomeres Silence in Human Cells)
染色体の末端近傍の遺伝子あるいはテロメアに局在する遺伝子の可逆的なサイレンシ ング〔テロメア位置効果(TPE)〕は、テロメアの長さおよびテロメアと影響を受ける 遺伝子との間の距離の両方に依存している。この効果は、酵母においてその特徴がよく 調べられている。発光レポーター遺伝子に連結したDNAを用いてヒト細胞においてde novoテロメア形成を開始させることにより、Baurたち(p. 2075)は、新生のテロメア に隣接するレポーターが、染色体中の内部部位に位置するレポーターと比較して、1割 の発光しか発生していなかったことを示している。酵母におけるのと同様に、テロメア の長さが長くなるにつれて、さらにTPEが増加する。ほとんどのヒトテロメアは加齢と ともに短くなることから、TPEが細胞の複製可能可能なライフスパンを通じて細胞発現 に辺かを引き起こす原因となると考えられる。(NF,Hn)
遺伝子のサイレンシングとCpXpGメチル化(Gene Silencing and CpXpG Methylation)
DNAのメチル化により、遺伝子発現およびゲノム安定性を調節することに関与する重要 な発生遺伝学的“マーク”が提供され、そしてほとんどの場合、結果として影響を受け た遺伝子のサイレンシングが起こる。もっとも一般的なマークは、対称性のCpGジヌク レオチドの場所で見出され、Dnmt1/MET1クラスのシトシンメチルトランスフェラーゼに よりメチル基が付加される。メチル化は、その他の非-CpG部位、たとえばCpXpG、にお いても見出されるが、これらのマークを作り出しまたは維持する酵素についてはほとん ど知られていなかった。Lindrothたち(p. 2077)はここで、植物のシロイヌナズナ (Arabidopsis)で遺伝子的スクリーニングを行い、CpXpGのメチル化に関与する遺伝子 、シトシンメチルトランスフェラーゼホモログであるクロモメチラーゼ 3(CHROMOMETHYLASE3)を単離した。この遺伝子における変異の結果、通常は不活性の レトロトランスポゾン配列の活性化が起こり、そしてCpXpGメチル化が遺 伝子サイレンシングに関与していることも示される。(NF)
ジャスト・イン・タイムでの納品(Just-in-Time Delivery)
細菌の鞭毛を組み立てるのに必要な遺伝子の転写は、効率を最大にするため慎重にタイ ミングを調整されている。遺伝的経路に直接干渉せずに機能する鞭毛を作り上げるのに 必要な遺伝子の組織化を理解するために、Kalirたちは、蛍光標識されたレポータ ー・プラスミドのパネルを用いて、プロモータ活性を測定した(p. 2080)。正確な時間 的プログラムの発現が観察されたが、これは、プロモータ領域への転写因子の結合親和 性によってタイミングが調節されている可能性があることを示唆するものであった 。(KF)(An)
いちばん長い航跡(The Longest Wake)
島々は卓越風を遮って分け、海洋性の航跡(wake)を作り出すが、その航跡は一般に数百 キロメートルを越えて続くことはない。Xieたちは、こうした基準から見ると例外とな る現象、ハワイ諸島からの風下への航跡、を記している(p. 2057)。衛星からこの航跡 を観察すると、それが3000キロメートルも続いていることが明らかになった。こうした 長い構造は、大気と海洋との相互作用によって維持されている。それが海洋表面温度や 雲、風のパターンなどの正のフィードバックを産み出しているのである。この航跡は面 白い、というだけではない。それは局地的な大気と海洋の循環に影響を与えていて、プ ランクトン他の漁業資源の分布だけでなく、エアロゾルや微量ガスの大気による輸送に も影響を与えている可能性がある。(KF)
ビタミンCと癌(Vitamin C and Cancer)
癌抑制のためにビタミンCなどの抗酸化剤を大量に投与することについては議論が多い 。支持者たちはビタミンCの大量の摂取が癌になる危険を減少する、という疫学的研究 と、ビタミンCがフリーラジカルを取り除き、免疫性を刺激するという役割を示す、実 験的研究を引用する。反対者たちは、抗酸化剤治療を試みる無作為臨床試験の否定的な 結果や、ビタミンCは酸化促進剤としての効果ももつ、という実験室の証拠などを引用 している。Leeたちは(p.2008)、ビタミンCは遺伝毒性物質(DNAにダメージを与える物 質)を生成する可能性を試験管内実験データにより示した。ビタミンCにより亢進された 脂質ヒドロペルオキシドの分解物であるこれらの遺伝毒性物質が大量に生成されるなら 、癌を引起す突然変異を誘発する可能性がある。(Na,Hn)
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