AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 13, 2001, Vol.292


溶融状態での単一分子の動き(Single‐Molecule Moves in Melts)

ガラス状態の挙動を理解する上での重要なる論点は、非指数関数的な分子の緩和挙動の 発生原因である。このような非指数関数的動力学は固有なものであったり、時間スケ ールの分布によって指数関数的挙動で緩和する分子の集団に由来するものかも知れない 。DeschenesとVanden Bout(p.255;EdigerとSkinnerによる展望参照)は、ガラス転移温 度のすぐ上の温度で高分子膜中の個々の色素分子をトレースとして混入させその回転配 向を調べた。彼らは、色素分子を観測した結果、不均一な挙動、が最初は単一の時間ス ケールで拡散し、その後ガラス状媒体の変化に対応した緩和の時間スケールに急速にス イッチすることに帰因することを見い出した。(KU)

ジョセフソン接合を調節すること

ジョセフソン接合において、超伝導クーパ電子対(超伝導体中にできる束縛電子対)は 、ゼロバイアスのときでさえ、二つの超伝導間の狭絶縁領域障壁を横断する。ジョセフソ ン接合は新超伝導デバイスにとってかなめとなる構造の一つであるが、その接合特性はそ れらがいったん作られればおおよそ固定されるという一つの制約があった。現在Schonた ち(p. 252; Wendin と Shumeikoによる展望参照)は、電場の印加によって超伝導が引出 せる有機材料の調節可能なジョセフソン接合を製作することについて述べている。(hk)ナ ノポーラス高分子はお互いに不溶性のポリマー鎖を結合し、ナノスケールで相分離するダ イブロック(diblock)共重合体からつくられる。このナノポーラスポリマーは、また、固 体のコロイド粒子を用いて物理的に型どられて作ることもできる。Srinivasaraoたち (p.79)は、更に簡単なプロセスを用いてつくられることを示している。彼らは揮発性の溶 媒に溶解したポリスチレンの薄膜に湿った空気を流した。吐息のような湿度を持った空気 流によって、蒸発冷却と凝縮水滴の細密六方晶の多層格子が形成され、その結果、球状空 気泡の個体ポリマーフィルムができる。これら気泡の次元数は、表面上の空気流を変える だけで制御することができる。これら3次元的に整列したマクロポーラスな物質サイズが 可視光に近い場合は,フォトニックバンドギャップや光学的ストップバンドとして興味あ るものとなる。(KU)

けしかけられた結晶化(Egging-on Crystallization)

分子的な揺らぎが局所的に集合している原子群を一時的に結びつけると、結晶の核は自 動的に形成される。核の安定性は、表面エネルギーとバルクのエネルギーとが競合する ため、温度に強く依存する。この表面エネルギーは核を収縮させるが、他方、バルクの エネルギーはそれを成長させる。多くの物質において、結晶化の初期段階における大き さや長さを直接に観察することはできなかった。Gasser たち(p.258) は、コロイド系 において共焦点顕微鏡を用いて、そのサイズ、形態、核のダイナミクスを観察した。形 成された核の形は、多くの理論で仮定されている球形とは異なり、楕円体であった。そ して、成長した結晶の格子のパッキングはその核のものと整合していた。(Wt)

海洋温暖化の2つの垣間見(Twin Peeks at Ocean Warming)

全世界的な温暖化はしばしば大気温度に関して語られるが、大気は太陽から供給される 熱のほんの少ししか蓄えていない。エネルギーの観点から見ると、海洋の方がはるかに 重要であり、そして海洋の上部3000メートルに含まれる熱量が過去50年間に上昇してき たことが最近になって示された。この観測と、温室効果ガスの放出によって暖められて いる地球に対して予測すべきこととがきわめてよく一致しているという結果が2つの調 査から示された(Kerrによるニュース記事参照)。Levitusたち(p.267)とBarnettたち (p.270)は、異なった気象モデルを用いて、人為的な温暖効果ガスと硫酸塩エアゾール (sulfate aerosols)による力が加わったとき、海洋全体における熱の分布の変化が正確 に再現されたことを示した。これらの異なったモデルは双方共に、以前のモデルでは不 可能であった気象変化の観測を再現することに成功しており、2つのモデルの結果が一 致したことはこの 手法への信頼を高めるものである。(TO,An,Nk)

氷床が来る(The Ice Sheets Cometh)

約10万年毎の巨大な氷床の成長と後退によって痕跡が残されている地球気象の最近の急 激な変化は、地球軌道の小さな変化が、未だ知られざる増幅メカニズムによって大きな 影響をおよぼして起こると考えられている。こうした軌道の変動は最近の氷河時代では なく地球史を通して発生してきたが、しかし気象作用を明確に解明することは困難であ った。Zachosたち(p.274;Kerrによるニュース記事参照)は、最近こうした作用を表すと 見られる約2300万年前からの深海の詳細な記録を発表した。ある大きな氷河作用は、地 軸の黄道傾斜角と軌道離心率の変化が同期した時と一致しており、そのような時には地 軸が立ち、かつ太陽までの距離もほぼ一定となり季節変化が非常に小さくて氷河の形成 に好条件となるが、数100万年間に渡る記録はこのような軌道の変化を示している。こ れがたまたま一致することによって、巨大で永続的な氷床が南極大陸に現れたことと同 期し、現在のような巨大で永続的な氷床が南極大陸に作られてるのかもしれない 。(TO,An,Nk)

閾値下での乗算(Be Subthreshold and Multiply)

メンフクロウの聴覚系は、神経生物学にとって価値あるモデルをいくつも提供してきた 。PenaとKonishiは、メンフクロウの下丘にある、同定されている多数の空間-特異的な ニューロンから得られた細胞内記録を用いて、どのような計算過程で空間特異性の創発 を説明できるかを決定した(p. 249; また、表紙とHelmuthによるニュース記事参照のこ と)。一般的に、ニューロン中で乗算が行われている例はほとんどない。彼らは、空間 特異的細胞における乗算と加算を比較し、閾値下入力の乗算の方を良しとする明確な証 拠を提示している。乗算の組み合わせが必要であることは、従来のモデル化研究におい ても予想されていたが、決着がついていたわけではなかった。この研究の結果は、そう したモデルで示されていた機構を実験的に検証することを可能にすることになろう 。(KF)

古い時計にそっくり(Chip Off the Old Clock)

哺乳類における概日性時計の主要なものは脳にあるが、多くの末梢性組織の細胞にも時 計は存在している。Yagitaたちは、こうした末梢性時計、少なくとも繊維芽細胞におけ る末梢性時計を構成する分子的要素は、マウスの脳にあるマスター時計を形成するもの と同じものである、と報告している(p. 278)。Per2やBmal1、Clock、Cry1とそれぞれに 対応するタンパク質からなる、転写および翻訳のフィードバック・ループが、相互作用 することで、培養された繊維芽細胞において24時間の概日性リズムを産み出す。この振 幅と周期長は、脳におけるのと同じくCry1の存在に依存している。かくして、末梢性振 動に特有の特徴、すなわち減衰傾向と光に対する非感受性、の原因は、他に探さなけれ ばならなくなった。(KF)

流れによるコート(Flow Coated)

マイクロ粒子のコーティングあるいカプセル化は、薬物輸送手段、あるいは、細胞、組 織、触媒を保護する上で決定的に重要なステップである。現在の方法は、最終的には同 一径の粒子を生産する方向に進んでおり、それゆえ、異なる径の粒子の場合は非一様な コート厚さが必要となるか、あるいは、一様なコートであれば、利用可能な高分子の種 類の選択範囲とその後のプロセスが制限される。Cohen たち (p.265) は、水と油の界 面から粒子を選択的に除去することにより、一様に粒子をコートし、そして、光、熱 、化学反応を通じてコーティングをポリマー化することを可能とした。(Wt,An)

感染力の分子トリガー(Molecular Trigger of Infectivity)

原虫寄生虫レーシュマニアは、苛酷な美観を損なう病の原因となるもので、昆虫(スナ バエ)の媒介によってヒトや家畜、野生動物間で感染するものである。さまざまな宿主 の多様なライフ・サイクル段階における寄生虫の脱出と侵入を調整する因子は、いまま では特定するのが難しかった。Cunninghamたちは、テトラヒドロビオプテリン(H4B)が 、プテリジン代謝の制御を介して、スナバエ内の寄生虫が非感染性のprocyclic形態か ら高い感染力を有するmetacyclic形態へと分化するのを抑制している、ということを示 している(p. 285)。キーとなる酵素であるプテリジン還元酵素1を欠く変異体のレーシ ュマニアは、マウスにおいては、H4Bのレベルが低く、非常に高毒性のものであった。 (KF)

インスリン経路と老化(Insulin-Like Pathways and Aging)

線虫のCaenorhabditis elegansでは、通常は不活性の冬眠様の生活相を制御している daf経路に変異が生じることにより、劇的に寿命を伸ばすことができる。daf経路は、高 等生物のインスリン経路と相同なものであり、カロリー制限によりげっ歯類の寿命を増 加させる能力により、さらなる関連が示唆される。Fabrizioたち(p. 288;4月6日の Straussによるニュース記事を参照)は、複製していない酵母、Saccharomyces cerevisiaeの寿命を調節する変異をさらにスクリーニングすることにより、このことを さらに示す。彼らは、ほ乳動物のインスリンシグナル経路におけるAkt/PKBキナーゼに 類似するキナーゼであると同時にアデニル酸シクラーゼの酵母類似体であるSch9を同定 した。この分子により、オキシダントへの抵抗性が増し、寿命が3倍まで伸びる。イン スリン様シグナル経路は、おそらくは生物全体の代謝を調節することを通じて、寿命の 主要な制御因子であるようである。(NF)

聞いたものの中から“何”と“どこ”とを("What" and "Where" in What We Hear)

他の感覚の種類と比較して、霊長類の聴覚皮質の構成についての我々の理解は、未だか なり不完全なものである。Tianたち(p. 290)は、聴覚皮質の外側ベルト領域における 神経性反応を解析し、そして特徴的なプロセッシング経路に関する事実を発見した。外 側ベルトの様々な領域が、サルの種特異的コミュニケーション・コールの位置および範 囲に関する特異性の様々な程度に反応する。おそらく、視覚系において知られているの と同様に、聴覚皮質においても様々なプロセッシング経路が存在するのであろう 。(NF)

Gタンパク質とシナプス前抑制(G Proteins and Presynaptic Inhibition)

いくつかの神経伝達物質は、Gタンパク質共役型受容体を活性化することによって、シ ナプス前終末からのシナプス遊離を変調する。Blackmerたち(p 293)は、このニューロ ンの開口分泌機構の変調における基礎機構を研究した。Gタンパク質βγサブユニット (Gβγ)をヤツメウナギの網様体脊髄の軸索に微量注入をすると、活動電位依存のCa2+ 流入を減少せずに、シナプス伝達を抑制した。この結果は、シナプス末端における小胞 融合の機構を直接に変調することによって、Gβγが、新しいエフェクターの役割をは たす可能性を示唆している。(An)

視覚処理ストリームの機能的分離(Functional Segregation of Visual Processing Streams)

別個の機能ストリームが巨大細胞と小細胞の網膜-膝-皮質の経路と別の皮質システム 、特に視覚処理システムの背側と腹側の皮質ストリーム、を結合するかということがま だ解明されていない。Yabutaたち(p 297;Levittによる展望記事参照)は、マカク視覚野 のスライスにおいてレーザ走査の光刺激と細胞全体の電位固定の記録を組み合わせ、V1 領域の4B層へ興奮入力を提供するニューロンを同定した。4B層の錐体ニューロンは、4C α及び4Cβから入力を受け付けるが、脊髄の星状細胞が受け付ける入力は、4Cβのでは なく、4Cαだけである。(An)

励起状態をとらえる(Caught in an Excited State)

化学反応の多くは短寿命の光励起状態を経て進行するが、その励起状態の構造は分子が 時間分解能を有するX線回析の研究に適したような結晶をつくらないと充分なる解析が 出来ない。Chenたち(p.262)は、X線吸収端微細構造解析(XAFS)というやや間接的な構造 解析法が、ナノ秒の分解能で溶液中の分子に適用出来ることを示している。彼らは、光 励起されたニッケルポルフィリン分子が溶液中でピペリジンリガンドと再結合するさい の配位状態を決定した。(KU)

農業の未来(Farm Futures)

地球規模の環境変化は温室効果ガスが気候に及ぼす影響より大きい。Tilmanたちは(p. 281)、今後50年間の、農業に起因する地球規模の窒素とリンの増加、殺虫剤生産とその 貿易量、農業面積の変化に注目している。彼らは予測に際し、これらのパラメータ、地 球人口、一人当たり国内総生産の過去50年間の伸びが直線的に増加すると仮定している 。彼らは、2050年には殆どのパラメータが少なくとも2倍に増加し、かってない生態系 への影響を引起す、と予測している。(Na)

乳児の脳でのオブジェクト処理(Object Processing in the Infant Brain)

Csibra たち(Reports, 24 Nov. 2000, p. 1582)は生後8ヶ月の乳児たちがカニッツァ図 を見せられたときに、γ帯(40Hz)の脳波反応を示したと報告している。カニッツァ図は 、この頃の乳児が知覚できることが知られている錯覚を生じやすい矩形の図であるが、そ の乳児たちが6ヶ月の時には、この矩形を知覚することはできず、このようなγ帯活性を 示さなかった。この研究は、γ帯活性と脳による別個の刺激特徴量を結合して、対象物表 現に統合化する処理についての関連性を強調している。MullerとFriedericiによるコメン トでは、Csibraたちの乳児の研究結果と、成人の研究結果の間の顕著な差異を指摘し--- 特にCsibraたちが示した、脳中のγ帯活性化増加部位と、イベントに関与する電位データ の詳細パターンの部位に関して---イベント関与電位と知覚の関係についての提案に疑問 を呈している。CsibraとJohnson はこれに応じ、「成人に於ける発見事が不安定であるこ とを考慮に入れて、乳児のデータに対しては偏見を捨ててかからねばならない」。コメン トの全文は、以下を参照。(Ej)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/292/5515/163a
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