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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science December 8, 2000, Vol.290
地中海における衝突(Collision in the Mediterranean)
ヨーロッパとアフリカ・プレートの衝突によって6つの褶曲山脈帯をつくりあげた。この 6つの褶曲山脈はベティクス山脈(Betics),マグレビデス山脈(Maghrebides), アペニ ネス山脈(Apennines),アルプス山脈(Alps),カルパチア ンス山脈(Carpathians), そして ディナリデス−ヘレニデス山脈 (Dinarides-Hellenides)である。この全圧縮地域中にもまたアルボラン海とパノニアン 盆地( Pannonian Basin)のようないくつかの伸長地域がある。 Wortel とSpakman (参 照p. 1910)は、地中海地域における圧縮と伸長状態をもつ複雑な地域を形成した、可能性 のあるプロセスについてレビューしている。彼らは主として、引き込まれているスラブの 引き込みと分離が地中海沿岸に沿っての複雑な地質構造の鍵となる構成要素であることを 示すために、マントル上部がもつ速度構造の3次元画像に焦点を合わせている。(hk)
火星上の堆積岩?(Sedimentary Rocks on Mars?)
地球上の堆積岩は、火成岩や変成岩の風や水や氷による浸食作用によって形成される 。Malin と Edgett (p.1927;表紙と Kerr による解説記事を参照のこと)は、火星グロ ーバル・サーベイヤー探査(Mars Global Surveyor mission )による火星軌道上 カメラ( Mars Orbiter Camera) からの映像と火星軌道上レーザー高度計(MarsOrbiter Laser Altimeter) からの地形図を用いて、火星上の堆積岩である可能性のある、横方向 に広がり、ある場合には、垂直方向にも厚い層状のユニットの証拠を提供している。これ らの層状ユニットは、比較的古い火星表面上の北緯30°および南緯30°の間に集中してい る。この領域は、火星史早期における風や水による岩石形成にとって好都合な領域である 。火星の特徴のある起源を解明するにはいっそうの研究が必要ではあるが、詳細なマッピ ングからは火星の景観に対し、水の影響があることは支持されてきている。(Wt,Tk)
涸渇したマントル(Depleted Mantle)
太古の大陸地殻下にある最上位300キロメートルのマントルは、tectosphereと呼ばれ、マ ントルの他の部分とは区別されるかもしれない。重力や地震速度などのような地球物理学 上のデータにおける変則性は、tectosphereはその温度や組成あるいはその両方が異なっ ているということを示している。ForteとPerry(p.1940)は、せん断波速度(shear-wave velocity)の変則性から密度の変則性を導き、マントル対流とプレート移動とを関係付け るマントル流動モデルを作り上げた。このモデルは、 tectosphereは、マントルの他の部分に比べて鉄が欠乏していることを示している 。tectosphereの化学的に顕著な特性は、大陸地殻の成長と関係しているのであろう 。(TO)
対流によるコミュニケーション(Convective Communications)
惑星や恒星の内部は、対流する液体の動きによって支配されて、それは地磁気ダイナモの ようなプロセスと内部から表面への熱の伝達とに影響を与えると考えられている 。ZhangとSchubert(p.1944)は、回転する階層化された球体における対流を考慮すること で、対流プロセスの計算モデルに別の次元を加えた。それらのシミュレーションによると 、内側の層における熱的不安定性は、同時に回転する外側の層における対流の不安定性に 伝えられ凝縮されることを示している。遠隔対流(teleconvection)と 名づけられたこの現象は、地磁気を生成する地球の外核の対流の不安定性の原因を説明す る。このように、ほかの場所で起こされた熱的な不安定性が、外側の層における対流の不 安定性を生成できる。(TO)
Cariaco海盆からの気候の手がかり(Climate Clues from the Cariaco Basin)
ベネズエラ沖Cariaco海盆の堆積物記録は何万年にも広がる海洋低酸素事変期間に発生し た1年毎の堆積層が見られる。今、この記録は気候変化の新しい手がかりを提供している (Labeyrieの展望記事参照)。大気中の放射性
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Cと安定な
12
Cの比率は大気と海洋間のCO
2
交換強度の関数である。というの は、より活発な交換が起きると、より大量の若い炭素が大気中に、古い炭素が海洋中に存 在するようになるためである。このように大気中の
14
Cと
12
Cの比率を予測することは過去の海洋循環強度についての重要な情報を提供 する。Hughenたちは(p. 1951)、Cariaco海盆堆積物を分析し、木の年輪から得られる放射 性炭素情報曲線の最大限度を何千年も超える、1万年前から1.5万年前までの高分解能の
14
C記録を作成した。彼らは新ドリアス期の気候冷却事変の主な原因は海洋循 環の急激な変化だったことを示している。グリーンランドで採集した掘削アイスコアには 亜間氷期と呼ばれる最終氷期期間内数千年間持続した大規模で急激な局所的な温暖化の記 録が含まれている。しかしながら、この温暖化が局所的なものだったか地球規模のものだ ったかについて決定するためには更なる証拠が必要である。Petersonたちは(p. 1947)Cariaco海盆から採集した堆積物記録に大西洋熱帯地帯における9万年前の急激で劇 的な水文的循環変化の証拠が含まれていることを示している。アイスランドの掘削アイス コアから発見された気候転換と密接に関連している彼らの記録は熱帯気候が最終氷期にお ける気候変化を引き起こすのに重大な役割を果たした、という考えを支持し、亜間氷期は 地球規模に広がっている、という可能性を強化する。(Na)
炭素の驚き(Carbon Surprises)
飽和した炭素は、通常、四面体状に配位するが、最近の実験的研究によると、平面状の 4配位炭素種が合成可能であることが示されており、この炭素種の存在は、理論的に予測 されてきていたものである。Exner と Schleyer (p.1937) は、炭素が6個の他の原子に平 面的な配置で束縛されているような分子について、類似の予測を行っている。彼らは 、CB
6
H
2
あるいは、CB
3
B
4
のような炭素 とホウ素を含む分子は、準安定な平面構造を形成する可能性があり、そして、より安定な 異性体へ再配置するのに必要な活性化のための障壁は十分に高く、実験的な観測が可能で あろうと予言している。(Wt)
羽毛をもつ原始的な鳥(Early Birds of a Feather)
羽毛は、は虫類のうろこから一連の中間構造を経由して進化してきたのかもしれない 。ZhangとZhou(p. 1955)は、北中国の初期白亜紀の堆積物から出てきた最も原始的なエナ ンチオオルニチン(enantiornithin)のトリであるProtopteryxについて記述している。他 のトリの化石(Archeopteryxを含む)と異り、この標本は、は虫類のうろこと真のトリ羽毛 との中間の性質を表す羽毛を示している。この標本は、原始的なトリとサーロポド恐竜の 差異を明確にする珍しい骨格の特色も示している。著者はこの結果から、原始的な羽毛は 、保温材ではなく、空気力学的な機能をもっていたと解釈している。(An)
インシュリンの第2のソース(Second-Sourcing of Insulin)
膵臓B細胞のインシュリン産生レベルの減少あるいは完全なインシュリン欠乏のために起 きる糖尿病は、1億人以上に影響している。処置方法のひとつは、他の細胞のインシュリ ン産生を誘発することであろう。しかし、膵臓以外の細胞からのインシュリン遊離を正し く制御をすることは不可能であった。Cheungたち(p 1959)は、腸において特定化した内分 泌細胞であるK細胞をプログラムし、ヒトのインシュリン前駆物質とグルコース依存イン シュリン分泌性ペプチド(GIP)の制御領域を同時発現させるようにした。普段、GIPは、イ ンシュリン遊離を促進する。インシュリンとGIPの組み合わせのトランスジェニックマウ スは、ヒトのインシュリンを産生し、β細胞毒素であるストレプトゾトシンによって誘発 された糖尿病から保護された。β細胞の破壊にもかかわらず、このマウスは、経口による グルコース負荷に耐えられた。(An)
壊れたDNAに焦点を合わせる(Focusing on Broken DNA)
DNAにおける二本鎖破断(double-strand breaks:DSB)形成により、核内のg-H2AXやNBS1と いったDNA損傷センサーの局在化が生じる。広範囲なDSBが、T細胞やB細胞受容体の産生に 必要な体細胞V(D)J組換えプロセスで生じる。H.T.Chenたち (p.1962)は抗体染色と共焦点顕微鏡を用いて、g‐H2AXとNBS1のフォーカスが発生中の 胸腺リンパ球におけるV(D)J組換えに対応した部位に局在化していることを観察した 。このようなフォーカスは組換えが終了した細胞や、或いはDNA組換えに必要な酵素機構 が欠如した細胞では検知されなかった。DNAセンサーは、このような組換え事象のあいだ に生じる望ましくない、そして潜在的な発癌性の転位を阻止する手段としてV(D)J組換 え部位に補充されるのであろう。(KU)
あふれんばかりの情報をうる(Getting an Earful)
古典的な発生学の実験では、脊椎動物の内耳が最初に中胚葉と神経外胚葉からの両者の信 号により特殊化されることを示唆している。Ladherたち(p.1965;Grahamによる展望参 照)は、ニワトリに含まれているいくつかの分子信号を同定した。FGFファ ミリーの新らしい変異体であるFGF-19は、耳のプラコード発生を促がす中胚葉からの信号 を伝達する役目を持っている。FGF‐19は極く短時間の‐‐但し次のステップ、例えば神 経外胚葉からの信号を伝達するWnt-8Cを活性化するステップを行うには充分 な時間--正しい位置に存在する。このような信号は一緒になって、耳プラコード形成を命 令し、そして様々な耳-特異性の遺伝子の適切なる発現を誘発する。(KU)
永久記録(Permanent Record)
多くの細胞システムでは、極性が発生を続けていくうえで決定的な役割を果たしている 。二倍体酵母細胞は、以前の発芽部位の記憶を必要とする、極からの発芽という特有で予 想可能なパターンを示す。T Chenたちは(p.1975)、長期間にわたり有効な極性 を示すマーカーの正体について記述している。そのマーカー(タンパク質Rax2)は発芽部位 に蓄えられ、その後数世代にわたりその部位にとどまる。(Na)
平均以上の成績(Above-Average Performance)
今まで明らかにされてきた一次視覚野における配向選択性の機構は、まだ不完全なもので ある。異なった刺激差異に対する配向調節において観察される不変性は、情報の流れにつ いての有力ないわゆるフィードフォワード・モデルにおける未解決な問題の 1つとして繰り返し指摘されてきている。Andersonたちは、高頻度の確率論的要素を含む 神経細胞記録の平均膜電位を調べ、この平均とニューロン出力の平均スパイク確率との間 に一貫した関係がないことを示している(p. 1968; また、VolgushevとEyselによる展望記 事参照のこと)。むしろ、記録に含まれる高頻度要素は振幅と勾配が大きいので、たとえ 平均レベルが明らかに閾値下であっても、神経細胞が作用電位を生み出すように強いるの である。(KF)
培養への順応(Cultural Adaptation)
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は、いまや世界中の1億7千万人に影響を与える、公衆衛生上の 主要な問題の1つになりつつある。新しい治療法の開発にあたっての主要な障害は、この ウイルスのRNA複製を研究するための信頼できる細胞培養システムが存在し ていなかった、ということである。以前記述された複製システムの研究において 、Blightたちは、HCV非構造的タンパク質NS5Aにおいて一連の順応性変異体を発見した(p. 1972; また、Marshallによるニュース記事参照のこと)。これらは試験管内で、HCVの RNAに、非常に強まった複製能力を与えるものである。これら変異体は、HCVの遺伝的また 機能的な分析のための、より頑健なシステムを確立するための道具として使用されている 。(KF)
明るい役目だけではない(More than Light Work)
眼が光を感じるために必要なタンパク質の1つ、ロドプシンはまた、光受容器細胞、すな わちロドプシン変性を欠く光受容器の産生においても重要である。ChangとReadyは、ロド プシンを欠いたショウジョウバエにおける光受容器変性を、構成的に活性な Rhoグアノシン・トリホスファターゼ、Drac1を発現させることで防ぐことに成功した(p. 1978; また、Colleyによる展望記事参照のこと)。Drac1は、発生中の光受容器細胞中にア クチン細胞骨格を組織化するらしい。ロドプシンは感覚性知覚だけではない付加的な役割 を果たすらしいが、それは発生中に形態形成を刺激するシグナル伝達経路を活性化すると いうことである。(KF)
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