AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 20, 2000, Vol.290


通り過ぎるモーメントを観察する(Watching the Moment Go By)

磁場は磁気モーメントに対してトルクを与えるが、磁気モーメントはすりこぎ運動に対し てスピンを与える。この磁場による磁化の効果は磁気メモリー装置に利用されているが磁 化回転の詳細なメカニズムははっきりとは分かっていない。Acremannたち (p. 492; およ び、Miltat と Thiavilleによる展望記事参照)は、ピコ秒の解像度で、サブミクロンサイ ズの3次元的な瞬時画像つくり、磁場が与えられたとき磁化ベクトルが受ける込み入った 磁気モーメントの動きを示す画像を作った。それによると、この時間的解像度においては 、動力学的励起は、その構造が持つ平衡時のスピン配置の対称性を反映しており、この伝 達は非波動的である。(Ej,hE)

意外に頑健な干渉性(Robust Coherence)

量子コンピュータが開発できるかどうかは、量子状態の重ね合わせが周囲の錯乱の影響で 失効するという、干渉性喪失問題を克服することにかかっている。最近の理論的研究によ れば、特定の量子状態を選ぶと、ある種の摂動には頑健であり干渉性が喪失しない、干渉 性喪失でない部分空間(decoherent-free subspace)が作れるという。量子系、この場合に は1対のもつれたフォトンを、全体として干渉性喪失な状態に置くことによって、干渉性 喪失でない状態が存在する実験的証拠を、Kwiatたち(p. 498)は示した。干渉性喪失でな い部分空間を使うことで、量子情報処理における量子エラー訂正方法をどうするかという 厄介な問題を軽減することができる。(Ej,hE)

ダブルマッチにおいてカーボンを越えるシリコン(Silicon Over Carbon in a Doubles Match)

炭素は二重結合を容易に形成するが、シリコンの二重結合はかさ高い置換基で保護しない と通常では不安定である。Iwamotoたち(p.504)は、シリコンの二重結合の化学が炭素 のそれを補完しうる場合があることを示している。二つの環を持つ炭素化合物であるスピ ロペンタジエンはいまだ単離されたことがないが、著者たちはシリコンの類似体が安定に 存在することを示している。このように、シリコンの二重結合化学は、以前考えられた程 限定されたものではないのかも知れない。(KU)

よりべとついたシリコン表面(A Stickier Silikon Surface)

シリコンの(100)-2x1表面上(傾斜したシリコン二量体の列を形成している)における H2の吸着は、科学技術面の重要性と、又それが示す謎のため最もよく研究さ れている表面反応の一つである。エネルギ学的には、吸着に対して何ら大きな障壁はない こと、そしてH2が容易に室温で固着することを示唆している。しかしながら 、直接的な吸着の研究によると逆に非常に小さな固着係数(<10-13)、おと び0.7eVの障壁を示している。BuehlerとBoland(p.506)は、二量体が傾斜せず水平とな っているむきだしの表面をつくった。そしてこの処理により、固着係数が 109増加することを見い出した。更に、固着係数は温度では変化しなかった 。このような結果は、水平な二量体の出現が主要なる吸着障壁であること、そして、この ような表面はH2吸着における遷移状態に対する優れたモデルとなることを示 唆している。(KU)

献身的な細胞(Sacrificial Cells)

細胞死の誘発は、殆どの病原性ウイルスや細菌による感染における重要なポイントである 。いくつかのケースにおいて、細菌自身がアポトーシス性の細胞死を直接誘発するが、こ のプロセスがどのように感染の経路に影響しているのかは明らかではない。Grassmeeたち (p.527)は、あるタイプの細胞が細菌感染に応答して死ぬことが宿主生存にとって必須 であるという強い証拠を提供している。緑のう菌‐‐体の抵抗力の弱った個人に対して肺 炎や敗血症を引き起こす肺の細菌‐‐は、肺の上皮細胞に広範囲のアポトーシスを誘発す る。この細胞死は、実際に緑のう菌に感染したマウスの生存に対して極めて重要であり 、そして細胞死受容体であるFas(CD95)とそのリガンドの相互作用に依存していた。し かしながら、Fasと同じくFasリガンドの双方共、予測されていたようなリンパ球でなく上 皮細胞で発現する必要がある。(KU,Tn,Hn)

タイタンの小さな雲(Tiny Clouds on Titan)

土星を回る比較的大きな月であるタイタンは窒素の豊富な厚い大気で覆われている。なぜ こんな太陽から非常に遠い小さな月にそれほど厚い大気が形成されるのかよく分かってい ない。Griffithたちが(p.509、Lorenzの展望も参照)、提示しているタイタンの高解像度 の近赤外スペクトルデータによると日々小さな雲が形成されていることが示唆されている 。タイタンは地球と類似の気候パターンを持つ可能性があり、対流により凝縮したメタン ガスが雲となり、その雲が急速に散逸し、雲に深々と隠されているタイタン表面に雨とな って降りそそぐようだ。(Na,Tk)

滑るのはこんなに簡単(It's So Easy to Slip)

地滑りは山の高さと地形をコントロールする決定的な要因である、との認識が定着してい る。全ての地滑りが破壊的に崩れ落ちる訳ではなく、あるものはゆっくり滑るが、土壌の 空隙率がその著しい滑り方の差を決定づけるようだ。Iversonたちは、(p.513)、土壌の膨 張と収縮をモニター出来る大規模な人口水路での一連の実験で地滑りの振るまいを研究し た。土壌空隙率のほんの小さな差が滑る速度の大きな変化を引き起こす。(Na)

長期にわたるHIVの制御(Exerting Control over HIV)

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に対するワクチン反応は、ウイルスの病原性の多様性から マカクザルを守るよう強めることができる。Barouchたちは、インターロイキン-2と免疫 グロブリンとの融合タンパク質の存在下でウイルス性遺伝子gagとenvを含むDNAワクチン を投与した(p. 486; また、ShenとSilicianoによる展望記事参照のこと)。彼らは、検出 不能なほど低いウイルス・レベルにまでウイルスを減らす強い細胞障害性のTリンパ球反 応の現れること、その結果サル型とヒト型のキメラであるウイルスの攻撃を受けて140日 経過しても、病気にも死にも至らなかったということを観察した。(KF)

お相手選びにはうるさい(Picky About a Mate)

自然選択が、動物の集団において、つがいとなる相手の認識を強化し、生殖性単離(そし て究極的には種の分化)の促進を助けている可能性がある、という直接的な実験的証拠が 本号の2つの報告の主題となっている(Bartonによる展望記事参照のこと)。Higgieたちは 、地理的な分布が重なっているオーストラリアのショウジョウバエ2種を用いて、これら ショウジョウバエの自然集団におけるフェロモンの生殖性形質置換が、つがいとなる相手 の認識についての自然選択の結果である、ということを示している(p. 519)。Hendryたち は、2つの異なった生育環境、つまり川の流れの中と湖の沿岸とで別々に育てられたベニ ザケが、分岐選択の後ほんの13世代で、有意な生殖性単離を示したことを報告している (p. 516)。この結果は、分岐選択が適応放散のごく初期の段階で生殖性単離を促進しうる ことを示すものであり、また、種の分化については、世代の寿命の短い種においては実験 研究できるかもしれないことを示唆するものである。(KF)

グリセリンを導く(Guiding Glycerol)

アクアポリン(aquaporin)は水や小さな分子だけを通過させるが、イオンは通過させない 膜チャネルタンパク質のファミリーである。このアクアポリン族の高い配列保存性から 、共通の折り畳み構造が示唆される。Fuたち(p.481)はチャネル中で3つのグリセリン分 子と一緒に存在するアクアポリン ファミリー メンバーである大腸菌グリセリン促進剤 (GlpF)の構造を2.2オングストロームの解像度で決定した。グリセリン分子は狭い「選択 性フィルター」を通過し、両親媒性チャネルに一列に並ぶ。この構造から、なぜグリセリ ンや直鎖状炭水化物がこのチャネルを通過し、水やイオンを排除するかを理解する手助け をしてくれる。(Ej,hE)

侵入の根本原因(Root Cause of an Invasion)

外来の植物種が侵入に成功する原因は、多くは新たな環境に自然の敵がいないことである 。CallawayとAschehoug(P.521;Jensenによるニュース記事参照)は、米国西部における草 種と激しく競合しているヨーロッパ産の植物、セントーレアデフューザ(Centaurea diffusa、ヤグルマギク属)は、その原産地域由来の近縁種の草とはあまり競合してはいな いことを示した。彼らの活性炭と標識付けられたリンを使った実験により強い相互作用を 明らかにし、そして、種間競合における根の滲出物の役割を示唆した。これらの結果には 、種が侵入するプロセスを理解することだけでなく、一般的に植物共同体の進化について も知る手がかりがある。(TO)

体細胞突然変異(Somatic Mutations)

三重鎖形成性オリゴヌクレオチド(TFO)は、二本鎖のゲノムのDNAにおける特異的部位に 結合できるDNAの短い一本鎖のDNAセグメントであり、結合部位において変異を誘発でき る。TFOは、生殖細胞以外の全ての体細胞の変異を起こす有用な試薬にもなるかもしれ ないが、生きてる動物で(この場合マウス個体レベルで)有効性がまだ証明できないた め、その有用性が限られている。Vasquezたち(p 530)は、マウスにTFO(変異原性薬剤と 化学的結合させていないもの)の腹腔内に投与すると、ゲノム中の特異的マーカー部位 において変異率を増加するために十分であることを示している。この機構はまだ完全に 理解されていなく、効率はまだ低いが、この結果は、体細胞の組織を核酸による突然変 異誘発の標的にすることができる原理証拠を提供している。(An、Hn)

学習とLTPを直接的に関連づける(Directly Connecting Learning and LTP)

ラットによる複雑な運動課題の学習は、運動皮質におけるシナプスの効力を増加すること がこのたび示された。Rioult-Pedottiたち(p 533)は、この増加は、長期増強(LTP)の閉塞 と、同時に同じシナプスにおいて長期抑圧の能力の増加と共に起こることも示した。この 結果は、学習によるシナプスの増強は、興奮性の変更の正常範囲内の効力シフトを反映す るものであることを示している。このデータは、LTPと学習関連のシナプス効力変化が共 通の機構をもつことの今までの最強証拠を提供している。(An)

非干渉性光の順序立った分裂(An Orderly Breakup of Incoherent of Light)

適当な条件下において、非線形物質中を通過するレーザー光は自発的に分裂して細かいフ ィラメント状になり、最終的に分散してしまう。このような変調不安定性(MI)では、光が 散乱され、干渉を受けると小さな干渉性摂動が積み重なって行き、これら小さな摂動が大 きな不安定性を導くが、これが一般的なコヒーレントな光源の特性と考えられている 。Kipたち(p. 495)は、媒体の非線形性がある閾値を越えると、MIは部分的にインコヒ ーレントな光に対しても生じる。著者によれば、このとき生じる多様なパターン形態は 、相関の少ない他の物理的系で見つかる現象にも関連していると思われる。(Ej,hE)

バンドの戦い

バンド理論は、周期的結晶格子の電気的特性を説明している。しかし、周期的ポテンシャ ルがもつ一方向への不変性が除かれると何が起きるか? 二つの不整合の周期的ポテンシ ャルからなる人工的に造られた結晶格子において、光電子放出実験は両物質のバンド構造 の特徴を明らかにしていることをVoitたち(p. 501) は報告した。 このモデルによると 、システムは全体として分散バンド構造が発散していること、そして、2つの競合する周 期ポテンシャルが固有のバンド構造をしていることを説明している。(hk)

間一髪の違い(Different by a Hairbreadth)

免疫と炎症における役割でよく知られている腫瘍壊死因子(TNF)ファミリのメンバーは 、このたび、表皮における毛穴の形態形成に際しても機能していることが示された 。Yanたちは、TNF受容体ファミリ・メンバーの2つを、EDA遺伝子の2つの産生物の結合パ ートナーとして同定した、と報告している(p. 523)。この遺伝子の変異は無汗性の外胚葉 性異形成(EDA)を引き起こすが、これによって患者は毛髪と汗腺、歯を失うことになる 。EDA遺伝子はTNF様の領域をもつ2つの膜結合型タンパク質を産生するが、これらの違い はほんの2つのアミノ酸を挿入されているかどうかの違いである。このわずかの違いは 、しかし、それぞれの受容体に結合するかしないか、という本質的な違いをもたらすので ある。長い方であるEDA-A1は、EDARと呼ばれる受容体にだけ結合し、一方、短い方の EDA-A2は、XEDAR(X-linked ectodysplasin-A2 receptor)と呼ばれる関連した受容体にだ け結合する。この2つの受容体-モルフォゲン対は、毛穴の発生において異なった機能をも っているらしい。(KF)

エアロゾルによる間接的な影響(Indirect Aerosol Forcing)

Crowleyは、エネルギー均衡気候モデルの諸予測に基づいた歴史的な温度の再構成結果を 比較して、太陽の照射量と噴火による放出とによる自然な影響によって、北半球の1850年 以前の気候変化の大部分は説明できるが、20世紀の後半の傾向は人間の活動による温室ガ ス効果を計算に入れないと説明できない、ということを発見した(7月14日号の研究論文 、p. 270)。PennerとRotstaynは、コメントを寄せて、Crowleyの計算は、エアロゾルの間 接的な影響を考慮に入れていないと指摘した。これを除くと、PennerとRotstaynの見方に よれば、「大規模な系統的エラーを導きかねない」のである。Crowleyは、間接的なエア ロゾルの影響を「すべての研究が... PennerとRotstaynが考えるほどに大きく見積もって いるわけではない」と応じ、たとえ彼らが主張するほどその影響が大きいとしても、20世 紀後半の温暖化はポジティブなフィードバックを与える項をいくつか付加するだけでシミ ュレートできるとも述べている。「間接的なエアロゾルの影響を理解することは重要だが 」と彼は論じ、彼 の研究が依拠している「節減の原理」は、「過去1000年の気温記録を説明するにあたって いまだ利点がある」としている。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/290/5491/407a で読むことができる。(KF,Nk)
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