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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science March 24, 2000, Vol.287
海洋の地球規模の温暖化(Global Ocean Warming)
過去1世紀において大気の温暖化について多くの関心が払われたが、大気の約2500倍 の質量を持つ海洋ははるかに多くの熱を貯蔵することが出来、その結果エネルギ ー交換により大気温度に影響を与える。Levitusたちは(p. 2225、Kerrのニュース解 説も参照)、過去50年間の主要な海盆の上層3000メートルの熱貯蔵変化を見積もった 。彼らは、1970年代中頃から1990年代の熱貯蔵量の最大値と過去40年間世界中の大 洋で貯蔵された熱量の増加量を見積もることが出来た。これらの変化がどのような メカニズムによりを引き起こされたかを理解することが気候について理解すること に重要である。(Na,Og)
地球と大気のデュエット(An Earth-Atmosphere Duet)
地震計は固体である地球が励起する自由振動を常時記録している、しかし、これら の振動の起源は知られていない。Nishidaたちは(p. 2244)、1989年から1997年まで の自由振動データを分析し、回転楕円面型振動のうち、基準27次と39次の2つのモ ードにおいてノイズレベルを超える振幅のピークを示すことを発見した。これら2つ の固体地球により励起された振動は大気の振動と相互作用している。この解釈は北 半球の夏でこれらの振動モードの振幅がピークとなることで裏付けられる。このよ うに、固体である地球は大気と共振しており、地震データを地球規模の気候を理解 することに用いることが 出来る可能性がある。(Na,Nk,Og)
気候の足取りをさかのぼって調べる(Retracing Climate Steps)
20世紀中の地球表面全体の温度観測は、温暖化が20年間にわたる二つの明確な ステップにおいて発生したことを示している。この温暖化のうち、自然な気候変動 ではなく、二酸化炭素などによる温室効果ガスの産出のような人類の活動の結果は 、もしあるとすれば、どの程度のものなのであろうか? Delworth と Knutson (p.2246) は、海洋−大気結合気候モデルを用いた一連のシミュレーションにより 、この疑問に答えようと試みている。彼らの結果によると、もっとも妥当な温暖化 の説明は、人工的な要因と自然の気候変動との組み合わせであることを示唆してい る。これは、温度上昇の時期ばかりでなくその上昇の大きさも説明することができ る。(Wt,Nk)
自己組織化によって出来た酸化物チップ(Self-Assembled Oxide Tips)
薄膜を加熱すると熱歪みを起こし、そして好ましくない小さな隆起状、或いは突起 状のものを作る。Aggarwalたち(p.2235)はこの現象を活用して、即ちパラジウムの 薄膜(厚さ40〜200nm)を酸化して高さ500〜1200nm、平均チップ間隔2μm程度の 酸化物チップを形成した。このような導電性酸化物のアレーは電界放射ディスプレ ー(FED)に用いることが出来る。(KU)
フェムト秒のシンクロトロンX線パルスの発生(Speeding Up X-ray Pulses)
シンクロトロンの電子束を、ウィグラー(wiggler)と呼ばれる磁場変調領域に導き 、電子の軌跡を蛇行させて高輝度のx線を発生することができる。この電子の運動エ ネルギーを変調させ、典型的には数ピコ秒のx線パルスが発生できるが、相転移の動 きや生化学的研究にはまだ遅すぎる。Schoenlein たち(p. 2237;および、Serviceに よるニュース解説参照) は、シンクロトロンによって、数フェムト秒のパルスを作 ることに成功した。シンクロトロンの電子束をアンジュレーター(undulator)(訳註 )を通過しているとき、フェムト秒のレーザーを照射すると小領域の電子のエネル ギーを増加させることができ、このエネルギーを増加させた電子を空間的に主電子 束から分離することによって、より短時間のパルスを生成できる。(Ej)
[訳註]電子束を複数回蛇行させ、発生するX線を互いに干渉させると相乗効果の強い X線が得られる。この場合は、アンジュレーター(undulator)と呼ばれる。両者を総 称して挿入光源と呼ばれる。
液滴中に作られるコロイド結晶(Colloidal Crystals Made Dropwise)
ナノメートルスケールのラテックス球のようなコロイド粒子の結晶は、その多孔性 と光学特性の面から利用されている。しかしながら、最終的な結晶の形状を制御す る鋳型を用いる方法は結晶に乱れを与えたり、細孔径分布が広がりがちである 。Velevたち(p.2240)は、密閉チャンバー内で重いフッ化オイルに懸濁された水滴中 にコロイド結晶を成長させた。水滴の大きさを少しずつ小さくするために乾燥剤が 用いられた。その結果、十分に配向した、そして可視光を回折する球状結晶が形成 された。界面活性剤を用いると、環状形の別の粒子形を作ることが出来る。コロイ ド粒子は結晶成長のあいだ重量によって分離しており、それ故に磁性-非磁性複合体 といった「両側性」の結晶を作ることが出来る。(KU)
触感を変換する(Transducing Touch)
視覚、嗅覚、味覚などは Gタンパク質共有型受容体を介して伝達されるが、これら とは対照的に、接触感覚や音響感覚のような機械的な刺激は、機械的な力を電気的 信号に変換することにより、イオンチャンネルを直接的に調節できると考えられて いる。Walker たち (p 2229; Barinaga によるニュース解説を参照のこと) は、シ ョウジョウバエの感覚性毛ニューロン中にこのようなチャンネルの一つを同定した 。ニューロンの直接的な電気生理学的記録と遺伝子スクリーニングを組み合わせる と、陽イオンチャンネルのTRPファミリーの新しくて、これまでのものとは異な るメンバーの一つが同定された。このような機械的感覚チャンネルを分子的レベル で明らかにすることは、機械的刺激のセンシングに関与している信号発信メカニズ ムのいっそうの特徴明確化を可能とするであろう。(Wt)
傷つきやすいモア(Moa Vulnerable)
太平洋上の島々にヒトが現れて以降、そこで少なくとも500種の大型の鳥類が死に絶 えたと信じられている。最も目を引くものは、ニュージーランドの島々にいた大型 の飛べない鳥、11種のモアである。これらはMaori族が着いて以後、数世紀で姿を消 してしまった。HoldawayとJacomb(p.2250;Diamondによる展望記事参照)は、他の長 命な鳥の生息過程からのパラメータを用いて、モアの個体群の動的モデルを作った 。これらモデルのシミュレーションから、モアは成鳥の死亡率が増加するいかなる 要因に対しても非常に影響を受けやすかったであろうこと、そしてモアを絶滅させ たヒト集団の人数は概して少なく、数百のオーダーであったことを示した。彼らの シミュレーションにおいて、絶滅までの時間は、最初のヒトの植民から160年以下で あった。新たな考古学的な情報によると、ヒトが植民したのが13世紀後期であり 、そして100年後にはモアはもうかなり少なくなっていたことが示唆されている 。(TO,Og)
ヤギの家畜化の歴史(Getting Their Goats)
人間が狩猟生活から牧畜へと移行したのはいつごろであるか、という長い間の考古 学的な疑問がある。この鍵となるのは野生のヤギの家畜化であり、西部イラン高原 においては、約9000年前のことである。Zeder と Hesse (p. 2254;および、 Mareanによる展望記事参照) は最近の野生と家畜ヤギの骨格標本を比べ、考古学的 な牧畜動物標本からの雌雄に応じて年齢プロファイルを算出する方法を開発した 。この方法によれば、食糧とするために殺されたオスとメスの年齢プロファイルを 追跡することによって、狩猟から牧畜への移行を定量化することが可能である 。(Ej,Nk)
整列化する(Coming into Alignment)
発芽酵母が分裂するときには、遺伝子物質が正常に分割されるために、微小管から 構成される紡錐体が、発芽していく娘細胞に整列しなければならない。アクチンフ ィラメントの細胞皮質が微小管とが、どうにかして相互作用することによって、こ の極性と紡錘の配向を決定していると考えられている。Korinekたち(p 2257)と Leeたち(p2260)は、酵母有糸分裂時にこの2つの構造ネットワークの統合に重要であ るタンパク質相互作用を同定した:出芽細胞皮質に関与しているKar9がBim1に結合 するようであるが、Bim1は微小管に関与している。紡錘の位置決めがこの相互作用 に依存することは、高等な真核生物細胞にも及ぶかもしれない。(An)
タッグ化した受容体を用いるシナプスの研究(Studying Synapses with Tagged Receptors)
中枢神経系の機能的シナプスにおけるシナプスの可塑性を司る分子機構は何であろ うか?Hayashiたち(p 2262)は、電気生理学的にタッグ化したAMPA受容体サブユニッ トを用い、長期増強の誘導あるいはカルシウム/カルモジュリン依存タンパク質リン 酸化酵素II(CaMKII)の活性増強の後に、新しいAMPA受容体がグルタミン酸作動性シ ナプスのシナプス後膜に挿入されることを示した。CaMKIIは、シナプスの可塑性に 関与していることが以前に示されていた。変異実験によって、CaMKIIのコントロ ール基質はAMPA受容体ではないことが示された。膜への受容体の取り込みには 、AMPA受容体とPDZ領域をもつまだ未知のタンパク質との結合が関与している。(An)
Schwann 細胞の葬送曲(Schwann Song)
ニューロンが接続を構築し、これを改良していく発達過程を制御するうえで、神経 系の活性が役に立つ。StevensとFields (p. 2267) は、ニューロン活性がSchwann細 胞の発達も制御していることを明らかにした。このSchwann細胞は最終的には軸索突 起を包み、電気インパルスの伝導性を容易にする。この発達過程において電気信号 がSchwann細胞の分化を停止させるが、これはもしかしたら、この後に続く特異的髄 鞘形成シグナルが来るまで待たせているのかも知れない。(Ej,hE)
BAC・トゥ・ザ・フューチャー(BAC to the Future)
キイロショウジョウバエのゲノムの配列を明らかにしようという画期的な試みの成 果の一部として、Hoskinsたちは、ゲノムの80%を表現する第2染色体と第3染色体の 物理的マップを、細菌性の人工染色体(BAC)クローンに基づいて、提示している(p. 2271)。このマップとクローンは配列の構築と確証のために用いられたが、将来の徹 底的な分析の際のリソースともなるであろう。(KF)
CX3CR1とエイズ(CX3CR1 and AIDS)
ケモカイン・フラクタルカインの受容体、CX3CR1はまた、ヒト免疫不全症ウイルス (HIV)がヒト細胞へ入り込む際の補助受容体でもある。Faureたちは、CX3CR1のヌク レオチド多形性が白色人種におけるエイズの急激な進行と関連していることを発見 した(p. 2274)。この多形性に対してホモ接合性であった患者においては、受容体は フラクタルカインに対する結合親和性を低め、それによってHIVの細胞への入り込み が促進されるようである。(KF)
ウェブにおける累乗則(Power-Law Distribution of the World Wide Web)
BarabasiとAlbertは、World Wide Web (WWW)などのいくつかの巨大なネットワーク を分析し、そうしたシステムにおける頂点(ノード)の接続関係に累乗則が成り立 つことを、新しい頂点(ノード)が連続的に追加されていくことと、またそれらが 「すでに多くのノードと結合されているサイト」に選好的に接続されることとを結 びつけた単純なモデルをもとに説明した(10月15日号の報告 p. 509)。Adamicと Hubermanは、そのようなモデルではWWWにおけるリンクの累乗則を説明できない、と コメントしている。そのモデルは「古くからあるサイトほど、リンクを得るための 時間があり、新しいサイトより早いペースでリンクを集める、ということを予言す る」のだが、26万サイトを分析した結果、AdamicとHubermanには、サイトの設立以 来の年数とサイトの接続関係には相関がないと考えられたのである。Barabasiと Albertは、この結果は AdamicとHubermanが彼らのデータを平均しないようにしたことから帰結するもので あると応じ、さらにスケーリング関係に対する平均化の効果を、類似のネットワ ークである392,340件の映画俳優のデータベースを例にして示している。これらコメ ントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5461/2115a
で読むことができる。(KF)
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