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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science March 17, 2000, Vol.287
C-H結合の反応を触媒する(Catalyzing C-H Bond Reactions)
ベンゼンのような芳香族化合物と同様に飽和炭化水素、或いはアルカンの炭素-水素 結合を温和な条件下で選択的に活性化することが二編のレポートの焦点である (Jonesによる展望参照)。一般的にアルカンを活性化する遷移金属錯体は、触媒とし てではなく試薬として作用する。Chenたち(p.1995)は、アルカンと商業的に手には いるホウ素化合物から線状のアルキルボラン(鎖の末端で誘導体を形成する)形成を 高収率で触媒するロジウム錯体に関して報告している。この化合物はその後アルコ ールやアミンへ変換され、精密化学合成に用いられる。芳香族のC-H結合を活性化す る触媒反応の多くは非選択的であったり、環に特殊な基の存在を必要としたり或い は触媒再生が困難であったりする。Jiaたち(p.1992)は、触媒として弱い配位アニオ ンを持つパラジウム錯体を用いて、温和な室温条件下で芳香族のC-H結合にアルキン やアルケンを導入し炭素‐炭素結合を形成した。アルキンを用いた反応は、通常熱 力学的には不利なシス-置換アルケンを作る。(KU)
イオの外気圏の変化(Changes in Io's Exosphere)
イオからの気体の噴出は、木星の周りに広大なプラズマのトーラスを作り出した 。ガリレオオービターは、1995年にイオにごく近接して通過した。プラズマのイオ ン密度の測定により、イオ上の噴出から二酸化硫黄がイオン化されており、それが そのトーラスに捕獲されていたことが確認された。Russell と Kivelson (p.1998)は、1999年10月のイオへの2回目の近接通過による新しいデータを分析し 、彼らは、高密度の一酸化硫黄と、おそらくは別のより珍しいシアンやイオン化さ れたナトリウムのような分子種が、木星からイオの半径にして約2倍から20倍ま で広がった扇形の領域中に存在すると推論している。著者たちは、1995年の近接通 過以降のイオン化領域の成分や形の変化は、Pillan Patera という活発な火山から の最近の噴出によるものとしている。(Wt,Tk)
揺れるシンク(Swinging Sinks)
自然生態系による炭素貯蔵(Carbon storage)は、グローバルな炭素サイクルの主要 因である。そして、こうした吸収源のサイズを推定しようと多くの努力があった 。最近の推定値は、特に米国については、1桁もの差異があった。過去100年間の気 象データを用いて、Schimelたち(p.2004)は、米国における二酸化炭素増加と気候変 動が与える炭素貯蔵への影響をモデル化した。彼らのモデルは、炭素の吸収源が毎 年大きく変動すること、そして時々正味流出が現に存在することを示す。気候や二 酸化炭素増加が炭素吸収源に与える影響と少なくとも同程度に、森林管理や農業放 棄が炭素吸収源に影響していることが明らかとなった。(TO)
鉄の過去を詳細に見積もる(Ironing Out the Past)
鉄は、海洋生産力を調節することに重要な役割を果たしている。そして海水中の鉄 分の量と同位体組成の記録から、古代の生産力(paleoproductivity)の変化をつき止 めることができるかもしれない。Zhuたち(p.2000)は、深海団塊(nodule)のマンガン 鉄塊を分析することによって、過去600万年間の海水中の鉄‐同位体曲線を描いた 。彼らが観測した鉛同位体との相関関係から、同位体変動が生物的な起源ではなく 地質的な起源のものであることを示している。(TO)
風における嫌な季節性(Ill Tidings on the Winds)
アメリカにおいて最大級の被害をもたらすハリケーンはメキシコ湾、あるいは西部 カリブ海からやってくる。Maloney とHartmann (p. 2002)は、これら地域の熱帯性 サイクロンを解析し、Madden-Julian oscillation (MJO)と呼ばれている熱帯性の変 動季節風によって影響を受けていることを見つけた。このMJOとは、アジアからアメ リカに向かって移動する、大規模で偶発性の変調を伴った東向きの熱帯性季節風や 雨のことで、代表的には30日から60日の周期を持つ。東部低緯度の太平洋で西向き の風が優勢なとき、東向きの風のときに比べて、ハリケーンが来る確率は4倍も高 くなる。MJOは最大2週間の予報が可能であるから、このようなハリケーンとMJOの 相関が分かれば、この地域における熱帯性サイクロンの長期予報の精度が向上する ことが期待される。(Ej,hE)
細胞表面内外の修飾は?(Modifying Cell Surfaces Outside-and IN?)
細胞表面の選択的な化学修飾は細胞-表面の相互作用を研究したり、或いは操作する ために利用されている。現存する数少ない方法では、一般に導入される化学種(例え ば色素とか受容体)と細胞内に形成されているパートナーの間で縮合反応する必要が ある。このような反応が特異的なものであれば、そのパートナーは「非生物的」な ものであるが、「非生物的」有機化学反応の多くは、通常非水溶媒中で行われる 。SaxonとBertozzi(p.2007)は、アジ化物とホスフィンのカップリング反応である Staudinger反応を改良して、アミド結合を水の中で形成した。アジド糖の代謝によ りアジ化物は細胞表面に導入され、そしてこのアジド基はビオチン化 (biotinylated)トリアリールホスフィンと共有結合性の付加物を形成した。この反 応は細胞内部の環境にも同様に拡張できる可能性がある。(KU)
依然としてややこしい(Still Sneaky)
ヘビの起源を研究することによって、脊椎動物が進化に伴ってたどった、前進運動 、摂食、および生態に関連した形態学的変遷の例を容易に見ることができる。また 、これらの仮説に対する議論も同様に盛んであったが、化石による証拠が少ないこ とが、足かせとなっていた。Tchernov たち (p. 2010; および、GreeneとCundallに よる展望記事参照)は、イェルサレムの近くで見つかった9500万年前の、後肢を持つ ヘビ化石について記載している。Haasiophisと名付けられたこの化石は、全てのヘ ビの姉妹-分類群と言われているPachyrhachisに極めて近い近縁関係にあることが示 された。しかし、より完全な化石であるHassiophisからは、この2つのヘビは、よ り進化したヘビの集合であるmacrostomates(例えば、パイソンやボアのような)の 初期の種類と思われる。(Ej,hE)
喘息を攻撃する(Attacking Asthma)
環境の中である種の物質にさらされて、これによって極めて苛酷な肺のアレルギ ー反応を引き起こすのが喘息である。これら環境性抗原は免疫グロブリンEを誘因し 、これがまた、肥満細胞を活性化させる。肥満細胞から放出されるこの炎症誘発物 質の1つは、プロスタグランジンD
2
であり、Matsuokaたち(p. 2013)は 、これが、より苛酷な喘息症状の原因となることを示した。プロスタグランジン D
2
を遺伝的に除いたマウスにおいては、肺にはTリンパ球(これがTH2サ イトカインを分泌する)と好酸球の蓄積が少なく、通常は喘息発作に付きものの反 応性亢進気道が生じない。このように、プロスタグランジンD
2
は喘息に 対する新たな治療標的として証明されたようだ。(Ej,hE,SO)
癌のミトコンドリア検出(Mitochondrial Detection of Cancer)
ガン治療は病気の初期段階では非常に効果的であり、それ故感度の良い、そして非 侵襲性の早期診断法を開発することは重要である。Flissたち(p.2017)は、ヒト腫瘍 に数多くのミトコンドリアDNA(mtDNA)変異体が含まれていること、そしてこのよう なmtDNA変異体が腫瘍細胞中で不釣合いなほどの高いレベルで蓄積されていることを 示している。尿や痰といった体液の分析により、mtDNA変異体は核内遺伝子p53の変 異体よりはるかに容易に検知できることが明らかとなった。このような結果は mtDNAがガン検出において強力な診断マーカーとして役立つ可能性をもたらしている 。(KU)
外向きの境界(Outward Bound)
酵母中や細菌中でのDNA複製は特定の場所で始まり、外に向かって両側に伝播して行 く。ほ乳類細胞中では、このDNA複製開始の詳細についてはよく分かってない 。Abdurashidova たち (p. 2023)はヒトの細胞系列中でのラミンB2遺伝子について 調べ、各々の複製フォーク(これは反対方向を向いている)のリーディング鎖は 、互いのヌクレオチド数個分以内で開始することを見つけた。この開始部位は、細 胞周期によって制御されているタンパク質複合体を結合するかも知れない領域内に ある。(Ej,hE)
IP3をもう一段(Taking IP3 a Step Further)
ホスホリパーゼCの活性化は、イノシトール1,4,5三リン酸の生成を増加するが、イ ノシトール1,4,5三リン酸は、細胞内の貯蔵からのカルシウム遊離を制御する二次メ ッセンジャーである。もう一段のリン酸化によって、IP3が修飾されるが、その分子 の情報伝達役割が不明である。Odomたち(p 2026;ChiとCrabtreeによる展望記事参 照)は、Saccharomycescerevisiae酵母において、IP3をIP5に転換できるIP3リン酸化 酵素(イノシトールポリリン酸塩リン酸化酵素であるため、Ipk2pと呼ぶ)がArg82pと 同一であることを報告している。Arg82pというタンパク質は転写の制御に関与する 。Arg82pは、細胞外のアルギニン濃度変化の応答を仲介する転写複合体の一部とし て機能する。Ipk2pタンパク質は、DNAプロモータエレメント上の複合体の正常形成 に必要であるが、Ipk2pのリン酸化酵素活性は必要ではない。しかし、細胞外アルギ ニンに応答する正常な転写調節には、酵素の活性およびI(1,4,5,6)-P4の形成が必要 である。従って、イノシトールポリリン酸による情報伝達は、核内転写の制御に密 着に関与しているようである。(An)
哺乳類の網膜の再生?(Retinal Regeneration in Mammals?)
魚や両生類のような非哺乳類脊椎動物の網膜は、一生中に細胞の更新を連続でき 、ダメー ジに応じて再生できる。しかし、この能力は、哺乳類の網膜にはないため 、疾病によって我々の視覚が失われたり破壊されやすくなる。しかし、もっと原始 的な発生期の順応性の痕跡がまだ残っているかもしれない。Tropepeたち(p 2032)は 、マウスにおいて、網膜の色素上皮の毛様体縁からの特定細胞が幹細胞として機能 することを発見した。培養すると、この細胞は増殖し、網膜に典型的な分化したニ ューロン細胞をも生成する。もしもこの発生期の順応性を治療目的にうまく利用す ることができたら、計り知れない可能性が出てくる。(An)
自己集合磁気メモリー(Self-Assembled Magnetic Memories)
さらに高密度の記憶メモリに対するいっそうの要求を満たすために、磁気情報を蓄 える磁気的な要素の大きさを減少させる不断の努力が続けられている。超高密度記 録に応える表面の局所的な変化に基づくあるプロセスが存在する。しかし、これら のプロセスは、記録要素はひとつひとつ作られるため比較的遅いものである。Sun たち(p.1989) は、二次元的に自己集合したFePt ナノ粒子の配列の新しい合成経路 を報告している。そのナノ粒子は、数ナノメートル隔たっており、各要素は数ナノ メートル分離している。合成プロセスを制御することにより、粒子サイズと粒子間 の分離距離を制御することができる。(Service による解析記事を参照のこと)(Wt)
記憶の副作用を解く(Addressing Memory Side Effects)
精神医学的治療のための投薬における課題の一つは、副作用を最小にして効果的な 治療を行なうことである。Castnerたちは、広く用いられている抗精神病処置(ハロ ペリドールの投与)が、おそらくは脳の前頭葉前部皮質にあるドーパミンD1受容体の 下方制御を介して、サルの作業記憶を減少させることを示した(p. 2020)。しかし彼 らが、その抗精神病処置に、D1受容体作用薬の短期間の投与を組み合わせたところ 、作業記憶の機能障害は完全に補償された。この欠陥の補償は長期にわたって続き 、作用薬の投与後、1年以上経った後でも確認された。(KF)
新しい始まり(A New Beginning)
単眼欠乏は、出生後早期におけるニューロンの可塑性の研究において確立された実 験モデルである。Trachtenbergたちは、光学的イメージング法と電気生理学的記録 とを組み合わせて、眼球優位におけるこの可塑的シフトの最初の効果がどこで生じ るかを決定した(p. 2029)。広まっている考え方とは対照的に、シナプスの再モデリ ングは、新皮質の視床受容(thalamorecipient)領域であるIV層では始まらなかった 。この効果は最初、皮質層の表層および深層で生じ、IV層には二次的に伝播するだ けである(Cynaderによる展望記事参照のこと)。(KF)
閃光のようにすばやく(Quick as a Flash)
視覚的刺激に対する神経の処理は、それはそれはすばやいように思えるけれど、時 間はかかっているのである。処理するための時間に起きていることをわれわれはど のようにして扱い、時間とともに変化する、たとえば物体の運動のようなイベント に関する知覚をどのように調整しているのだろう。EaglemanとSejnowskiは、閃光- 遅延(flash-lag)効果として知られる根強い視覚的錯覚について、新しい説明を与え ている(p. 2036)。彼らは、スーパーインポーズされた定常的閃光と運動している物 体とが互いに別々に見える理由は、閃光から80ミリ秒以内にわれわれが見たものを 、われわれは時間的に後に外挿するせいだ、と示唆している。彼らは、それ以外の 説明(予測的な外挿の存在とか、動かないものと移動物体とでは処理される速度に差 があるとか)に対しては、一連の心理物理的実験をもとに反論するところまで議論を 進めている。(KF)
Kentucky 31、ふるさとを遠く離れて(Kentucky 31, Far from Home)
ClayとHolahは、ヒロハノウシノケグサ(tall-fescue)の栽培品種 Kentucky31(KY-31)における宿主-特異的な真菌性の内部寄生菌の存在が、実験に用 いる小区画における種の多様性を減少させていることを明らかにし、ウシノケグサ がたくさん生えていて、その多くが感染しているような自然な環境においても同様 に種の豊かさが失われている可能性があると示唆している(9月10日号の報告 p.1742)。Saikkonenは、この結果は、内部寄生菌と植物の相利共生のモデルとなる というより、むしろ同系の、高度に競合的な外来性の種による「ヒトによって引き 起こされた侵入に対して、生態系が脆弱である」ことの証拠として見られるべきだ と論じている。ClayとHolahは、彼らの研究の実験のデザインは内部寄生菌による感 染の効果を「それ以外の潜在的に混乱のもととなる要因」から分離するようにでき ており、また野生の内部寄生菌に感染した草が生き残るという確認されている事例 は「明らかに外来性ないし近交系であるという理由では説明できない」、と応じて いる。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5460/1887a
で読むことができる。(KF)
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