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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science February 25, 2000, Vol.287
原子の移動経路を観察する(Atom Pathways)
気相の個々のセシウム原子の経路を可視化するための光学顕微鏡が開発されてきた 。Hood たち(p. 1447)は、レーザー光のプローブを使って2つのミラー間にセシウ ム原子をトラップした。レーザーによる光共鳴場の中に閉じこめられた1つの原子 に弱いプローブレーザーを照射して、その伝達率の変化を実時間で記録する。逆に プローブの伝達率変化によって、1つのフォトンが関与した、1原子の力学系に支 配された軌跡をたどることができる。これら初期の実験から、10マイクロセカンド 間隔で、2マイクロメートルの空間解像度が得られた。観察の全期間では、セシウム 原子運動観測の量子限界に匹敵する感度をもっていることが分かった。(hk)
どんどん圧延を続けると、、(Keeps Rolling and Rolling...)
もし、普通の金属ワイヤーをどんどん延伸したり圧延し続けると、通常の場合は結晶 中のディスロケーション(転位)が粒界に集積し、硬化する(その結果最終的には破 断する)。しかし、もしこのディスロケーションが、集積するより速く拡散するなら 金属は柔軟性(塑性)を保持する。拡散速度は粒径の減少とともに増加するから、ナ ノメートルサイズの微結晶では「超塑性」が期待され、多くの処理が繰り返されても 延性を保ったままとなるであろう。Lu たち(p. 1463) は電気化学的析出プロセスを 用いて、銅のナノメートルサイズの微結晶材料を作ったことを報告している。この試 料は、冷圧延によって元の長さの50倍以上にしても延性を保っている。(Na,Ok)
磁性論理回路(Magnetic Logic)
量子セルラーオートマトン(QCA)は、量子力学的特性を利用したスイッチング素子を 使い、論理演算を行うという将来のマイクロエレクトロニクスの有望なアーキテク チャーである。しかし、演算には電子対の微細な静電力に頼っているため、今まで のところ実装化するには極低温で作動させる必要がある。Cowburn とWelland (p. 1466)は磁性を利用した量子セルラーオートマトン(MQCA)アーキテクチャーを初めて 実証した。これは論理状態がシングルドメインの磁気ドット磁化方向で表されるも ので、最隣接ドットと静磁相互作用をする。磁気ソリトンがネットワーク上を情報 伝達し、共振磁場が系のエネルギー供給とクロックの役割を果たす。このネットワ ークは常温で作動し、現在の微細電子回路に比べ、回路集積密度が数千倍、電力損 失が数百分の1となる。(Na)
触媒反応をクローズアップ(Close-Up of a Catalyst Reaction)
工業用途の不均一触媒反応は、通常高圧化で進行するが、一方、表面科学のための 研究装置は,往々にして真空条件を必要とする。この「圧力ギャップ」は非常に重要 な意味を持っている。というのは,表面の触媒活性は、しばしば圧力により大きく変 化するからである。Overたち(p.1474:Knozingerによる展望参照)は、このような反 応の一つ、高圧化では非常に効率的に反応が進むが低圧化では反応の遅いルテニウ ムによる一酸化炭素の酸化反応を研究している。表面上の酸素に富む表層は触媒活 性にとって重要な働きをするが,その詳細な証拠が欠如していた。著者たちは低エネ ルギー電子線回折、及び走査型トンネル顕微鏡を用いてこの酸素の多い表層を調べ た。密度関数計算法による結果と共に、彼らの結果はこの酸素の多い表層が、実際 にはRuO
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であることを示している。COとO原子の結合力は金属表面上と いうよりむしろ酸化物表面上に対応しており,このことがその反応を容易にしている。 (KU)
発作やてんかんに対する免疫(Immunization Against Stroke and Epilepsy)
NメチルDアスパラギン酸( N-methyl-D-aspartate (NMDA))受容体は脳の可塑性 や発達に重要であるのみならず神経学的不全から来る病理にも絡んでいるらしい 。Duringたち (p. 1453; およびHelmuthによるニュースストーリー参照)は、NMDA受 容体のNR1サブユニットをコードするマウスのDNAワクチンは、ラット中に抗体性免 疫を誘発するが細胞性免疫は誘発しないことを見つけた。この処置によってカイニ ン酸-誘発性発作(これは側頭葉性てんかんのモデル)や、エンドセリン-1-誘発性 中大脳動脈閉塞(これは卒中のモデル)を起こした。運動や行動への影響は見られ なかった。この処置による長期的影響は未知であるが、潜在的にはNMDA受容体拮抗 剤を使う薬理学的手法より副作用が少ないと思われている。(KF)
死の信号を留めておく(Holding Back a Death Signal)
線虫(C.elegans)のある種の遺伝子は、発生中の決まった時期に死ぬ細胞に決定的な 役割を担っている。これらの遺伝子からの生成タンパク質はどのようにして生体内 で互いを制御しているのか良くは分かってない。Chen たち(p. 1485) の報告による と、死-促進タンパク質CED-4 はEGL-1の発現ような死の信号を受け取ると、ミトコ ンドリア(ここでは、死-抑制タンパク質のCED-9といっしょになっている)から核 周囲膜に転移する。このCED-4の核周囲膜への移動にはキャスパーゼは絡んでなく 、正常な死には必須である。このことから、ミトコンドリアにおいて、細胞が正常 に死亡する適切な発達時期までCED-9はCED-9を隔離する役割を担っているのであろ う。 (EJ,hE)
抵抗を醸成する(Fomenting Resistance)
微生物内で抗生物質耐性を進化させることは微生物学的適応の立場からは高く付く 。これら適応度コストは、耐性遺伝形質が集団に伝播するかどうかで決定すること ができる。しかし、細菌の方でもこのコストを補償するための変異能力を持ってお り、しかも、変異は多様な形態で生じうる。Bjorkman たち(p. 1479; Bull と Levinによる展望記事参照)は、サルモネラ中に変異が選択される条件について調べ ている。補償的な変異が生じる形態と頻度は細菌の置かれている環境に依存して変 化する;ここの場合は、宿主生物と実験室の培地の関係による。彼らは、抗生物質 耐性の管理が、もし、試験管実験で得られたデータだけに依存しているのであれば 問題をはらんでいると、示唆している。(Ej,hE)
巣を守る(Protecting the Nest)
野外エコロジストたちは、鳥の親としての面倒見と巣の大きさ(抱卵の大きさ)の 進化パターンの研究に長年興味を示してきた。しかし、巣の大きさが、熱帯や南半 球では小さくなることの進化論的解釈はよく分かってなかった。Alexander Skutchは、50年前、巣の雛が他の補食者に襲われやすい南方では、巣の雛の数を少 なくするために巣を小さくし、親鳥が餌を運ぶ割合を制限しているのであろうとい う説を提案した。この仮説における巣のサイズと緯度の関係は調べられていなかっ た。アルゼンチンとアリゾナにおける鳥の種類の長期の比較研究によってMartin た ち(p. 1482)は、多様な鳥の間で、巣が襲われて補食されることもまた親の面倒見の 進化の差異(巣を訪問する回数と餌を配達する割合)を説明する重要な因子である 証拠を見つけた。北アメリカ、南アメリカ共に、巣のサイズと、餌の配達率は正の 相関を持っている。しかし、彼らによると、巣の補食と緯度との明白な関係(南で 小さく、北では大きいという)は見つからず、依然として謎のままである。(TO)
泳ぎ続ける(Staying in the Swim)
ほ乳類の精子形成は、沢山の精原基部細胞から継続的に分化し、精子細胞が補充さ れることで成り立っている。Meng たち(p. 1489)は、ニューロン細胞と腎臓形態形 成の発達を導く重要な因子として良く知られている、グリア細胞系列の神経栄養性 因子(GDNF)が、精子の形成をも制御していることを示した。遺伝子組換えマウスに よる実験では、GDNFを過剰に供給すると精原細胞の分化が制限され、GDNFの供給不 足では基部細胞の早期枯渇となる。これらの結果から、雄の不妊症メカニズムの推 測の手助けとなろう。(Ej,hE)
ジキル博士のハイド氏への変身を妨げる(Preventing Jekyll's Conversion to Hyde)
伝染性のスポンジ状エンセファロパシ(脳障害)(牛やヒトのクロイツフェルトーヤコ ブ病におけるTSE)は、治療法のない致死的な神経変性病である。発病の決定的な事 象は、正常な形の細胞プリオンタンパク質(PrP-sen)がタンパク質分解酵素に抵抗性 を持つ異常な形(PrP-res)に変化することであると信じられている。正常な PrP-senのハムスター型を過剰発現する遺伝子組換えマウスに、ハムスタースクレイ ピー(羊や山羊のウイルス病による中枢神経疾患)を感染させると80日,ないし100日 以内で死亡する。Priolaたち(p.1503)は、このような感染した遺伝子組換えマウス に、感染させたその日からテトラピロール化合物(in Vitro の実験でPrP-senの PrP-resへの変化を 妨げるのに有効な化合物)で処置すると、結果として生存期間が大幅に延びる (50%〜300%)ことを示している。ある種のテトラピロール化合物が、伝染性のスポ ンジ状エンセファロパシに対する予防処置として有効であることが証明された 。(KU)
ウイルス性潜伏状態を解除する(Unlocking Viral Latency)
単純疱疹ウイルスは潜伏状態を保持し、そして、再活性化されると複製を開始し 、目や生殖器官の病気を引き起こす。このプロセスはウイルス性の潜伏性転写遺伝 子LATの転写に依存している。Perng たち(p. 1500)は、LATを含むウイルスは、ウサ ギの三叉神経節中でアポトーシスをブロックすること、その結果、感染した神経が 生き続けることを発見した。類似の結果は、培養したLATを含むプラスミドに感染し た場合にも見られた。(Ej,hE)
機械的に硬い磁石(Mechanically Hard Magnets)
セラミックのような硬い材料はロケットエンジンのノズルや自動車の部品などの用途 に理想的である。現在、磨耗や高温への耐性と磁気特性を組み合わせ、耐静電気フィ ルムや新しい記録媒体用途への応用に関する興味が持たれている。しかしながら、こ れまで問題だったのは、実際の合成プロセスにおいて、良好な機械的特性を持つ材料 を、適当な歩留まりで、磁気特性を調整しながら生産することが困難であったこと だ。MacLachlanたちは(p. 1460)、開環-重合と慎重に選択された有機金属高分子前駆 物質を組み合わせ、磁気特性を(超)常磁性から強磁性まで調整可能で機械的に硬 く、軽量のセラミックが製造できることを示している。(Na,Ok)
泡が破裂するとき(When the Bubble Bursts...)
空気の泡が粘稠性の液体の表面に浮かび上がり破裂するとき、粘稠性のため穴はゆ っくりと大きくなる。空気が抜けるに従い、泡の内部の圧力が減少し液体の重量を 支えられなくなる。重力により泡を作っている薄膜がつぶれ、平らになるにつれて 、その面積を維持する間、ゆがみ、又は波紋が出来る。Da Silveiraたちは(p. 1468)、圧力、屈曲力と重力の競合的な寄与に基づく波紋効果のモデルを示し、つぶ れる薄膜の波紋の数が予想可能であることを示している。(Na)
ナノワイヤーの超臨界制御(Supercritical Control of Nanowire Grouth)
半導体材料の結晶性ナノワイヤーは、電荷キャリアーの量子閉じ込め効果によって 生じる異常な電気的,光学的特性を示すであろう。半導体ナノワイヤーをつくる合成 法の一つにナノ結晶を触媒として用い溶液中で反応物を直接成長させる方法がある 。Holmesたち(p.1471)は、反応物質の拡散を速めるために超臨界溶媒を用い、そし てワイヤーの直径を4、乃至5ナノメートルの範囲に押さえるため均一な大きさの金 のナノ粒子を用いることによってシリコンナノワイヤー形成に対してこの手法を更 に一歩前進させた。反応圧力を変えることにより、種々の光学特性を示す異なる配 向を持つ結晶性ナノワイヤーを得ることが出来る。(KU)
クモの糸における遺伝子的結びつき(Genetic Ties in Silk)
クモの糸は、タンパク質のファミリの進化を研究するためのモデル・システムの一 つである。クモは少なくとも9種類の異なったタイプの糸を合成することができるが 、それらは反復したアミノ酸配列モチーフの小さな集合によって特徴付けることが できる。そうした高度に反復的な長いタンパク質は、いかにして進化してきたのだ ろう。HayashiとLewisは、非常に強い関連をもつ2つのクモのflagelliform糸遺伝子 の分子を徹底的に分析し、イントロンとエクソンの双方が協調進化を経てきたこと を明らかにした(p. 1477)。にもかかわらず、遺伝子内のコード領域における高度反 復構造がそれら領域内の完全なる均質化を妨げているのである[Stokstadによるニュ ース記事参照のこと]。(KF)
RNA酵素における一般的酸塩基触媒作用(General Acid-Base Catalysis in RNA Enzymes)
化学反応における酵素触媒作用は、活性化エネルギー障壁を低下させる機構として 、衝突基(attacking group)の部分的脱プロトン化と脱離基(leaving group)の部分 的プロトン化の方法がある。生理学的に有効な極めて狭い範囲のpH値において作用 するために、タンパク質の酵素は、ヒスチジンのイミダゾール部分のようなアミノ 酸側鎖を用い、水素イオンを提供したり除去したりする能力をもつようになった 。Nakanoたち(p 1493)は、RNA酵素である肝炎δウイルスリボザイムによって触媒さ れる反応に関する詳細な研究を報告している。決定的な役割を持つ活性部位ヌクレ オチドとしてシトシンを同定した以前の一連の研究において、シトシンが直接的に 通常の酸として働き、金属結合の水酸化物は通常の塩基として働くことを示してい る。この研究は、既知のRNA触媒作用能力のレパートリを拡大するとともに、どのよ うにしてRNA仲介の化学からタンパク質仲介の生化学へと遷移したかについて示唆し ている。(An)
不調にするタンパク質(An Upsetting Protein)
消化性潰瘍と胃癌の原因として、ピロリ菌という細菌の侵入が絡んでおり、IV型分 泌系が病気の原因となっていると考えられている。Odenbreitたち(p 1497)は、ピロ リ菌の感染時に、CagAタンパク質が細菌から宿主細胞へ転位し、その後、宿主にお いてまだ未同定のタンパク質チロシンキナーゼによって、リン酸化されることを示 している。微生物の病原機構の機能に関する理解が更に深まれば、将来の治療に役 立つであろう。(An)
右だったか、それとも左だったか(Was that a Right or a Left?)
われわれはどうして、左右の鏡像を上下の鏡像より混同しやすいのだろう ?RollenhagenとOlsonは、広く観察されるこの現象を説明できる可能性のある脳内 の神経細胞の活動を検出した(p. 1506)。霊長類において物体の認識に深く関わって いる場所である、脳の下側頭皮質のある領域に存在するニューロンが、物体と鏡像 をみたとき、上下の鏡像の場合よりも左右の鏡像の場合に、ずっと類似した発火パ ターンを示すことを明らかにした。この結果は、行動面での現象が、中枢神経系の ニューロンの活動の厳密に定まった場所に関連付けられていることを示している 。(KF)
caspaseのリン酸化、細胞死、そして種の可変性(Caspase Phosphorylation, CellDeath, and Species Variability)
Cardoneたちは、リン酸化酵素Aktによるリン酸化がpro-caspase-9の活性化を妨げる ことを示し、それによって、プログラム細胞死において主要な役割を果たすcaspase が直接的にタンパク質リン酸化によって調節されうることを証明した(1998年11月 13日号の報告 p. 1318)。しかし、Rodriguezたちは、「ヒトとマウスのタンパク質 には密接な類似性はあるものの」、マウスのcaspase-9にはAktリン酸化部位がなく 、それはまたイヌの腎臓細胞にも存在しない、と言及している。「マウスとヒトで は、アポトーシスは違った形で調節されていると考えるか、それともcaspase-9が Aktリン酸化によって調節されているという考えを再検証するか、どちらかだ」と彼 らは結論付けている。Reedたちは、Aktリン酸化部位が「寿命の短い下等な動物で 」欠けていることは、「リン酸化部位がヒトにおいて比較的最近に進化してきたこ とを示唆する」と応答している。Cardoneたちの研究は、彼らは強調しているが、ヒ トの細胞系で行なわれたものなので、その研究は、ヒトの病気、とくに「細胞蓄積 や細胞死が生じる病理(ガンや神経変性疾病などの)」、に潜在的な関連をもちうる ものである。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5457/1363a
で読むことができる。(KF)
アリのコロニーにおける成功の本質(The Nature of Ant Colony Success)
ColeとWiernaszは、遺伝的多様性の高いharvester-アリのコロニーは多様性の低い コロニーよりも生存面で非常に有利であることを発見し、その適応面での有利さを 、一雌多雄(polyandry)、すなわちコロニーにいる単一の女王が複数のオスと交合す ることに結びつけた(1999年8月6日の報告 p. 891)。Fjerdingstadと Kellerは、多 祖発生(polygyny:巣毎に複数の女王がいる)もまた、コロニー内の近親性を低くす るのに役立ち、「いくつかのアリの種に見られるコロニー規模の大きさと高い生産 性と関係していたことが示される」と観察している。ColeとWiernaszは、対象とな っている属や種において、複数の女王を有しているという証拠はほとんどない、ま た自分たちの結 果の説明にpolygynyは当たっていないというさまざまな議論がある、と応じている。 これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5457/1363b
で読むことができる。(KF)
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