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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science August 6, 1999, Vol.285
ソーラーループの足跡をたどって(Tracing Solar Loops)
太陽コロナは太陽大気の最外層部にあたり、それは極端に高温で (200万K)、太陽風の源でもある。この太陽風は、その最盛期に おいては通信を混乱させ、地上の電力伝送をメチャメチャにして しまうことさえある。Nakariakov たち (p. 862; Hudson と Kosugi による展望記事を参照のこと)は、 Transition Region and CoronalExplorer(TRACE) 宇宙船を用 いて、コロナがどのようにに熱せられるかの謎を解くために、一 つのコロナループ中の振動を研究した。太陽フレアは隣接するコ ロナ磁気ループ中に横方向振動を発生する。振動の間の周期は急 速に増大し、そして、それはループ運動を減衰させる。彼らは計 算を行ない、ダンピング率は、磁気流体力学(MHD)的波動の粘性 と抵抗による散逸モデルのような古典的なコロナ昇温のモデルと 矛盾しないことを示している。(Wt,Nk)
電流パルスによる磁気スイッチング (Magnetic Switching with Current Pulses)
磁気メモリーのスイッチングは、通常、外部磁界の印加が必要 である。二つの報告は、いかにデバイス中の微少電流パルスが、 磁気的な状態のスイッチングに用いることができるを示してい る。磁気的データが記録される速度は、磁化の方向を反転させ るに必要な時間によって制限されている。在来の方法では、反 転磁界は面外磁化に対して反平行に印加され、スイッチング速 度はナノ秒程度が限界となっている。Back たち (p.864) は、 加速器からのフォーカスされた超高速電流パルスを用いて面内 方向強磁性薄膜の磁化をスイッチングすることにより、この限 界を乗り越えられる可能性があることを示している。発生した 磁界は決して従来の記録ヘッドによるものよりは大きくはない が、5ピコ秒よりも速い反転時間が示されている。磁性(強磁 性)および非磁性材料の積層体の電気抵抗は、隣接磁性層中の 磁気モーメントの方向に強く依存している---もし、モーメン トが整列すれば抵抗は低い。Myers たち (p.867) は、ある単 一層の磁化方向は、印加されたスピン偏光電流パルスの方向を 制御することにより、第二の磁性層に対して整列あるいは非整 列にスイッチすることが可能であることを示している。このよ うなスイッチング特性は、高速な非揮発性磁気メモリーへ新し い応用に利用される可能性がある。(Wt)
大草原の起源(Grassland Origins)
700〜800万年前に大草原が劇的に増加したことは,ヒトを含 む哺乳類の進化に対して重要な影響を与えてきたかもしれない。 ほ乳類の進化は,大気中のCO
2
濃度の減少と強く 関わっているという1つ解釈があった。即ち,草原の草は,低 いCO
2
濃度に有利なC
4
光合成回路を 持っている。Paganiたち(p.876)は,堆積岩の掘削コア中にあ るアルケノン(alkenones)の分析に基づいてCO
2
濃度を再構成すると、CO
2
濃度はこの時期に徐々 に上がっていったことが示唆されることを示した。彼らは, C
4
植物の増大は、CO
2
濃度の減少で はなく、全世界的な乾燥の期間と関係しているのかもしれない と示唆している。(TO,Nk)
ハワイ玄武岩における再循環する地殻 (Recycled Crust in Hawaiian Basalts)
ハワイ諸島の火山活動は、地球のマントルの湧昇(マントルプル ーム)と関連していると考えられている。ハワイの火成岩の化学 的性質の検査から、地球のマントルにおける混合がどの程度で あるかに関する情報が得られる。すなわち、なぜこうした大量 のマグマ活動が起きるのか、またそのマントルプルームがどの 程度深くまで広がっているのか、という情報がわかる。 Blichert-Toftたち(p.879;Lassiterによる展望記事参照)は, ハフニウムと鉛の同位体を分析することで、ハワイのマグマの 一部は、太古に沈み込んだ、特に粘土が豊富な上部海洋地殻の 化学的特徴を保持しているマントルの一部分からやってきてい ることを示した。驚いたことに、そのデータによれば、一般に 上部マントルの寄与が大きいと考えられているものがハワイの マグマでは極微である。そのことは、ハワイのマグマを形成す る湧昇は、太古の沈み込んだ地殻を有する深部マントルに源を 発することを示している。(TO)
ヒストンのリン酸化(Histone Phosphorylation)
遺伝子の転写が制御される方法の1つは、染色質構造の再構築 による方法である。ヒストンタンパク質は、特異的プロモータ に集められた酵素によるアセチル化と、脱アセチル化によって 修飾されることが知られている。Sassone-Corsiたち(p. 886) は、もう1つのヒストンの修飾である共有結合性リン酸化もま た、成長因子に誘導された遺伝子発現に寄与するらしい、とい うことの証拠を示した。著者たちは、ヒストンH3は上皮細胞成 長因子(EGF)で処理された細胞中でリン酸化され、これを担って いるキナーゼはpp90リボゾームタンパク質S6キナーゼのRsk-2 であると思われることを示した。Coffin-Lowry症候群(これは RSK-2遺伝子の変異に関連している)の患者から採ったヒト細胞 か、あるいは、RSK-2遺伝子が壊されたマウス細胞では、ヒスト ンH3のEGF誘起によるリン酸化は検出されなかった。この発見に よって、ヒストンのリン酸化が染色質の構造に影響を与え、これ がEGFによって遺伝子の活性を変化させるメカニズムの1つであ る可能性が出てきた。(Ej,hE)
父親との生活(Life with Fathers)
遺伝的な多様性に対し数というものはメリットを与えるのだろう か。ColeとWiernaszによる長期間の研究(p. 891)のおかげで、 収穫アリ(蟻)のコロニーにおいてはその可能性があるようだ。 これらのコロニーを率いている一匹の女王アリが、一、二匹かそ れ以上のオスと交尾を行うことがあり、平均的なコロニーにおけ る親戚アリの数とは異なる数の働きアリを産むことがある。より 多くの父親アリのいるコロニーはより短期間で成長し、より高い 生存率を示し、より短期間で生殖的に成熟する。適応度の差は 35倍という高さのこともある。可能性のある説明としては、遺 伝的多様性を持った働きアリたちによって病原体への高い抵抗力 や、特異な行動の幅が広くなったことなどがある。(Na)
鋤を使わず作物を守る(Spare the Plow, Save the Crop)
農作物における害虫、有害動物は化学的には農薬で又は生物学的 には天敵動物や寄生生物などで対策が出来る。生態学者は、詳し い実験は行われていないが、農業生態系は、隣接する未開墾の土 地に棲息する天敵による防除の生物学的なメリットを最大限受け るものと考えられてきた。ヨーロッパで行われた、様々な土地形 状とスケールでの農業生態系の実験で、ThiesとTscharntkeは (p. 893)、土地形状が複雑なために、花粉を攻撃する甲虫 (the rape pollen beetle)の寄生虫による死亡率が明らかに高く なったという効果があり、同時に甲虫の宿主植物であるアブラナ に対する被害が減少することを示している。この知見は、最近行 われている、自然な環境、又はそれほど手の入っていない環境が 提供する「生態系サービス」の経済的価値を決定する研究に直接 的に関連している。(Na)
独立した新皮質(The Independent Neocortex)
新皮質の領域はナイーブであるために情報入力による指示が必要 なのであろうか、それとも特異的求心性神経のある種の分子を独 自に発現することから考えると、あらかじめ形成されているので あろうか?発生神経科学においてこの疑問は依然として未解決の 課題である。Miyashita-Linたち(p. 906)は、視床分化に欠陥を 有する変異マウスについて研究した。 視床皮質系神経支配がない 状態では、異なる新皮質領域でもこの領域に特異的な分子自身の 特徴を発現していた。この結果から、新皮質には求心性の入力と は無関係に内因性パターン形成能力が存在することが強く示唆さ れている。(Ej,hE)
補修不能(Beyond Repair)
太陽の紫外線で照射された皮膚は染色体が傷つき、変異遺伝子を 誘発させ得る。日焼けすることは、結果的にはDNA修復に加えて ガンになるような変異の蓄積を防止するための防御方法であると 思われてきた。修復とは逆のアプローチでであるが、アポトーシ スによってDNA損傷を減少させることの相対的重要性は知られて はいなかった。これは、元々の研究がp53-欠如マウス(両方の 経路において欠如している)において研究されたからである。 Fas (細胞死の受容体)のためのリガンドであるFasLの発現は p53によって制御されている。Hillたち(p. 898)はFasL-欠失マ ウスを観察し、このようなマウスは上皮性アポトーシスを少しし か持ってないが、p53遺伝子中にはより多くの変異を持っている ことを見つけた。従って、FasL-依存性アポトーシスと細胞除去 は表皮の染色体レベルの統合性を保つための重要なメカニズムで あろう。(Ej,hE)
バッチによる遺伝子解析(Gene Analysis by the Batch)
全ゲノムの解析成果を利用することができるかどうかは、発見し た遺伝子の機能を迅速に、かつ、正確に特徴付けすることができ るかどうかに懸かっている。Winzelerたち(p. 901)は、ポリメ ラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いて、酵母ゲノムのオープンリー ディングフレーム(open reading frames :ORF)の1/3以上を代 表する酵母(S.cerevisiae)中の2026個の ORF各々を正確に削除 させる戦略を採用した。欠失体を作るときに、特異なオリゴヌク レオチド配列の形態を有する「バーコード」を、ORFの両端に導 入しているが、これによって一度に500もの遺伝子フェノタイプ を解析することが可能になる。最少培地、または、富栄養培地で の成長速度を利用することで、40%以上の欠失株について定量的 成長欠陥が存在することが分かった。特定の成長条件下において、 遺伝子の表現レベルと、それが必須であるかどうかの間には相関 は見られなかった。(Ej,hE)
ダイアモンドに秘められた記録 (Records Encased in Diamonds)
長年にわたって、ダイアモンドは、主として地球のマントル深く に由来し、爆発性の火山性噴出によって急速に地表近くに運ばれ てきたものだと考えられてきた。より最近になって、ダイアモン ドはまた、衝撃を受けた岩石やイン石の中に、また明らかに、わ れわれの太陽系の形成に先立つ超新星の周囲にあったガス中で低 圧力のもとで形成した一次凝集物としても生じる、ということが 認識されてきている。ダイアモンドの化学組成、同位体組成や含 有物は、Haggerty (p.851)のレビューで論じられているよう に、地球や恒星におけるさまざまな過程について多様な情報を提 供してくれる。(KF)
イオの大気(Io's Atmosphere)
イオは、木星の衛星であり、今も火山活動を行なっている。この 火山活動と木星との近さのために、イオには複雑な大気が存在し ている。Geisslerたちは、イオの大気の発光スペクトルをガリレ オ宇宙船から観測した結果を報告しているが、それはイオの大気 の組成を明らかにする助けとなると期待される(p. 870)。そのデ ータは、イオの大気には大量の酸素原子と、それにおそらくナト リウムが大量に含まれていることを明らかにしている。(KF,Nk)
風化の加速(Accelerated Weathering)
鉱物の風化の進み方を知ることは、炭素の消費のされ方を理解す るため(風化によって大気中の二酸化炭素が消費されるから)に、 また土壌の形成を理解するために重要である。実験室での風化の 研究では、風化の割合がずっと小さく評価されることが多い。 RufeとHochellaは、異なったpHの値にした、金雲母(シート状 ケイ酸塩)の反応性表面領域を原子力間顕微鏡を使って測定・観 察することで、いくつかの説明を与えている(p. 874)。 データ が示すのは、風化は薄片の縁に対してだけでなく、表面でも生 じること、またそのため、そうでない場合に予期されていたの より急速に進みうる、ということである。(KF,Nk)
細胞骨格にRhoを結びつける (Connecting Rho to the Cytoskeleton)
色々な刺激に対して細胞が動いたり形状を変化させたりするとき、 細胞骨格アクチンを再編成する必要がある。Maekawaたち (p. 895)は、リゾホスファチジン酸にさらした神経芽細胞腫の神 経突起が退縮する間に、このような細胞骨格の再編成がどうなる かについて研究した。小さなグアノシントリホスファターゼの Rhoは、このようなプロセスに関与していることが知られている が、Rhoをアクチンの効果に結びつける生化学的経路については はっきりしていなかった。Rhoは、ROCKとして知られているタ ンパク質キナーゼを刺激する。著者たちはアクチン結合タンパク 質のcofilinをリン酸化するにはROCKを活性化する必要があるこ とを見つけた。しかし、ROCKは、直接cofilinをリン酸化してい ないように見える。むしろ、LIM-キナーゼと呼ばれている別のタ ンパク質をリン酸化している。LIM-キナーゼは代わりにcofilin をリン酸化し、それによってcofilinのアクチン-脱重合活性を弱 め、アクチンフィラメントを安定化している。このようなRhoの 活性の変化を通じての生化学的経路の発見は、アクチンの細胞骨 格に影響を及ぼしうる。(Ej,hE)
伸び-活性化カルシウムチャネル (Stretch-Activated Calcium Channel)
伸び-活性化チャンネルは細胞に機械的刺激に対する感受性を与 え、そして植物における重力や接触の検知からほ乳動物における 心血管の正常な調子の維持にいたる多様な生物学的プロセスの制 御に関与している。長期の研究の結果、真核生物からの機械感覚 性をもつイオンチャネルが同定され、そして細胞膜を横切るカル シウムイオンの伸長に伴う機械的ストレスに誘発される伝導性の 増加を明白に説明出来る。Kanzakiたち(p. 882)は、酵母 Saccharomyces cerevisiaeからのMID1遺伝子を解析した。 Mid1タンパク質を発現するほ乳動物の細胞は、伸長活性化チャネ ルで予期される薬理学的特性を持つカルシウムの伸長‐誘発によ る流入増加を示した。細胞-付着したピペットで吸引されている 間に得られた単一チャネルの記録によると、膜が伸びている時、 そのチャネルの開確率が増加している事を示している。この遺伝 子の同定によって、このような広い範囲で発現するチャネルの研 究を促進するはずである。(KU)
遺伝学的特質と男性の性的傾向 (Genetics and Male Sexual Orientation)
G.Riceたち(Report, 23 Apr., p. 665)はカナダの家族から男性 兄弟の同性愛52組のゲノムの領域--特に、X染色体のq28の位置 にある対立遺伝子--を調べたが、しかしながら対立遺伝子と同性 愛との関連を見出せなかった。この結果は、D.H.Hamerたちによ る1993年7月16日号の321ページに発表された研究論文と矛盾 する。D.H.Hamerは「(i)ファミリー系図データは〔Riceたちに よる報告から〕実際的にXq28の仮説を支持している(ii)他の3つ の有用なXq28DNAの研究は関連を見出している(iii)性的傾向が 遺伝しうるものであることはX染色体連環データと無関係に実質 的な証拠によって支持されている」とコメントしている。Rice たちは「我々の結果は男性同性愛の根底にある遺伝の影響の可 能性を排除するものではないという点ではHamerと一致してい る。しかしながら、家系の確認、表現型及び遺伝型の類似手法 を持ちいて、我々は男性同性愛の背後にあるXq28関連座位に対 する証拠を確認出来なかった」と応えている。彼等は「二つの 独立した複製研究は」1993年の研究論文の結論を支持していな いと述べている。このコメントの全文は 、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5429/803a
で見る事が出来る。(KU)
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