AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 9, 1999, Vol.284


有機材料による光エレクトロニクスに光をあてる (Lighting the Way to Organic Optoelectronics)

エレクトロニクスや光学システムにポリマーを使用することは 低製造コストと様々な基板材料を使える利点がある。しかしな がら、これらの分野における実用化には半導体性質と光学性質 の両方で優れたポリマーを作ることが出来ないという障害があ る。Hoたちは(p. 233、BarnesとSamuelの展望も参照)、ポリ マーに含まれるナノメータサイズの陽イオン性シリカ微粒子の 比率を変えることでバルク屈折率をコントロール出来ることを、 このテクニックで高品位のミラーを作ることで実証した。次に、 彼らは軽度にドーピングされた半導体ポリマーをこれらのミラ ーでサンドイッチし全て有機材料のマイクロキャビティ型発光 ダイオードを作った。(Na)

断層の流動質(Faulty Fluids)

南カリフォルニアのサンアンドレアス断層系(SAFS)は、サン アンドレアス断層、サンジャシント断層、エルシノア断層から 構成され、それらは南北に互いに平行に走っている。これらの 断層が脆弱なのは、最大歪み(stresses)が断層面の傾斜に対し 高角度の方向に向いているために、これが断層をスリップ量を 大きくしているためである。HardebeckとHauksson (p. 236) は、SAFSに沿った最大水平歪みの方向を確定し、そして断層 は断層面の周囲の狭い地帯(約2km)と広い地帯(約50km)の両 方に脆弱であることと、こうした地帯は歪みが高く蓄積された 領域であることを結論づけた。こうした分析は、脆弱さは断層 のこれらの地帯においてトラップされた流動質(fluids)と関係 しており、おそらく繰り返された岩石の破砕と癒合によって、 これらの地帯の透水性が低くなり、歪み蓄積率が予想を越えて 増加したことを示唆している。(TO)

海洋炭素の地球規模の観測 (A Global View of Ocean Carbon)

地球の炭素循環における主要なプロセスは、海洋表面からの有 機炭素質粒子(POC:particulate organic carbon)の沈降であ る。その一部は海床に堆積され結局葬られる。この流量(Flux) を局所的に見積もることは困難であり、全体的にはさらに困難 であった。その理由は,POCは一次炭素生成の量と単純に関係 していないからである。最近Stramskiたち(p.239)は、人工衛 星からの粒子による光の後方散乱 (particulatebackscattering)の測定により、POCを見積もる ことができることを示した。彼等は、南極海におけるPOCの大 きな季節性変動を観測した。こうした変動は、地球規模におい て海洋から炭素が除去される量の見積もりを可能にするかもし れない。(TO,Nk)

複雑な非線型レーザーパターン (Complex Nonlinear Laser Patterns)

レーザービームの輝度パターンは非線型に伝播し、高輝度部分 と低輝度部分が時間的に変化するパターンが出来る、しかし、 実験的にこれらのパターンを作り出すことは難しい。Scheuer とOrensteinは(p. 230)、広い領域の垂直キャビティ半導体レ ーザーは、半導体キャビティに注入する電流を変化させるだけ でその数を最大19個の「暗いビーム」(電磁場中の特異点の回 りに生成される低輝度の渦)まで変化させられる、きわめて複 雑なパターンを生成するために用いることが出来ることを示し ている。これらのパターンは異なる赤外線波長のビームを表す ものではなく、レーザーの非線型部分を通じて、変性モードの 近くにロックされることで生成された単一波長モードである。 (Na)

免疫学的なシナプス形成 (Immunological Synapse Formation)

T細胞と抗原提示細胞は特異的に接触している。ここではT細 胞抗原受容体(TCR)が接触領域の中心に分離しており、その周 辺に接着性分子が同心円状にリングを形成している。Grakoui たち (p. 221; およびMalissenによる展望記事参照)は、生き ている細胞中で、上記の「免疫学的シナプス」の形成を定量的 に評価する系を開発した。彼らは、この免疫学的シナプス形成 の多段階プロセスを同定し、これがT細胞活性化にどのように 影響するかを決定した。接着分子がまず集まり、そして接着リ ングの外側に初期TCRがくっついたとあとにシナプス形成は起 きた。その後TCRは接着リングの中心に移動した。最終段階で TCRクラスターの中心に「ロック」された。中心クラスターの 安定性がシナプス全体の安定性に寄与しており、この安定性は クラスI主要組織適合性タンパク質のペプチドとの相互作用する TCRの強度と数によって決定される閾値に感受性を持っている。 (Ej,hE)

細胞の運搬ゾーン(Cellular Delivery Zones)

真核生物の細胞が巨大分子を取り込む過程は、エンドサイトー シスと呼ばれ、陥入として現れてくる形質膜の特定の領域にお いて始まる。この「小窩」は、細胞質の表面にクラスリン被膜 というタンパク質複合体によってコーティングされている。結 局、このクラスリン被覆小窩は、切取られ、細胞内の被覆小胞 になる。MarshとMcMahon(p. 215)は、最近の被膜複合体の構 造分析から解明したモデルをレビューしている。このモデルは、 最初考えられたよりかなり複雑である。(An)

目立つ血管形成抑制薬 (Eye-Catching Angiogenesis Inhibitor)

哺乳類の眼が正常に機能するのは、角膜から血管を排除するこ とに依存する。Dawsonたち(p.245)は、この排除が、少なくて も部分的に、今までで最も強力な血管形成抑制薬として同定さ れている網膜色素上皮由来因子(PEDF)によることであることを 示している。この結果は、神経栄養性の活性が以前に示されて いるタンパク質であるPEDFは、病理学的血管形成が視覚を弱め る眼疾病の治療に応用できるかもしれないことを示唆している。 (An)

遅くても致死的なメディエータ(Late but Lethal Mediator)

全てのグラム陰性菌の成分である内毒素は、致死的ショックを 引き起こすことができる腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン -1(IL-1)をマクロファージが大量に放出することを刺激する。 Wangたち(p 248)は、マウスモデルの実験で、以前に転写の関 連で研究された因子である高移動度グループ-1(HMG-1)タンパ ク質が内毒素による致死のもうひとつのメディエータであるかも しれないことを示している。初期のメディエータであるTNFと IL-1とは対照的に、HMG-1は、内毒素にさらされたかなり後に マクロファージから放出されている。HMG-1に対する抗体は、 マウスにおける内毒素の致死率を減弱した。致死的細菌性感染 の患者におけるHMG-1の血清中濃度が高かったので、ヒトにお いてもこのタンパク質が同様な病原の役割をはたすかもしれな いことを示唆している。(An)

量と質(Quantity and Quality)

染色体の集合の数(倍数性)の変化は、有性生殖や腫瘍の進行、種 の進化など、多様なプロセスと関係づけられてきた。答えが得ら れていない疑問の一つは、そうした変化が何らかのイベントの結 果であるに過ぎないのか、それとも染色体の総数(n)の増加ある いは減少によって遺伝子発現の変化が引き起こされるのか、とい うものである。Galitskiたちは、染色体数がnから4nまで異なっ ている酵母(Saccharomyces cerevisiae)の複数の系統を作り 上げた(p. 251; また、HieterとGriffithsによる展望記事参照 のこと)。マイクロ・アレイ分析によって、倍数性に依存して発 現する遺伝子サブセットのあることが明らかになった。いくつ かの場合に、このデータは、生物学的な現象を説明するのに使う ことができる。たとえば、倍数性に依存したcyclinの抑制がある が、これは、倍数性が高いほど細胞がより大きくなることに関係 している可能性がある。(KF)

目標への到達(Reaching Our Goals)

中枢神経系の多くは、感覚性入力の処理と運動性出力の計算のた めに使われている。たとえば、低いところにぶら下がっているリ ンゴの色や形、位置は、脳における視覚処理経路の初期段階でデ コードされるし、そのリンゴに向けて腕と手を動かすことになる 筋肉の空間的また時間的に適切な活性化は、運動性皮質領域に よって制御される。こうした視覚的情報、すなわち眼を中心とす る座標系において、網膜によって空間的にコードされている情報 は、どのようにして、肢を中心とした座標系において運動がコー ドされていると考えられる運動系に変換されるのだろう。 Batistaたちは、目標到達のための運動のプラニング段階におい て活性化しているニューロンが、眼を中心とする座標系において 到達目標をコードしているという事実を発見することで、この変 換ステップの一つを明らかにしている(p. 257; またBarinagaに よるニュース記事参照のこと)。視覚的座標系においてプランを 立てるというのは、われわれがしばしば、欲望の対象物に(つま り、目標の方に眼を動かすことで)フォーカスし、実際の到達運 動の最中に補償のための(視覚による推定に基づいた)修正を行な うせいで生じるのかも知れない。(KF)

互いにくっつき合う(Sticking Together)

適切な染色体伝達のためには、シスター染色分体 (sister chromatids)と呼ばれる、複製された染色体の粘着 (cohesion)が必要である。染色分体粘着に必要な染色体要素を 同定するために、MegeeとKoshlandは、酵母の環状ミニ染色体 を用いて、一つの機能的アッセイを開発した(p. 254)。彼らは、 紡錘微小管の結合を仲介するタンパク質複合体である動原体の組 み立てに必要なシーケンスとオーバーラップする動原体性DNAに よって、粘着が部分的に仲介されることを発見した。動原性タン パク質変異体にこのアッセイを適用することで、粘着においてこ のタンパク質が果たしているであろう役割を直接的に評価するこ とが可能になるであろう。(KF)

自然界の日焼け止めクリーム (Natural Sunblock)

色素性乾皮症(XP)患者は太陽光に対し過敏性であり、高い確率で 皮膚癌にかかりやすい。XP患者の多くは遺伝的変異を持っており、 紫外線損傷を受けたDNAのヌクレオチドの除去修復に欠陥を持っ ている。しかしながら、患者の25%位は(XP変異形:XP-V)は、 正常なヌクレオチド除去修復機能を持っている。Johnsonたち (p.263;Cleaverによる展望参照)は、酵母RAD30のヒト相同体 がXP-Vを引き起こす遺伝子であることを見出した。酵母RAD30 は紫外線損傷を受けたDNAの誤りの無い複製に関与しているDNA ポリメラーゼをコードしている。この発見によって、正常なヒト RAD30が皮膚癌の発生を最小限に押さえるために重要な働きをし ていることを示している。(KU)

過去からの温室効果ガス(A Greenhouse from the Past)

亜酸化窒素(N2O)はもっとも重要な温室効果ガスの一つであるが、 二酸化炭素やメタン(CH4)といった一般的によく知られた温室効 果ガスに比べてその過去の履歴はよく知られていない。 Fluckigerたち(p.227)は、グリーンランドの掘削アイスコア 中の気泡に取り込められているN2Oを測定した。過去4万年に 渡って、主要な気候変動期におけるCH4とN2O濃度の分析や比較 によって、熱帯地方を発生源とする大気成分、及び熱帯地方と海 洋の両方を発生源とする成分に関しての有用な記録を提供してい る。(KU,Nk)

眠り病への感受性(Sleeping Sickness Sensitivity)

アフリカ眠り病の治療に用いられる薬のうち、主要な2種である メラミノフェニル・ヒ素(melaminophenyl arsenicals)とジア ミジン(diamidines)は、病気の原因であるトリパノソーマ属 brucei(Trypanosoma brucei)に入り込む際に、同じアデノシ ン輸送体を利用すると考えられている。この輸送体を同定するこ とは、薬剤抵抗性の基盤を理解する上で重要になってきている。 Maserたちは、T. bruceiから得られた相補DNA(cDNA)ライブラ リを用いて、プリン生物発生に欠陥のある酵母細胞の形質転換を 行ない、遺伝子TbAT1を分離した(p. 242)。配列の分析から、こ の遺伝子が一つのアデノシン輸送体をコードしていることが示唆 され、またこの遺伝子の変異がヒ素に抵抗のある変異体に見い出 された。(KF)

B細胞を刺激する(Stimulating B Cells)

サイトカインの腫瘍壊死ファミリーは、その一員として、細胞を 活性化させたり細胞死をさせたり、あるいはその両方をおこなう ようなものを持っている。Mooreたち(p.260)は、このファミリ ーの中のもう1つのメンバーであるBlySについて報告している。 これはB細胞を活性化し、主として単球や樹状の細胞型によって 産生される。彼らはまた、BlySはB細胞に特異的に結合し、この 因子をマウスに投与して、血清免疫グロブリンの産生を増加させ ることを発見した。このように、この分子は一次抗体反応中のB 細胞の成熟に重要な働きをしているらしい。(Ej,hE)

線虫(C.elegans)中に見つかった STAT 遺伝子 (STAT Genes Found in C. elegans)

G. Ruvkun と O. Hobert (レビュー,11 Dec., p. 2033) は、線 虫(C.elegans) の転写制御因子に対するゲノム配列と、さまざま な種の発生を制御することが示されている情報伝達遺伝子ファミ リを調査した。発見の一つは、「線虫(C.elegans)には一つの非 常に離れた部分 STAT 遺伝子が存在するのみである」というこ とであった。X.Liu たちは、彼らはデータベース検索により、線 虫に STAT様の配列を見出したが、それらを彼らは、 ce-stat-aと c-stat-b と称しているとコメントしている。彼 らは、前者の機能的領域の配列を示す図を与えている。返答とし て、Ruvkun とHobertは、"Liu たちが"、レビュー中の解析の中 で、"一点を修正することは正しい(589 のそのような点の中で)" と述べている。"私たちは、ゲノム配列が完全になったときには、 おそらくさらに一つか二つの見落とした遺伝子が現れるであろう ことを期待している。" これらのコメントの完全な原文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5425/167a にて見ることが可能である。(Wt)
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