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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science June 11, 1999, Vol.284
PSD-95とニューロンの細胞死 (PSD-95 and Neuronal Cell Death)
過剰のCa2+流入がニューロンの細胞死を引き起こすが、その基本 の分子機構は解っていない。Sattlerたち(p 1845)は、NMDA受 容体の情報伝達とPSD-95という細胞内の骨格分子との特異的な 連結について研究し、PSD-95がNMDAの神経毒性を一酸化窒素 (NO)の産生と連結していることを示した。アンチセンスオリゴ DNAを用い、PSD-95を抑制すると、NMDA受容体によるCa2+ で活性化したNO産生を遮断したが、他のグルタミン酸やCa2+ チャネルによるNO産生は遮断しなかった。(An)
草原山腹がストライプになった訳 (How the Hillside Got Its Stripes)
草原地帯の植生に見られる規則的、及び不規則的な植生パター ンは定性的にしか理解されていない。Klausmeier(p. 1826)は、 チューリング的(Turing-like)不安定さと時間的・空間的カオス を結び付ける(つまり、もともと存在する微小な変動が生態系に よって増幅される)ことによって機械論的(メカニスティック) な用語でこのようなパターン発生を説明する一つのモデルを提供 している。このモデルは世界の草原地帯において、放牧の増加と 降雨量の減少が生態にもたらす衝撃を予測する上で有用となるで あろう。(KU,SO)
レールからリールへ(From Rails to Reels)
複製や転写のプロセスの際に、ポリメラーゼは通常鋳型分子に 沿って少しづつ下流に動いていくものと想定されている。このポ リメラーゼの累進的な動きは、レール上を動く機関車の進行にた とえる事が出来る。しかしながら、ポリメラーゼのこのような移 動が間違いであるという事を示す証拠が数多く増えている。ポリ メラーゼのアパラッチ(apparati)は細胞のサブ構造に付着してい る事、そして実際には移動したり、或いはプロジェクターを通る フィルムと同じくポリメラーゼ中にリールで引き寄せられている のは核酸であるという説を支持するデータをCook(p. 1790)は報 告している。固定化されたポリメラーゼ分子は細胞内の分散工場 に集められ、そこでは複数のポリメラーゼ分子が複数の鋳型に同 時に作用していることが示唆されている。(KU)
人工的イオン結晶(Artificial Ionic Crystals)
電磁波と空間的に周期性のある誘電体媒体との相互作用はセンサ ー、導波路やマイクロキャビティレーザーなど光-通信における 数多いアプリケーションに適している。Luたちは(p. 1822)、こ の相互作用に基づく新規なデバイスの開発には、プロセスをより 深く理解する必要があることを提案している。彼らは逆方向に極 性を持つ強誘電性の層(逆方向に荷電された層)の超格子で構成さ れる単純な一次元材料について研究している。彼らによると、こ の人工的なイオン結晶内の電磁波と格子振動の結合を考慮に入れ た場合、実験結果と理論の整合が良くとれている。(Na)
太平洋の熱含有量の変化 (Heat Content Changes in the Pacific Ocean)
海洋気候音響温度測定学 (The Acoustic Thermometry of Ocean Climate:ATOC)コン ソーシアム(レポート,28 Aug., p. 1327)は、太平洋の熱含有量 (heat content)と海面高の測定と一般循環モデル (general circulation model)の結果とを比較した。そして、 水位の変化の約半分のみが、熱膨張が原因であると結論づけた。 K. A.Kellyたちは、数値モデルから作られた熱含有量変化の ATOCの見積もりは1/2も小さいと批評した。水平対流の寄与が 大きいと仮定しなくても、断熱期間を考慮することによって、 季節的な熱流動の見積もりは温度や水位データと一致させること ができる。これに対して、ATOCは数値モデルは熱流動の年間サ イクルを下回って見積もっているかもしれないことを認め、そし てATOCはKellyが出した数値と矛盾していないと述べた。こう したコメントの全文は、次のWebPageにある。(TO,Nk)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5421/1735a
海洋における炭素の領域不均衡 (Regional Carbon Imbalances in the Oceans)
C. M. Duarte と S. Augusti(Reports 7月10日, p. 234) は、 多くの研究からのデータを編集して、海洋生態系の「群落の呼吸」 と「総一次産生」との関係をモデル化した。彼らは、全体としては、 海洋の「生物相は地球的スケールでは吸収源として作用する」こと を見出した。P. J. le B. Williams と D. G. Bowers は、その報告 において計算された見かけ上のCO2の不足量は、「解析上の定式 化」の結果であるとコメントしている(訳註:単純化し過ぎた数式 モデルによって誤差が生じたという)。彼らは、「開放系の海洋で は、全体としてもあるいはある領域においても、実質的には生物相 のバランスに由来するものである」と示唆するには、不十分な証拠 しかないと結論づけている。Duarte と Augusti は、その返答の中 で、データ群と解析方法の選択、および、スケールや種々の研究に 渡る比較を行なうという挑戦的課題について議論している。彼らは、 「入手可能な実験的証拠の大部分」は、「貧栄養の海洋における従 属栄養への傾向...」を示していると主張している。これらのコメン トの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5421/1735b
にて見ることができる。(Wt)
化石の樹系図を正す(Fixing the Fossil Tree)
樹木の進化の殆ど、特に属と種に関する重要な細目は分岐学、即ち 化石の持つ多様な形態学的特徴の分析にもとづいて作られていた。 化石が出現した年代については考慮の余地があった。その理由とし て化石の記録には数多くの欠落がある事、そして原始的特徴を保持 した“生きている化石”(living fossils)を見てわかるように、形 態は時間の経過を表している訳ではない、という事を示しているか らである。Foxたち(p.1816)は、幾つかの形質的特徴の進化に関す るコンピュータモデルを作り、そのモデルに化石の出現した年代を 含ませると正確な、又は合理的な系統発生学を得る見込みが大きく 向上する事を示している。(KU)
微少で、コヒーレントで、明るい (Small, Coherent, and Bright)
微少な光デバイスは、「光のみによる処理」の計算機の実現可能性 があり、通信や近接場(サブ波長の)光学素子等への応用の可能性が ある。Painterたちは(p.1819)、0.03立方ミクロンの大きさの空洞 (キャビティ)レーザーを紹介する。そのレーザーは、光子が増強 される2枚の反射器間のギャップで構成されるレーザーキャビティと 欠陥を内部に意図的に配置された光結晶の組み合わせで動作する。 材料にエッチングされるホールの周期的な配列中の一つの変化点で ある欠陥は、効果的にその特定の点に光出力を固定するか局在化す る。(Na)
古代の大気を検定する(Assaying Ancient Atmospheres)
新世中期の地球の気候は現在より暖かった、おそらく大気中のCO2 の濃度が現在よりかなり高かったか海洋の循環が異なっていたから だろう。PersonとPalmerは(p.1824、Kerrのニュース解説も参 照)、始新世の海洋のpHプロファイルをいくつかのプランクトン種 の化石からのホウ素同位元素を元に構築し、この仮説について研究 した。海洋のpHは海水に溶け込むCO2の量、すなわち大気中のCO2 の量を反映している。このデータによると、始新世中期の大気中の CO2濃度は現在の値に対し、殆ど同じか、ほんの少しだけ高かった ようだ。(Na,Og)
雌雄同体発生を導く (Directing Hermaphrodite Development)
性の発生の仕組みを決めるためには、多くの生物において、二つの 異なった機構が作用することが必要である。一つは眼に見える性的 特徴を決定する(性決定の)仕組みであり、もう一つは、性染色体用 量に差があるにもかかわらず性染色体における遺伝子発現を対等な ものとする(遺伝子量補償の)仕組みである。Dawesたちはこのたび、 線虫(Caenorhabditis elegans)におけるある一つの因子が、雌雄 同体発生を導く「スイッチ」として働くことを証明した(p. 1800; また、KurodaとKelleyによる展望記事および表紙を参照のこと)。 この因子SDC-2は、性決定および遺伝子量補償を、それぞれ雄性- 特異的遺伝子her-1のリプレッサとして働くこと、X染色体上での 複合体形成を起動して染色体の全体としての発現を減少させようと すること、によって協調的に調節する。性決定および遺伝子量補償 の調整におけるC. elegansのSDC-2のこの二重抑制機能は、このよ うな複雑な発生のプログラムには洗練された制御の機構が必要とな ることを示すよい例となっている。(KF,SO)
聴覚における細胞のつながり (The Cellular Connection in Hearing)
内耳の有毛細胞(hair cells)は、聴覚のプロセスに関与する要素の 長い連鎖の最初の重要なリンクであり、毛細胞を破壊することは、 聴覚の損失や障害の原因の中でも重要なものの一つである。この細 胞が、胚形成の間にどのようにして発達し、分化してくるかは、ほ とんど知られてこなかった。Berminghamたちは、このたび、毛 細胞の産生に必要な、前神経(proneural)遺伝子Math1を同定した (p.1837)。この、ショウジョウバエの前神経(proneural)遺伝子 atonalの相同体は、感覚性パッチの発達過程で発現する。Math1 を欠くミュータント・マウスでは、胚における毛細胞は発達しな かった。(KF,SO)
左(巻き)にも右(巻き)にもつかまる (Holding Both Left and Right)
DNAは、通常B-DNAとして知られる形態で発見される。これは、 右回りの二重らせんを成しているが、これは糖-リン酸バックボ ーンが巻いている向きを示しており、右手の親指とその他の指で まねることができる。このB-DNAは、RNAポリメラーゼの活動的 な転写に続いて、一過的にZ-DNAと呼ばれる左巻きの形状をとる。 Schwartzたちは、Z-DNAと、RNA編集酵素のZ-DNA結合領域と の間にある複合体の構造を記述している(p.1841)。彼らは、DNA -タンパク質によく出てくるモチーフ、B-DNAとの結合に際して多 くのタンパク質で用いられている、ヘリックス・ターン・ヘリッ クス・フォールド(helix-turn-helix fold)を発見した。このフォ ールドの多才さは、通常右巻きのB-DNAと結合したときの主溝の 中にある特定の塩基を認識する第2のらせんが、その代わりに Z-DNAの糖-リン酸バックボーンと極性の結合をするやり方によっ て明らかにされている。(KF,SO)
シナプスを刺激(Stimulating Synapses)
長期増強(LTP)などのようなニューロンの高頻度刺激によって誘発 されたシナプスの活性変化をもたらす機構や記憶に対するその意味 については議論の余地があるが、2つの研究記事がこのトピックス に注目している(Barinagaによるニューズ記事参照)。反復刺激中 に、AMPA型グルタミン酸受容体機能において誘発された変化は、 固有の活性が増加したか、あるいはシナプスへの漸加によるものと 思われる。Shiたち(p1811)は、海馬のスライス培養において、 AMPA受容体のサブユニットをグリーン蛍光タンパク質でタギング することによって、AMPA受容体を数えることができた。強縮性の 刺激の後、細胞内における多くのAMPA受容体のプールは、樹状突 起棘に再分布されたり、樹状突起中でクラスタを形成した。この現 象は、シナプスの増強のように、NMDAの受容体を遮断することで 防ぐことができた。電気生理学的現象であるLTPがどのように記憶 と関連するのであろうか?Zamanilloたち(P 1805)は、重要なグ ルタミン酸受容体のサブユニットを欠乏する変異体マウスにおいて、 LTPがほとんど存在していないことを示している。しかし、水迷路 テストに対して、そのマウスの空間学習に変化はなかった。この結 果は、LTPと空間的記憶のある形態との間には解離があることを示 唆している。細胞とシナプスの段階のイベントと生物体の行動との 相互作用は、以前の単純な仮定モデル仮定よりも複雑なのである。 (An)
ウイルスの自警団(Viral Vigilantes)
ウイルス感染に対して哺乳類の最初の応答は、細胞保護1型インタ ーフェロンαとβを生成することである。インターフェロンの主要 な源は知られていないが、天然のインターフェロン生成細胞(IPC) がCD4と主要組織適合複合体クラスIIタンパク質を発現することが 知られている。Siegalたち(p. 1835;Hagmannによるニューズ記事 参照)は、この細胞は、最近同定された細胞仲介Tヘルパーの細胞応 答を誘発できる2型樹状細胞の前駆物質(pDC2)と同じものであるこ とを発見した。この細胞が成熟する間、多様なレベルでウィルスの 攻撃に対して働いているが、抗ウイルス応答を高めるための治療の 面白い目標となるかもしれない。(An)
火災と生態系(Fire and Ecosystems)
火災は、生態系を形づくる上で、その自然の役割はよく知られてい るが、人間の活動が火災のダイナミクスに与えるインパクトについ ては、さらによく理解しておく必要がある(Goldammerによる展望 記事参照のこと)。Cochraneたちは、熱帯性森林においては人間に よって偶発的に引き起こされる火災がごく当たり前のものになって いると報告している(p.1832)。火災には、火災の発生率や再燃の際 に被害を大きくすることになる可燃性の生物量が蓄積される正のフィ ードバックが存在する。火災やそれに引き続いての土地利用の位置や パターンを用いて、著者たちは、そうした偶発的な火災が、意図的な 材木切り出しや農業のための開墾よりも、アマゾンの森林の縮小の大 きな原因となっていると推定している。Keeleyたちは、カリフォル ニアの低木地域(brushland)における火災の頻度を、およそ1世紀分 のデータを用いて解析した(p.1829)。低木地域は、高木地域と同様、 燃料物が蓄積し過ぎると火災の回数は減るがかえって悲惨な火災を 引き起こすことになるので、火災抑制のための管理が必要であると、 広く信じられてきた。実際は、カリフォルニアの低木地域の郡では、 1910年以降、火災の規模が大きくなっているところはなく、むし ろ、火災の頻度は人口密度と正の相関があったのである。こうした 結果は、人口密度が高い地域にある、その他の火災の起きやすい潅 木地域についても意味をもつものである。(KF)
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