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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science April 30, 1999, Vol.284
ある解へのトンネリング(Tunneling to a Solution)
物理、化学、生物における多くの問題では、系の最小エネルギー配置を 見出すことが求められている。このための古典的な方法の1つはシミュ レーティッドアニーリング法である---系は励起状態にまで熱せられた 後、冷却される。そして系は局所的なエネルギー最小状態に再配置す る。極端に大規模で複雑な系に対しては、実際には使えないほど長い 冷却時間が必要な可能性がある。Brooke たち (p.779) は、熱的なア ニーリングは進行しえないような温度における量子的冷却法を示して いる。この熱的方法の代わりに、系は量子的なトンネリングによって 再配置し、そして熱的なアニーリングよりも、速い速度で最小エネル ギー状態に到達する。量子的アニーリングは、大規模最適化問題を量 子コンピュータに実装する場合の一アルゴリズムを与える可能性があ る。(Wt)
頭を下げて(Keeping Their Heads Down)
草食恐竜の一種、竜脚類は長い首と尾が特徴である。Stevensと Parrish (p. 798)は、2つの草食恐竜、ディプロドクス(Diplodocus) とアプトザウルス(Apatosaurus)の摂食習慣を決定するために、関節 でつながった首の動かせる限度のコンピュータモデルを示した。草食 恐竜は、地面にほとんど垂直な位置に首を伸ばして樹木の頂部を摂食 するとされてきたが、彼等の長い首は実際には動きに限度があるため 垂直位置に伸ばすことができない。彼等草食動物は、もし4本の足で 踏ん張っているならば、目の高さ付近の位置からその少し下の位置の 間で、食物を集めるなければならなかった。こうした長い首を持つ恐 竜の本当の食物連鎖の優位さは、小さな湖やあるいは池の底から食物 を集める能力であった。(TO,Nk)
キラリティを調整する(Tuning Chirality)
DNAやタンパク質のラセン構造といったラセン構造体は、更に集合し てラセン状の超構造を形成する。Engelkampた (p.785)は類似の原 理を用いて、ファイバーを自己組織化しラセン状の超構造からなる分 子を設計した。このようなファイバーのキラリティはカリウムイオン の添加によって調整できるが、カリウムイオンによってファイバー中 の分子のスタッキング状態が変化しヘリシティが失われることによる。 この材料はオプトエレクトロニクス分野での応用やセンサーとして有 用となるであろう。(KU)
解読された蛙の奇形(Frog Deformities Deciphered)
両生類個体数の減少と奇形の増加は疑問の余地がない。しかしながら、 想定されるいずれの原因、すなわち紫外線照射、殺生剤、模造ホルモ ン又は感染性物質など、との明白な関連性は証明されていなかった。 Johnsonたち(p. 802)とSessionsたち(p.800)は、原因として吸虫寄 生虫の関与を強力に支持している(Kaiserのニュース解説参照)。野生 の蛙の個体数に関する形態学的研究によると、手足の発達の構造的な 変化は、吸虫嚢胞侵襲によるものと非常に似ている、又、実験的にお たまじゃくしを吸虫の幼生にさらされた場合に起きる異常は実際の現 場で見られるものと非常によく似ている。(Na,Nk)
捕獲された細胞中の銅(Captive Cellular Copper)
抗酸化物酵素のスーパーオキシドジスムターゼ (SOD)には補助因子と して銅(Cu)が必要であり、酵母細胞中でSODがCu-結合形で産生する ためにはスーパーオキシド ジスムターゼのCuシャペロン(yCCS)が必 要である。Raeたち(p. 805;およびLippardによる展望記事)は、何故 生体内でシャペロンタンパク質が必要であるか、また、どのような機 能を果たしているかについて報告している。in vitroの系では、yCCS だけで直接SOD1にCuを供給しており、酵素を活性化させている。し かし、Cu濃度が非常に低いときのみにyCCSタンパク質が必要であっ た。生体内において遊離Cuの細胞内濃度の増加が可能であれば(高 濃度のCuに細胞をさらすか、Cuを隔絶するタンパク質を除去するか によって)SODを活性化させるのにyCCSは必要ではない。これらの 事実をまとめると、細胞内の遊離Cu濃度は通常では極めて低く、 10^(-18)モル、あるいは、細胞当たり1個の遊離Cuより少ないこと が示唆される。(Ej,hE)
火星の磁性とプレート・テクトニクス (Martian Magnetism and Plate Tectonics)
地球と違って火星には、内部のダイナモによって生成される惑星全 体を蔽う磁場が存在していないようだ。火星全体探査機 (MGS: Mars Global Surveyor)に搭載した磁場実験及び電子反射計 測器(MAG/ER)による以前の測定結果からは、現在は火星全体を蔽 う磁場は生成されていないが、地殻には磁気異常が存在しているこ とがわかっていた。MGSはその後軌道を下げてきており、低い高度 でのMAG/ERによる測定結果からは、いくつかの地域の表面の地質 に、比較的強い磁力性の特徴があるというだけでなくある種の直線 状パターンが存在していることが示されている(Kerrによるニュー ス記事参照のこと)。Acunaたち(p. 790)およびConnerneyたち (p. 794)は、南半球にあるクレーターの多い、古い地域には磁気を 帯びた直線状の帯が存在しており、そこでは、磁場の垂直成分の向 きが、正極が中心を向いているものと表面を向いているものの間で 交互に変化している、ということを示している。こうした交互に変 化する直線状の帯は、地球の海底に見られるようなテクトニックな プレートが移動するときに形成した縞状のパターンを思い起こさせ る。著者たちは、プレート・テクトニクスが火星の歴史の初期に作 用した可能性のあること、またこうした「バーコード」状のパター ンはかつての活動の余波であること、を示唆している。このように、 火星にはかつて、金属性の核中の液体の動きによって生成されるダ イナモが存在しており、これがプレートを表面に沿って移動させ、 またダイナモによって産み出された磁場によるパターンは表面が冷 える際に刻印して保存されることとなったのである。(KF,Nk)
入り方の影響(Entry Effects)
ヒト免疫不全症ウイルス-1型(HIV-1)が細胞に入り込む際に、 CCR5やCXCR4といった補助受容体(co-receptor)を利用すること が発見されたことは、この分野に大きな興奮をもたらしたが、ある 手段を介して入り込む場合と別の手段を利用する場合とで病気の進 行に異なった影響が出るのかどうかは、不明確であった。Harouse たちは、アカゲザルの一種であるマカクザルを2つのキメラ・ウイ ルスに感染させて比較を行なった(p. 816)。一方はCCR5を用いた HIVのエンベロープ遺伝子を発現したもので、もう一方はCXCR4に 依存するウイルス由来のものである。CCR5を使うと、腸における CD4+T細胞が急激に失われるが末梢循環においては枯渇はゆっくり と進む。CXCR4依存のウイルスを用いると、末梢のCD4+細胞が劇 的な減少を示し、腸では減少は見られない。この結果は、補助受容 体の使用が病原性の重要な決定要因となっていること、またワクチ ンの試験おける新しいモデルを与えてくれることを示している。 (KF)
魅力を身につける(Becoming Attractive)
特定の免疫反応を協力し合って演じるために、必要な細胞たちはど のようにして互いを見つけ出すのだろう。TangとCysterは、皮膚 から遊走する未成熟の樹状細胞(DC)が、自分たちのそばに特定のT 細胞を引きつける特性を獲得する、と報告している(p.819)。未成 熟のDCは、皮膚の抗原を拾い上げ、それからリンパ節へと遊走する。 この新鮮な移住者はケモカインMDC (macrophage-derived chemokine)を分泌するが、これが抗原に よって活性化されたばかりのT細胞がDCを見つけるのを助けるので ある。DCの近傍にある抗原特異性をもつT細胞の濃度はこうして上 昇し、このことが適切な活性化と免疫応答の確率を増すことになる のである。(KF)
タンパク質を拷問台上で引き伸ばす (Stretching Proteins on the Rack)
タンパク質は直線状のポリペプチドとして合成され、たいていは、 疎水性アミノ酸が一般に内部に引き込まれ隠れた状態となるような 球状の構造へと折り畳まれる。シャペロニン複合体GroEL-GroESが、 誤って折り畳まれたタンパク質を、むき出しになった疎水性部分に 結合させて集め、それからタンパク質をほどいて、もう1度やり直 すように試みることを可能にする。Shtilermanたちは、水素イオン 交換の動力学を用いて、基質タンパク質の大規模な再編成が初期の結 合イベントにおいて起きること、またほどかれたタンパク質がシャペ ロニン複合体から遊離されそれ自身を折り畳もうと試みることを示し た(p. 822)。初期の再編成は、ポリペプチドをより直線的な状態に伸 ばしていくことと同種のものである可能性がある。(KF)
ガン治療を精密に(Fine-Tuning Cancer Therapy)
固形腫瘍が成長するためには十分な血液供給を必要とし、腫瘍細胞は しばしば血管形成(新たな血管を形成する)を刺激する因子を生成す る。ガン治療として、血管形成を阻止する多様な分子が開発されてい る。Bergersたち(p. 808)は、遺伝子組換えマウスモデルにおいて自 然状態の微小組織環境において腫瘍の多段階進行を模倣した4つの異 なる血管形成抑止剤をテストした。アンジオスタチンやエンドスタチ ンを含むこれらの抑止剤は、腫瘍形成段階に応じた異なる効能状況を 示した。このことから、抗血管形成を利用する治療を最適に行うには、 腫瘍の段階に応じた考慮が必要である。(Ej,hE)
肝細胞を救う(Saving Liver Cells)
ウイルスのクリアランスのメカニズムを理解することは、治療法を立 案したりウイルスの病原性を理解する上で重要である。これまでは、 ウイルス感染した肝細胞が破壊された結果、B型肝炎DNAは急性感染 した個体から消え去るものと考えられてきた。しかし、Guidottiたち (p. 825)は、チンパンジーの感染cfルを使って、90%以上のウイル スは、肝細胞の有意な破壊がなくても消失し、そしてこの消失は肝臓 へのT細胞の浸入が最大になる前に起こることを示した。(TO)
下部マントル中のアルミナ(Alumina in the Lower Mantle)
マントルの化学的均一性を推定するには、地震波の解析と、実験室で 作るマントル様物質の物性を比べることで行われている。ペロブスカ イト中のアルミニウムの量が鉄の量を制約するため、アルミナ(Al2O3) はマントルの下部でもっとも豊富な(Mg,Fe)SiO3型ペロブスカイト中 の重要な成分である、と考えられていた。残念ながら、アルミナの濃 縮したペロブスカイトの状態方程式は決定されていないため、ペロブ スカイトの組成変化と地震波データと一致する可能性が未解決のまま に残されている。ZhangとWeidnerは(p. 782)、圧力10 ギガパスカ ルにおける5モル%のAl2O3を含むMgSiO3 型ペロブスカイトの状態 方程式を決定した。彼らはアルミナの濃縮したペロブスカイトは MgSiO3型のペロブスカイトよりもっと圧縮が可能であることを発見 したが、この今まで気づかれていなかった要因によって、下部マント ルの組成をより良く推測出来る可能性がある。(Na.Fj,Nk)
光電子放出を洗練して(Refining Photoemission)
ひとたび、光電子が固体から放射すると、そのエネルギーは通常確定 していると考えられている。このため、エネルギーの関数としての光 電子の強度スペクトルは、固体中の状態密度を反映しているであろう。 Joynt (p.777) は、この描像は低解像度の調査に対しては本質的には 正しいが、シンクロトロン光源の出現により今や可能となった高解像 度の結果に対しては、電子放出の後に発生するはずのオーミック的な エネルギー損失効果を考慮しなくてはならないことを指摘している。 ある種の低伝導性の固体(磁気抵抗材料のような)に対して、また、非 等方な伝導体(高温超伝導体のような)に対して、この効果はスペクト ル中では数十ミリエレクトロンボルトのシフトを生ずうる。このシフ トは、擬似的なバンドギャップのような特徴を持つ点から誤って解釈 される可能性がある。(Wt)
四面体構造のCO2(Carbon Dioxide Tetrahedra)
最近の研究によるとCO2は石英(SiO2)様の構造、即ち中心に炭素原子 があり4個の酸素原子と共有結合で結ばれたCO4四面体構造へ転移する ことが示されている。Serraたち(p. 788)は分子の動的計算を行い、 四面体構造を持つCO2が30GPaから60GPaの圧力範囲で安定に存在す ることを予測している。更に著者たちは、以前はっきりしなかった CO4四面体の層状構造に関しても記述しており、圧力(約100GPa)を増 し温度(約2000K)を高めると非層状構造に変化する。このように分子 の動的計算は限られた条件下でのみ行なわれた困難な実験の結果に対し、 有益な確認を提供し、新たに見出されるCO2の形状に関する安定性や 構造上の進展に関して付加的な、そして価値ある詳細な事象を提供する ものである。(KU,Nk)
代替え品を組み立てる(Assembly Alternatives)
多数のタンパク質は細胞内情報伝達経路に関与しているPDZタンパク質 相互作用領域を有している。PDZ領域は短いカルボキシ末端ペプチドモ チーフと相互作用をすることができるが、その他の場合にはカルボキシ 末端ペプチドと独立に相互作用する。Hillierたち(p. 812)はニューロン 性一酸化窒素合成酵素(nNOS)が単独で存在するときのPDZ領域の結晶構 造、および、nNOSがsyntrophinのPDZ領域と複合体をつくるときの PDZ領域の構造、を求めた。なお、このsyntrophinは細胞膜においてタ ンパク質が情報伝達複合体に会合する機能を担うと思われているタンパ ク質である。この構造は、可変のPDZ領域が、カルボキシ末端ではなく 鋭いヘアピンカーブを含む内部モチーフにも結合することができること を明らかにしている。更に、nNOS とsyntrophin のPDZ領域は、頭部- 尾部オリゴマーを形成することができる。このような相互作用によって、 多種多様なタンパク質を、潜在的には糸状や分枝状の形状になりやすい 情報伝達複合体に利用できるかが理解できる。(Ej,hE)
「滑りによる伝導」は果たして存在するのか? (Whether "Slip-Mode Conductance" Occurs)
L.F. Santanaたち (Reports, 13 Feb. 1998, p. 1027)は、ラットの心 臓細胞中のβアドレナリン受容体、あるいは、プロテインキナーゼA [PKA]は、ナトリウムチャンネル[Na+ channel]をイオン選択性が無い 状態に変換でき、その結果カルシウムイオンをナトリウムイオンと同じ ように容易に浸透させるようになることを発見した。彼らはこの変換を 「滑りによる伝導(slip-mode conductance)」と呼んだ。H. B. Nussと E. MarbanはNa+チャンネルでαやβ1サブユニットの発現をしたチャイ ニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞の膜電流の全細胞パッチクランプを記 録した。彼らは、「滑りによる伝導」の報告は、多分最適化されていない 電圧制御の結果生じた技術的な理由による見せかけの結果であると結論付 けた。C. W.Balkeたちは、Santanaたちによって観察された誘導Ca2+電 流は、テトロドキシンによるCa2+チャンネルのCa2+電流閉塞から生じた ものであるかどうか研究した。彼らの結果はチャンネルのリン酸化を促進 する条件で誘導される、古典的Na+チャンネル選択性の変化とは一致しな かった。これに応答して、J. S. Cruzたちはヒトの心臓のHEK293 細胞中 のNa+チャンネルの、αとか、β1やβ2サブユニットとかの同時発現に関 する新しい実験データを示した。Nussと Marbanと類似の方法で、彼ら は、チャンネルの「PKAリン酸化」に引き続いて、「非相同的発現系に よってCa2+がNa+に浸透することができる」ことを示した。これは彼らが 「もともと発見した現象や仮説に対する強い証拠となるであろう」とCruz たちは示している。Cruzたちはまた、Na+テャンネルβサブユニットが心 臓細胞の機能に対して重要な役割を演じていることを示した。このコメント の全文は以下参照:
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5415/711a
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