AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 16, 1999, Vol.284


腫瘍の抑圧とタンパク質の分解 (Tumor Suppression and Protein Degradation)

von Hippel-Lindau (VHL)腫瘍サプレッサー中の変異は、 腎臓と中枢神経系のガンに関係している。Stebbins たち (p. 455)はElonginB と ElonginCとの複合体における VHLタンパク質の結晶構造について記述している。この ElonginB と ElonginC はElonginA とともに転写調節に 関わっている。VHLタンパク質はαとβの2つの構造領域 を持っているが、このうちαは、SOCS ( サイトカイン情 報伝達のサプレッサー)として知られている分子と類似した 構造モチーフを含んでいるように見え、ElonginCに結合し ており、多くの既知の変異がこのインターフェース(界面) に位置している。この領域は、また、他の多くの既知の変 異が集まった表面ホットスポットをも含んでいる。このこ とから、機能的には重要であるがその働きがよくは同定さ れていないパートナーがこの部位に結合していることが示 唆される。これが他の成分と、配列及び構造上類似してい ることから、著者たちはVHLタンパク質は、タンパク質分 解に関与する経路とも関連しているかも知れないと提唱し ている。(Ej,hE)

COをまっすぐに配置する(Setting CO Straight)

一酸化炭素(CO)の毒性に関する以前の研究によると、ミオ グロビン(Mb)のようなヘムタンパク質へのCOの結合は、 裸のポルフィリン錯体への結合よりはるかに弱いという事 が見い出されており、このことは結晶学的研究で説明され ていた--ヘムタンパク質ではCOは立体的影響を受けて “ねじれた(bent)”配置をとっているが、裸のポルフィリ ン錯体では(ポルフィリン環へ垂直に)まっすぐな配置をと りより強く結合するであろうと。しかしながら、最近の分 光学的研究はこのねじれたヘム構造というものに疑問を投 げかけていた。Kachalovaたち(p. 473)は、室温下でデオ キシMbとCO-配位したMbの1.15オングストロ−ム分解能 の研究結果を報告している。その報告によると、MbCO錯 体中でCOは実際にはまっすぐな配置をとっている事を示し ている。COとの結合の過程では立体的な阻害を上回るよう なタンパク質の数々の協調的動きが必要であり、このこと が毒性のCOとヘム基の親和性を低下させている。(KU)

2つの経路を引き合う (Pulling Two Pathways Together)

LIFとBMP2という2つの成長因子が、アストロサイトの分 化時に一緒に機能する。各成長因子が自分の受容体を刺激 して、別々の転写制御因子へゆく自分の情報伝達経路を刺 激するが、2つの成長因子が一緒にになって神経の前駆細 胞の分化を支持する。Nakashimaたち(p 479;Janknecht とHunterの展望記事参照)は、このクロストークの分子的 基礎が予想外の複合体の形成にあることを示している。こ の2つの経路の転写制御因子であるSTAT3とSmad1は、 p300という転写活性化補助因子の正反対の両端に結合し、 これによってこの2つの信号を調和させる。(An)

メッセンジャーを殺すか(Kill the Messenger?)

遺伝子発現が多数のレベルで制御できる。Laroiaたち (p 499)は、急速なmRNA分解(5から30分間以内、他の mRNAの場合は数時間)を用い、自分のメッセンジャーRNA (mRNA)のテンプレートの利用を制限するサイトカインと プロトオンコジーンの機構を研究している。正常なmRNA 分解経路において、AUF1というタンパク質が3'非翻訳領 域の配列要素に結合し、その後この構造が分解される。し かし、より高い温度のストレスがあるときには、熱ショッ クタンパク質は、AUF1がmRNAをユビキチンプロテアソ ーム分解経路へ投入することを防ぐ。このようにして、熱 ショックと急速なmRNA分解とユビキチンプロテアソーム 経路との関連性が得られた。(An)

天然薬物の合成(Natural Drug Synthesis)

タンパク質や核酸といった重合性の生体分子をつくる有名な 装置に加えて、一つの繰り返し単位に基づく様々な、より低 分子量の化合物を合成する複雑な酵素作用を持つ装置もある。 このような二つのクラスの化合物には、ペニシリンやエリス ロマイシンといった広範囲に使用され、かつ有用な抗生物質 を含んでおり、その成分合成用の部品を操作したり組み合わ せたりする方法を研究する事は、既存の抗生物質を改良した り新たなものをつくる一つの経路を提供するであろう。 Gokhaleたち(p. 482)は、化学的に合成されたアミノアシル −補酵素Aエステルをドナ−とアクセプタ−の合成用部品の 遊離-SH基に導入する事によって、グラミシジン合成酵素の 基質特異性を研究している。ドナーサイトでは多くの異なっ たアミノ酸側鎖に対して許容するが、より制限の強いアクセ プターサイトではペプチド鎖へと反応が始まるのは正当なア ミノ酸に限られている。Belshawたち(p.486)は、6‐デオ キシエリスロノライド合成酵素において部品間のコネクター に焦点を当て、そして7つの3-炭素ユニットが重合してエ リスロマイシンの環状コアにを形成するためには、中間体の 反応を適切に進めるためのこの部品間コネクターが重要であ る事を見い出している。(KU)

バンコマイシンを焼き直す(Revamping Vancomycin)

細菌感染に対して、公衆衛生の立場から、新しい抗生物質の 開発の強い必要性が叫ばれている。糖ペプチドのバンコマイ シンはグラム陽性菌感染の治療における最後の特効の一つで あるが、この薬剤は細菌の細胞壁の形成の際、アミノ酸の架 橋を阻止することによって作用する。Geたち(p. 507; およ びWalshによる展望記事参照)は、炭水化物部分にに変化を 加えることによってバンコマイシン類似体の活性をうんと強 化することができ、バンコマイシンやメチシリンに耐性を獲 得した細菌にも効力を発揮させることができることを示して いる。このデータによれば、この炭水化物の誘導体は、多分 トランスグリコシル化(transglycosylation)反応のステッ プと思われる、細菌が細胞壁を合成する際の異なるステップ を阻害し、このため、バンコマイシン耐性の問題を克服する ことができるような新化合物が期待できるのである。(Ej,hE)

広く開いた血管(Open Wide)

直径の小さい血管を有する移植用組織を作り出す能力は、ア テローム硬化型の血管性の病気を取り扱う際には、重要な医 学的意味をもつものである。そうした血管を合成材料から作 り出すことは可能であるが、それらでは、血液の流れの量が 低いレベルにとどまってしまっていたのである。Niklasonた ちは、血管を通して成長培地を生分解性高分子マトリクス上 に送り込む状態で(発達過程で通常経験される物理的ストレス を与えることで)成長させたウシまたはブタの平滑筋細胞を用 いて、試験管内で血管を作ることに成功した(p. 489 ; また、 Ferberによるニュース記事参照のこと)。ストレス無しで成長 したものに比較して強い拍動性の条件が血管で実現され、それ は、ミニブタに移植されてもより長い期間詰まることがなく、 また通常の血管に近いコラーゲンのレベルを有しており、プロ スタグランジンに対しても適切な収縮性の反応を示したのであ る。(KF)

巨大な細菌(Big Bacteria)

海洋沈降物中の細菌は、窒素およびイオウの地球規模でのサイ クルにおける重要な仲介者の役割を果たしている。Schulzたち はこのたび、窒素およびイオウのサイクルにおいて重要である だけでなく、従来知られていた細菌より100倍も大きい、ナミ ビアの沈降物中に存在していた新しいイオウ細菌について記述 している(p. 493;表紙とWuethrichによるニュース記事も参照 のこと)。この巨大な細胞の体積と内部の空胞が、環境からの供 給が制限された期間にあっても長い間にわたって窒素やイオウ などの要素を貯えておくことを可能にしているのであろう。(KF)

光で時を見る(Eyeing the Clock)

光は、概日性時計の相をリセットすることができる。概日性時 計とは、哺乳類の脳にある視床下部に位置しており、睡眠や活 動、代謝などの日々の周期現象を制御するものである。眼は、 光によって誘発されるリセットのために必要なものであるが、 光受容器がいったい何であるかは知られていない。桿状体を欠 いた遺伝子組換えマウスであっても光を受け入れる (photoentrainment)ので桿状体が光受容器であるということ は排除されるのだが。このたび、Freedmanたち(p. 502 )と Lucasたち(p. 505)は、錐体を欠いたマウスの系列と、錐体お よび桿状体の双方を欠いたマウスの系列を作り出した (Barinagaによるニュース記事参照)。これらの系列は、日々 のマウスの活動とメラトニン・レベルの急激な抑制によってモ ニターする限りでは、どちらも概日性リズムに従うことはでき た。このことから、光信号を概日性時計に伝えるこれら以外の タイプの光受容器があるにちがいない、ということになる。 (KF)

粉末から構造(Structures from Powders)

多くの物質は、単一の結晶を生成することは容易ではない。 従って、粉末標本から得ることのできる構造的な情報の質を高 めるため、多くの努力がなされてきた。Wesselsたち(p. 477) は、シンクロトロン放射により、クリスタライトの選択的な方 向性(preferential orientation)持っている、テクスチャ化さ れた多結晶の標本を調べた。この結果、以前には解決しなかっ た複雑な沸石や、分子ふるい (モレキュラーシーブ=molecular sieve) の構造が決定できる ことを示した。この手法は、単一標本の完全な定量的テクスチャ 分析を含み、そして単一のテクスチャのみで粉末を形成する化 合物を対象にすることさえ出来る。(TO,Nk)

赤色光のシグナル(Red Light Signals)

植物のフィトクロムは、光のスペクトルの赤色や近赤外部分を 検知する役割がある。そして特定のフィトクロムは、スペクト ルの特定部分に対する発生反応(developmental responses) を媒介する。最近,Hoecker たち(p. 496 )は、ある特定のフィ トクロムから発した下流にあるシグナルを処理するような,シ グナル伝達成分を同定した。シロイヌナズナ(Arabidopsis)の 中で同定されたSPA1タンパク質は、特異的にフォトクロムAの 光活性化に反応して、形態形成を変更する。他のシグナル伝達 成分はフォトクロムのさらに多くの種類の間で共有されている。 (TO)

ゼリーで詰まった地殻(A Core Full of Jelly)

固体の内核は、液体からなる外核の内部であちらこちらにゆら ゆらと揺れていて、そのいくつかのモードの振動周期が超伝導 重力計を用いて測定されている。Smylie(p.461) は、コリオリ 加速度が境界層内部の粘性力とバランスすると仮定し、結果と して導かれる振動周期が重力系による測定と一致するように定 めることによって、内核の境界の直上部の粘性率を評価した。 この境界層の粘性率として求められた値である、 1.22 × 10^11 Pa・sec は、また境界層が二相流体であると するモデルとつじつまが合っている。この境界層では鉄に富ん だ液体と、固体の鉄粒子が内核に向けて雨のように降り注いで いる。(Wt,Og)

地球規模の温度上昇のフィードバック (Global Warming Feedbacks)

増加する温室ガス、特に二酸化炭素(CO2) 濃度の増加は、地球 規模で地上の温度上昇の脅威となっている。高濃度のCO2と高 温の組み合わせは、大気、大洋、陸棲生物圏間の正のフィード バックを促進する可能性がある、しかし、それらの根底にある 数多いメカニズムに関する我々の理解は限られている。Joosた ちは(p.464)、大洋、大気と(海棲と陸棲の)生物圏を表す単純な モデルを用いている。彼らはIPCC(国際気候変化パネル)の発行 している資料中の地球規模のCO2排出と大気中のCO2濃度の広 範囲なシナリオを適用し、大洋循環と海洋生物圏の炭素回収に かかる役割を分析している。大気中のCO2濃度が高い場合、北 大西洋の海洋循環崩壊では撹拌が減少することで炭素回収が大 幅に減少し、一方、CO2の値の低い場所では、炭素回収の減少 は海面温度の上昇が重要な要素となる。(Na,Nk)

ミニ磁石(Mini Magnets)

莫大なコンピュータメモリー容量の要求につれ、磁気メモリー のビットサイズはさらに小さくなることが考えられる。2つの レポートが極小磁気ドメインの運動と方向に焦点をあてている。 ミクロンサイズ以下の磁気ドメインの運動を観察する簡単な方 法がOnoたちにより提示されている(p. 468)。非磁性金属層を 2枚の強磁性層でサンドイッチした材料の抵抗は相対的な磁気 方向により変化する。片方の強磁性層にそって小さなドメイン が伝播すると、磁化の方向が切り替わり、マイクロ秒単位で抵 抗が減少する。如何に磁気ドメインを小さく出来るか、又磁気 の方向を一定に出来るのだろうか。超常磁性限界以下(例えば、 コバルトでは10nm以下)では、わずかな温度揺らぎだけで磁化 の方向が切り替わる。MajetichとJinは(p. 470)、ローレンツ 顕微鏡のフーコー手法を用いSmCo5、磁鉄鉱(Fe3O4)、炭素 を被服した鉄-コバルト合金の微小紛の磁化方向の変化を観測 した。このような研究は、測定対象の表面粗さの影響や、磁化 の動力学の変化などを許容することが出来る。(Na)
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