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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science February 26, 1999, Vol.283
クラミジア感染の抗原模倣 (Antigen Mimicry in Chlamydia Infections)
心疾患は西洋社会の主要な致死病であるが、クラミジア感染が心疾患 に関係する場合が多い。マウスにおいて、心臓のミオシン重鎖の注射 によって、心筋炎を実験的に起こすことができる。Bachmaierたち (p 1335;Guraによる記事参照)は、ミオシンの「自己攻撃的」 (autoaggressive)ペプチドが多くのタイプのクラミジア種に見られ るある種のペプチドと類似することを発見した。このクラミジアペプ チドまたはクラミジア全菌体を与えるとオジノペプチドと類似の心臓 炎症を誘発し、心臓ミオシンに特異的な抗体とCD4+ T細胞の生成を 刺激した。クラミジアペプチド誘発心疾患をもつマウスからのT細胞 は、新鮮なマウスに心疾患を伝達することができた。このように、ク ラミジアの局所感染は、器官に特異的な心臓炎症を引き起こすことの できる分子相同性によって、自己免疫応答を全身的に活性化できる。 (An)
酵母アミロイド類似体(Yeast Amyloid Analogs)
ヒトの疾病のいくつかがプリオンという伝染性タンパク質によって伝 搬されると考えられている。酵母において、同様なプリオン様の現象 が発見された。Taylorたち(p1339)は、試験管内でUre2タンパク質 がアミロイド様の構造を形成できることを示すことによって、Ure2 タンパク質のプリオン様の形質を確認し、展開した。このようなアミ ロイド構造は、動物のプリオン疾病の重大な特徴である。(An)
グリアの結合(Glial Connections)
グリア細胞がニューロンの活性に直接に影響するが、このように影響 する因子が同定しにくかった。YuanとGanetzky(p. 1343)は、ショ ウジョウバエにおいて、axo遺伝子が、グリア細胞によって分泌され るニューロン細胞表面タンパク質のneurexinスーパーファミリのメ ンバーをコードすることを報告している。axo遺伝子を欠乏する変異 体は、高温で麻痺するが、この麻痺が欠損の軸索情報伝導に関与す る。(An)
バイオテロリズムとの闘い(Fighting Bioterrorism)
バイオテロリストによる攻撃の潜在的な可能性に注目している多くの アナリストは、そうした攻撃は、「あるかどうか」ではなく「いつ起 きるか」が問題だ、とコメントしている。本号のレビュー記事で Hendersonは、用いられる可能性があるエージェント(媒体)につい て論じ、またより一般的に考慮されている化学物質ないし核を用いる エージェントと生物学的エージェントとの違いに焦点を合わせる必要 を論じている(p. 1279)。こうしたことを考慮するのは、将来の脅威 に対する効果的な「初期対応」チームおよびインフラを作り上げるた めに必要だからである。(KF)
エアロゾルの効果(Aerosol Effects)
対流圏にあるエアロゾルの粒子は、自然に(たとえば火山によって、 また海水の塩分によって)生み出されたり、汚染によって生み出さ れたりするが、地球を冷やす効果があり、そのことによって温室効 果とは逆の効果をもたらす。しかし、エアロゾルは大気中では短い 寿命しかなく、その元となるものの種類も多く、世界的な分布のあ り方も複雑なため、その地球への効果を予測することは難しかった。 エアロゾルの地球への効果を評価するため、Haywoodたちは、異 なった効果を有する種々のエアロゾルを換えながら行なった一連の 地球規模のコンピュータ・シミュレーションと、地球による日射の 反射の人工衛星からの観測データとを比較した(p. 1299)。この結 果、エアロゾルの効果とその分布に関する地球上での定量化が可能 になった。海洋の風の強い領域では海水の塩分がとくに重要であり、 汚染によるエアロゾルにもひけをとらないものである。[Kiehlに よる展望記事も参照のこと](KF)
マントルの霜降り(A Marbled Mantle)
玄武岩は、地球表面に噴き出した溶岩がとるもっともありふれた形 態であり、さまざまな玄武岩の組成の違いはマントル上部の組成を 突き止めるために用いられる。というのも、玄武岩はマントルの岩 石が溶けたものから形成されるからである。最近の地球化学的な証 拠からは、比較的均質的なperidotiteに富んだマントルがさまざま な圧力のもとで融解したという説の方が、不均一な、peridotiteと pyroxeniteに富んだマントルが等圧的に融解したという説より正し そうである。Blichert-Toftたちは、モロッコのBeni Bouseraで 得られたgarnet-pyroxenitesのハフニウム同位体の組成を測定し、 放射性ハフニウム176の割合が海洋性玄武岩にくらべずっと大きな 散らばりを示ことを発見した(p. 1303)。この測定結果とその他の 組成データに基づき、著者たちは、マントルは、引き込まれた海洋 の地殻が融解した残留物と、これに引き続いて豊かなマントル peridotiteに包み込まれたpyroxeniteの混合物であると、示唆し ている。つまり、多くの玄武岩は純粋なマントルから溶け出た一次 物を表すものではなく、むしろ変化した、組成的には層をなしたマ ントルの融解を示しているのである。(KF,Nk)
情報伝達のオンオフ(Helping Turn Signals On and Off)
アデニリルシクラーゼ(Acnylyl cyclase: AC)は第2メッセンジャ ーであるサイクリックAMP (adenosine 3,5-monophosphate: ア デノシン3,5-一リン酸)を作る酵素であり、Gたんぱく質(ヘテロ三 量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質)Gsαとの相互作用で 活性化する。Scholichたちは(p. 1328)、(V型の)ACとの相互作用 でGsαのグアノシン トリホスファターゼ 活性を増強し、その結果 としてGsαを不活性化に導いたことを発見した。しかしながら、A CとGsαの相互作用はグアニンヌクレオチドの交換を増強し、2-ア ドレナリン受容体による刺激を模倣するペプチドとの相互作用に よって誘発されるGsαの活性化を増強する。このように、ACと Gsαの相互作用は複合体を通して受容体の情報伝達を敏感にし、ま た受容体からの刺激が取り除かれると即座にGsαの情報伝達を終結 させる。(Na)
爆発する星の中のカーボンダスト (Carbon Dust in Exploding Stars)
グラファイトやダイヤモンド、炭化珪素のような炭素を元にする粒 子が、隕石中に見出されている。これらの粒子のいくつかを同位体 分析した結果、それらは超新星中で形成された可能性があることが 示唆されている。これらのモデルの問題の一つは、炭素は酸素と反 応して一酸化炭素(CO)が形成されることである。この一酸化炭素は ガス状のため、特別の環境下を除いて超新星中では炭素を元とする 固体の形成は困難である。Clayton たち (p.1290) は、炭素を元と する固体は、高エネルギーの電子とイオンが実質的には CO 形成の メカニズムを妨げるため、何ら特別の制限がなくとも超新星中で凝 縮することができることを示した。この非平衡の原始状態の炭素は、 急速に固体粒子に凝縮可能であり、それらは終局的には超新星より 放出される。(Wt)
光の貯蔵(Light Storage)
光の信号を蓄積し、後になって検索できる方法があれば、光学的な 信号処理にとって有益であろう。これを直接行なうこと(たとえば、 鏡や光ファイバーのループで)は、大きな機構が必要であり、また、 遅延時間は固定されたものとなる可能性がある。Zimmermann た ち (p.1292) は、どのようにしたら光のパルスを絶対温度100°で 量子井戸構造中に「貯蔵」できるかについて示している。光のパル スは、空間的に離れた電子とホールの対を生成する。30μsecの長 さの遅延の後(この時間は、通常の電子-ホール対の崩壊時間の10の 5乗倍のオーダーである)、その井戸を横切る電圧変化により電荷が 解放され、それは光のパルスを再放射する。著者たちは、寿命を延 ばし、室温動作を達成するための方法について示唆している。(Wt)
セラミック破損の予知(Anticipating a Ceramic Failure)
ガラスはその表面に最初に入った刻み目の形状でカット(壊)される。 しかし、はるかに小さな表面ダメージすらセラミックスと同じように 脆い材料となり、構造面上での応用の際には破局的な破損の原因とな る。更に悪いことは、破壊応力が同じ材料でも場所によって広範囲に 変化する。ファイバーやウィスカーを添加することによってクラック の伝播を遅くしたり、破壊強度の可変性を減らすことが出来るが、こ の方法はしばしばその材料の全体的強さを減少させる。Greenたち (p.1295;Hellemansによるニュース解説参照)は、イオン交換によっ て石英ガラスの表面応力分布を変えることによって強さを更に大きく し、強度の可変性を更に少なくすることが出来ることを示している。 たった一つのクラックによってで前兆なしに破損するのではなく、破 損前に材料は多数のクラックを生じることから、結果としてその材料 の検査や交換が可能となる。(KU)
(テロメアが)露顕して死ぬ (Death from (Telomere) Exposure)
生物の染色体末端は、何故ゲノム中のDNA損傷場を探す様々なチェッ クポイントで検知されないのだろうか?Karlsederたち(p. 1321)は、 ほ乳類の細胞中でテロメア結合タンパク質,TRF2がこのようなチェッ クポイントからテロメア(染色体末端にある繰り返し配列)を”覆い隠 して”いるらしいことを示している。TRF2を阻害すると、チェックポ イントタンパク質p53とATMが関与するアポトーシス経路によって急 激な細胞死を起こす。このような結果は、ある細胞タイプではテロメ アの機能不全は老化というよりむしろアポトーシスを誘発する可能性 を示唆している。(KU)
雲を、作られる前に見つける (Finding Clouds Before They Form)
どうして雷雨は、気象前線(weather front)に沿って、ある場所では 形成されるが、別の場所ではできないのだろうか。この理由は、大気 中の水蒸気の分布における微妙な多様性が反映しているものと思われ る。水蒸気は、地球上の主要な温室効果ガスの1つであるが,温度や 大局的な気候を大きく支配している。Hanssenたち(p.1297)は、大 気中の水蒸気の分布をマップしすることにレーダー干渉計をどのよう に用いることができるかを示した。そして雲の形成のいろいろな変種 の効果や気象前線のダイナミクスについて議論している。(TO)
チベットを持ち上げる(Holding Up Tibet)
インドとアジアとの大陸同士の衝突により、5000万年前に高くそそ り立つチベット高原が造られた。Kosarevたち(p.1306)は、遠距 離地震P波を用いて、チベット高原を横切る地殻と最上層のマントル の構造の画像を描いた。このP波は、構造的特徴の変化によってS波 に変換される。そして彼等はこれらの画像から、インド岩石圏内部 における連続して北に傾斜した構造(north-dipping structure)は 安定したサブダクション(プレートのもぐり込み)と関係しているこ と、そして、アジア岩石圏内部における南に傾斜した構造は大陸間 の衝突によって崩壊された軟弱な地帯を示していることを、推論す ることができた。これらの構造は、インド岩石圏の流動力学(レオ ロジー)と組成が、アジア岩石圏とは違っていることを示している。 (TO)
化石の欠如は本当か?(Missing What Wasn't There?)
分子時計の推定による主要な動物群多様性の時期は、最古の化石が 示す時期よりもはるかに古い。Footeたち(p.1310)は、このギャ ツプが化石の欠如によるのかどうかを調べる目的で種の発生、進化 そして保存のモデルを提供している。保存に関しては既知の化石記 録に基づいてキャリブレートしている。彼等は、特に、胎盤を持っ たほ乳動物へこの方法を適用している。このほ乳動物の場合、分子 の多様性によって推定した時期は1億2千万年前であり、化石が示 している最初の出現時期、ほぼ7千万年前よりはるかに古い。その 解析によると、分子時計が示す古い発生のほうが疑わしいことを示 唆している。可能性のある説明の一つは、分子進化の速度は種分化 の事象の過程で加速されているということである。(KU)
もう少し予測可能なマグマ(More Predictable Magmas)
少量の水がマグマ内に入ると密度と粘性が変化し、その結果、マグ マの上昇や混合などの動態が変化する。OchsとLangeは(p. 1314、 Speraの展望も参照)、過去に測定された無水珪酸塩のデータに加え、 新たに3ヶ所の含水溶岩の密度を測定した結果、水を含んだ珪酸塩の 密度は珪酸塩の組成、水の特殊化、水の濃度に無関係であると決定 した。彼らは、この独立性のおかげで、マグマの組成情報を用いず に熱水系におけるマグマ生成プロセスのモデル化を行うことが出来 た。(Na)
Smad3 の信号交差点(Smad3 Signal Junction)
ペプチド成長因子のトランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)と ステロイドホルモンのビタミンDは、遺伝子転写に協調効果をもた らすことがある。Yanagisawaたち(p.1317)は、このような効果に ついての分子的な解釈を得た。Smad3タンパク質は、活性化 TGF-β受容体に結合すると同時に、これによってリン酸化される。 それからSmad3はSmad4と複合体を形成して、これが核に移行す る。核においては、SMADは転写因子として、あるいは、転写の活 性化補助因子としての役割を演じる。ビタミンD受容体は、活性化 補助因子とともに、ビタミンが結合しているとき転写制御因子とし て働く核受容体の1つである。Smad3 (しかし、他の SMADでは ない)は、ステロイド受容体の活性化補助因子-1ファミリーの多く の1つのメンバーと相互作用することが示された。この相互作用は、 ビタミンDによって引き起こされる転写性活性化の刺激の過程での TGF-β経路において観察される効果を説明しているようだ。 (Ej,hE)
スレオニン と セリンのリン酸化を認識すること (Recognizing Threonine and Serine Phosphorylation)
細胞内の情報伝達に関与する多様なタンパク質は、以下の特徴を持っ たWW領域を含んでいる:2つのトリプトファン(W)残基を持ってい ることと、および、タンパク質と結合する相棒中のプロリンに富む配 列に結合すること。Luたち(p. 1325;および、Barinagaによるニュー スストーリ参照)は、ペプチジル-プロリル異性化酵素のPin1(この Pin1は、有糸分裂中にリン酸化されるある種のタンパク質と結合する) 中のWW領域の機能と、ユビキチンリガーゼのNedd4(このNedd4は、 リン酸化に依存して、基質に結合・ユビキチン化する)の機能を解析 した。彼らによれば、これらタンパク質のWW領域は、セリンやスレ オニン残基上でリン酸化される特定のタンパク質やペプチドには結合 するが、脱リン酸化した相棒とは結合しない。酵母アッセイによって、 WW領域に変異があると、ヒトのPin1の機能は失われることが分かっ た。このように、WW領域は、セリンやスレオニン上でリン酸化され るタンパク質を特異的に認識できるように見える。これは、SH2 (Src-homology2)領域がチロシン上でリン酸化されるタンパク質を 認識するのに似ている。(Ej,hE)
Gタンパク質のための小さな信号? (Smaller Signals for G Proteins? )
細胞表面上でリガンドが受容体と結合すると細胞内の信号が活性化し、 これがタンパク質-タンパク質の相互作用によって伝達される。Gタン パク質(ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質)と結 合する受容体の場合は、Gタンパク質βγサブユニットはホスホリパー ゼC-β2(PLC-β2)のようなエフェクターと相互作用をし、また、活 性化させる。Buck たち(p. 1332)は、PLC-2βの活性化に関するGβ サブユニットからのペプチドの効果を解析し、主として信号伝達や一 般的タンパク質結合に寄与している特定領域を示した。Gβタンパク質 の小さな領域が、完全なタンパク質の領域と類似した効力でPLC-2β を活性化することができると言う実証から、このようなGタンパク質を 経由しての情報伝達を変調するような小さなアゴニストやアンタゴニス トを合成することが可能であろうと思われる。(Ej,hE)
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