AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 19, 1999, Vol.283


T細胞の応答をモデル化(Moderating T Cell Responses)

樹状細胞による抗原提示と、T細胞の援助という人間の免疫応答に 決定的な制御している2つは、つながっているようだ。Rissoanた ち(p. 1183; およびBottomlyによる展望記事)は、2つの既知の樹 状細胞(DC)のサブセットは機能的には異なるもので、ヘルパーT細 胞の異なるサブセットの発生を誘発し、その結果生物体がどんな型 の応答をすべきかを制御している。彼らによると、ヘルパーT細胞 のTH2サブセットによって産生されるインターロイキン-4は、TH2 の発生をはぐくむ樹状細胞を殺すこと、そしてインターフェロンγ が同じ樹状細胞を破壊することから保護することも報告している。 このフィードバックのメカニズムは応答後期にヘルパーT細胞がさ らに発生するのを制限する上で重要である。(Ej,hE)

性の選択と感覚の開拓 (Sexual Selection and Sensory Exploitation)

M. J. Ryan(Reviews, Evolution of Sex, 25 Sept., p. 1999) に よれば、「特性と好みは、遺伝的相関を通して一緒に進化している とは限らず、雌の特定の雄の形質に対する交配性向は、特定の形質 に対して雌がどのように振る舞うかに関係なく、適応や制約の影響 を受ける。また、レシーバ(雌)側に存在する(好みの)バイアス によって、雄の情報伝達のフェノタイプの多様性が説明できる」。 P. W. Sherman とH. K. Reeveは、これにコメントして、雌側に存 在すると推定されている「好みのバイアス」は、「同種の雄の優れ たな形質を選択することによる優位性に起因し、継承されている」 ものと思われる。彼らは魚類やカエルの進化におけるこのような例 を挙げながら、研究を引用し、その種に対して、「雌が雄をえり好 みすることに対する利益(すなわち、良い遺伝子)に対しては膨大 な直接・間接の証拠がある」と結論している。これに応えて、 Ryanは、そのいくらかは同じデータを論じながら自分の解釈を支持 し、「雄の使う特定のシグナルによって雌の注意を勝ち取ることを 表現するために`開拓(exploitation)`」と彼が表現した用語の妥 当性を擁護している。彼は、「交配における雌の好みに伴う多くの 応答のバイアスは、適応性交配選択の結果から来るものではないが、 性的に選択されるシグナルを適切に進化させるには重要なことであ る」との立場をとっている。この全文は以下を参照のこと(Ej,hE)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/283/5405/1083a

星間始原物質(Interstellar Starting Materials)

多環式芳香族の炭化水素(PAH)は星間空間(ISM)のいたるところに 存在し、低温で高密度の分子雲のアイス中にトラップされている。 Bernsteinたち(p.1135;Ehrenfreundによる展望参照)はラボ実験 により、ウォターアイスにトラップされたPAHが紫外線に曝された とき、より複雑な有機化合物が出来るのかどうかを調べた。赤外ス ペクトルによると、PAHは酸化されてケトン,エーテル,アルコール の化合物に変化し、又、還元によって部分的に水素化された環を持 つ化合物を形成する。星間物質PAHは、惑星や宇宙のサンプル中に 見い出されている、よ阨。雑な有機化合物(そして多分生体物質)の源 であろう。(KU,Nk)

周期的な火山活動による有害鉱物の生成 (Making Minerals in a Cyclic Volcano)

1995年に始まり、今日まで続いているモンセラト(スペイン)の Soufriere Hillsの噴火は島を壊滅させ、住民の大半が避難させら れた。Voightたちは(p.1138)、噴火活動、地震、溶岩ドームの生 成などの周期的な振る舞いと、どのように、この周期的パターンが 短期的な予測とマグマの活動についての理解を助けるかについて記 述している。もう一つの予想外の火山に関連する災害として、何ヶ 所かの噴煙の中に、健康上有害であることが知られている結晶性シ リカのクリストバル石が大量の含有率(最大24%)で含まれているこ とだった(微小なシリカは肺に入ると珪肺を起こす危険があるとい われている)。Baxterたちは(p. 1142)、このクリストバル石は、 本来かなり深部からの噴火の結果でなく、溶岩ドームの崩壊で発生 することを記述している。このようにクリストバル石の生成は溶岩 ドームの中で行われる。(Na,Og)

奇妙に跳ね返って(Taking a Strange Bounce)

粒子に付随する運動量がその速度と同方向に作用するとき、運動量 は速度と平行であると言われる。それゆえ、テニスボールがラケッ トをたたくと、ラケットは後向きに跳ね返る。しかしながら、超流 動流体ヘリウム4は、負の運動量を持つロトンと呼ばれる粒子を含 むと予言されている。この粒子は、速度と反対方向の運動量を有し ている。テニスの比喩によると、もしボールが反平行の運動量を 持っていると、ラケットはなおボールとの衝突で反挑するだろうが、 我々の直感に反して前方に反挑するであろう。Tucker と Wyatt (p.1150) は、角度分解量子の蒸発の実験からこれらの粒子の存在 を証明している。(Wt)

ミクロポーラスな材料の範囲を拡張する (Extending the Range of Microporous Materials )

触媒や分離体として有用な結晶性ミクロポーラス物質は、通常酸 化物(シリカやアルミのようなもの)や金属リン酸塩から作られて いる。しかしながら、金属硫化物、或いは有機金属化合物を用い て別のミクロポーラス化合物を作ろうとする以前の試みはうまく いかなかった。その理由は、孔を造るために使われた鋳型を取り 除くと、孔を形成する望ましい格子がすべて埋められたり、そう でなければ脆く壊れてしまうからである(FereyとCheethamによ る展望参照)。開口構造体を持つ硫化物をつくろうとしても、硫 黄は酸素に比べ四面体の頂角が異なるために通常では密につまっ たものが出来てしまう。Liたち(p. 1145)は、より大きな四面体 ユニットの集合体にもとづいた考えのもとに、直径2.6nmの内部 連結チャンネルをもつ安定なインジューム硫化物の物質が出来る ことを示している。このような硫化物の半導体特性は、結果とし て異常な電気特性を示す。Chuiたち(p. 1148)は、エタノールの 存在下で硝酸銅とトリメシン酸(ベンゼン−1,3,5-トリカルボン 酸)の水熱反応を用いて、孔径1nmで得られた空隙率が40%の開 孔構造体の物質をつくっている。その物質は240℃まで安定であ り、中心の銅に結合した水はピリジンに置き換えることが出来る。 (KU)

キャッチ22症候群;CATCH-22の遺伝的手掛りHAND (A Genetic HAND on CATCH-22)

CATCH-22症候群の患者において、神経冠細胞から由来の組織異 常、特に心臓や頭蓋顔面の欠損が起こり、多くには染色体22q11 の除去が現れる。Yamagishiたち(p1158;Hagmannによる記事参 照)は、ユビキチン結合したタンパク質の分解に関与する因子をコ ードする酵母同族体UFD1Lが除去した領域における重大な遺伝子 である証拠を報告した。マウスにおいて、UFD1Lの発現がdHAND に依存し、dHANDは神経冠成長に関与する転写制御因子であるが、 検査を受けた182人のCATCH-22患者の全員においてUFD1L除去 が検出された。この結果は、ユビキチン依存タンパク分解が神経 冠成長に役割をはたすことを示唆する。(An,Nk)

メチル化の謎(Methylation Mysteries)

ゲノムのDNAにおいて、反復の要素が多く、5'-CpG配列(隣接CG 塩基)もこれに含まれる。このCpG配列のメチル化が転写をサイレ ンシングすることが報告された。以前の研究は、メチル化の主要 な役割が転位因子の修飾であり、これによって不要の活動的遺伝 子移位を防ぐことができることを結論とした。この理論がゲノム 防御モデルと呼ばれてきた。Simmenたち(p 1164)は、メチル化 されたDNAおよびメチル化されなかったDNAの同等な量をもつ生 物体であるウロ脊索動物Ciona intestinalisにおけるメチル化に ついて研究した。制限酵素分析によって、C.intestinalisの遺伝 子の過半数がメチル化され、転位因子がメチル化されなかったこ とを示した。このように、ゲノム防御モデルはウロ脊索動物 C.intestinalisには当てはまらない。(An)

分割された心臓(Hearts Divided)

胚形成時、脊椎動物の心臓は、最初に一本管として発生し、その 後心房と心室チャンバーに分裂する。Baoたち(p 1161)は、ニワ トリにおいて、心臓チャンバー形成に重大な役割をはたしている ような遺伝子を同定した。この遺伝子Irx4は、心室だけに発現さ れ、Iroquoisホメオドメインを含むタンパク質をコードする。以 前、このモチーフが他の組織のパターン形成に関与することが発 見された。Irx4が心房か心室に特定するミオシン・アイソフォー ム型の発現を制御することが発見された。(An)

歩くのか、あるいは飛び跳ねるのか(Walking or Hopping?)

分子モータが微小管に沿って物質を移動させるメカニズムは,こ れまで仔細に調べられてきた.基本的な考え方は,モータは微小 管に沿って"歩く"2つの"ヘッド"を持った伸張した分子であるとい う考えである.この仮説は単一ヘッドのモータは移動できないは ずだということを示唆している。OkadaとHirokawa(p.1152参 照)は、単一ヘッドのキネシン様の分子モータに着目した。彼等 は、それが実際は動かせることを見つけた。しかし、この動きは ランダムで、偏りのあるブラウン運動モデルに合致していた。 (TO)

言語学を使ってRNAを見つける (Finding RNAs--Through Linguistics)

ヒトゲノム解析プロジェクトの大きな難題は、生成された大量の 配列情報に意味を与えることである。あるRNA配列を予測する課 題は、構造的な比較が必要とされるため、さらに複雑になる。 Lowe とEddy (p. 1168)は、酵母菌の1種であるサッカロミセス (Saccharomyces cerevisiae)の完全なゲノム配列から、小さ な核小体RNAの特定のファミリを識別するために、音声認識や言 語学で用いられている確率的モデリングのアルゴリズムを適用し た。その予測は、リボゾームRNAに対するメチル化をガイドする もの(methylation guides)として作用していることが実験的に 確認された。(TO)

象の墓場(Elephant’s Graveyard)

最近になって、北米の動物園における象の保護に対する致死的な 出血性疾患の脅威が明らかになっている。Richmanたちは (p. 1171、Ferberによるニュース解説も参照)、内皮細胞の中で 成長するヘルペスウイルスに関連する細胞学的で分子単位の証拠 を発見した。ヘルペスウイルスはアフリカ象には感染はするが致 死的ではないが、アジア象はそのウイルスに冒されて死んだよう だ。(Na,Og)

明らかにされたギャップ結合(Gap Junctions Revealed)

ギャップ結合は、心臓組織などのような、電気的あるいは代謝的 に結合している必要がある隣り合った二つの細胞の表面上にある 複数のサブ・ユニットによって構成されている。Ungerたちは、 ギャップ結合チャネルそのものの三次元ビューを示しているが、 これはサブ・ユニットがどのように並んでいるかを明らかにして いる(p. 1176;また、表紙参照のこと)。この構造は、細胞の内容 を細胞外環境へ漏出することなしに、ギャップ結合が細胞間の非 制限的な交換を許しているやり方を示すものになっている。(KF)

元気を出させる信号(A Signal to Come On Over)

発達過程にあるニューロンの近傍で発現する neurotrophin は、 ターゲットを探し求めて伸びていく軸索の成長を支援するもので ある。Patapoutianたちは、こうした支援要因の発現を誘発する のはニューロンではなく、むしろそばにある外胚葉であることを 示している(p. 1180)。つまり、外胚葉からの信号、おそらくは Wnt信号伝達タンパク質が間充織における neurotrophin の発現 を促進し、そのことによってその領域を成長する軸索を引きつけ る場所にしているのである。(KF)
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