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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science January 15, 1999, Vol.283
質量に依存しない同位体分別 (Mass-Independent Isotope Fractionation)
ある化学プロセス(反応や拡散)の一部としての同位体の交換 過程には、含まれている同位体の相対質量比が常に反映され る。しかし、いくつかの気体---特に、オゾン、二酸化炭素、 窒素酸化物、一酸化炭素---と、ある種の隕石の粒子や鉱物 は、同位体間で質量に依存しない関係を維持しているように 見える。Thiesmens(p.341) がレビューの中で議論してい るように、質量に依存しない同位体分別を招いたメカニズム はあいまいなままではあるにしても、この効果を、気体の発 生の由来やその湧き出し・消滅に関するトレーサーあるいは 情報提供として用いることができる。このような効果の一例 は、バックグラウンドの水準に比べてオゾンの中の重い同位 体(17Oと18 O)(酸素17と酸素18)が大気中では豊富であ ることである。非対称な分子(16O-17O-18Oのような)は 最大の濃縮を受けている一方、対称な分子(17O-17O-17O のような)はわずかに少なくなっている。この観測結果に対 する多くの説明は、分子の対称性から導かれる運動学的な効 果を用いている。Mauersberger たち (p.370) は、さまざ まな同位体組成に対するある範囲のオゾン選択チャネルの反 応レート係数を報告してる。その結果は、分子の対称性より も衝突過程そのものがその濃縮性を決定していることを示唆 している。(Wt,Nk)
イオの中性水素(Neutral Hydrogen on Io)
木星に最も近い大型衛星であるイオは、衛星の活発な火山活 動と木星の強い磁場との相互作用をとおして、木星の周りに 不思議な酸素や硫黄の豊富なプラズマのトーラスを形成して いる。Roesler たち (p.353) は、ハッブル宇宙望遠鏡のイ メージング分光器を用いて、イオの広がった大気について、 中性酸素、硫黄、水素のライマンα放射の遠紫外像を得た。 酸素と硫黄の時間的空間的な変動を受けていることから、 火山からの噴出は木星の磁場、プラズマあるいはその両方に よって変化しており、また加速されているに違いないことを 示している。イオの各極域に近くに局在した水素の信号は、 予想外のものであり、水素の豊富な極領域の霜、木星磁場に よって極領域に集中した水素の分解、あるいは太陽からの水 素のライマンα放射がイオの表面により反射されることに よって生み出された可能性がある。(Wt)
静かな海はCO2を僅かしか固定しない (Still Waters Fix Least)
温室ガスがもたらす気候変動に関して一般に予測されていた 影響の一つが、温室ガスの一次産生の主要領域である南氷洋 の層状化の促進である。Arrigoたち(p.365)は、このような 変化が二酸化炭素固定によって大気CO2を減らしているプラ ンクトン群集のその能力を減少させていることを示している。 南極大陸沖のロス海でのプランクトン挙動に関する彼らの研 究によって、珪藻類(炭酸塩ではなく珪酸塩化合物をつくる) が高度に層状化した海で繁殖するが、一方はるかに大量の CO2を消費する藻類Phaeocystis antarctica群集は、海水 が深いところと混ざり合っている領域で繁殖していることが 知られた。(KU,Nk)
規則的な多孔性ポリマー(Ordered Porous Polymers)
二つの異なるポリマーを一つの分子として結合させたとき、 異常な構造がしばしば出現する。例えば、棒状とコイル状の ブロック・コポリマーをつくるには、共役系モノマーからな る剛直性のポリマー(ポリフェニルキノリン、PPQのような) とコイルをつくるフレキシブルポリマー(ポリスチレン、PS のような)とを結合させる。JenekheとChen(p. 372)は、 PPQ-PSのブロック・コポリマーをフレキシブルなコイルの みを溶かす溶媒中(二硫化炭素)に入れると、直径数マイクロ メーターのミセルを形成することを見出した。溶媒を蒸発さ せると充分に規則的な多孔性の物質が出来る。その物質は フォトニックなバンドギャツプを持つ材料としての利用の 他、いくつかの応用を持つであろう。(KU)
ヒトは雑食性だった?(An Omnivorous Hominid?)
初期のヒトは、主として、森林地域の果実やC3植物(たとえ ば高木や低木、草本類)を食餌としていたと考えられていた。 SponheimerとLee-Thorpは、アウストラロピテクス・アフ リカヌスの歯のエナメル質から得た炭素同位体の証拠を提示 しているが、それはこの300万年前の祖先が果実や葉以外の ものを食べていたことを示唆するものである(p. 368; また、 Kohnによる展望記事とVogelによるニュース記事参照のこ と)。そのエナメル質は13Cをより多く含んでいて、これは、 より開けた草原に見い出されるC4植物(草やスゲの類)かC4 植物を消費する動物、あるいはそれらの両方を常食としてい たとすると説明できるものである。このように、アウストラ ロピテクス・アフリカヌスは、開けた草原で食事あさりをし たり、何ら道具を使った形跡もなしに小さな弱いほにゅう類 を餌食としたりするなど、多様なものを食べていた可能性が ある。(KF)
DNAにおける塩基間の電子伝達 (Interbase Electron Transfer in DNA)
DNA間の電子伝達の研究によって相反する結論が今までに得 られている。例えば、オングストローム当たり0.1以下という β値(注:電子伝達の距離への依存度を示すパラメータ)で 示されるような超高速の「分子ワイヤ」的な挙動を多数の塩 基対にわたって示すという結論から、タンパク質にもっと代 表的である(オングストローム当たりβ値が1に近い)距離に大 きく依存する輸送を示す結論に至るまで様々なものが報告さ れた。超高速分子ワイヤ挙動を結論としたいくつかの以前の 研究おいて悩まされた課題のひとつは、ドナー(電子供与体) とアクセプター(電子受容体)がDNAにインターカレートしたも のであったことである。KelleyとBarton(p.375)は、アデニ ンの蛍光性類似体(1,N^6-エテノアデニンと2-アミノプリン) を取り込むDNA分子における電子伝達を研究している。グア ニン塩基かデアザグアニン塩基による蛍光消光から推定した 電子伝達速度は、オングストローム当たり0.1から1.0までの β値を示した。著者の結論は、距離依存性がスタッキング相 互作用と反応物エネルギー性によって大きく影響され、同じ 鎖における塩基の間で、電子が優先的に輸送されたことで あった。(An)
HIV-1ワクチンのための抗原決定基を凍結 (Freezing Epitopes for HIV-1 Vaccines)
ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)のエンベロープタンパク 質gp120と宿主細胞との初期相互作用は、ウイルスエンベロー プの立体配置に一連の変化をもたらし、細胞とウイルスの融合 を引き起こす。LaCasseたち(p 357;MontefioriとMooreによ る展望記事参考)は、ウイルスエンベロープタンパク質を発現し ている細胞とCD4と補助受容体CCR5を発現している細胞を同 時に培養したもののホルムアルデヒド固定化を用い、中間構造 を捕獲した。発現細胞上で「凍結」されたこの抗原決定基複合 体を、マウスモデルにおいて免疫原として用いた。現在利用て いる組換え型gp120ワクチン候補と異なって、この融合中間免 疫原は、多種の一次HIV-1アイソレートを中和する抗体の産成 を刺激した。(An)
経路を組立てる(Putting Pathways Together)
細胞が多様な刺激に反応する生化学的情報伝達経路は一般には 多数の反応が直線的につながったものとして解明されてきたが、 このような経路は相互作用し、複雑なネットワークを構成する。 BhallaとIyengar(p. 381;LismanとFallonによる展望記事参 考)は、計算手法を用い、4つ以下の個々情報伝達経路から構成 されたネットワークをモデル化した。モデルのパラメータの全 てが実験から求められた。その結果によると、このようなネッ トワークは、個々の経路になかった特徴をもつことができ、こ の特徴が正常な細胞の制御に重大な影響を及ぼしているかもし れないことを示している。普通の情報伝達経路の組合わせは、 例えば、初期の刺激を外しても、まだ活性化したままであり、 活性化閾値を達成するために、信号の振幅と持続時間の必須条 件として特異的な条件を示した。このような協調現象が、情報 貯蔵の機構となっているのかもしれない。(An)
より良い方への変化(Change for the Better)
一般には有害であり、ときたま有利に働くことがある突然変異は、 適応進化にとってためになる。De Visserたちは、実験室環境に おいて進化する細菌集団における突然変異の発生率と適応進化の コースとの間の複雑な関係を詳細に調べた(p.404)。小さな、よ く適応した集団では、その進化は、新たな突然変異が生じる比率 によって限定されている。大きな、適応が不十分な集団では、新 たな突然変異の発生率は、進化の率にほとんど影響を与えない。 このように、変異しやすい表現型は、有利でありうるのは、適切 な環境においてなのである。(KF)
免疫欠乏性の関連(Immune-Deficiency Link)
ブルートンのチロシンキナーゼ (Bruton’s tyrosine kinase: Btk)の欠乏しているマウスとヒト は第一にB細胞の発生と血清免疫グロブリンの生産に関与する免疫 不全を引き起こす。鈴木たち(p. 390)と、Frumanたち(p. 393)は、 ホスホイノシチド-3キナーゼ(phosphoinositide-3 kinase: PI3K) 中の調節サブユニットであるp85が欠乏性のリンパ球を持つ変異体 のマウスを作り出した。これらのマウスはBtk欠乏性マウスと同様 の表現型を持っていた。(Na)
注意欠乏児の矛盾 (Hyperactivity Paradox)
注意欠乏症(attention-deficit hyperactivity disorders: ADHD) の子供を治療するのに長年精神刺激薬が用いられてきた。この治療が 導入されたのは経験的観察によるものであり、この逆説的な効果を理 解していた訳ではない。Gainetdinovたちは(p.397、Marxのニュー ス解説参照)、ドーパミン輸送体遺伝子の欠乏したマウスを分析した。 これらのマウスはADHD症の子供たちと驚くほど類似の行動を示し、 且つ精神刺激薬により穏やかになるようだ。この矛盾した効果はセロ トニン作動性神経伝達に依存している。これらの発見は、子供たちの 間に広く広まっているこれらの行動欠陥に対する新しい治療法を開発 する有用なモデルを提供しているのかもしれない。(Na)
大麻、アヘン、そして、その報いのメカニズム (Cannabis, Opiates, and Reward Mechanisms)
大麻を使った後、それに引き続いてアヘンを使うようになるという、 両者の繋がりについて議論が活発である。Ledentたち(p. 401)は、 中枢カンナビノイド受容体のCB1を欠如する変異体マウスを使って 解析した。これらの動物は大麻の誘導体のどれにも反応せず、典型 的なCB1受容体を介した効果のどれも観察されなかった。アヘンに 関しては行動に現れる予想外の効果は見られなかったが、変異を持 つ動物では習慣性がより弱く、退薬症状はずっと減少した。あたか もCB1受容体はオピエート中毒への身体的依存の徴候に関与してい るように見える。この知見は、薬物中毒に至る過程の理解を深める であろうし、薬物中毒と闘う新しい戦略を開発するのにも役立つで あろう。(Ej,hE)
ゆっくりと着実な攪拌(Slow but Steady Mixing)
拡散率は、一般に小さな値であるが、鉱物の転移や元素の分配を左 右することによって、大きなスケールでの化学プロセスや不均質化 には重要な影響を与える。Chakrabortyたち(p.362)は、地球の上 部マントルの主要成分である、カンラン石(olivine)とその高圧形態 であるワヅレアイト(wadsleyite)における鉄、ニッケル、マグネシ ウム等の陽イオン拡散を調べた。ワヅレアイト中の拡散は、カンラ ン石中よりも急速であることがデータで示された。その結果、この 化学的均質化は、約400から680キロメートルの深さにある転移ゾ ーン(transition)よりも浅い領域の方が化学組成は均一であろう。 (TO,Nk,Tk)
細胞の形質転換を促進する(Fostering Cell Transformation)
fosのプロトオンコジーンは転写制御因子をコードするが、この遺伝 子が不適切に発現された場合には細胞形質転換を起こす。細胞の形質 転換のエフェクターとして機能するFosの標的遺伝子のためのスクリ ーニング中で、Bakin と Curran (p.387)は、DNA 5-メチルシトシ ン転移酵素をコードする遺伝子であるdnmt1を同定した。したがって、 Fosは、DNAのメチル化の改質を通じて、直接的に、あるいは間接的 に遺伝子発現を制御していると思われる。(Ej,hE)
周口店における火の使用の証拠 (Evidence for the Use of Fire at Zhoukoudian)
北京市郊外の周口店は、ヒトにより火を取り扱ったことを示す最古の 信頼できる証拠がある地点として、広く知られている。 China S. Weiner たちがその地点での最初の考古学的層位 (archaeological horizon)である第10層にあるその証拠を再検査し たところ、いくつかの石器とともに焼いた骨と焼いていない骨が見つ かった。しかし、灰や残り炭は検出されなかった。つまり、燃焼を示 す間接的な証拠は存在するが、人類が火を扱ったことを示す直接的な 証拠ではない。(TO,Nk)
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