AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 1, 1998, Vol.280


RNAレベルでの大混乱(Wreaking havoc at the RNA level)

筋緊張性 ジストロフィーは、CTGの配列がタンパク質キナーゼ遺伝子の DMの非翻訳領域に1つ追加され、伸長することによって生じる、優位に 遺伝される神経筋の病気である。伸長したDM対立遺伝子の転写物はDM 細胞の核の中に蓄積しているが、これらの転写物がトランス-優性の病原 性効果を発揮するメカニズムについては良く分かっていない。 Philips たちの研究は(p. 737; およびSingerによるコメント, p. 696)、RNA結合 タンパク質のCUG-BPが心臓のトロポニンT(cTNT)遺伝子の選択的スプ ライシングを制御することによって決定的な役割を演じているらしい可 能性があることが示しているが、cTNT遺伝子はDM細胞で壊される。 この異常なDM転写物はCUG-BPの正常な機能を妨害し、そして、このよ うにして、このタンパク質で調整されている他の遺伝子の発現を変化さ せている可能性がある。(KF,hE)

特許と腐敗(Patent and perish? )

天然物資源のような物理的な資産を共有すると、この資産を使いすぎて、 破滅的な結果になることが30年前、Hardinによって指摘されている (p.682のエッセイ参照)。 HellerとEisenberg (p. 698)は、そのレ ビュー記事のなかで、知的所有権についての類似した効果について触れ、 生物医学研究分野の特許手続きは、希少価値のある知的所有権の「非共 有化」を招き、特許権を所有する多数の者が、互いの権利が抵触する結 果、乏しい知的資源がしようされないまま他者の市場参入を互いに妨害 する結果になりうることを議論している。 Doll (p. 689)は、政策に関 するコメントの中で、30年から40年前、ポリマーの研究において類似 の事柄が生じたが、技術革新を阻害することはなかったし、DNAの特許 を認めることは、企業が資本を集め、投資を保護するために必要である とともに、新しく得られた情報を公開するのに役立つであろうと論じて いる。(Ej,hE)

孔の中で整列して(Ordered in the pores)

オングストローム・オーダーの孔を持つ工業的に重要な触媒である ゼオライトであるが、これを補完する形で、より大きなナノメート ルサイズのメゾポーラスな材料が最近見つかり、これによって、よ り大きな分子の反応の触媒作用を利用することが可能になった。 Zhouたち(p.705) は、ルテニウム・カルボニル・クラスター化合物 を、メゾポーラスなシリカの空洞に入れ、円筒状の孔列に平行に、 あるいは垂直に、精度良く並んだクラスター鎖を作れることを示し た。この整列によって、触媒活性のある材料を大量に装填すること が可能になった。(Ej,hE)

数による力(Strength in numbers)

シグナル伝達から薬のデザインに至る事柄において重要であると 思われる、受容体-リガンド結合の協同効果に焦点を当てた2つ の報告がなされている。多価のリガンド-受容体相互作用は、その 結果として、同等な一価系よりもより強固な結合となるであろう。 Raoたち(P.708)は、バンコマイシンと D-Ala-D-Ala (D-アラ ニン-Dアラニン)に基づく三価のリガンド-受容体対をデザインし、 この結合は、等価な一価の結合だけでなく、小分子の強結合の基 準となっているビオチン-アビジンよりも遥かに強いことを示した。 協同結合は、1つの分子が、もう1つ別の分子に、単量体としてで はなく、二量体としてより強固に結合するような、分子認識にしば しば適用される。 Williamsたち(p.711)は、核磁気共鳴データを 使って、一連の糖ペプチド抗生物質単量体と二量体、およびその適 当なリガンドとの相互作用を解析した。リガンド結合の自由エネル ギーは、リガンドが無いときの二量体化の強度に密接に関係してい る。緩やかに結合した二量体は、リガンドに結合する際、二量体の 界面を「締め付ける」ことで自由エネルギーを獲得し、強固に結合 した二量体は、単量体と比べて、多くの場合、リガンド-抗生物質 界面の「締め付け」によって自由エネルギーを獲得する。(Ej,hE)

DDTの分解(DDT degradation)

殺虫薬のDDTは、自然環境において脱塩素化して、副生物のDDEに 転換することが知られており、このDDEは安定で持続すると思われ ていた。DDTとDDE、そして、他の関連化合物は全体として、いく つかの地域において環境問題を提起している。 Quensenたち (P.722)は、実験室での研究によって、海洋堆積物中において、 DDEは嫌気性条件下で細菌によって更に脱塩素化が進む結果、もは や自然環境で安定ではないことを示している。(Ej,hE)

ストレス下にある表面(Strained surfaces)

結晶表面の原子は、バルク内部の原子に比べて、よりストレスが 強いことがあるが、原子が再配列した表面でもなお、ストレスが 強く残っていることがある。このような、ストレスを有する場合 は、ある種の気相の吸着に影響が生じる。 Gsellたちは、ルテニ ウムの(0001)表面直下にアルゴンのバブルを挿入することで、 ストレス下にある表面への気相からの吸着感受性を調べた(p. 717)。 バブルより上方の層は、通常表面の端点原子に比べてストレスが 大きい。酸素は、バブル層の上方で選択的に吸着され、一酸化炭 素は、テラス周縁部で、よく吸着されたが、このことは表面に加 えられたストレスの結果として吸着エネルギーの差が生じること を示している(ちょうど、吸着に伴う結晶表面のストレスの逆の プロセス)。(KF,Ej)

より大きな獣とやっていく(Coping with bigger beasts)

コープ(Cope)の法則によれば、動物の系統は進化につれて体の 大きさが増す傾向にある、と言われている。しかし、ほとんどの 研究結果は、この法則を支持するような結果を示さない傾向が あった。Alroyは、新生代の北アメリカの哺乳類の大量の試料を 利用し、体重とそれに関連するコープの法則の調査を行った (p.731).その結果は、新しい種の体重は同じ属に属する古い種に 比較して、約9%大きい、ことを示している。大きな哺乳類は、 そのザイズを劇的に増加させるが、このような傾向は、小さな哺 乳類でははっきりしなかったことである。新生代の哺乳類の進化 は、より大きな種を好む傾向をずっと維持してきたものらしい。 (KF)

深みにおける急激な変化(Rapid changes below)

海洋表面の水の循環と大気の循環は、最終氷河後退期を特徴づける 気候の大変化の初期の数年ないし10年間に、大きく、急速に変化し た。この気候の変化は、熱塩(thermohaline)循環海水の垂直循環) の変化をも意味してきたが、深海の循環においてそのような急激な 変化があったとする証拠はこれまで欠けていた。Adkinsたちは、 この時期の北大西洋のおよそ1800メートルの深さで成長した深海 性サンゴを調べた(p.725;表紙、およびKerrによるニュース記事参 照、p.679)。サンゴの年代測定は、トリウム-230によって、独立 に行った。そのサンゴの様々な部分について、カドミウムとカルシ ウムの比率測定と、炭素14による年代測定を行い、これによって氷 河後退期の深海における循環率の変化を得ることができた。これら サンゴの30年、ないし160年の寿命の間に、炭素14による年代測定 で、急激かつ大きな変化が複数回生じていた。このデータが意味する のは、深海における循環は、海洋表面、および大気の変化に伴って、 年の単位で変化する、と言うことである。(KF)

南から始まる(Southern start)

気候記録によると、一貫して南半球(特に南極で)は、北半球より 氷河期の終わりには早く暖かくなり、氷河期の初期には早く冷却 する。この問題は複雑である、なぜなら、もっとも冷却するのは、 この時期の北半球の最差運動に関連して夏の勢いが減退すること に関連していると思われるが、同時期に南半球では夏の勢いは最 大となっている。Kimたちは(p.728)、大気と海洋の連携モデル を使い、南半球の初期における影響の受けやすさ(感受性)は最 差運動による太陽の勢いと、南極近海の季節性の海氷のサイクル との相互作用で説明が出来ることを実証した。夏期には南極近海 の海氷は融解温度に近く、軽微な太陽の勢いの変化を増幅するの である。(Na)

心筋症遺伝子(Cardiomyopathy gene)

心不全によって米国では年間700,000人ものひとが影響を受けて おり、そのための医療費は100億ドルから400億ドルに達してい る。Olsonたち(p.750)は、遺伝性心不全である自然発生性拡張性 心筋症は、心臓アクチンをコードしている遺伝子のミスセンスの 変異に関連していることを見つけた。この結果から、力の伝達欠 陥が筋細胞機能障害を起こし、そして心不全に至る可能性が出て きた。(Ej,hE)

炭疽毒の標的(Anthrax toxin target)

炭疽は、細菌の炭疽菌(Bacillus anthracis.)によって分泌される 毒で起きる潜在性致死病である。炭疽は、主にはヒツジやウシの ような草食性動物に感染するが、ある状況では人間にも感染する。 炭疽毒は3つのタンパク質成分を持っている。 Duesberyたち (p.734;Straussによるニュースストーリp.676)は、これらの成 分の内の1つの致死性因子はプロテアーゼであり、このプロテアー ゼは細胞内シグナル伝達のキープレーヤであるマイトジェン活性化 タンパク質キナーゼキナーゼ(MAPKK)を分解し、不活性化すること を示した。(Ej,hE)

ビックリ終端(Surprise ending)

Kuタンパク質は、DNA-依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)の 調節成分である。Kuは二本鎖(ds)DNA末端に結合し、dsの破損 修復や、非相同的DNA末端の結合に荷担している。遺伝的および 生化学的解析によって、Gravelたち(p.741)は、酵母Kuはテロメ アのDNAに直接結合しており、染色体末端において、キーとなる テロメラーゼ非依存性イベントであるGテール(G tail)の形成に不 可欠であることを示した。テロメアの末端を結ぶ反応は、ゲノム の安定性にとって有害であるはずであるから、テロメアのKuの正 確な役割は未確定のままである。(Ej,hE)

多様性に光を当てる(Shedding light on diversity)

多くの生態系は生息地の断片化や富栄養化などの人為改変の危機を 迎えており、そのような生態系の多様性を増強するような生態学的 メカニズムを特定することが必要となっている。Collinsたち(p.745、 p.677のKaiserのニュース解説も参照)、多様な草原に放牧された バイソンが果たすであろう積極的な影響について実証した。かれらは 異なる要素を実験的に取り除いた後、多様性を維持するためには、 放牧、又はその変わりの刈り取りが、野焼き(今日の、草原修復の 主要な手段)に加えて必要なことを説明した。放牧と刈り取りは支配的 なC4牧草の日陰を減らし、土壌表面により多くの光が届くようにする。 著者は、この効果がいかに種の多様性が維持されるかを説明している と示唆している。(Na)

複雑さを克服して(Managing complexity)

脳の前頭葉の一部である前側帯状皮質は、一方では、刺激の一部分が関与 しなければならない課題に参加しているが、他方では、正しい応答と間違 えた応答のエラー検出をする比較器としての機能を持っている。Carte rたち(p.747)は、NMRによる機能部位イメージング法の実験に 基づいて、これら2つの見方を調和させ、この領域は課題実行の複雑さを 監視しているのであり、それ自体でエラーを監視しているのではないこと を提案した。特に、前側帯状皮質は、課題実行がほとんど間違いがない状 態であっても、検出可能な応答間で競合が増加すると活性も増加すること を見出した。(Ej,hE)

リボヌクレアーゼP中の原始的なタンパク質 (Primitive protein in ribonuclease P)

リボヌクレアーゼPは、400-ヌクレオチド・リボザイムと120-残基 タンパク質のサブユニットから成っている。この酵素は、伝達RNAと 4.5SリボソームRNAの前駆体のプロセシングを行う。Stamsたち (p.752)は、高い分解能で、このタンパク質のサブユニットの構造を 決定した。このタンパク質サブユニットじゃ架橋反応と一緒になって、 3つのRNA結合モチーフを特徴づける役割を果たす。その1つのモチ ーフは異常な左手系のβαβの交差があり、リボソーム伸長因子G (EF-G)の部分に不思議に類似している。4.5S-rRNAはリボソームに 結合しており、EF-G(これ自体は、タンパク質合成時、メッセンジャ ーRNAに沿ってリボソームの転位を仲介する)を置換しているので、 このモチーフは翻訳の進化の初期に生じたものであろう。(Ej,hE)

ねじれたポリマー(Polymer with a twist)

多くの合成ポリマーは結晶状態、あるいはガラス状態のどちらかを 取ることができるが、多くの応用にとっては、ガラス状態の方が、 その光学的特性(透明性)のために好まれる。ポリエチレンフタレ ート、すなわちPETのような芳香族系のポリマーでは、形成される 状態はポリマーの背骨となる鎖(主鎖)の高次構造に依存しており、 伸張した(トランス)か、覆われている(ゴーシュ)状態かのどち らかを取るが、ガラス状態ではその高次構造を決定するのは困難で あった。Schmidt-Rohr(p.714)たちは、炭素-13の核磁気共鳴を 利用して、ガラス状態のPETのトランス/シスの含有比を決定して いる。そして、材料特性の観点から、これらの結果を論議している。 (Wt)
[注]eclipsedは、立体化学や構造化学などでは 「重なり形」と訳さ れますが、これを文章で説明するのは非常に大変ですし、理解する のはそれ以上に困難です。結論だけもうしますと、それぞれトラン ス形(アンチ形とも言います)、ゴーシュ形、eclipsed(重なり形) が知られており、トランス形はもっともエネルギーが低く安定です。 ゴーシュ形は炭素原子がトランス形から回転して酸素原子どうしが 近づいたため、立体障害がトランス形よりも大きく、エネルギー的 に不安定です(酸素原子は水素原子よりもかなり大きい)。eclipsed と呼ばれる構造は、炭素原子に結合している原子全てが重なり合う (もしくは非常に近接している)ため、コンフォメーションのうち もっとも不安定で、存在確率は非常に少ない。(SO)

パルス磁場を精査して(Probing pulsed magnetic fields)

大きな磁場中に置かれた材料の研究は、通常はほとんど一定の磁場を用い ている。しかし、最近は大きな磁場パルスに実験材料を繰り返し晒すこと にも興味が持たれてきた。ソレノイドに大きな電流を流すことにより、5 ミリ秒のわずかな時間に、50テスラの磁場変化を繰り返して達成す ることが出来る。場の強さのこのような大きな変化を測定することは、磁 力計のデザインの改良を促すことになった。Aksyukたち(p.720) は、ポリシリコンを用いて、磁化に比例する力を測定できる小さな平行平 板状のデバイスを作製した。その装置は、50kHzまでの機械的な周波 数応答を有し、有機超電導体の微小な試料中の量子的な振動の測定に用い られた。そのデバイスの作製は安価であるが、このことは、磁場を与える ソレノイドに大きな応力がかかるため壊れやすく何度も取り替える必要が あることを考えると重要なことである。(Wt)
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