AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 10, 1997, Vol.278


キャップで見分けられる(Recognized by their caps)

T細胞は、ペプチドと結合しT細胞上の抗原受容体にこれを「提示」する主要組織適 合 複合体(MHC)タンパク質によってタンパク質やペプチドを認識する。しかし、T細胞 は 単にペプチドを見ているだけではない--T細胞はある種の脂質や糖脂質に結合するこ と によって活性化され得る。この脂質や糖脂質は、MHC領域にコードされている タンパク質の遠い従姉妹に当たるタンパク質によって提示される。Moodyたち(p.283) は 放線菌由来の糖脂質抗原を同定し、認識には糖脂質のどの部分が決め手になっている か、 詳細な解析を行った。認識には主として糖脂質の親水性キャップが関与している;疎 水性 の尾部に自然状態で生じるような置換には十分安定である。この結果は最近求まった CD1 の構造とも整合している--両方の研究結果とも、深いCD1結合溝が疎水性尾部を受け 入れ るような構造になっており、この尾部は炭水化物のキャップを突き出すことでT細胞 の 標的になっていると言う概念を支持している。(Ej,hE,Kj)

いっしょに、より速く(Faster together)

表面上の原子や分子の拡散は触媒作用にとって重要である。金属の金属表面への 結合のような強く結びついた系では、時折、研究されてきてはいるが、一酸化炭素の 金属上への結合のような弱く結びついた系の研究は、これまではさらに困難であった 。 これは、強く結びついた系に比べて、分子の運動が測定により容易に影響されるから である。Brinerたち(p.257) は、銅の表面の一酸化炭素をSTM(走査トンネル 顕微鏡)を用いて分析した。そして、単一分子の跳躍により、二量体やより長鎖の分 子は、 単量体より速く動くことを見出した。この違いは、活性化エネルギーの相違ではなく 、 むしろ鎖中の振動のエントロピーの減少によるものである。(Wt)

細孔の整列(Pore alignment)

典型的な孔サイズが数ナノメートルの、中規模の細孔を持った(mesoporus)材料は、 より小さな孔径であるために限定されたサイズの分子までしか保持することが出来な い ゼオライトを補う物となっている。しかし、中規模細孔材料を大規模に応用するとな ると、 しばしばマクロな長さにまで孔が整列していることが求められるが、これは容易には 達成 できない。Tolbertたち(p.264)は、前駆物質として液晶を使い、これを磁場中で整列 させ ると言う戦略を考案した。即ち、処理を行っている間は磁場によって整列を保持する ことに よってマクロに細孔が整列した中規模細孔材料を作った。(Ej,hE)

イオと木星のフィードバック(IO-Jupiter feedback)

太陽系で最も活発に火山活動を行なっている天体として知られ、木星の最も近くに 位置する巨大な衛星イオは、木星の磁気圏に密接に結び付けられている。Brownと Bouchezは、イオのプラズマ・トーラス(円環)中のイオウ・イオン(S+)及び木星 の磁気圏に結び付いた中性プラズマ雲中のナトリウム原子を6カ月にわたり観測し た(p.268;また、McGrathによる展望記事参照のことp.237)。この期間内にイオでの 火山性の噴火によって大きな噴煙が生み出され、中性の雲のナトリウムを 増加させ、それにやや遅れてイオのトーラスのS+の増加が生じた。この過剰なS+イ オンは非線形的に消失したが、このことは、木星の磁気圏はイオの突発的な火山性 爆発に対する非線形のフィードバック機構で自らを安定させていることを示唆して いる。(KF,Nk)

ガニメデとカリストに捕らえられた有機化合物(Trapped Organics in Ganymede and Callisto)

木星の最大の衛星、ガニメデとカリストは、我々の太陽系の進化の初期に捕えたと おぼしき水でできた氷の証拠をその表面に残している。McCordたちは、人工衛星 ガリレオによる近赤外線スペクトルを用いて、二酸化炭素、二酸化イオウ及び幾ら かの有機化合物が水でできた氷に捕らえられていること、さらに衛星表面上に 含水鉱物があること、の証拠を発見した(p.271)。そうした成分は、惑 星間空間中の氷や木星の磁気圏、いん石など、様々のものに由来する可能性がある。こう した様々のものとスペクトルを照合することは、初期の太陽系において、どのよう にして、またどこに、炭素や水素、酸素が分布することになったのかを明らかにす る助けとなるかも知れない。(KF)

痛みの慰め(Pain relief)

長く続く痛みはひどく消耗させかねないものなので、痛みの刺激に対する感受性は、 重篤な傷害を回避するためには、極めて重要なものである。鋭い痛みは生むが、長 期にわたる痛み、言い換えれば鋭敏な感受性、を回避して痛みの強くないはずの刺 激にする機構、について二つの報告が考察を行なっている(Ladarolaによる展望記 事参照のことp.239)。傷害性の刺激が生じると、サブスタンスP(SP)と呼ばれるペ プチドが遊離され、SP受容体を有するニューロンと結合する。このニューロンが、 急性ないし慢性の疼痛の知覚において果たす役割は、従来はっきりしていなかった。 Mantyhたちは、このたび、これらのニューロンが、毒素と結び付いたSPを適用され ることによって特異的に除去されることを示した(p.279)。これらのニューロンが 除去されることによって、鋭い痛みに対する動物の反応は変化しないが、慢性的な 痛みに対する反応はずっと弱くなる。末梢神経傷害は、痛み(神経傷害性疼痛)に 対する感受性を増加させることがある。Malmbergたちは、この痛みの状態にはプロ テインキナーゼC(PKCγ)の脳-特異的な形態の発現が必要であることを発見した (p.279)。遺伝的に操作されてPKCγタンパク質を欠いたマウスは、急性の痛み には正常な感受性を示すが、傷害後の神経傷害性の痛みに対してはほとんどまった く感受性を欠いていたのである。(KF)

ウイルス感染と血管形成(Viral infection and angiogenesis)

カポジ肉腫ウイルスHHV-8でコードされるタンパク質を継続して分析した結果によっ て、 病因の洞察が可能になり、HIVに対する潜在的治療薬が見えてきた。Boshoffたち(p.2 90) は2つのウイルス性ケモカイン様タンパク質vMIP-Iと-IIが、カポジ肉腫の発生に重 要と 思われる血管の形成を促進していることを発見した。 このvMIP-IIはある種の白血球(好酸球=eosinophils)を活性化し、かつ、引き付ける こと が出来るが、これは主としてCCR3受容体に依っている。この受容体に依るHIVへの感 染は 、vMIP-IIによる抑制にも、最も鋭敏である。(Ej,hE,Kj)

細胞死の間にアクチンを解明する(Unraveling actin during cell death)

プログラム化された細胞死の連鎖反応をスタートさせる信号を、細胞が受け取った時 、 カスパーゼ(caspase)と呼ばれている一連のプロテアーゼが相互切断によって活性化される。他の タンパク質もまた、caspase切断のための基質として役立つ。Kothakotaたち (p.294)は、カルシウムとは無関係にアクチン鎖を切断するタンパク質である ゲルゾリンが、アポトーシスの間に切断されることを示した。この切断は、活性化 されたゲルゾリン断片を遊離させ、この遊離された断片はアクチンを脱重合して、 非制御にモノマーにする。これがアポトーシスに伴う形態的変化の原因となっている 。 ゲルゾリンを欠く細胞はアポトーシスが遅れ、形態上の変化は限られている。このよ うに、 ゲルゾリンは細胞死のプロセスを増強しているように見えるが、これは、多くのヒト の 腫瘍で最近記載されているゲルゾリンの下方制御とつじつまがあう。(Ej,hE,Kj,SO)

プリオン病(Prion diseases)

人間の脳のある不調,顕著にはクロイツフェルト-ヤコブ病は,プリオンが原因で 起こる.プリオンとは遺伝子情報の翻訳以後に(posttranslationally)変化した 感染性のあるタンパク質の蓄積である.狂牛病(またはウシのスポンジ状脳症)もま たプリオン病の一種であり,クロイツフェルト-ヤコブ病のあらたな変種はウシの病気 がヒトへの転移して起こるとされてきた,Prusinerはこの推定上の転移と関係して いるプリオン病の実験的分析から得た証拠を再調査した.(p.245)(Od)

回路を完成させる(Completing the circuit)

単一の有機分子の電荷移動とそのコンダクタンスの測定は、非常に挑戦的な課題であ る。 Reed たち(p.252)は、原子レベルまで鋭く尖った金の電極で作成した機械的に制御できる 遮断接合部の上に、有機分子を吸着させた。電流-電圧曲線とコンダクタンスが測定 できることから、適当な条件下では、単一分子のコンダクタンスは上記のような方法 で 測定可能である。このテクニックは広範囲な化合物と条件に対して適用可能である。 (Wt)

深いつながり(Deep connections)

南西太平洋のフィージー島の近くで太平洋プレートがオーストラリアプレートの下に 沈み込んでいる。この沈み込みによって最も活動的で均一な地震帯が出来ており、 これは上部マントルいっぱいに伸びている。Zhaoたち(p.254)は、これまでに 観測された観測結果に加えて,最近追加配置された 地震計による観測と海底地震計による観測結果を使い、地殻と 上部マントルの地震波の3次元速度分布の構造を画像化した。彼らは地表面における 背弧(back-arc)の火山性地殻からの地震波の低速異常が、上部マントルの100km以上深部の 低速異常と関連していることを見つけた。これらの結果は、深く沈み込んだ地殻が 脱水し溶融することと、沈み込み帯の後の浅部の火山活動と直接関係があることを 示唆している。(Ej,hE,Fj)

初期の中間体(Early Intermediates)

アルカンの強固な炭素-水素結合の、溶液中の金属錯体による活性化の初期段階に ついて、これまで分光学的に研究されてきている。Brombergたち(p.260)は この研究に 対してTp*Rh(CO)2 [Tp*,HB(3,5-ジメチルピラゾリル)3] を用いている。これは、 超高速の分光法による研究ができるほど十分に多くの光化学的な収量がある。 経路に沿っての中間体が同定されており、それらの寿命からそれらが作られる上での エネルギー障壁を見積もることができる。[表紙を参照のこと] (Wt)

何がHITを作らせるのか(What makes a HIT)

多くのタンパク質はヒスチジン三連構造ファミリー(これはHis-x-His-x-Hisモチー フを 含み、ここでxはどのようなアミノ酸であってもよい)の1つであるが、これに特有 な生 物活性を関連付けることは難しかった。これらタンパク質の触媒作用の性質をより良 く理 解しようとする努力の結果、Limaたち(p.286)は、彼らが先に構造決定をしていた酵 素フ ァミリーに所属する2つのタンパク質の結晶を分析した。それは、脆弱ヒスチジン三 連構 造タンパク質(FHIT)とプロテインキナーゼC相互作用タンパク質の2つで、これらが 配位 していない構造だけでなく、基質類似体遷移状態類似、あるいは、ヌクレオチド生成 物( アデノシン一リン酸)に結合している構造についてである。これらの研究からHITタ ンパ ク質はヌクレオチジル加水分解酵素か、トランスフェラーゼ、あるいは、その両方で ある ことが示唆される。(Ej,hE,Kj)

修正される抗体(Edited antibodies)

発生中、各々のB細胞が最終的にはユニークな抗体を発現するために、B細胞の RAG遺伝子は、その免疫グロブリン遺伝子(この生成物が抗体である)の複数の 成分を再配列する必要がある。B細胞が抗原に晒されたとき、その特異性が進化 するように見える。これは、体細胞性変異と呼ばれるプロセスを経て、より 親和性の強い抗体を産生することになる。RAG遺伝子は胚中心で再発現されるが、 ここにおいてB細胞は抗原に出会い、超変異を生じる。しかし、過去の研究に よればRAG遺伝子の発現は活性を伴うとは限らないことが分かっている。 Papavasiliouたち(p.298)は、遺伝子組換システムを利用し、そして、Hanたち (p.301)は正常なマウスを使って、再発現されたRAG遺伝子は、「修正された」 抗体を作るために、免疫グロブリン遺伝子の新たな組替えを誘発することを 示した。(Ej,hE,Kj)
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