AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 5, 1997, Vol.276


間違った信号を発信(Sending out the wrong signals)

フルーツフライの一種ショウジョウバエは、遺伝子トランスフォーマーがその雌雄特性を コントロールする。雄のショウジョウバエの脳のある領域でtra遺伝子が発現すると、性 的配向を雌のものに変化させることがある。Ferveurたちは、(p1555参照)ショウジョウ バエの腹腔内分泌細胞である扁桃細胞(oenocytes)にtra遺伝子を選択的に発現させ、この ハエの表面のフェロモンのプロフィールを雄のものモノエン体(monoenes)から、雌のもの ジエン体(dienes)に変化させた。これらのハエは通常の雄の性的配向を持っているが、通 常の雄とはことなる(あたかも雌のような)求愛行動を誘発する。このことは、遺伝子コン トロールの行動様式には多面性があることを示している。(Na)

我々の月はそんなにひどい氷の世界ではない?(Our not-so-icy moon)

Clementine衛星が月から反射してくるレーダー信号を検出するために利用されていたとき 、月の極地域からの信号に、影になっているクレーター内にある氷の存在が推察されるも のがあった。月の極地域からの信号は、多分クレーターの影によって作られた氷を示唆し ていた。Stacyたち(p.1527)は、Areciboレーダーシステムを使って,Clementine実験で見 られたようなレーダー信号を検出した。けれども、さらに彼らは、Clementineより高解像 で月の極地のマッピングを行って、異常なレーダー信号を発生する幾つかの地域は太陽光 の下にあるという事を突き止めた。氷のサインというよりはむしろ表面の粗さによりレー ダー信号が影響を受けると著者たちは示唆している。(Ht)

緑の分光学(Green spectroscopy)

大気科学の研究者は、長い間、5577Åの波長の緑色の夜光を観測し、その観測から地球の電離層を研究し てきた。この放射の源は、酸素分子のイオン( O2+ のような)であると考えられている。このイオ ンは、昼間の太陽による紫外光にさらされることにより生成され、夜には電子と再結合して分解さ れる。緑の光を生ずるであろう様々な電子状態からの再結合過程を直接測定することは困難である ことが判っている。Kella たち (p. 1530)は、重イオン蓄積リングのイメージング技術を用い て、1S 励起状態に存在する 02+ からの酸素原子の生成量を直接に測定した。そして、その生成量 は理論が予測するものより多いことが判った。この測定結果は、大気モデルと地球や他の惑星にお ける惑星電離層に対する観測との不一致のつじつまを合わせるのに役立つであろう。(Wt)

より単純なソリトン(Simpler solitons)

非線形媒質中では、孤立波(すなわちソリトン)は、その形を保ったまま長い距離を伝播することが できる。従来のソリトンのモデルは数学的にたいへん複雑である。とりわけ、衝突のようなソリト ンの相互作用が含まれている場合はいっそう複雑である。Snyder and Mitchell (p. 1538; Shen による展望 p.1520 を参照のこと) は、その複雑さを根本的に単純化しうるモデルを報告している 。このモデルを用いて、著者たちはソリトンの衝突の単純で簡明な解析を提出している。さらに、 彼らは光により光を制御する光子スイッチの可能性を示唆している。(Wt)

視覚野結合(Visual cortex connection)

視覚情報処理における基本的律則は、1次視覚野のニューロンは、方位の 揃った線(ライン)には強く反応するが、方位が揃ってない線には反応が 弱いか、全く無いと言うことである。ニューロンは、方位毎にグループ分 けされて柱状に皮質奥深く伸びており、この柱は、皮質表面を上から光学 的イメージング法で観察した場合、ちょうど風車のように円形に配列して いるように見える。この風車の中心付近は、方位特異性を示さないことか ら、非選択的ニューロンが存在しているのであろう。Maldonadoたち (p.1551)は、光学的イメージング法と多電極記録計を併用して、柱状構造 の方位選択性は、風車の中心に向かって並んでいることを示した。あたか も車輪のスポークが車軸に向かって並んでいるように。どのようにしてこ の中枢ニューロンの結合性と選択的応答性が確立したかは残された課題で ある。(Ej,Kj,HEj)

鳥の進化(Bird evolution)

始祖鳥は、化石の保存状態が良くしかも極めて明瞭な羽毛が写し込まれていると言う理由 にもよるのであるが、鳥類の起源とその初期の進化を理解するためにはキーとなる化石の 一つであった。Sanzたち(p.1543;Morrellによるニュースストーリーp.1501)は、羽毛を含 みさらに首から頭部にかけての明瞭な形状を持ったスペイン産の雛の化石について記述し ている。化石の証拠と始祖鳥との比較によりこの鳥に特有の頭蓋は進化の過程のかなり後 の段階になってから進化した事が暗示されている。(Ht)

自己回避(Self avoidance)

花粉の粒子が花の柱頭に着地すると、水分を吸収し、成長プロセスを開始し、花粉と花が 不適合でなければ最終的に、受精種子になる。ある種の植物は、自家不適合性システムを 持ち、同じの花の花粉に機能させず、他の花から輸送されてきた遺伝子を持つ花粉を受け 入れ、受精する。結果として、過剰の近親交配による問題の発生が最小に保たれている。 Ikeda et al.はこの自家不適合性を抑制する、MOD蛋白質の変異を確認した。MODは細胞膜 を超えて水分を輸送するという特徴を持っている。(Na)

酸と植物(Acid and plants)

過度の酸性土壌における農業生産性は低くなり勝ちであるが、この問題は 耕地の40%にも達する。勿論土壌の改良は効果があるが、他の手段とし ては酸性に強い植物を開発することである。De la Fuenteたち( p.1566;およびBarinagaによるニュースストーリー参照p.1497)は 、クエン酸を過剰発現して放出する細菌性遺伝子を保持する遺伝子組換え 植物が、問題の過剰の可溶性アルミニウムを含む酸性土壌に、より大きな 抵抗性を持つことを示した。(Ej,HEj)

液晶の刻印(Patterning liquid crystals)

電子光学機器の小型化には、サブストレートに微細なパターンを、経済的 に、迅速に、そして正確に刻む方法を開発することが大きく寄与している 。平面ディスプレイ装置に使われているような液晶は、このようなパター ン形成の第1候補であるが、液晶の方位を揃えるために、基盤の機械的摩 擦工程が必要である。GuptaとAbbott(p.)は、金の表面を自己 組織化単層(self-assembled monolayers)(SAM)でパターン化し、こ のような2枚のサブストレートに適当な液晶を挟み込むと、下地のSAM 組成に応じた複雑な液晶構造が形成されることを示した。この方法はたっ た2段のプロセスで、ミリメートルから数百ナノメートルのスケールのパ ターン領域を作ることが出来る。(Ej)

苦労なしで儲ける(Less bang for the buck)

化学反応の素反応過程では、ルシャトリエ(LaChatelier)の原理 によれば、普通は、反応物のエネルギーが大きいほど、ポテンシャル障壁を越え易 くなり、その結果生成物が増加する。Cl-とClCH2CNの塩素交 換反応を研究したCraigとBrauman(p.)によると、必ずしもそ うではない;気相の2分子反応に特徴的な負のエネルギー障壁特性の場合 は生成物の減少になる。詳細に研究された他の多くの気相反応と異なり、 この場合のエネルギーは衝突する化合物に統計的に分布しているらしい。 (Ej,HEj,Kj)

化石の中のキチン(Chitin in ancient fossils)

キチンは豊富な生物由来分子の1つであり、特に節足動物のように、多く の生物に見られ、海には大量に存在する。キチンは堆積物中では急速に分 解し、数十万年を越える化石には保存されないと思われてきた。Stank iewiczたち(p.)は、約2500万年の頁岩中の昆虫化石中にキチ ンが保存されていることを示した。従って、キチン保存を制御している主 要な要因は時間ではない。(Ej)

サイレンシングと開始との分離(Separating silencing from initiation)

酵母(S.cerevisiae)における転写のサイレンシングにはDNA複製との関連がいくらかある。 Fox たちは、サイレンシングにおけるDNA複製の開始に必要である ORC(複製起点認識複合体)というタンパク質複合体の役割を研究した。 サイレントな接合型遺伝子座(HML and HMR)の転写抑圧は、 染色質構造の局所的な変化によるものであり、 サイレンサと多くのタンパク質因子を必要とする。 HMLとHMR遺伝子座におけるサイレンシングには、 細胞が増殖のS期を通過すことが必要であることが最近観察された。 著者は、発芽酵母細胞の分析によって、 HMRサイレンシングにはS期を通過必要があったが、 HMR-EサイレンサにSir1と呼ぶタンパク質を結び付けることによって ORCの回避が可能になることを示した。 従って、ORCのサイレンシングにおける役割と開始における役割とは分離可能になり、 S期のサイレンシングにおける役割とサイレンサにおける複製開始とは無関係であった。 (An,HEj)

サイレントな防御(Silent defenses)

植物における遺伝子のサイレンシング(沈黙化)は、 導入した遺伝子と類似の配列を持つ内在遺伝子の間の異常な相互作用の結果である。 この現象は、所望の特異形質を持つ遺伝子組換え植物の作製を複雑にするが、一方で 有利に利用することも出来る。 Ratcliff たちは、この相互作用における機構を研究し、 関連した機構がウイルス感染に対する天然の防御機構として 植物に利用されていることを発見した。 その場合には、遺伝子サイレンシングは、 類似配列のウイルスへの感受性を制限する。(An,HEj)

そっくりな考え(Twin thoughts)

多くの研究者は、個人の認知能力への遺伝的影響はあるが、人が年を重ね るにつれ経験や環境の影響によって陵駕されてしまうと想定していた。双 子の子供、青年、中年の研究は、この仮定に疑問を投げかけている。M cClearnたち(p.)は、スウェーデン人の少なくとも80年に及ぶ珍し い双子のデータを利用して、年齢を重ねて行っても、かなり遺伝的な相関 が強いことを示している。(表紙、およびGottesmanによる展望を参 照)。(Ej)

脱塩素細菌(Dechlorinating bacteria)

テトラクロロエテン(TCE)は一般的な溶媒であるが、こぼれたり不適 切な廃棄処分によって、広範な地下水汚染物質となっている。この有毒溶 媒は、嫌気条件下で混合微生物培養によって非有毒生成物のエチレンに変 化させることができる。特定の、補充培地を使うことによってMaymo-G atellたち(p.)はTCEを完全にエテンに脱塩素化する球状菌を 単離した。この菌は、混合培養で、他の生物からの細胞生成物を必要とし 、嫌気性菌間の栄養的な関連の重要性が強調されている。新規な真正細菌 のように見えるこの微生物は、テトラクロロエテンに汚染された地域の解 毒に応用される可能性がある。(McCartyによる展望を参照;p.) (Ej,HEj)

不親切な切断(An unkind cut)

細胞は、アポトーシスという慎重に制御された一連の事象を経由して死亡する。 Rudel と Bokoch は、Fas あるいはセラミドによって誘発したアポトーシス中において、 カスパーゼ( システインタンパク質分解酵素)によるタンパク質分解によって PAK2(p21活性化リン酸化酵素2)が活性化されることを見いだした。 このリン酸化酵素にとって、このような切断による制御は非常に珍しいことであり、 普通はグアノシントリホスファターゼによって活性化されている。 切断は、PAK2の制御領域を除き、触媒的に活性にする。 PAK2が抑制されると、アポトーシスに関連した形態学的な変化が妨げられる。(An,SO)
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