AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

・・・
Science May 30, 1997, Vol.276


見慣れた太古人の顔(Familiar old faces)

ヨーロッパでは更新世に顕著なネアンデルタール人の起源と進化及び、現代の人類との関 係は相変わらず不確かである。ヨーロッパ人初期の80万年前頃の霊長類の化石が最近スペイ ンのAtapuercaで発見された。Bermudez de Castroたちによる、残された約80の化石の調査 によれぱ(p.1392、p1331のGibbonsのニュースストーリーも参照)、この霊長類の顔はおど ろくほど現代の人間の顔に似ていた、というものである。従来、アフリカで発見された化 石を基準にすると、現代人の顔を持つ霊長類はかなり遅くなってから現れたと考えられて いた。従い、このAtapuercaの霊長類は、ネアンデルタールと現代人の両方の祖先である 可能性がある。(NA)

リチウム電池のためのガラス(Glasses for lithium batteries)

リチウム電池には、軽量などの多くの特長があるが、リチウム自身は安全 性の問題から蓄電地の陽極としては使われていない。蓄電によってリチウ ムの微粒子が生じ、これが酸素に触れて爆発することが有り得るので、そ の代わりに炭素中にリチウムをインターカレート(炭素層間にLiを 挿入した)した陽極が利用されてきた。Idotaたち(p.1395)は 、これに代わる陽極を作り、その動特性を示した。これはスズをベースにし たアモルファス酸化物で作られたものだが、放電・蓄電を繰り返した後の 比容量(specific capacity)は炭素ベースに比べて50%以上も向上 した。(Ej)

穴だらけの高分子フィルム(Holey polymers films)

拡大を続ける電子デバイスのリソグラフィーパターンは、ずっと精密なマスクを必要とするであろう。Parkたち (p. 1401)は、二つのプロックから成る共重合高分子の膜を、窒化珪素をコートしたシリコンウェハーの上にスピ‾ン コートした。その膜は相分離を生じ、一つの成分は高分子の六方晶系の配列をなすドメインを形成する。そして、こ れは他の成分に取り囲まれている。配列の成分(ポリブタジエン)は、選択的にオゾンにより取り除くことができ、結果として生じたポリスチレンのマスクは、下地となる窒化珪素中に40nm離れた20nmの穴をエッチングするのに用いることができる。(Wt)

音と光(Sound and light)

水の中の気体のバブルは、超音波を当てると、可視光および紫外光の 明るい閃光を生ずる。これは音ルミネセンス (SL)と呼ばれている。このような実験は簡単には理解する ことができず、多くの理論を生み出してきた。Moss たち (p. 1398; Crum and Matulaによる展望 p. 1348  を参照のこと)は、SLを受けるバブルのモデルを与えて いる。 これは、化学的な特異性(バブルはある希ガスを 含む必要がある)と、ピコ秒の光のパルスの残光が存在しな いことを説明できる。崩壊するバブルは衝撃波を形成し、 これは熱電導性で部分的にイオン化したイオンと電子 のプラズマを生成する。電子はSL閃光を生じ、 プラズマの透明性を変化させ、その変化がパルスの継続を制限する。そのダ イナミックスはバブルの大きさに敏感であり、 実験結果の変動性を説明することができよう。(Wt)

フィブロネクチン=コネクション(Fibronectin connection)

Uteroglobin(UG)は、哺乳類の多くの組織、血液や尿のなかに見られる分泌 タンパク質である。このUGは炎症や、可溶性ホスホリパーゼA2や 、走化性を抑制することが知られているが、その生理的機能はよく分かっ てない。Zhangたち(p.1408)はUG欠乏症のマウスを作り 、このマウスが腎臓中にフィブロネクチン(Fn)の析出が特徴的な重 症の腎臓病を発症することを見つけた。試験管実験で、UGは通常F nに結合し、そうすることによって、有害で、腎臓損傷を起こすFn-Fn相 互作用を防いでいるらしいことが示唆された。これらの知見は、ヒトの遺 伝性の病気である糸球体病のフィブロネクチン沈着を理解するのを助けて くれるかも知れない。(Ej,Kj)

まことの損失(Heartfelt loss)

筋細胞エンハンサー因子-2 (MEF2)転写制御因子は、 心筋遺伝子におけるDNA配列に結合し、心臓発生初期に発現される。 Lin たち(p. 1404)は、このような遺伝子の1つであるMEF2Cを欠乏するマウスを産生した。 ホモ接合性の変異体マウスは子宮内で死亡したが、 変異体胚の分析によって、 将来右心室になる運命のセグメントの損失および 心筋遺伝子サブセットの変化した発現 を含む心臓管の苛酷な形態学的欠損が明かとなった。 この結果は、MEF2Cが右心室の発生の制御に決定的な役割を果たすことを示している。 (An,HE,SO)

グリップに運命を委ねて(Getting a grip)

毛細管のような複雑な組織の一部である細胞は、細胞外基質に付着してい る必要があり、もしそうでなければ死滅する。これは、基質が、細胞の形 や、伸展の度合を決定しているからなのか、或は、基質(多様なインテグ リン)に結合している受容体が関わっている細胞内部に生命維持信号を伝 達しているからなのか?。Chenたち(p.1425; 及び、Ruosla htiによる展望p.1345参照)は、前者が本当であることを見つ けた。細胞の詳細な付着領域が決まると、接着が重要であるが、もし基質 の接触領域が限局的接着のサイズ(ここには、細胞表面にインテグリンを 持っている)にまで小さくなり、そしてこの接触領域が、より広い領域に 広がるなら、DNA合成(細胞の健康度の指標)は細胞と基質接触領域 ではなく、細胞全表面と直接的な相関を持つようになる。つまり、細胞限 局接着体サイズのアイランド間の間隙を変えることによって(細胞の形状 を変化させて)、細胞が成長するか死滅するかを決定している。(Ej,K j)

(訳注)限局的接着のサイズとは、アイランドのサイズのことで、このサ イズが減少するほど細胞の死滅する確率が高くなる。この限局的接着を生 じる範囲が広がると、今度はDNA合成が活発になる。


結核の標的(Tuberculosis target)

放線菌属には結核を起こす細菌も含まれているが、これは保護障壁の機能 を持つ共有結合性ミコール酸に富む厚い細胞外壁で取り囲まれている。B elisleたち(p.1420)は、ミコール酸をエステル転移反応させる酵素 をクローン化し、これらが抗原85複合体としてよく知られている結 核菌(M. tuberculosis)搬出タンパク質と同一であることを見つけた 。エステル転移反応の基質に対する競合的阻害剤で、これら3つの酵素を 妨害することによって、最終的なミコール酸細胞壁の合成と生存度を阻害 した。(Ej,Kj)

限界まで伸びる(Stretched to the limit)

植物細胞は、通常、その強固な細胞壁のなかに物理的に閉じ込められてい る。しかし、expansinタンパク質は、細胞壁の伸長を誘発する。F lemingたち(p.1415)は、expansinを与え、これによって物理的束 縛を緩めることによって成長点の発生に影響を及ぼすことが出来ることを 示した。expansinを局所的に頂端分裂組織に作用させることによっ て、葉に似た原基を誘発したことから、植物に於て生物物理的な力がその 発生プロセスに不可避であることが推察される。(Ej,Kj)

リンパ系の発展(Lymph development)

リンパ系そのものと何がその成長を制御するのかについてはほとんど知られていない。 Jeltsch(1423)たちは、マウスの皮膚の管内皮成長因子(VEGF)ーCを過剰発現させて、血管とリン パ管への効果を検査した。VEGF-Cはリンパ管の管内皮細胞を除いてリンパ系の増殖を選択 的に誘発するが、この事がリンパ管の拡大の原因になっている。その選択的効果はリンパ 刊管形成を刺激するための治療の開発を可能にするかもしれない。(Ht)

個体群動態(Population dynamics)

個体群動態を完全に理解するために、内因性の個体群密度調整メカニズムと外因性の環境 変化とを調和させる事ができていないのが障害になっていた。Higgins(1431)たちは、その生態 が生物学的に分かっており長期個体数データが入手可能なカニ(Dungeness)に関する情報を 使って、両方の要素を含んだ個体群動態モデルを開発した。すなわち、推測統計により決 定論的な骨格を作った。しかし、以前開発されたこの種の理論モデルは現モデルの予測 が実観測とすばらしく一致しているが、小さな環境の変動がとんでも ない時系列データを発生させる事もある。(Ht)

STAT の情報伝達 (STAT signaling)

STATタンパク質(情報伝達体であり、そして転写の活性化因子である)は、 細胞表面上の受容体に会合する この受容体とサイトカイン(例えばインターフェロン(IFN))との結合に従って、 STAT のリン酸化と活性化を起して、STATは核に移動し、特定遺伝子の転写を活性化する。 Pfeffer(p.1418) たちは、STATが別な情報伝達機能を持つことを指示した。 IFN受容体において、STATは、ホスホイノシチド-3リン酸化酵素の調節サブユニットに結合し、 酵素を活性化した受容体へ実質的に集める。 PI 3-リン酸化酵素の活性化は、セリン/スレオニンリン酸化酵素の活性を増加し、 完全な転写の活性に必要なSTAT3のセリンリン酸化を増強するように見える。 (An,HE)

脳の中の標的(Targeting in the brain)

脊椎動物の脳は、細胞増殖、ニューロンプロセスの伸展、そして特異的シ ナプス結合の形成と言った込み入った相互作用によって形成される。I noueとSanesは(p.1428)、ニワトリの網膜から伸びている軸索の発 生を指示する信号のいくつかを解明した。これら軸索は、込み入った軸索 分枝を形成する、脳の特別な層を通る。細胞表面の分子が制御して軸索は 特定の層を見つけ出し、可溶性神経栄養性因子が、これら層内の末端分枝 の複雑さを制御している。(Ej,Kj)

移動するウイルス性 RNA (Moving viral RNA)

ウイルスの複製サイクルの研究と正常な細胞プロセスの明確化のためには感染細胞の 核から細胞質へのウイルス性 RNAの輸送メカニズムの理解が必要である。 Tang(p.1412) たちは、サルのレトロウイルスの構成的な輸送エレメントCTEが 細胞のタンパク質ヘリカーゼAと相互作用することを見つけた。 両タンパク質はその後核から細胞質へ移動した。 RNAを搬出するCTEの機能は、ヘリカーゼAに結合する 能力と関連することが示された。 (An,HE)

特集:天体の誕生と消滅(Steller birth and death)


[インデックス] [前の号] [次の号]