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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science September 20, 1996, Vol.273
重要なステップ(Important steps)
表面の触媒活性は一様ではない。 表面の欠陥と段差は、表面上では、周囲と低レベルの協調作用し かない部位であり、活性度が高いと信じられている。しかし、この活性をもたらすそのメカニズム は、充分に理解されてはいない。Zambelli たち(p. 1688)は、走査型トンネル電子顕微鏡を用 いて、Ru (0001)上の NOの解離を研究した。そして、原子の段差の頂上の低レベルの協調作用下に ある原子が、反応の活性部位であると同定した。表面の段差の非活性化の度合は段差の幾何形状に 依存している。(Wt)
スイッチの中の手(Hand in the switch)
その構造や物理的性質が光によって変調できる有機物質は、可逆的で光学的なデータ記録や光化学 的スイッチとして有望な材料である。Huck たち(p. 1686)は、同波長の左旋および右旋に円偏 光した光をスイッチングすることにより作動するchiroptical な分子スイッチを与えている。この スイッチは、円偏光した光の照射により、ある鏡像異性体からもう一つ別のものへ変化するラセン 状の分子に基づたものである。液晶相のドーパントとしてこの分子を用いることにより、カイラリ ティ(右掌系と左掌系の対称性=chirality)の変化を巨視的に表わすことができる。(Wt)
安定したクラスター配列(Stable cluster arrays)
ナノテクノロジーにおける重要な挑戦的課題は、安定した配列へクラスターを組み立てることであ る。Andres たち(p. 1690)は、超格子へ向けて、金のナノメーターサイズの結晶(その平均直径 は3.7nmである)を自律的に配置させる2段階の方法を与えている。そのクラスターは、界面活性物 質(この場合では、アルキルチオールである)をコーティングし、スピンキャストによりフィルムと して合成された。これらの粒子は、脆弱な配列を形成するが、界面活性剤を「2重の末端を持つ」 dithiol あるいは di-isonitrile 有機分子で置換することにより安定化され、リンカークラスタ ーネットワークを形成した。(Wt)
はかないサブリミナル効果(Fleeting subliminal cues)
ほんの短時間だけ単語を見せ、被験者には「見た」という知覚がない、 「不確実」な単語が人間の判断にどのような影響を及ぼすか(いわゆる サブリミナル効果として知られている)? 人間に知覚されない程短時間 だけ表示された単語が、引き続く2者選択課題にどのような影響を与えるか が計測されたが、この無意識(サブリミナル)の点火(subliminal priming) 現象を、誰にも異論の無い形で実証することは難しかった。Greenwaldたち (p.1699)は「反応窓」と言うテクニックを使って、快い単語と不快な単語、 あるいは、男性名と女性名、の2者選択課題の成績について調べた。 彼らによるとサブリミナル点火は存在するが、その点火の影響は100ミリ秒 しか続かないばかりか、1つの試行から、次の試行への持ち越し効果もない ことが解った。これらの知見は、センサーバッファーからワーキングメモリー への情報伝達を通じて知覚がなされる、と言う一連のシステムの中で解釈される。 (注:視覚などのセンサーを通じて入力された情報は、一旦バッファーメモリー に蓄積され、続いてその一部がワーキングメモリーに転送され、ここで、知覚 として意識されるようになると言われている)。(Ej)
品質管理(Quality control)
タンパク質が小胞体中に(ER)に誤って折り畳まれていると、品質管理プロセス によって、これらは補足され、分解される。しかし、それがどこで分解されるかはよく解って いなかった---分解はERの管腔でも起き得るし、細胞の他の場所でも起き得る。 Hillerたち(p.1725)は、酵母中の誤って折り畳まれたタンパク質は、サイトゾル のプロテアソーム依存性分解システムによって、分解するためにERの外に実際に 逆転送されることを示した。(Ej,Kj)
基本的要件(Basic requirements)
イントロン配列を除去するプロセスである、前駆体メッセンジャーRNA(pre-mRNA) のスプライシングには、いくつかの補助因子が必要である。そのような因子の 1つにU2AFの65-kilodaltonサブユニットであるU2AF65がある。これは、RNA結合 領域(RBD)と、上流分岐点でU2低分子リボ核タンパク(U2snRNP)の組立を促進する アルギニン-セリン-リッチ(RS)領域から成る。Valcarcelたち(p.1706)は、RS領域 の種々の変異体を用意し、RSが機能するにはわずかな塩基性アミノ酸が必要なだけで、 配列特異性がないことを見つけた。また、RS領域が、U2 snRNAと分岐点の塩基対 形成を促進するためには、他のタンパク質は必要ないことが解った。RS領域の 塩基性残基は、接近中のRNA鎖上のリン酸のマイナス電荷を中和することによって、 多分U2 snRNA結合を促進させる。(Ej,Kj)
自己スプライシング イントロンの構造(Self-splicing intron structure)
テトラヒメナ(Tetrahymena;繊毛虫類)のRNAイントロンの自己スプライシングは、 今のところ、モデルでしか理解されていない複雑な3次元構造の複合体の触媒 作用を受ける。Cateたち(p.1678;1696;およびMichelとWesthofによる展望、 p.1676)は、テトラメナのグループ1イントロンの160ヌクレオチドP4-P6領域の x線による構造解析結果を示した。特異的なモチーフは、らせん体内の隣接 アデノシン同志による偽塩基対の形成によるものである。(Ej,Kj)
脳の化学(Brain chemistry)
最近発見されたカンナビノイド受容体の内在性リガンドであるanandamideの脳 での役割は、良く解っていなかった。Derkinderenたち(p.1719)は、ニューロン の細胞骨格の変化を引き起こし、そしてシナプスの可塑性に影響を及ぼす anandamide結合後のシグナル伝達経路を解明した。(Ej,Kj)
核の中への輸送(Transport into the nucleus)
細胞は、それに必須な機能を維持するため、絶えずタンパク質やRNA を核の中へ、 あるいは外へと輸送しなければならない。核は2重の膜、つまり核膜で 囲まれており、搬入出の起きる細孔が開いている。Panteと Aebi(p.1729)は、 どのようにして、核に搬入されたタンパク質が、核膜孔からサイトゾルに 飛び出したフィラメントと相互作用するか、そして そのフィラメントが、どのようにして搬入される タンパク質を細孔の方に先導するように見えるかについて調べた。(Ej,Kj)
スーパーコンピュータの再定義(Redefining the supercomputer)
最近Sandia National Laboratoriesは5年間の研究を終えてテラフロップス (10^12)のコンピュータが実現しつつあるが、さらに1000倍速い、ペタフロップス (10^15)コンピュータへの要求が出てきた、とTaubes(p.1655)が解説している。 当面の主な用途は気象予測、化学反応などのシミュレーションであるが、これを 実現するにはハード面だけでなく、ソフト面の技術革新を達成する必要がある。 まず、ハード面では、現在のCPU換算で、100,000個の小さなクラスター(群)に まとめ、更にメモリーとプロセサーが合体したような何百万個の「単純な プロセサー」から構成される新規なアーキテクチャーを取る必要があるだろう。 そうなれば、発熱を避けるために、低エネルギーのスイチング素子(たぶん ジョセフソンのような量子素子)技術が必要である。また、演算効率向上のため、 latency(データを取り出して実行するまでの潜在時間)と concurrency(ある 命令を実行するために必要な並列演算性)の2つの課題調和的に解決しなければ ならない。例えば、10ピコ秒のCPUを10,000個並列化した規模が想定される。 ソフト面の開発要素は、開発全体の70%に達するものと予測されるが、多数の データや、信号をどうやって制御するか、効率よいデータ制御方法は解ってない。 ハードが出来てもソフトが出来なければ誰にも使えないコンピュータとなる。( Ej)
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