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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science September 13, 1996, Vol.273
野火と洪水(Fire and flood)
2つの報告が、生態系の機能を保つために果たす自然災害の役割に焦点を当てている (Tilmanによる「展望」p.1518)。LeachとGivnish(p.1555)は、かつて1940年代と19 50年代に初めて調査されたプレーリーの残留物の再調査を行い、その結果、草本種の 急激な減少が見られ、多くは生存が脅かされているか、あるいは、危機に曝されてい ることを見つけた。観察された種の損失パターンは、かつて頻繁だった野火の減少と 関連しており、この野火が、開放プレーリーの維持に役立ったと思われる。河川敷に おける洪水の食物連鎖への影響は、Wootonたち(p.1558)によってモデル化され、実験 的な評価がなされた。それによると、洪水による妨害が減少したことにより、肉食魚 に抵抗力の強い草食魚を増加させたが、これは、ちょうど経済的に重要なサケ科の 魚が河川の食物連鎖に与えた影響を思わせる。(Ej,Nk)
単純な塩素反応(Simple chlorine reactions)
塩素原子と水素分子との反応は、大気中での化学反応を含めて、塩素反応のホストの原型である。 そしてそのメカニズムは、150 年以上の間、研究されて来た。このような関心にもかかわらず、 この反応における核の運動を支配するポテンシャルエネルギーの表面を詳細に確定することは、実 験的およぴ理論的両面における挑戦的な課題であると判ってきた。Alagia たち (p. 1519) は、高分解能の交差型分子ビーム実験を行ない、この反応の角度分布と、time-of-flightのスペク トルを決定した。そして、最近描かれたポテンシャルエネルギー表面から計算された断面積と良い 一致を示す結果を得ている。(Wt)
マントルの深部溶融(Deep melts in the mantle)
コア(核)とマントル境界のすぐ上では、圧縮波は減速するように見える。William とGarnero(p.1528)は、適当と思われる組成と弾性的性質を有する物質を、この深さ の相にしたモデルを利用して、地震波の観察をした。彼らによると、間欠的な部分溶 融帯があれば、推定されている10%の速度減少が説明できる。このような深部の溶 融帯の存在は、ケイ酸塩のマントルと、鉄に富む流体外核の間の反応性境界層におけ る熱的、化学的構造に深い意味を持っている。(Ej)
初期エルニーニョ(Early El Nino)
エルニーニョ現象は、気候、海水温、その結果沿岸の生物相に影響を及ぼすと見られる。この ことは特に太平洋に当てはまるが、少なくとも多くの歴史的記録に関する限り、地球 規模で当てはまるかも知れない。しかし、完新世でのエルニーニョがいつ始まったか はハッキリしなかった。Sandweissたち(p.1531)は、南米の西海岸の考古学的遺跡で の動物の骨の集積から、エルニーニョは、約5000年前に始まった証拠を示した。この遺 跡は5000年以上前には、安定した、熱帯性暖水に特徴的な暖水系の種が支配的である が、それ以後は温暖種を含むようになる。(Ej,Og,Nk)
光の制限(Limits on light)
光学的リミッタは、低いレベルの光は通過するが、強い強度の光の伝播は阻止するものである。そ れらの使用により、強烈なレーザーパルスからセンサーを守ることができるが、しかし、それらを 人間の目の保護のために用いるには改良が必要である。Perry たち(p. 1533)は、二つの方 法を組み合わせて、改良された有機の光学的リミッタを作成した。彼らは、分子の三重項の励起状 態の吸収を増すために、重原子を含むフタロシアニン複合体を誘導体化した。彼らは、また、材料 に損傷を与えずに、励起状態が高レベルの飽和状態を維持するように、光学的な経路に沿って、こ れらの分子の濃度を変化させた。(Wt)
絶滅の危機にある種の代理親(Endangered species surrogates)
絶滅の危機にある種の研究の難しさは、定義通り、種が少ないことにある。より豊富 な種の研究から得られた情報は、絶滅の危機にある種そのものでないにしても、類似 種についての有意義な情報と成り得るだろうか? この手法は、2つの種に決定的な 相違点があれば、結局結論全体を疑われる結果になりやすい。Wahlbergたち(p.1536) は、蝶の共通種から集められたデータを使って、空間的な分布が現実的になるような メタポピュレーション(分散した多数の地域に関連を持って住んでいる個体群の全体 の数)モデルを開発した。このモデルは、同属の、 絶滅に瀕した種の分布を予想することが出来た。この「代理親の種」を使う手法は、 保存生物学に有用なツールとなるに違いない。(Ej)
グループ動力学(Group dynamics)
ある種の物理的刺激は、波長のような連続的に変化するパラメータを含んでいるが、 これらは刺激の集団として、あるいはカテゴリーとして知覚される。人間の発話にお いて、音声開始時の音の変動は、別々のカテゴリーとして類別され、そのカテゴリー 内部での開始時間の変動は知覚に影響しない。Wyttenbachたち(p.1542)は、コオロギ が、この複雑な行動をすることを実証した。コオロギは、他のコオロギからの低周波 数の呼び声と、コウモリが使っている、捕食者の位置を同定するための、より高い周 波数音を識別している。(Ej)
すでに心に結果を持って(With the result already in mind)
意図するところの結果を視覚化することは、トレーニングと実演での助けになるとして、スポーツ マンに推薦されてきている。運動筋肉の行なうプロセスをリハーサルし、また、精神的に模擬する ことは、その技術の継続的な実行を上達させると考えられて来ている。 一側性皮質性の破壊のある 患者の研究から、 Sirigu たち( p. 1564 )は、手や指の模擬された動きにおける頭頂の皮 質の関与を示唆している。これらの患者は、主要な運動性皮質に傷害を持つ患者の実行と比較して 、運動のために必要とされる時間を予測することに対し、選択的な障害を持っている。頭頂領域が 、外向性の運動信号を解釈するのか、あるいは、蓄積された運動の表現に寄与するのかが、解決す べき残された問題である。(Wt)
スピンの梯の中の超伝導(Superconductivity in spin ladders)
高温転移温度Tc を持つ超伝導は、銅のイオンのスピンが反強磁性を示すLa2CuO4 に 代表される絶縁体の酸化銅系物質に見られる。この物質にホールのキャリアーを持つ化合物が ドープされると、反強磁性の秩序は消失して、超伝導が生じる。この超伝導は 電子の縮退したスピン一重項対によって生じる。どうも、高温超伝導は、純粋に 電子状態だけで起きるように思える、とMaekawa(p.1515)は解説している。2つの CuO2 鎖から出来ているスピン梯の化合物は、いわゆる短距離の共鳴原子価結合 (Resonating Valence Bond)の代表例である。スピン梯を持つ化合物では、基底状態は CuO2鎖の間を弱く結ぶスピン一重項からなっており、励起状態は、一重項が分裂し た三重項からなっている。このときのエネルギーは0.5J(Jは、隣接スピン間の 反強磁性カップリング)で表せる。(Ej)
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