AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 23, 1996


類縁性の問題(Questions of relatedness)

Archaeonは、メタン生成菌、高度好熱菌や好塩菌、イオウ依存性の種を含む単細胞生 物の中で進化的には分離されたグループである。これが細菌や真核生物にどのように 関連しているかの理解については、少数の遺伝子分析に頼ってきた。Bultたち (p.1058;および、表紙とMorellによる解説p.1043)は、メタン生成菌Methanococcus jannaschii のゲノムの配列を決定した。エネルギー生成、細胞分裂そして代謝に 関係している遺伝子は細菌の遺伝子と類似しているが、転写、翻訳、そして複製に 関与している遺伝子は真核生物の遺伝子に類似している。著者たちの結論は、 Archaeonが細菌と古代代謝性遺伝子を共有しているにも関わらず、Archaeonと 真核生物(Eukaryote)は共通の祖先を持っている、と言う。(Ej,Kj)

星の特質(Star quality)

Emerich たち( p. 1085)は、木星の磁気的な赤道に沿う、過剰水素のバルジ領域からの水素 のライマン [ アルファ ] 放射のスペクトルを用いて、木星の上層大気の構造を調べた。極近傍の オーロラのある領域で生成された超音速乱流のジェットが、赤道近傍で衝突するモデルが、スペク トルに良く合っている。より精巧なモデルは必要ではあろうが、恒星大気に同様に、惑星大気が乱 流状態にあるとするモデルは、全ての4つの巨大な外惑星の上層大気に見られる、水素のバルジお よび過剰な熱エネルギーを説明する可能性がある。(Wt)

メタンの記録(Methane record)

メタンには(水や二酸化炭素に加えて)重要な温室効果のあるガスであり、自然界には様々な発生源 と吸収源がある。Brook たち(p. 1087)はグリーンランドの GISP2 の氷の掘削コアから大気のメタ ン濃度の記録を得た。この結果により、以前に得られたより短期間の記録を拡張することができた。 メタン濃度の変化は、この氷のコアおよび他のコアに認められていた細かなスケールの温暖化と寒 冷化の事象を突き止めた。そして、また地球の軌道により変調された長周期の温度変化をも捉えた 。(Wt)

鮮魚(Fresh fishes)

ヴィクトリア湖には多様な魚類の固有種がおり、その進化について議論されてきた。 Johnsonたち(p.1091)は、地震の記録や掘削コアの証拠から、ヴィクトリア湖が炭素 14測定による約12,400年前に、完全に干上がっていたと言う。著者たちは、たとえ小 さな衛星湖や池さえも残っていなかったであろうと推測している。もしそうであるな ら、この多様な魚類は、これ以後進化したことになる。(Ej)

エックス線レーザーのゲイン(X-ray laser gains)

エックス線レーザーは、可視光レーザーを用いた金属ターゲットの強烈な加熱によって形成される 、原子プラズマ内で増幅される。しかしながら、1つの難問は、実験的に実現されたゲインは、い つも理論的に予測される値より非常に小さいことであった。Cauble たち(p.1093) はこの不 一致に説明を与えている。彼らは、より短波長のエックス線レーザー増幅装置を探索するために、 干渉計として働くエックス線レーザーを作成した。彼らが見いだしたことは、プラズマ中の レーザ ー作用が、極めて不均一であり、そして、この不均一性のにより、ゲインの損失が説明できるとい うことである。このような結果は、この不均一性制御の計画を進展させるのに役立つものになるで あろう。(Wt)

遅延戦術(Delaying tactic)

感覚性信号入力は、せいぜい感度と弁別能力を提供するように、神経細胞回路を誘発 するだけである。このような入力の影響によって、感覚神経細胞がどのように発達し 、その分布が特異化するかについてはよく知られている。現在、もっとよく解ってき ていることは、成熟システムには能動的プロセスが存在すると言うことだ。Yanと Suga(p.1100)は、ジャマイカヒゲコウモリの皮質性神経細胞の活性増強の結果、聴覚神 経細胞で生じている同調性能の向上について述べている。コウモリの口腔から発せら れたパルス音のエコーが、ある遅延時間後戻ってくると、脳による正のフィードバッ クがかかり、末梢でのエコー検出を改善する。この変調によって、どのように注意力 が変わったか、は、まだ観察されてない。(Ej)

明るく、より明るく(Bright and brighter)

ある対象とする灰色の部分の輝度が、周囲と比較して、どの程度、実際の反射フォト ン個数から決まる物理的明るさとは異なる明るさとして知覚されているか。1次視覚 皮質の神経細胞は、視覚映像を境界、方位、色などに解釈するための基礎となってい ることが知られている。Rossiたち(p.1104)は、これらが入射情報が空間的に統合化 され、たとえば明るさの表現と言った「より高度な」プロセスに導かれるらしいこと を示した。展望記事(p.1055)では、Albrightが、レンブラントによって示された明る さの巧みな表現について述べている。(Ej)

植物の線毛(Pili for plants)

腫瘍を誘発するDNA断片を植物細胞に導入達することによって植物に腫瘍を作るアグ ロバクテリウム属は、遺伝子組換え植物を作るためにクローン化DNAを導入する手段 としての栄誉ある地位を分子生物学者によって見出された。Fullerたち(p.1107)は、 細菌の接合で機能するのと同様の線毛がアグロバクテリウムの表面に形成されること を示した。これら線毛は、接合と類似の様式で機能するが、DNAを真核生物の植物細 胞に導入するようである。(Ej,Kj)

2重の役割(Dual role)

神経伝達における興奮性アミノ酸アスパラギン酸の役割については議論の的になって いる。アスパラギン酸は海馬ニューロンのNMDA(NメチルDアスパラギン酸)受容体を 通して作用することが出来る。Yuzakiたち(p.1112)は、NMDA受容体とは異なる、もう 一つ別のクラスのニューロンであるプルキンエ細胞の中の特異的な受容体を通して 作用すること の証拠を示した。この新規な受容体は、シナプスの可塑性に関連するいくつかの 際立ったの性質を持っ ていることが予想されている。(Ej,Kj)

新しい暗号化方法(Security on lattices)

暗号化の主流は整数論を駆使した、素数の組による巨大整数を利用したものであるが 、IBMの数学者 M. Ajtai は、これを多次元格子化した方法を提案している。結晶格 子の単位ベクトル(格子の基底)の定義には無数の組合せが可能なように、多次元の 格子点は何通りもの基底ベクトルで表現できる。この多次元格子点に対応する整数を 1つのキーとして暗号化すれば、この整数を素数分解するすることは、1次元に比べ て飛躍的に困難になる。色々検討を重ねた結果、この方法は、今までで最も解読が困 難な暗号化アルゴリズムと言えると言うことだ。(Ej)
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