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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science June 21, 1996
大気の交易港(Trading places in the atmosphere)
対流圏と成層圏の主要な大気交換地域は熱帯地方にあり、この影響の一つが成層圏へ のフロンやその他の汚染物質の流入を制御していることである。Volkたち(p.1763)は 航空機を利用して、この地域の熱帯から中緯度で、高度16キロから21キロの底部 成層圏における各種トレーサー(methan, nitrous, oxide, reactive nitrogen, ozo ne, chlorinated halocarbons, halon-1211)の分布を調べた。その結果、大気の交換 は、今まで考えられていたよりも遅く(約13カ月周期で)、中緯度での大気混合は よりゆっくりであるが、熱帯大気の上層部の上昇周期(21キロ付近)と同程度である 。 (Ej,Kj)
βT細胞受容体遺伝子座の配列決定(Sequencing the βT cell receptor locus)
ヒトの多重遺伝子族の土台となっている組織機構は、大規模なDNA配列決定によって明ら かになってきた。Rowen たち(p.1755;および、表紙)は685-kilobaseのβT細胞受容 体座位の配列決定を行った。この座位は65の可変性遺伝子セグメント、拡散部と結合部 と定常部領域の2つクラスター、および、8つのトリプシノーゲン遺伝子を含んで いる。この解析結果は、ポリモルフィズム、遺伝子発現や多様性の様子に関する情報 を提供しただけでなく、多重遺伝子族がどのようにして形成され進化したかを明らか にしている。例えば、この座位のある部分は重複し、染色体7から染色体9へ転座して い る。(Ej,Kj)
もっと冷たかった白亜紀 (Cooler Cretaceous )
白亜紀は、一般的には暖かい気候であったと考えられてきた。 しかしながら、Stoll and Schrag (p. 1771)は 、約1億4000万年前は、大陸の氷床が存在しており、 それは初期の白亜紀のある期間の海面の変動 をコントロールしていたと示唆している。深海の堆積物中 のストロンチウムの濃度は、層序学 (stratigraphy)から推測される海面の変動と一致して おり、酸素の同位体の値と詳細な一致をみている。これ らの結果は、海面が変化するにつれ、大きな大陸棚が くり返し急速に大気にさらされ、大陸棚上の炭酸塩の風化がお きたことを示している。(Wt,Og)
トルネードのプロフィール (Tornado profile )
トルネードの内部と周囲の風の流れについての、いくつかの 詳細なモデルが展開されて来たが、流れの観測は 、厳密なテストを与えるにはあまりに荒いものであった。 Wurman たち (p.1774)は、移動型ペンシルビーム を持つドップラーレーダーシステムを用いて、トルネード について接近し、また詳細に検証した。彼らは、ト ルネード中に明瞭な目があり、そこでは時々下降流が生 じていること、また、その目を取り囲んで、顕著な破 片のシールドがあることを見出した。(Wt)
ほんのひとつまみ(Just a pinch )
一つは可溶性で他は不溶性の、二つの異なるモノマー の伸びたものや塊を含む高分子は、ある与えられた溶媒 中では、相対的な塊の長さに依存して、溶液中で様々な 形態を表示することがある。現在、Zhang たち (p. 1777)は、このような高分子は、非常に低いイオンの 濃度に応じて、それらの形態を変えることがあることを示 している。例えば、μモルオーダーのCaCl2または塩酸、 あるいはミリモルオーダーのNaClを、水中のポリスチ レン−ポリ(アクリル酸)ブロック共重合体に加えること により、それらの形態を球形から小胞に変化しうる。(Wt)
生きた検出器(Live detectors)
生体分子の分離技術の改善需要によって、絶えざる検出器の改善要求がもたらされ る。単細胞を検出器として利用することによって、生物活性分子を迅速に同定し、更に 、これを分析することが出来る。Orwarたち(p.1779)は、この手法を発展させ、ラッ トの臭覚ニューロンから取り出したパッチクランプ記録を使って、キャピラリー電気 泳動法で分離された神経伝達物質を同定した。(Ej,Kj)
太陽を浴びて(Soaking up some sun)
地上の生物は、太陽輻射を光合成生物体によって取り込み、エネルギーを収穫するこ とによって、その生命を支えている。主要な海洋プランクトンである渦鞭毛藻類は、 光を吸収する2種類の色素、カロテノイドと葉緑素を持っている。Hofmannたち(p.17 88,およびSimon Moffatによる解説p.1743)はペリジニン=葉緑素=タンパク質(PCP)の 高解像構造を示した。これは可溶性分子であり、カロテノイドペリジニンを使って、 エネルギー伝達--最初に自分自身の葉緑素に、続いて集光性複合体の葉緑素へと--の 為に、青緑フォトンを集める。PCP内の2つの葉緑素それぞれの回りに2対のペリヂ ニンがクラスター形成しており、PCPは、光合成に携わる他のタンパク質の様に、三 量体を形成している。(Ej,Kj)
手作業で再編成(Reorganized manually)
機能的なニューロン可塑性の存在とその範囲は、ストローク(発作)の場合特に重要 である。ヒトにおいて、ストロークを患った後の運動性能力の回復はゆっくりしてお り、しかも、通常不完全である。Nudoたち(p.1791;およびFreudによる展望p.1754)は 、サルの運動領の手領域を実験的にしぼって梗塞化し、指の機能回復訓練の効果を調べ た。手作業のスキルを要する課題達成訓練は(訓練しない場合に対比して)、熟練レ ベルまで手の機能を回復するだけでなく、運動領非障害部分のニューロン再編成を促 進する。 (Ej,Kj)
信号待ち(Waiting for the signal)
上皮細胞成長因子(EGF)は、活性化したとき、チロシン残基がリン酸化される。細 胞内シグナル伝達に関与するタンパク質は、次に、受容体にこのリン酸化部位で 結合する。Galcheva-Gargovaたち(p.1797)は、EGF受容体と逆方向に相互作用する タンパク質について述べている。ZPR1と呼ばれるタンパク質は不活性受容体に結合し 、EGFの結合後放出される。そして、ZPR1は、EGFで処理された細胞内の核に局在化 する。この性質と、情報伝達受容体として機能する他のタンパク質内で見つかった2 つのZnフィンガーを持っていると言う事実から、ZPR1は、細胞表面のEGF受容体から 核へのシグナル伝達に関与しているであろうことが示唆される。(Ej,Kj)
室温の青色発光GaNレーザーダイオード(Room temperature blue gallium Nitride La ser Diode)
徳島県にある中堅企業、日亜化学の中村は強光度の青色、緑色、黄色のLED、パルス 電流駆動の室温青色発光GaNレーザーダイオードを発表した。これらの開発は応用物 理の驚くべき成果であるばかりでなく、スタッフも少なく、企業規模も中堅の会社で 出来たことは更に重要なことである。殆ど無視されていたGaNで、日亜が成功したこ とに刺激され、新規参入企業が何百人もの、そして将来はもっと多数の人がGaN関連 開発に投入されようとしている。最近の開発状況を見ると、今でも日亜の独走ぶりが 伺える。きっかけを作った名古屋大学のAkasakiの寄与は大きいが、日亜化学は、今 後も独力で開発を続け、大学や政府の援助は受けないと、社長の小川は言う。何故、 大企業を相手に、日亜が開発をリード出来るのか? 答えは、管理体制にあるようだ 、とFasol(p.1751)は結んでいる。会議もない、組織もない、政策もない、アドバイ ザーもいない、最も可能性の高いと思われる方向に資源を集中させ、小川と中村の強 い信頼関係で、1つの目標に突き進むことがこの結果を生み出したのであろう。(Ej)
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