AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 1, 1995


冷たい褐色の星 (A cool brown star)

太陽を輝かせる核反応は、星の質量が太陽質量の0.08倍を越える時のみ起こることがで きる。 これより小さな天体は褐色矮星と呼ばれている。 Oppenheimer達(p.1478; Glanzによる記事も参照のこと, p.1435)は、最近発見されたG12 29Bとい う、木星の質量のおおよそ20倍の質量である、例外的に低光度の褐色矮星の分光的測定 について 報告している。スペクトルの吸収の特徴はメタンと水蒸気の存在を示している。これは 、表面温 度が1000K以下であることを暗示している。スペクトルは、通常の星においてみられるも のとは 全く異なっており、かわって木星のスペクトルに非常に良く似ている。このような天体 の特徴を 把握することは、それらが銀河系において支配的な種類を構成しうるものかどうかを理 解するた めに必要なことである。

豊富な炭素 (Abundant carbon)

太陽系は全体として銀河系の典型的な物質から形成されており、そして太陽の炭素量は 、他の星 や、星間塵における炭素量を測定するのに用いることができると、しばしば仮定されて いる。 Snow and Witt(p.1455)は、太陽における炭素が他の星におけるものより、顕著に豊富で あると いう証拠についてレビューしている。この炭素の過剰は、超新星における原子核合成の モデルに 対し、また、星間塵形成のモデルに対し重要な示唆を与える。

コアを掘り下げて (Nailing down the core)

地核の温度と成分を予測する上で、高圧、高温での鉄の相平衡図の知識は鍵となる。 Yooたち(p.1473)は、鉄の相を直接同定するためにレーザー加熱されたダイアモンド アンビルのセル内の資料からの直接x線回折測定を行った。その結果、ヘキサゴナル 最密充填鉄(ε-Fe)は高圧高温で広い安定領域を持っていることが分かり、固体であ る地球内核の条件下でもたぶん安定な相であろうと言う。

表面における界面活性剤 (Surfactants on surfaces)

原子レベルで平滑な表面に吸着された界面活性剤は単分子相か2分子相を形成すると 思われている。ManneとGaub(p.1480)は、第4級アンモニウム陽イオン界面活性剤の 原子間力顕微鏡による研究の結果、色々な形態を見つけた。疎水表面には半筒が、雲 母表面では円筒が、そして、アモルファス雲母表面では球が生成された。このような 形態の変化は表面上のパターン形成に利用できるであろう。

罠を閉じる (Closing the trap)

自己アセンブルとか分子識別のプロセスは多くの生物分子の特徴であるが、合成され た類似物でも行なわすことができる。Meissnerたち(p.1485;表紙)は、適当な外来分 子が存在する環境で、アダマンタンやフェロセンの誘導体のようなやや大きな外来分 子を包み込んでしまうような球状二量体複合体(dimeric spherical complex)を自己 アセンブルによって形成する分子を設計し、合成した。このような複合体は、反応容 器や薬物送達システムとして利用される可能性がある。

Tu複合体 (Tu complex)

延長因子Tu(EF-Tu)は、グアノシン3リン酸(GTP)結合タンパク質で、アミノアシル化 転移RNAを、リボゾームの空位のAサイトに配送する。これは、タンパク質合成におい てチェインを延長するための鍵となるステップである。Nissenたち(p.1464;Mooreに よる解説記事p.1453)は、フェニルアラニン転移RNA、及び、類似体GTP との複合体に おけるEF-Tu のx線構造を示した。複合体全体の形は、転位(トランスロケーション )因子EF-G-GDPに似ており、翻訳装置内のタンパク質と核酸の片われの間に「分子レ ベルの物まね」が存在しているように思える。

エストロゲンを強化する (Enhancing estrogen)

ホルモンに反応して細胞が効率よく協調するためには、色々なシグナル経路間でクロ ストーク(混信)が必要である。Katoたち(p.1491)は、インシュリンや上皮成長因子 のようなペプチド成長因子によって処理された細胞内で活性化されるマイトジェン活 性化タンパク質(MAP)キナーゼは、ステロイドホルモンであるエストロゲンの受容体 をリン酸化することができると報告している。トランスフェクトした細胞でのMAPキ ナーゼの活性化は、結果的にエストロゲン受容体のエストロゲン誘導転写活性を強化 したことになる。このようにして、エストロゲンによる転写の制御は、成長因子やMA Pキナーゼの活性に影響を及ぼす他の因子によって調節される。

カルシウムチャンネルのフィードバック制御 (Calcium channel feedback)

他の電圧制御によるイオンチャンネルと異なり、L型のカルシウムチャンネルは、運 ばれようとするイオン,Ca(2+),そのものの高い濃度によって不活性化される。このフ ィードバック型抑制はCa(2+)の多くのタイプの神経細胞や筋肉細胞への流れを制御し 、例えば、心筋の収縮の強さを制御するのに決定的役割を持っている。De Leonたち( p.1502)は、この不活性化を説明すると思われる分子的機構を同定した。L-型カルシ ウムチャンネルを構成しているサブユニットの領域はCa結合モチーフ(EF肢)を持っ ており、このモチーフがCa濃度へのチャンネルの感受性の原因である。この領域を、 周囲のCa濃度に不感なもう1つのチャンネルに与えることでCa不活性を付与している。

自然淘汰 (Natural selection)

自然淘汰は種の集団間の変化のパターンを決定するのにどのような役割を演じている のだろうか? Taylorたち(p.1497)は、分子遺伝学と進化生物学、そして農業昆虫学 を組合せ、野外の種の数における淘汰を観察した。彼らは、アメリカの4つの地域に 於て、それぞれ異なるレベルの殺虫剤に晒されている作物害虫(タバコガ=budworm) において知られている耐殺虫剤遺伝子座(電圧制御のナトリウムチャンネル)の異な り具合いを調べた。ナトリウムチャンネル遺伝子座の異なり具合いのパターンは、異 なる生息数では顕著に違っていたが、対照対立遺伝子(control allele)では違いはな かった。耐殺虫剤性と対照対立遺伝子の多様性の相関から、分別(differential)選択 (自然淘汰)は現実に起きていると推察できる。
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