AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約 |
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木星の内部は基本的には超高圧で超高温の水素で出来ている。地球の地震波 の解析と同じように、惑星の内部の音波速度を考慮し、木星全体の振動測定を することによって内部の水素の性質についての鍵を得ることが出来る。もっと も、実験による測定との比較はしなければならないが。Nellisたち(p.1249)は、 衝撃波による温度のデータを得、これから87ギガパスカルまでの水素の状態方 程式を導いた。これにより、水素プラズマ中の音速を推定した。Alaviたち(p. 1252)は、これとは別に、最初から計算で音速を推定した。実験値も理論値も 基本的には合致しているが、理論値は振動実験の結果から予測したデータより かなり小さい。解説記事でHemley(p.1233)は、木星内部の状態とその関連につ いて述べている。
テロメラーゼは、染色体の末端に、テロメアと呼ばれる小さな繰り返し 配列を付け加えるRNA-タンパク質複合体(酵素)であり、これによって遺伝 子の完全性が保たれている。Fengたち(p.1236)はヒトのテロメラーゼのRNA成 分をクローニングし、他方、Blascoたち(p.1267)は、マウスについて同じもの をクローニングした。不死化したヒト細胞系中でテロメラーゼRNAの機能を阻止するこ と で、 細胞がテロメアDNAを持たず、約25世代の後、細胞は死に始めた。無拘束な成 長を維持するには、テロメラーゼは不可欠のように見える。
銀河や銀河クラスターの分布を調べると、これらがどの様にして形成されたか の手がかりを表しているように見える。両者の分布を記述するにはよく2点相 関関数が使われる。この関数の累乗則の形状から、x線クラスターや電波銀河 の特徴をうまく表現できるが、可視光銀河にはうまく当てはまらない。例えば、 可視光銀河は大規模な銀河クラスターに比べて相関が小さい。Martinezたち(p. 1245)は、相関積分(2点相関関数を積分方程式で表したもの)によってこの分 布がうまく表せることを見つけた。ただし、全体のスケールが大きくなるに従 って累乗係数(characteristic exponent; いわゆるフラクタル次元と呼ばれて いる指数部分の定数)がゆっくり変化することが許される多重スケール表現を 利用して。
シリカをベースにした1.5ナノメートル以上のサイズの中程度な多孔性分子 ふるいは、触媒反応や物性科学に有力な用途が期待できる。このような大きな 孔を形成するには通常高価で毒性のあるアミンを含む界面活性剤を利用する。 Bagshawたち(p.1242) は、安価で、毒性を持たない、非イオン性の(電気的に 中性の)ポリエチレンオキシド界面活性剤を利用して、石英やアルミに中程度の多 孔性物質を作れることを示した。
マイクロリソグラフィー(微細エッチング)は半導体チップを作るのに使われ ており、更に微細化が求められている。Berggrenたち(p.1255)は、今までの紫 外線やx線ではなく、中性の原子をパターン形成に利用したリソグラフィーに ついて述べている。アルゴンビームを使って、エッジ解像度100ナノメートル 以下の破壊パターン(結晶の格子の規則性が壊されることによって作られるパ ターン)を、金の上に自己成長したドデカンエチオールの単分子層上に作るこ とに成功した。これによって、フェリシアン化物のエッチングで破壊された 格子部分の金が取り除かれる。更に、エッチングを進めれば下層のシリコン層ま でパターンを移すことが出来る。
生態学的なコミュニテイーは食物のつながり(web)で記述することが出来る。こ れは食物連鎖の全てをモデル化するものである。集団や、各種のグループの関 係の方向や強さを決定することは理論家と実験家では異なった手法を採る:理 論家はしばしばこの値を仮定し、実験家は種の生息密度から決める。De Ruiterたち(p.1257)は、自然の土壌(native soil)から耕地(agricultural soil)に到る7種類の土壌食物(soil food)を計測した上で、両方の手法の関連 の強さを調整して、両方式を1つにまとめた。その結果、食物のつながりを 安定化させるためには、特定の関係が重要であり、関係に伴って移動するエ ネルギーは、食物つながりの安定化とは無関係であることがわかった。
ショウジョウバエの中枢神経システムは神経外胚葉(neuroectodermal)から発 達し初め、嚢胚形成後は正中線細胞から発達を始める。Udolphたち(p.1278) は、嚢胚形成の初期、背中から腹への軸に沿って移植をした後の細胞の運命 を調べ、いつの時点で、細胞が中枢神経システム(CNS)の系統を形成するよう になるかを見極めた。腹の神経外胚葉細胞や正中線細胞が背中に移植される と、移植された細胞は腹の方へ移動して行き、もとの場所と同じCNSを作る。 しかし、腹の方へ移植された背中の神経外胚葉細胞は、新しい場所と同じ系 統を作る。これらのことから、腹部正中線と、これに隣接する神経外胚葉は、 腹部であることを知らせる信号を腹部CNS前駆体に出しているのかも知れない。
腫瘍特異的抗原(TSAs)は腫瘍の中だけで生産される分子であるから、免疫 応答において理想的なターゲットとなる。Woelfelたち(p.1281)は細胞の 周期的成長の制御を司るサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)の突然変異バー ジョンである、ヒトの黒腫の中のTSAを同定した。変化したCDK4はたった1 つのアミノ酸が変化したのみで、これはCDKの阻害物質(インヒビター) p16の影響を受けなくさせる。その結果、突然変異CDKは抗原性であるばかり でなく、腫瘍発生にも寄与しているらしい。
希少生物種保護法が最近細かく詮索され、再認可待ちになっている。政策 欄でEisnerたち(p.1231)は、法令の科学的な論拠を概説し、いくつかの改 正の可能性について述べている。ニュース欄では,Stone(p.1212)が、下院 での次回の討議について概説している。