Science August 4 2023, Vol.381

熱帯林は似たもの隣人を阻止する (Tropical trees deter similar neighbors)

熱帯林は、多様性が非常に高い樹種の宿になっている。個体間の強い相互作用が、このようなパターンを作り出しているという仮説がある。樹木は、必要とする物、罹る病気、摂食動物の種類が異なる違う種類の樹木に囲まれている方がより生き残りやすい。Kalyuzhnyたちは、パナマの長期的な森林の樹木配置から、この機構と合致するパターンを見出した。この場所の成木は、同種の樹木から他の樹種よりも離れており、さらに偶然もしくは種子散布の限界から予想されるだろう。この研究は、成木において同種間の距離が維持されていることを示しており、熱帯林の高い多様性を説明する一助となる。(Uc,kj,nk,kh)

Science, adg7021, this issue p. 563

酸素が助ける三角形成 (Oxygen-assisted triangulations)

歪をもつ三炭素環、すなわちシクロプロパンは広範な種類の天然物、医薬品および農薬の重要な成分である。しかしながら、残念なことに、その化学合成法のほとんどは、危険なジアゾ試薬または過敏な二重ハロゲン化された炭素中心にいまだ頼っている。Poudelたちは、今回、電子吸引性ケトン、エステル、またはシアノ基をもつメチレン中心を有する、容易に入手できる安定な化合物を用いる多用途のシクロプロパン化反応を報告している。これらの前駆体の活性化は、反応サイクルを回転させるための触媒的ヨウ素と共に、増感剤による酸素の光還元に依存している。(hE,KU,kj,nk,kh)

Science, adg3209, this issue p. 545

流体の注入を追って (Following fluid injection)

火山と氷河には、流体の動きやその他の摩擦プロセスによって引き起こされる微小地震がある。Niyogiたちは、カンザス州の超臨界二酸化炭素注入プログラム中にも、非常によく似た特徴を持つ微小地震が発生したことを見出した。著者たちは、背景ノイズを慎重に差し引いた後に、内部の断層構造近くに位置する、摩擦滑りによる可能性が高い微小地震を見出した。この知見は、二酸化炭素または他の流体注入中の地下の応力分布をモデル化して追跡する方法を提供する可能性がある。(Wt,kh)

Science, adh1331, this issue p. 553

TMD(膜貫通ドメイン)がγcサイトカイン受容体の組み立てを助ける (TMDs help γc cytokine receptors assemble)

ガンマ鎖 (γc) サイトカイン受容体は、免疫細胞の発生、増殖、活性化において重要な役割を果たしている。それらは、各サイトカインに特異的なインターロイキン受容体 (ILR) サブユニットと結合する共通のγ鎖で構成されている。これらのサブユニット間の結合は、インターロイキンのILR細胞外ドメインへの結合とそれに続くγcの補充によって駆動される。Caiたちは核磁気共鳴分光法と2つのILRの機能的突然変異誘発を用いて、細胞外ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに結び付ける膜貫通ドメインもシグナル伝達において積極的な役割を果たしていることを示した。著者たちはさらに、γc膜貫通ドメインが、保存された「knob-into-hole」機構を通じて、γc受容体ファミリー由来のさまざまなILR膜貫通ドメインを特異的に認識できることを示した。(KU)

【訳注】
  • knob-into-hole:二重特異性抗体の作製法の一つ(重鎖の一方にKnob変異を,もう一方にHole変異を導入し,Holeに Knobが挿入されるように設計する )。
Science, add1219, this issue p. 569

腫瘍内部の働き (The inner workings of tumors)

ヒト疾患を研究する上での課題の1つは、同じ症状が患者間で異なって現れうることである。しかし、患者間の多様性はよいことでもあり、罹患組織の構成と疾患の転帰との関係に関する情報を明らかにする。Billたちは、患者間の多様性を利用して、腫瘍内微小環境が頭頸部扁平上皮ガンの進行にどのように影響するのかを研究した。著者たちは、マクロファージ両極性の多様性(従来と異なり、2つの遺伝子のCXCL9SPP1の発現性で定義)が、腫瘍内微小環境に対する単純だが重要な特徴であることを見出した。CXCL9SPP1の比は、ガン内の抗腫瘍性免疫細胞の豊富さ、それぞれの型の腫瘍浸潤免疫細胞における遺伝子発現プログラム、腫瘍の制御か進行かを決定するシグナルネットワークの調整、および主要免疫療法への応答、を特徴づけるかもしれない。(MY,kj,nk,kh)

Science, ade2292 this issue p. 515

共生生物が原虫の生殖を阻止する (Symbiont blocks parasite reproduction)

マラリア蚊は、共生細菌種などの幾つかの微生物の宿主として働くことがある。Huangたちは、ハマダラカ属蚊の実験室内集団には、マラリア原虫を伝播できないものがあることに気づいた。これらの蚊はまた、Delftia tsuruhatensis TC1と呼ばれる細菌の細胞を幾つかを宿していたが、この細菌はハルマンと呼ばれる毒性アルカロイドを産生する。細菌が産生したハルマンは、マラリア蚊腸内の雌性プラスモジウム属(マラリア)原虫による配偶子の発生を阻害した。ハルマンは、マラリア蚊の上皮を通過して発生中のマラリア原虫を殺すことができる接触毒であることが見出された。ブルキナ・ファソでの規制のもとでの実地試験は、モデル化研究と組み合わせて、この細菌がマラリア対策の1構成要素として、蚊の繁殖地で展開される可能性を持っていることを示した。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • ハルマン:複素環式多環化合物であるβカルボリンのメチル誘導体。
Science, adf8141, this issue p. 533

STINGがどのように機能するかに迫る (Closing in on how STING functions)

インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)は、非標準的オートファジーとインフラマソームを活性化する自然免疫用センサーである。この過程に関与する正確な機構は不明であるが、細胞内小器官からのプロトン漏洩が共通の特徴であるように見える。Liuたちは、STINGの膜貫通ドメインがプロトンを輸送できる細孔を形成すると仮定して、STINGの構造を解析した。著者たちは、細胞内pH測定と無細胞プロテオリポソームを用いた漏洩試験を行い、STINGが膜を横断して水素イオンを輸送できることを示した。さらに、この活動およびSTINGによるプロトン漏洩に依存した下流側機能は、この細孔に結合する低分子により阻害された。(MY)

【訳注】
  • インターフェロン遺伝子刺激因子(STING):小胞体に局在する膜タンパク質で、DNAウイルスの感染に反応してゴルジ体へ移動し、自然免疫・炎症応答を活性化する。
  • インフラマソーム:細胞内の異物等による危険信号により炎症応答を活性化するタンパク質複合体。
  • プロテオリポソーム:膜タンパク質を含む脂質小胞。
Science, adf8974, this issue p. 508

歴史的な縁が長い間埋もれていたDNAの中で見つかった(Historical ties found in long-buried DNA)

カトクティン溶鉱炉は、自由なおよび奴隷のアフリカ系アメリカ人労働者の両方を使って、18世紀から19世紀にかけてメリーランド州で操業していた。Harneyたちは、40年前に高速道路建設中に発掘された、そこのアフリカ系アメリカ人の墓地から見つかった27人のDNAを分析した(Jacksonによる展望記事参照)。著者らは、23andMeの同意済み顧客との同祖遺伝子の比較を通じて、米国における生物学的家族集団、先祖を共有しているかもしれない現代のアフリカ人集団、さらには遠い親戚と思われる人々の遺伝的証拠を見出した。この研究は、利害関係者からの入力情報をもとにしっかりと研究すれば、無視された人々の闇に葬られたまたは忘れ去られた歴史を明らかにするために、長い間埋没していたDNAが使えることを実証している。(Sk,kh)

【訳注】
  • 23andMe:個人ゲノム解析およびバイオテクノロジーを行う公開会社
Science, ade4995, this issue p. 500; see also adj2380, p. 482

糖尿病制御の改善 (Improving diabetes control)

腸内微生物叢由来の生成物は、さまざまな代謝疾患の状態と薬物代謝に関係づけられてきた。K. Wangたちは、定量的実験ワークフローを開発し、宿主の生理機能に影響を与えるヒトとマウスの腸内微生物叢からアイソザイムを同定した。これらの中で、著者たちはバクテロイデス属菌微生物のジペプチジル・ペプチダーゼ 4 (DPP4)を同定した。宿主DPP4は、2型糖尿病の管理における重要な治療標的である。腸内微生物から生成されるDPP4も、宿主のグルカゴン様ペプチド-1(glucagon like peptide-1)を分解し、グルコース恒常性の低下に寄与する可能性があるが、これは高脂肪食によって腸管障壁が漏れやすくなった場合に限られる。さらに、著者たちは、独特の微生物DPP4阻害剤であるダウリソリンを発見した。この阻害剤は有効性が変動する傾向があるシタグリプチンによる治療を支えるために使用できるかもしれない。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • アイソザイム:酵素としての活性がほぼ同じでありながら、タンパク質分子としては別種である(アミノ酸配列が異なる)ような酵素。
  • グルカゴン様ペプチド-1 (glucagon-like peptide-1:GLP-1):消化管ホルモンで、消化管に入った炭水化物を認識して分泌される。分泌されたGLP-1は膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用して、インスリン分泌を介した血糖降下作用を示す。
  • シタグリプチン:DPP-4阻害薬に分類される経口血糖降下薬。
Science, add5787, this issue p. 501

最新のオミックス手法の概要 (An overview of modern omics approaches)

生命現象はすべて空間で生じる。生きている生物では、細胞は相互作用し、三次元組織を作る必要がある。疾患において組織がどのように機能するかあるいは機能しないかを決定する上で、各細胞の位置はその固有の性質と全く同じくらい重要である。最近、細胞を自然な状況から切り離さずに特性を明らかにするための多くの技術が発明されてきた。そこでは、遺伝子発現および細胞ゲノムの調節状況を、組織内でのその空間的位置とともに測定する。レビュー記事において、Bressanたちは、総称して空間オミックスと呼ばれるこれらの手法の特徴を説明し、その可能性を最大限に引き出すために何が欠けているのかについて議論している。(Sk,kh)

Science, abq4964, this issue p. 499

膵ポリペプチドYYはカンジダを抑制する (Pancreatic polypeptide YY tames)

哺乳類の膵臓と腸内分泌細胞は、膵ポリペプチドYY (PYY) を含むペプチド・ファミリーを分泌し、腸の分泌、運動性、および食欲に影響を及ぼす。腸内のパネート細胞は、PYYと同様に微生物叢を調節するために、いくつかの抗菌ペプチドを管腔内に分泌する。PYYが既知の抗菌ペプチドの構造に類似していることに注目して、PierreたちはPYYの別の機能の可能性を調べた (LinとIlievによる展望記事を参照)。パネート細胞由来のPYYは、内分泌型とは異なり完全長であり、ある程度の抗菌活性を有していたが、遍在する腸内真菌であるカンジダ・アルビカンスが共生酵母型から侵入菌糸型に形質転換するのを阻害するのに最も効果的であった。したがって、完全長PYYは、マウス微生物叢にいる個々の真菌を管理する上で基本的な役割を果たしているようである。(Sh)

【訳注】
  • カンジダ・アルビカンス:ヒトの胃腸管に生息する一般的な日和見病原性酵母で、時にヒトのカンジダ症を引き起こす。カンジダ症のよくみられる病型は、口・腟・皮膚の表面での白や赤の斑点や、かゆみ・刺激感。通常の培地では酵母形、感染部位や血清などを含む培地では菌糸形と、2種類の形態を示すことが知られている。
  • パネート細胞:小腸の内側に抗菌物質を分泌し、小腸からの細菌の侵入を防ぐ、小腸の粘膜の上皮の細胞。
  • 完全長:腸管内分泌細胞から分泌される内分泌型PYYは2つの末端アミノ酸が除去され形成されるのに対し、パネート細胞由来のPYYは厳密に修飾されずアミノ酸36個からなる。これを完全長と言う。
Science, abq3178, this issue p. 502; see also adj1240, p. 483

柔軟な強誘電体(Flexible ferroelectrics)

強誘電体材料は電場に応答して電気的特性が変化する為、様々な応用に有用な特性を有している。しかしながら、ポリマー系強誘電体の場合でさえもその柔軟性を欠く傾向がある。Gaoらは、強誘電性のポリ(ジフルオロビニデリン)三元共重合体に少量の架橋剤を添加することでその弾性を大いに向上させた(ZhangとXiongによる展望記事参照)。当該材料は繰り返し伸縮させてもその強誘電特性が劣化しないことから、ウェアラブル装置の開発やその他の応用のための潜在的な魅力ある戦略となりうる。(NK,KU,kj,nk,kh)

Science, adh2509, this issue p. 540; see also adj2420, p. 484

ニトレン中間体を一瞥する (Glimpsing a nitrene intermediate)

ニトレンは、炭素-窒素結合の形成に広く関与している反応性の高い化学中間体である。窒素原子がアシル (RC=O) 基のみに結合している電子不足ニトレンは、チラと見ることさえ至難であることが分かっている。Jungたちは、ロジウム触媒に配位したこのアシル・ニトレン構造の結晶学的解析を報告している。著者たちは、光励起時に二酸化炭素を放出し、ニトレンを露出した状態の前駆体に配位子を結合することで、アシル・ニトレンを利用可能にできた。結晶内で観察されたアセトンとの反応は、予想された反応パターンの正しさを確認した。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • ニトレン:ナイトレンともいい、HN, あるいはそれを母化合物とする一連の誘導体 R-N のこと。
Science, adh8753, this issue p. 525

迅速スイッチ (A quick switch)

酸化ハフニウムは、非常に薄い層であっても強誘電特性が持続するため、コンピューター・メモリやその他の用途の材料として魅力的である。ただし、故障のリスクが比較的大きいことが、商品化を制限する要因の一つである。Y. Wangたちは、ハフニウム原子とジルコニウム原子のさらなる追加が、その強誘電特性の安定化に有用であることを発見した。これは分極切り替えに必要な電場の低下によって, 故障までにさらに多くの繰り返しを可能にする。(Wt,kh,nk)

Science, adf6137, this issue p. 558