Science January 2, 2004, Vol.303
銀河のなかの生息地(A Home in the Milky Way)
我々の銀河の中で、どの程度の割合の星々が、多細胞生物を維持しうる惑星を持ち
うるのだろうか? Lineweaver たち (p.59; Irion によるニュース解説を参照のこ
と) は、銀河系居住可能領域(Galactic habitable zone GHZ) と呼ばれる、我々の
銀河中で複雑な生命体が生活できる空間について、考えうる広がりを計算した。彼
らの基準は、致命的な被害を与える超新星からの距離、地球型惑星を形成しうる十
分な重元素量、そして、生命進化のための十分な時間を含んでいる。この基準に基
づくと、GHZ は、銀河中心から7〜9kparsec の間の円環上の領域となり、40
億〜80億年の間の年齢の銀河系の星のおよそ10%になる。(Wt)
ASTROPHYSICS:
Are Most Life-Friendly
Stars Older Than the Sun?
Robert Irion
p. 27.
The Galactic Habitable Zone and the Age Distribution of
Complex Life in the Milky Way
Charles H. Lineweaver, Yeshe Fenner, and Brad K.
Gibson
p. 59-62.
冬の形跡(A Winter's Trail)
初期の人類は、北アメリカに移住する前に、最初に北極シベリアに移りその過酷な
環境に適応した。数箇所の最も古い年代の居住地は古くても約1万5千年前を示し
ており、北半球の主な氷床が縮小を始めた頃より後である。Pitulkoた
ち(p.52;Stoneによるカバー記事とニュース記事参照)は、今回ヤナ川(中央シベリア
内で北極海に注ぐ河口のすぐ南)に沿った台地から見つかった一連の放射性炭素年代
測定値と人工遺物を報告する。それらは2万7千放射性炭素年(約3万カレンダー年)
に日付られる。その人工遺物には、サイ(rhinoceros)の角から作られた矢柄前
部(foreshaft)1つとマンモスの牙から作られたもの2つ、そして数百の石尖頭や石
片が含まれている。(TO)
ARCHAEOLOGY:
A Surprising Survival
Story in the Siberian Arctic
Richard Stone
p. 33.
The Yana RHS Site: Humans in the Arctic Before the Last
Glacial Maximum
V. V. Pitulko, P. A. Nikolsky, E. Yu. Girya, A. E.
Basilyan, V. E. Tumskoy, S. A. Koulakov, S. N. Astakhov, E. Yu. Pavlova,
and M. A. Anisimov
p. 52-56.
こうすれば見えるでしょう(Now You See Them)
小さい分子の自己組織化によって、ナノメートルからマイクロメータの広く多様な
形態をもつ物体を作り出すことができる。Yanたち(p. 65)は幅はミリメートルレベ
ルで、長さがセンチメートルレベルの中空チューブを生成するために、親水性と疎
水性領域の両方をもつ超枝分かれした(hyperbranched)高分子重合体を使った。その
チューブは重合体をアセトン中で攪拌すると形成される。チューブ壁を電子顕微鏡
で分析すると、疎水性と親水性が交互のラメラ構造をしており、疎水性領域が無定
形(アモルファス)であるのに対して、親水性領域が整列状態として形成されてい
ることがわかる。これらのチューブはロバストであり、おそらく側壁を誘導するこ
とによって形成される.(hk)
Supramolecular Self-Assembly of Macroscopic
Tubes
Deyue Yan, Yongfeng Zhou, and Jian Hou
p. 65-67.
損傷DNAを混ぜて修復(Mix and Fix Damaged DNA)
DNA上の二本鎖切断(DSBs)は、腫瘍形成性染色体転座を引き起こす可能性がある
が、しかしどのように切断末端同士が互いに互いを見つけだすのか明らかになって
いない。DNA上の異なる部位が、切断が生じる前に接触しているのか(静的な"接触-
優先"モデル)、それとも2箇所の切断末端が核内で流動的であるのか(動的な"切断
-優先"モデル)?細胞を素粒子(particles)に対して曝露することにより、Atenた
ち(p. 92)は、細胞核中に直線的なDSBs痕跡を生成した。この痕跡の形態は、DSB
を誘導してから数分以内に変化していたことから、DSB-含有性染色体は、"切断-優
先"モデルにより予想された通り、核内で流動的であった。いくつかの細胞では、切
断末端が大型のクラスターを形成し、これにより多数のDSBsが、修復の可能性のた
めに互いに非常に近い位置に集められた。(NF)
Dynamics of DNA Double-Strand Breaks Revealed by Clustering
of Damaged Chromosome Domains
Jacob A. Aten, Jan Stap, Przemek M. Krawczyk, Carel
H. van Oven, Ron A. Hoebe, Jeroen Essers, and Roland Kanaar
p. 92-95.
燃料電池の電解質の範囲を拡げる(Extending the Range of Fuel Cell
Electrolyte)
最高操作温度が100℃近傍であるとか、或いは燃料漏れという水素燃料電池に関する
幾つかの操作上の制限は高分子の電解質膜に起因している。固体酸では水が無くて
も高温でプロトンを輸送するが、しかしながら硫酸塩イオンやセレン酸イオンに基
づいた系では水素自身によって容易に還元される。Boysenたち(p.68;Serviceによ
るニュース記事参照)は、今回リン酸塩を基本とした固体
酸、CsH2PO4を含んだ燃料電池が燃料として水素、或いはメ
タノールを用いて長期に渡って(100時間以上)大きな性能上の損失もなく作動する
ことを示している。水蒸気の付与により、CsPO3への分解もなく250℃で
の使用が維持された。(KU)
CHEMISTRY:
Newcomer Heats Up the Race
for Practical Fuel Cells
Robert F. Service
p. 29.
High-Performance Solid Acid Fuel Cells Through Humidity
Stabilization
Dane A. Boysen, Tetsuya Uda, Calum R. I. Chisholm,
and Sossina M. Haile
p. 68-70.
全世界の火事(Fire in the Whole World)
火事は、CO2や CH4 のような多くの重要なトレースガス
の、年をまたがる大気濃度変動のかなりの部分を説明しうるが、さまざまな地球上
の地域からの放出されるガスの相対的な寄与度合いは、全く、不明であった。衛星
と大気データや、生物地球化学的モデリング、そして、大気 CO 異常の逆解析を用
いた研究により、van der Werf たち (p.73)は、さまざまな地域における火事
が、1998年から2001年の間の地球規模のトレースガス変動にどの程度寄与している
かを解析した。東南アジアからの異常に大量の火事による放出は、地球規模での信
号の大部分の原因である。以前は低く評価されていた、中央アメリカ、北方地域、
南アメリカもまた、重要な発生源であった。(Wt)
Continental-Scale Partitioning of Fire Emissions During the
1997 to 2001 El Niño/La Niña Period
Guido R. van der Werf, James T. Randerson, G. James
Collatz, Louis Giglio, Prasad S. Kasibhatla, Avelino F. Arellano Jr., Seth
C. Olsen, and Eric S. Kasischke
p. 73-76.
一歩を分解する(Breaking Down the Stride)
走る際のエネルギーのコストとその根底にある生理学的機構は、何十年にもわたっ
て研究されてきた。しかし、そのエネルギー特性を根底にある機構に関連付けるに
際しては、「ブラックボックス」アプローチに頼ってきたのである。ホロホロ鳥に
ついての実験研究において、Marshたちは、エネルギーがいかに分散しているかを測
定するために筋肉への血流を用いた(p. 80; またHeglundによる展望記事参照のこ
と)。以前予測されていたのとは違って、上翼(upper limb)を羽ばたかせる筋肉に
よって使われるエネルギーは無視できないもので、力を地面に伝える下
肢(lowerlimb)によって使われるエネルギーのおよそ3分の1だったのである。(KF)
PHYSIOLOGY:
Enhanced: Running a-Fowl of the Law
Norman C. Heglund
p. 47-48.
Partitioning the Energetics of Walking and Running: Swinging
the Limbs Is Expensive
Richard L. Marsh, David J. Ellerby, Jennifer A.
Carr, Havalee T. Henry, and Cindy I. Buchanan
p. 80-83.
MicroRNAの管理(MicroRNA Management)
Micro (mi)RNAというのは、ほとんどの真核生物ゲノムで見い出される小さな非翻訳
RNA遺伝子であって、遺伝子発現の転写後制御に関与しているものである。この
miRNA は細胞核において転写されるが、そこでそれらはpre-miRNAへと処理されるの
である。さらなるプロセシングは細胞質で行われるが、そこではpre-miRNAが22ヌク
レオチド長以下の最終的な形態に開裂されるのである。Lundたちは、pre-miRNAの核
から細胞質への輸送について調べた(p. 95)。pre-miRNAはRanGTP-結合輸出(export)
受容体であるExportin-5を介して搬出されるが、このExportin-5はこれ以外の小さ
な構造化されたRNAの輸出(export)にも関与してい。pre-miRNAはExportin-5に直接
結合するが、Exportin-5はmiRNAの生物発生においても決定的な役割を果たしている
のである。Chenたちは、造血性細胞に特異的に発現するマウスのmiRNA集合の機能を
分析した(p. 83)。それらの発現パターンは細胞系譜の変化を反映しており、骨髄に
おける発現がB-リンパ様系列と相関しているmiR-181の過剰発現は組織培養およびマ
ウスの双方においてB-系列細胞の優勢を生み出すのである。(KF)
MicroRNAs Modulate Hematopoietic Lineage
Differentiation
Chang-Zheng Chen, Ling Li, Harvey F. Lodish, and
David P. Bartel
p. 83-86.
Nuclear Export of MicroRNA Precursors
Elsebet Lund, Stephan Güttinger, Angelo
Calado, James E. Dahlberg, and Ulrike Kutay
p. 95-98.
初期ニューロン細胞運命を変える(Repressing Early Neuronal Cell Fates)
哺乳動物の脳の発生が進行するにつれて、新しく形成されたニューロンが、皮質の
層中に組織化されるようになる。最も初期に生まれるニューロンは、最も深部の層
を形成し、より後期になって生じるニューロンは、より表面の層を連続的に形成す
る。ニューロン前駆細胞は、発生的な時間の進行につれて、どのようにして様々な
タイプのニューロン細胞を産生するのだろうか?Hanashimaたち(p. 56;Levittに
よる展望記事を参照)はここで、初期の細胞運命についての可能性は、時間により
実際にバイパスされるのではなく、むしろ、制御因子の持続的発現により抑制され
る持続性のものであることを示した。例えば、Cajal-Retziusニューロンは最も初期
に産生され、そして終脳転写因子Foxg1により抑制されるが、このFoxg1を欠損させ
た変異体では、皮質においてCajal-Retziusニューロンが過剰に形成されていた。一
方、Cajal-Retziusニューロンの不足が、Foxg1によるCajal-Retziusニューロン分化
経路の抑制によって、より後期になって生じるニューロン細胞層において引き起こ
される。(NF)
NEUROSCIENCE:
Sealing Cortical Cell
Fate
Pat Levitt
p. 48-49.
Foxg1 Suppresses Early Cortical Cell Fate
Carina Hanashima, Suzanne C. Li, Lijian Shen, Eseng
Lai, and Gord Fishell
p. 56-59.
同定された葉緑体マルトース輸送体(Chloroplast Maltose Transporter
Identified )
日中の光合成によって吸収された炭素は、一時的に植物葉緑体にデンプンとして蓄
えられる。暗闇の中ではデンプンが分解し、植物への炭素供給源となる。この分解
したデンプンのほとんどは葉緑体から細胞質へと二糖マルトースとして輸送され
る。Niittylaたち(p. 87)はシロイヌナズナ(Arabidopsis)において葉緑体の膜中に
存在するマルトース輸送体を同定した。(Ej,hE)
A Previously Unknown Maltose Transporter Essential for Starch
Degradation in Leaves
Totte Niittylä, Gaëlle Messerli, Martine
Trevisan, Jychian Chen, Alison M. Smith, and Samuel C. Zeeman
p. 87-89.
切断されたカーボンナノチューブからできた膜(Membranes from Cut Carbon
Nanotube Arrays)
小さな孔を空けた膜は、工業的には重要な役割を持つが、この孔の径が1-10nmの場
合は合成が極めて困難である。カーボンナノチューブ(CNT)の内径は、この範囲のス
ケールを持っており、原理的には細孔膜作成の魅力的な物質である。このCNTを並べ
て作っておけば整列した細孔膜が合成できる。Hindsたちは(p. 62)この孔の径の範
囲が特定の大きさである場合だけ、膜が合成できることを示した。彼らは整列して
成長させたCNTの上に、ポリスチレンを薄くスピンコートした。このポリマーはCNT
の表面との濡れ性が良く、密生したCNTの周囲を埋め尽くした基質(マトリックス)
となる。このポリマーとCNTの複合物を水プラズマで処理すると、カーボンが除去さ
れ、数ナノメートル径の細孔膜が出来上がる。プラズマ切断されたカルボキシル基
をナノチューブのチップ上にさらされたままにしておき、次に生物分子によって孔
をもっと小さくすることも可能である。セラミックの細孔膜は孔の径が良く揃って
いるが壊れやすいという欠点がある。しかしこのようなポリスチレンマトリックス
では頑強で柔軟性が確保される。(Ej,hE)
Aligned Multiwalled Carbon Nanotube Membranes
Bruce J. Hinds, Nitin Chopra, Terry Rantell, Rodney
Andrews, Vasilis Gavalas, and Leonidas G. Bachas
p. 62-65.
組換えを制御しているか(Regulating Recombination, or Not...)
減数分裂の初期段階では染色体の適合対を集めて、染色体間組換えを実現させる。
染色体対形成プロセスは、これに続く組換えプロセスからは分離可能のように見え
る。この組換えではDNA断片は染色体間で交換される。Pawlowskiたち(p. 89; およ
びMartinez-Perez and Mooreによる展望記事も参照)は、相同染色体の対形成を阻害
するが、それでもDNA交換が進展可能な変異がトウモロコシの中にあることを見つけ
た。このphs1変異体では、非相同染色体であっても互いに付着し、DNA交換がなされ
ていた。このように、組換えは染色体の同格性に依存しており、対となる相手との
全体的相同性は不必要なように見える。(Ej,hE)
PLANT SCIENCES:
Promiscuous Maize
Chromosomes
Enrique Martinez-Perez and Graham Moore
p. 49-50.
Coordination of Meiotic Recombination, Pairing, and Synapsis
by PHS1
Wojciech P. Pawlowski, Inna N. Golubovskaya,
Ljudmilla Timofejeva, Robert B. Meeley, William F. Sheridan, and W.
Zacheus Cande
p. 89-92.
シャペロンをシャペロンへ(Chaperoning the Chaperones)
真核生物において、Hsp70分子シャペロンは、タンパク質生物発生、ストレス応答、
およびアポトーシスに関与している。この様なタンパク質は、フォールディングし
ていないタンパク質にアデノシン三リン酸(ATP)-依存的に結合する。このステッ
プには、コ-シャペロン(co-chaperones;シャペロンの補助因子)により調節され
る内在性のATPase活性が必要とされる。Steelたち(p.98)は、2種類の別個の
Hsp70、Lhs1pとKar2p、が特異的に相互作用して、それらの反応サイクルを協調さ
せ、結果として全体的な活性を劇的に増加させる、という事実を提示した。この結
果から、多価性シャペロン複合体内のHsp70の協調性制御に関する一般的モデルが示
唆される。(NF)
Coordinated Activation of Hsp70 Chaperones
Gregor J. Steel, Donna M. Fullerton, John R. Tyson,
and Colin J. Stirling
p. 98-101.
マグマの供給源(Source of Magma)
187Reと187Osの崩壊は、マントル中での供給源から結晶化
を経て地殻の中で冷却するまでの、マグマの起源やその動的な変化を追跡するため
に使うことができる。これまでの研究は主に全岩(bulk rock)のRe/Os比率に依存し
ていたが、今回Gannounたち(p.70)は、海洋中央の海嶺玄武岩から得た鉱物相やガラ
ス層におけるRe/Osの同位体比率を計測した。相が異なると異なる比率を生み出すた
め、幾つかの相を使って鉱物がいつ結晶化したのかを推測することが出来、別の相
を使ってマグマの源を決定することができる。全岩比率(bulk rock ratio)が種々の
測標(signal)を示すとすれば、個々の相の高精度な測定によってより完全なマグマ
の動きの変遷や海洋地殻や大陸地殻の進化について判るかもしれない。(TO)
Osmium Isotope Heterogeneity in the Constituent Phases of
Mid-Ocean Ridge Basalts
Abdelmouhcine Gannoun, Kevin W. Burton, Louise E.
Thomas, Ian J. Parkinson, Peter van Calsteren, and Pierre Schiano
p. 70-72.
生物学における遊離基の発生(Generating Free Radicals in Biology)
ラジカルSAMスーパーファミリー内の酵素は、遊離基を発生する
Fe4S4クラスターやS-アデノシル-L-メチオニン(Ado Met,
或いはSAM)クラスターを用いることにより、重要な生物学的プロセスを触媒す
る。Berkovitchたち(p.76)はAdo Metやdethiobiotin(DTB)との複合体におけるラ
ジカルSAM enzymeビオチン合成酵素の3.4オングストロームの結晶構造を決定し
た。ビオチン合成酵素はDTBへの硫黄の挿入を触媒してビオチンを作る。Ado Metと
DTBを含むその活性サイトは、ラジカル発生に必須のFe4S4
クラスターとSのソースと推定されているFe2S2クラスター
の間に位置している。(KU)
Crystal Structure of Biotin Synthase, an S
-Adenosylmethionine-Dependent Radical Enzyme
Frederick Berkovitch, Yvain Nicolet, Jason T. Wan,
Joseph T. Jarrett, and Catherine L. Drennan
p. 76-79.