Science September 12, 2003, Vol.301
単層カーボンナノチューブの金属−半導体転移(Functionalization Follows
Fermi Levels)
単層カーボンナノチューブは金属的性質、および半導体的性質の両方の性質を示
す。半導体的カーボンナノチューブにイオンをドープすることで、金属へと変換さ
せることができる。金属性カーボンナノチューブに共有結合性化学反応を作用させ
ることで、半導体性に変換可能であることが2つのグループによって示されたが、
これを利用して金属/半導体カーボンナノチューブの分離の可能性がでてきた。
Kamarasたちはジクロロカルベンとの反応により、フェルミ準位付近に新たにバンド
ギャップが形成され半導体化することを見出している。Stranoたちはジアゾニウム
試薬が金属性カーボンナノチューブと選択的に反応し、自己触媒効果により全体の
ナノチューブを半導体化させることを見出している。この半導体化した誘導体は熱
処理によって元の金属的カーボンナノチューブに復元可能である。(NK)
Covalent Bond Formation to a Carbon Nanotube
Metal
K. Kamaras, M. E. Itkis, H. Hu, B. Zhao, R. C.
Haddon
p. 1501.
Electronic Structure Control of Single-Walled Carbon
Nanotube Functionalization
Michael S. Strano, Christopher A.
Dyke, Monica L. Usrey, Paul W. Barone, Mathew J. Allen, Hongwei
Shan, Carter Kittrell, Robert H. Hauge, James M. Tour, Richard
E. Smalley
pp. 1519-1522.
どの銀河にもあるハロー(Homologous Galactic Halos)
銀河系や他の大型の渦巻き銀河の起源に迫る手がかりを、それらを取り巻く古く金
属が乏しい高速度で広がった、銀河ハローと呼ばれる星の集団の中に見出すことが
できる。Minnitiたち(p.1508)は、チリにある大型望遠鏡VLTを用いて近隣の小さな
銀河である大マゼラン星雲の周りのホットハローを検知した。こうした異なった質
量の銀河の周りにこの高速度星からなるハローが存在することは、全ての銀河が似
た方法で形成された可能性を示している。特にこの発見は、大型銀河の形成メカニ
ズムを次の2つの可能性に限定する。1つは、古い恒星を持つ小さな衛星銀河を階層
的に併合していく可能性であり、もう一つは、原始銀河が丸ごと収縮崩壊を起こ
し、銀河円盤の形成以前に古い星種族をハローへと投げ出した可能性であ
る。(TO,Nk)
Kinematic Evidence for an Old Stellar Halo in the Large
Magellanic Cloud
Dante Minniti, Jura Borissova,
Marina Rejkuba, David R. Alves, Kem H. Cook, Kenneth C. Freeman
pp. 1508-1510.
メタ個体群に対する妨害結果(Disturbing Results for Metapopulations)
メタ個体群生態学(Metapopulation biology)では、空間的に分離したパッチ状の
landscape(生息地域)に、分割された状態で生息する種の局所個体群の動態を明ら
かにすることができる。Levinによる古典的パッチ動態モデル(classic
patch-dynamics model)は、島状生息域(habitat islands)という小さな単位の
landscapeにおける定着(colonization)や個体群の全滅を理解するための基本的基盤
を与えてきた。パラメータを単純に調整することで、Hastings(p.1525;Dobsonによ
る展望記事参照)は、パッチ特質をパッチ年齢(例えば、火事のような外乱後の種gが
継続して存在している場合)に合わせることができるように、古典的モデルを拡張し
た。著者は、平均パッチ寿命を引き下げる外乱がどのようにメタ個体群の絶滅を引
き起こすことができるのかを示している。(TO)
Metapopulation Persistence with Age-Dependent Disturbance
or Succession
Alan Hastings
pp. 1525-1526.
より冷たい凝縮物質を創る(Creating Colder Condensates)
分子レベルあるいは原子レベルにおいて、今まで以上に冷たいボース-アインシュタ
イン凝縮物質(Bose-Einstein condensates BECs) を作り出す能力に焦点をあてた、
二つの報告がなされている。いくつかの手法は、一つの原子レベルの凝縮物質内部
に分子を形成しうる証拠を示してきたが、それらの原子レベルの反応物質から分子
を分離することはできなかった。Herbig たち (p.1510) は、外部磁場によって生み
出される Feshbach 共鳴を利用して、冷たいセシウム(Cs) 分子を、Cs 原子からな
るひとつの BEC 内に生み出した。そして、分子と原子の異なる磁気的な特徴を利用
して、磁気浮揚を用いて分子を分離した。Leanhardt たち (p.1513) は、ナトリウ
ム原子からなる BEC を閉じ込め、そして、冷やすために、重力および磁気力を用い
るという捕獲のための技術を開発した。断熱減圧過程を用いて、彼らは、原子をそ
れ以前の最低温度である 3nK(ナノケルビン) と比べてもはるかに低い、500pK (ピ
コケルビン)以下の温度まで冷却した。このより低温領域に入ることにより、以前は
見えなかった量子相互作用を探索し、解きほぐすことができる可能性がある。(Wt)
Preparation of a Pure Molecular Quantum Gas
Jens Herbig, Tobias Kraemer, Michael Mark, Tino
Weber, Cheng Chin, Hanns-Christoph Nagerl, Rudolf Grimm
pp. 1510-1513.
Cooling Bose-Einstein Condensates Below 500
Picokelvin
Stephen A. E. Leanhardt, T. A. Pasquini, M.
Saba, A. Schirotzek, Y. Shin, D. Kielpinski, D. E. Pritchard, W. Ketterle
pp. 1513-1515.
流れの果てに見を任せて(Going with Where It Flowed)
低濃度においてさえも、高分子の希釈溶液は、その長い緩和時間と高分子鎖に付随
する多数の高分子鎖配座のため、幾多の異常で非線型な流動効果を示すことがあ
る。約30年前に、これらの高分子鎖は、ラセン状態から完全に伸張した状態へ鋭い
遷移を示すであろうことが提案された。Schroeder たち (p1515) は、単一のDNAに
対する一群の実験により、流れの経歴、すなわち、高分子鎖の履歴が、この流れの
遷移に対する臨界的な値を決定する上で決定的な役割を果たすことを示してい
る。(Wt)
Observation of Polymer Conformation Hysteresis in
Extensional Flow
Observation of Polymer Conformation Hysteresis in
Extensional Flow
pp. 1515-1519.
パターンを読み取る(Reading the Patterns)
動物が特定の病原体に対抗できる能力は、大部分免疫応答の遺伝的プログラムに
依存している。ライ病のようなある種の病気では、この応答によって最終的に発
病する多様な臨床形態が見られる。ライ病患者の病変組織からとった試料のマイ
クロアレイ分析によって、Bleharskiたち(p. 1527)は、この病気の2つの主要な
病気の形態である比較的穏やかな結核様形態と過酷なライ腫性形態の間の遺伝子
発現パターンを確認した。ライ病患者における白血球免疫グロブリン-様受容体
(LIR)ファミリー遺伝子の発現の一般的増加は、LIR-7にも見られる。この受容体
の活性化によってインターロイキン-10の発現が上昇し、試験管内でのToll-様受
容体機能が抑制されるが、これはこれら患者の極めて損傷の大きな細胞性免疫応
答と対応している。(Ej,hE)
Use of Genetic Profiling in Leprosy to Discriminate
Clinical Forms of the Disease
Joshua R. Bleharski, Huiying Li,
Christoph Meinken, Thomas G. Graeber, Maria-Teresa Ochoa,
Masahiro Yamamura, Anne Burdick, Euzenir N. Sarno, Manfred
Wagner, Martin Rollinghoff, Thomas H. Rea, Marco Colonna,
Steffen Stenger, Barry R. Bloom, David Eisenberg, Robert L.
Modlin
pp. 1527-1530.
マラリア寄生体の一生における遺伝子発現(A Lifetime of Gene Expression
in the Malaria Parasite)
マラリア、原因となる媒体である熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)にお
けるゲノム全体にわたっての遺伝子発現の様子をみるために、オリゴヌクレオチ
ド・ベースのマイクロアレイが、Le Rochたちによって作成された(p. 1503; ま
た、Watersによる展望記事参照のこと)。予想された遺伝子のほぼ90%について、転
写物が検出された。これら発現した遺伝子のうち、43%は寄生虫のライフサイクル中
に変異した。クラスター分析によって、新しく同定されたがまだ特徴が明らかに
なっていない数千の遺伝子の、細胞における潜在的な役割について、類推による予
想が提供された。(KF)
Discovery of Gene Function by Expression Profiling of the
Malaria Parasite Life Cycle
Karine G. Le Roch, Yingyao Zhou, Peter L.
Blair, Muni Grainger, J. Kathleen Moch, J. David Haynes,
Patricia De la Vega, Anthony A. Holder, Serge Batalov, Daniel J.
Carucci, Elizabeth A. Winzeler
pp. 1503-1508.
コートされていれば血小板も冷却可(Coated Platelets Welcome Cold
Storage)
血小板輸血は、外科手術および外傷患者における生命に関わるような出血を防止す
る。しかしながら、冷蔵された血小板は患者の循環系から迅速に排除されてしま
い、一方で室温保存をすれば血小板の貯蔵寿命が縮まってしまい、どちらにしても
輸血のためには恒常的な欠点となってしまう。Hoffmeisterたち(p. 1531;カバー
およびCouzinによるニュース記事を参照)は、肝臓マクロファージのインテグリン
受容体が、冷蔵された血小板の表面上にあるフォン・ヴィレブランド(von
illebrand)因子のクラスター化されたGPIbαサブユニットの露出した糖残基に対し
て結合することを示した。この結合が起こる結果、輸血され、冷蔵された血小板の
食作用が引き起こされ、そしてそれらが循環系から迅速に排除されてしまう。この
結合は、GPIbαの露出した糖残基をマスクすることによりブロックすることができ、
そして処理され、冷却されたマウス血小板をマウス中に輸血した後に、その寿命が
増加することが観察された。これらの知見から、血小板の冷蔵保存のための可能性
のあるストラテジーが提供される。(NF)
Glycosylation Restores Survival of Chilled Blood
Platelets
Karin M. Hoffmeister, Emma C. Josefsson,
Natasha A. Isaac, Henrik Clausen, John H. Hartwig, Thomas
P. Stossel
pp. 1531-1534.
HIV患者の結核治療(Fighting TB in the Presence of HIV)
サハラ以南のアフリカでは、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)のために結核(TB)の発
生が急速に増加している。その地方のTB患者の60%までがHIVにも感染しており、毎
年20万人ものTB死亡者が、HIVにも感染していると言われている。抗レトロウィル
ス(ARV)薬剤は、TBコントロールにおける世界的な進歩の流れを巻き戻すおそれが
あるHIV-関連性TBの急速な増殖に、歯止めをかけるための潜在能力を有している。
しかしながら、WilliamsとDye(p. 1535)は、数学的モデリング(コホート解析)
を使用して、TBコントロールにおけるARVについての直接の役割が、新しい症例が起
こらないようにすることではなく、患者の治療の質を改善することであり、そして
ARV療法への入り口点を提供することにあることを示唆した。(NF)
Antiretroviral Drugs for Tuberculosis Control in the Era of
HIV/AIDS
Brian G. Williams and Christopher Dye
pp. 1535-1537.
自ら加えたDNA創傷(Self-Inflicted DNA Wounds)
抗生物質を生成する生物体は、薬除去や薬修飾のような機構を進化させたため、自
分の化学的武器を回避できる。エネジイン(enediyne)は、強力な天然の抗生物質で
あり、DNAの切断によって作用する。Bigginsたち(p 1537)は、Micromonosporaが生
成するカリーチアマイシン(calicheamicin)というエネジインに対する耐性に自己犠
牲の機構が関与することを示した。タンパク分解エネジインが抵抗性タンパク質を
特異的にタンパク分解する時に、そのエネジインが消失する。解毒が代謝産物と抵
抗性タンパク質両方の消費によって行なわれるこのような機構は、極度に強力な代
謝産物に対して特に有効であるかもしれない。(An)
Resistance to Enediyne Antitumor Antibiotics by CalC
Self-Sacrifice
John B. Biggins, Kenolisa C. Onwueme, Jon S.
Thorson
pp. 1537-1541.
RNA伝達を移動(Transferring RNA Transfer)
RNA干渉、つまりRNA仲介の遺伝子発現の転写後抑制、は植物と線虫において、その
開始部位から遠い場所にある他の細胞に移動できる。以前の研究では、遺伝子SID-1
という推定上の膜タンパク質がこの全身作用に関与することを示した。Feinbergと
Hunter(p 1545)は、この研究を展開して、確かなマルチパス膜貫通のタンパク質で
あるCaenorhabditis elegans SID-1がRNAの外来性取り込み(形質移入なし)を、通常
は不応性であるショウジョウバエ組織培養細胞に与えることができることを示し
た。SID-1仲介のRNA取り込みは受動的なプロセスであり、直接なエネルギー消費は
必要ではない。(An)
Transport of dsRNA into Cells by the Transmembrane Protein
SID-1
Evan H. Feinberg and Craig P. Hunter
pp. 1545-1547.
ニッチはいかにして幹細胞分裂の非対称性に影響するか(How Niches Impose
Asymmetry on Stem Cell Divisions)
ショウジョウバエの雄性生殖系列は、幹細胞がいかにして、その正常なミクロな
環境、すなわちニッチという事情において制御されるのかを探求するためのモデ
ルの系として用いられる。Yamashita たちは、この系を用いて、幹細胞が分裂し
て、一つの幹細胞ともう一つの分化していこうとする細胞(この場合は
gonialblast)に分裂することになる確かに非対称性の結果を導く細胞内の機構を
探求した(p. 1547; またWallenfangとMatunisによる展望記事参照のこと)。分裂
中の生殖系列幹細胞の紡錘体は、その細胞周期を通じて、サポート細胞ニッチの
方に向くのである。このプロセスには、中心体の機能と、ヒトにおける癌抑制遺
伝子である腺腫性ポリープ症(Adenomatous Polyposis Coli)に相当するものと
が、必要なのである。(KF)
Orientation of Asymmetric Stem Cell Division by the APC
Tumor Suppressor and Centrosome
Yukiko M. Yamashita, D. Leanne Jones, Margaret
T. Fuller
pp. 1547-1550.
すい星の重い窒素同位体(Heavy Nitrogen in Comets)
すい星は原始的な氷球で、惑星や全体の構造がまだ完全には進化していない太陽系
初期の化学的情報についての推測できる可能性がある。Arpigny たちは(p.
1522)、LINEARすい星(C/2000 WM1)のCN分子の炭素窒素同位体比率を測定した結
果、15N比率が地球の値より大きく(15N比率が、地球上の値
や、Hale-Boppすい星のHCNの窒素同位体測定値よりも大きかったことを報告してい
る)、Hale-Boppすい星のHCNの窒素測定値も同様に大きかったことを報告してい
る。HCNはCNの親分子と考えられていたが、WM1すい星の窒素が重いことから、多環
式芳香族炭化水素などの、もっと複雑なマクロ分子の方がCNの親分子と考えられ
る。このように、初期の太陽系は、従来考えられていたよりも、より不均質で化学
的にも複雑だったようだ。 (Na,Nk,Tk)
Anomalous Nitrogen Isotope Ratio in Comets
Claude Arpigny, Emmanuel Jehin, Jean
Manfroid, Damien Hutsemekers, Rita Schulz, J. A. Stuwe,
Jean-Marc Zucconi, Ilya Ilyin
pp. 1522-1524.
光検出用タンパク質のモチーフ(A Light-Sensing Protein Motif)
フォトトロピンは、青色光に反応し屈光性と葉の開閉過程を制御する植物性タンパ
ク質である。光にさらされたPer-ARNT-Sim (PAS)領域はフラビン発色団と共有結合
を形成し、そしてこの過程はどういうわけかキナーゼ(リン酸化酵素)領域を活性
化する。Harperたち(p. 1541)は、“PAS領域の核の外にあるα-ラセン体が暗部領域と
関連はあるが、相互作用は照射状態中では中断されている”ことを示すために核磁気
共鳴分光光学を用いた。おそらくこのコンフォメーションの変化によって、光依存
性結合形成がキナーゼの活性化と関連している。(hk)
Structural Basis of a Phototropin Light Switch
Shannon M. Harper, Lori C. Neil, Kevin H.
Gardner
pp. 1541-1544.