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Science August 22, 2003, Vol.301


確固とした地位になってきて(Developing a Firm Position)

古典的な世界では、ある物体の位置は明確に定義されているが、量子力学では、位 置測定の精度向上は、粒子の運動量に関する情報の喪失という犠牲の元に、もたら される。古典力学と量子力学の相違は、十分に認知はされているが、しかし、な お、量子力学的な粒子からなるより大きな物体が、どのようにして、それらの"古典 的な"特性を発現するのかを理解することは重要である。位置というものは比較測定 である、とみなすアプローチを採用することで、Rau たち (p.1081) は、二つの粒 子が次第にもつれるようになる一連の散乱相互作用に曝される時、いかにそれら が、明確に定義された分離状態で空間的に局在化するかを示す思考実験を提示して いる。その提案は、局在化と古典的世界の出現は、もつれの考え方で理解されうる ことを示唆している。(Wt,KU)
Measurement-Induced Relative-Position Localization Through Entanglement
   A. V. Rau, J. A. Dunningham, and K. Burnett
p. 1081-1084.

ハワイの漂流(Hawaiian Drift)

ハワイのエンペラー(天皇) 海山列は、火山活動を引き起こす静止したホットスポッ トの上を動いている太平洋プレートの動きの跡を残していると考えられてき た。Tardunoたち(p.1064;Stockによる展望記事参照)は、海山列で最も古い部分 に沿った 光孝(Koko)海山、仁徳(Nintoku)海山、デトロイト海山の年代と当時の緯 度を測定した。規模の大きなマントル流によってデータをモデル化することによっ て、プルームは8100万年前から4700万年前にかけて南方向に急速(年間40ミリメート ル)に移動したことを示している。ハワイ海山列から天皇海山列への折れ曲がりはそ の結果生じたらしい。このように、ホットスポットを固定された規準位置と考えて 作られた、プレート移動、真の極運動、マントル対流のモデルは修正する必要があ るようだ。(TO,Og,Nk)
GEOPHYSICS:
Hotspots Come Unstuck

   Joann Stock
p. 1059-1060.
The Emperor Seamounts: Southward Motion of the Hawaiian Hotspot Plume in Earth's Mantle
   John A. Tarduno, Robert A. Duncan, David W. Scholl, Rory D. Cottrell, Bernhard Steinberger, Thorvaldur Thordarson, Bryan C. Kerr, Clive R. Neal, Fred A. Frey, Masayuki Torii, and Claire Carvallo
p. 1064-1069.

分子の橋をスピンが移動

量子ドットはスピンを利用した量子情報処理の分野で注目されている。 量子ドット 内では、スピンが散乱され難く、比較的長い寿命をもったスピンを生成することが できるからである。 これまで複数の量子ドットを連結する技術としては、低温条件 下での作業が必要であったり、大量複製の困難な加工技術を用いたものがほとんど であった。 OuyangとAwschalomは(P 1074: 8/1のServiceによるニュース記事参照 のこと)自己組織化を利用して、共役分子がカップリング(相互作用)する量子 ドットの作製に成功した。 さらに一方の量子ドットで励起されたコヒーレントなス ピンを、その分子の橋を介して他方に移動させることにも成功した。 分子エレクト ロニクスとスピントロニクスの融合によって、スピンのコヒーレント性を利用した 量子情報処理デバイスを大量に構築するための有望な手段が確立されたといえる。 (Ku)
Coherent Spin Transfer Between Molecularly Bridged Quantum Dots
   Min Ouyang and David D. Awschalom
p. 1074-1078.

遺伝子発現に対する先制攻撃(Preemptive Strikes Against Gene Expression)

RNA干渉(RNAi)は、ウイルスやトランスポゾンや導入遺伝子によって産生される可能 性のある異常な(おそらく二本鎖の)RNA分子を認識して破壊することによって、侵 入してくる核酸に対して生物ゲノムを守っている。またRNAiは、分裂酵母のゲノム 中のある種の反復配列におけるヘテロクロマチンの生成にも関わってい る。Schramkeと Allshire (p. 1069; Matzkeand Matzkeによる展望記事参照)は分裂 酵素の研究において、RNAi駆動によるヘテロクロマチン形成がトランスで効力を発 揮し、正常に活性状態の真性クロマチン座位からの遺伝子発現を制止することを示 した。減数分裂で活性化する遺伝子のサブセットは、RNAi依存した様式で非分裂性 の栄養細胞中で抑圧され、これは、ヘテロクロマチンの形成に関わりトランスポゾ ン近傍の末端反復配列 (LTR) を必要とする。 (Ej,hE)
RNAi Extends Its Reach
   Marjori Matzke and Antonius J. M. Matzke
p. 1060-1061.
Hairpin RNAs and Retrotransposon LTRs Effect RNAi and Chromatin-Based Gene Silencing
   Vera Schramke and Robin Allshire
p. 1069-1074.

プルトニウムのフォノンを検知(Probing Phonons in Plutonium)

毒性で放射能を帯び、強い電子相互作用を持ち、かつ分析に必要な大きさの結晶成 長も難しいこともあいまって、プルトニウムは研究に値する材料である。このよう な技術的障壁にもかかわらず、Wongたち(p. 1078;Landerによる展望記事参照)は、 非弾性X-線散乱の研究結果を報告している。そこでは少量%のガリウムとの合金化に より安定化した面心立方構造のδ-Puの格子振動(フォノン構造)を検知している。こ の結果はPuを記述するのに用いられた最近の理論的研究に対する実験的検証を与え るものである。(KU)
PHYSICS:
Sensing Electrons on the Edge

   Gerard H. Lander
p. 1057-1059.
Phonon Dispersions of fcc delta-Plutonium-Gallium by Inelastic X-ray Scattering
   Joe Wong, Michael Krisch, Daniel L. Farber, Florent Occelli, Adam J. Schwartz, Tai-C. Chiang, Mark Wall, Carl Boro, and Ruqing Xu
p. 1078-1080.

火星における炭酸塩(Carbonates on Mars)

地球における炭酸塩鉱物は、ごく一般的に堆積物や熱水環境下で形成され、水の豊 富な条件下で沈殿し、最終的には大気からの二酸化炭素(CO2)を取り込 む。火星から飛んできた隕石も炭酸塩を含んでおり、このことは火星における水の 存在のみならず、CO2の貯蔵所(sink)であることも示唆している。これ まで火星表面でのリモートセンシング(遠隔探査)と現場での測定では、炭酸塩が 検知されなかった。Bondfieldたち(p. 1084;Kerrによるニュース記事参照)は、今回 火星探査機(Mars Global Surveyor)からのデータを用いて火星表面の塵の中に約3重 量%程度の含有量のマグネシウムに富む炭酸塩(マグネサイト)が存在するという分光 学的証拠を報告している。含有濃度は少ないながら、そのスペクトルは比較的広範 囲に分布しており、このことは過去の火星大気にもっと豊富にあった CO2を、マグネサイトMgCO3)として吸い込まれたことを示唆 している。(KU,Og,Tk,Nk)
PLANETARY SCIENCE:
Eons of a Cold, Dry, Dusty Mars

   Richard A. Kerr
p. 1037-1038.
Spectroscopic Identification of Carbonate Minerals in the Martian Dust
   Joshua L. Bandfield, Timothy D. Glotch, and Philip R. Christensen
p. 1084-1087.

止まっては進む、氷河の動き(Stop-and-Go Sliding)

南極大陸西部氷床(West Antarctica Ice Sheet)は、完全に溶けると海面を6メート ル上昇させるほどの水を含んでいるので、その流れが進行中の地球温暖化に応答し ているかどうかをはっきりさせることに大きな関心が集まっている。Bindschadler たちは、南極大陸西部氷床の大部分が潮汐の1メートル以下の変化に応答して鋭敏に さまざまな動き方をしている、と報じている(p. 1087)。静止状態から、1時間あた り1メートル程度で氷がすべって進む状態までの移行には、ほんの数分しかかからな い。こうした変化は、氷の流れは上流から力を受けているが、潮汐の変化に従って 下流側では下流側からは変化する海面高さに従って変動する抵抗力を受けて動いて いくというモデルと整合している。この断続的な動きは、氷床が、氷河下の条件や 海水面の高さの変化にどれほど敏感であるかを示すものになっている。(KF,Og,Nk)
Tidally Controlled Stick-Slip Discharge of a West Antarctic Ice
   Robert A. Bindschadler, Matt A. King, Richard B. Alley, Sridhar Anandakrishnan, and Laurence Padman
p. 1087-1089.

転写がうまく進むように(Keeping Transcription Going)

転写を成功裡に起動するには、パッケージされた染色質が、転写機構へのアクセス を許すように再配列されなければならない。染色質のパッケージングが転写の伸 長(elongation)フェーズの間にいかに再構築されるかは、あまりわかっていなかっ た。おそらく、DNAはRNAポリメラーゼの転写に先立ってヌクレオソームから巻きも どされ、酵素が通過した後で置換されないといけない。3つの報告が、伸長された RNAポリメラーゼⅡが染色質といかにして交渉するかを扱っている(Svejstrupによる 展望記事参照のこと)。Belotserkovskayaたちは、染色質転写を促進する酵母のタン パク質複合体、FACT複合体が、伸長の際に、ヌクレアソームの不安定化と再組み立 てを行なうさまを明らかにした(p. 1090)。Kaplanは、酵母の別のタンパク質、転写 伸長因子Spt6が、伸長の間にも正常な染色質構造を維持することによって、潜在性 のプロモーターによる異常な転写開始を抑制することを示している(p. 1096)。Saundersたちは、FACT複合体とSpt6が、ショウジョウバエ染色体上のアク ティブに転写された遺伝子とも関わっていることを発見した(p. 1094)(KF)。
Tracking FACT and the RNA Polymerase II Elongation Complex Through Chromatin in Vivo
   Abbie Saunders, Janis Werner, Erik D. Andrulis, Takahiro Nakayama, Susumu Hirose, Danny Reinberg, and John T. Lis
p. 1094-1096.
Transcription Elongation Factors Repress Transcription Initiation from Cryptic Sites
   Craig D. Kaplan, Lisa Laprade, and Fred Winston
p. 1096-1099.
FACT Facilitates Transcription-Dependent Nucleosome Alteration
   Rimma Belotserkovskaya, Sangtaek Oh, Vladimir A. Bondarenko, George Orphanides, Vasily M. Studitsky, and Danny Reinberg
p. 1090-1093.
TRANSCRIPTION:
Histones Face the FACT

   Jesper Q. Svejstrup
p. 1053-1055.

免疫のがれ(Immune Evasion)

世界人口のほぼ半分が感染しているピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の慢性 感染および持続感染を引き起こす可能性があり、それにより結果的に慢性胃炎、胃 潰瘍および十二指腸潰瘍、および悪性腫瘍さえも引き起こす可能性がある。Gebert たち(p. 1099)はここで、どのようにしてH. pyloriがTリンパ球の活性化および増 殖を抑制することができるのかを示した。空胞形成性細胞毒素(VacA)は、細菌か ら分泌され、そしてT細胞受容体シグナル伝達経路を標的とする。VacAは、Ca2+-依 存性ホスファターゼであるカルシニューリンの作用を阻害し、その結果、転写因子 NFATの核への輸送をブロックする。NFATは、炎症を誘導することおよび効率的な免 疫応答を調節することに関与する遺伝子の発現と協調している。H. pyloriの菌力に おける免疫抑制の戦略は、その他の慢性的に持続性の細菌病原体についても同様に 関与している可能性がある。(NF)
Helicobacter pylori Vacuolating Cytotoxin Inhibits T Lymphocyte Activation
   Bettina Gebert, Wolfgang Fischer, Evelyn Weiss, Reinhard Hoffmann, and Rainer Haas
p. 1099-1102.

記憶ってよわいもの(Vulnerable Memory Traces)

うんざりとするほどわかっていることではあるが、記憶は、蓄えることもできれ ば、失ってしまうこともある。動物において、条件-応答行動を使用して、長期記憶 の頑健性およびそれらの健忘性薬物に対する感受性が研究されてきた。実験的な減 衰--すなわち、強化刺激が存在しない場合の条件応答の減退--を裏付けるメカニズ ムは、何なのだろうか?Eisenbergたち(p. 1102)は、2種の異なった刺激に対して 応答するように条件付けられたメダカおよびラットにおいて、記憶が行動を制御す る能力により評価した場合、記憶は再活性化体験後には"優性"であったが、健忘性 処置の作用に対して脆弱であることを示した。(NF)
Stability of Retrieved Memory: Inverse Correlation with Trace Dominance
   Mark Eisenberg, Tali Kobilo, Diego E. Berman, and Yadin Dudai
p. 1102-1104.

もう十分だよ(Enough Is Enough)

動物の研究によれば、扁桃体と眼窩前頭皮質は連合学習において重要な役割をはた すことを示している。機能的磁気共鳴画像研究において、Gottfriedたち(p 1104) は、バニラかピーナツバターの臭いを特定の画像と関連をつけるように実験の対象 者を学習させた。対象者はバニラアイスかピーナツバターサンドイッチを食べた後 に再びテストした結果は、関連付け画像によると、脳の活性が減少していた。対照 的に、もう一方の食べ物と関連付けた画像をみると、扁桃体と眼窩前頭皮質の神経 の活性の変化はなかった。つまり、期待した報酬に対する認知した意欲が適合学習 の強さに影響を及ぼした。(An)
Encoding Predictive Reward Value in Human Amygdala and Orbitofrontal Cortex
   Jay A. Gottfried, John O'Doherty, and Raymond J. Dolan
p. 1104-1107.

オーキシン制御における欠点の対策(Overcoming Negatives in Auxin Regulation)

オーキシンという植物ホルモンは、成長と発生の重要な制御因子である。Zhaoた ち(p 1107)は、sirtinolという化合物を同定した。sirtinolは、オーキシンによっ て惹起された生物学的応答と同様な反応を刺激する。また著者は、sirtinolと反応 しないシロイヌナズナ変異体を検出するためにスクリーニングし、sir1という変異 体を同定した。sir1は、ユビキチンを活性化するE1ようなタンパク質と類似してい るタンパク質をコードするのである。この結果は、オーキシンの作用機序の一部と して陰性制御因子を急速に分解することを説明できるかもしれない。(An)
SIR1, an Upstream Component in Auxin Signaling Identified by Chemical Genetics
   Yunde Zhao, Xinhua Dai, Helen E. Blackwell, Stuart L. Schreiber, and Joanne Chory
p. 1107-1110.

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