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Science August 15, 2003, Vol.301


ある種の旅行制限はある(Certain Travel Restrictions Apply)

ある学派の考え方によれば、1ミリメートル以下の生物の分散は地理的な障壁によっ て遮られることはないが、現実に世界的に分散している微生物種は比較的少数であ る、ということが示唆されている。しかし、多細胞性の真核マクロ生物にとって は、空間分布こそが、生物多様性の第一決定要因になっている。Whitakerたちは、 世界各地の温泉地域から得られた微生物集団の遺伝的性質を調べ、好熱性古細菌の 分散が地理的障壁によって制限されていることを発見した(p. 976; またFrenchelに よる展望記事参照のこと)。こうした結果は、原核生物の多様性は従来認められてき たよりもずっと大きいということを意味している。(KF)
MICROBIOLOGY:
Biogeography for Bacteria

   Tom Fenchel
p. 925-926.
Geographic Barriers Isolate Endemic Populations of Hyperthermophilic Archaea
   Rachel J. Whitaker, Dennis W. Grogan, and John W. Taylor
p. 976-978.

バイアスによって磁化反転を増強する(Enhancing Magnetization Reversal with Some Bias)

ハードディスク内では、データを表すビットは、記録面にきわめて近接した磁場に よって記録されている。しかし、書き込まれる領域の大きさとその結果得られる情 報密度は、磁場形成を担っているヘッドのサイズによって制約されるため、別の記 録方式が探求されている。Chibaたちは、電気的バイアスを用いて、強磁性半導体で あるマンガンを添加されたインジウムヒ素の磁力特性を増強しうる、と報告してい る(p. 943)。ある電界効果デバイス構造においては、その材料のキュリー温度と保 持力(coercive field)が、あるゲート電位を適用することで制御できた。そうした 操作は磁性半導体の磁化を反転することさえあるので、これを多機能性デバイスや 小さな磁性メモリーに応用することができるであろう。(KF,KU)
Electrical Manipulation of Magnetization Reversal in a Ferromagnetic Semiconductor
   D. Chiba, M. Yamanouchi, F. Matsukura, and H. Ohno
p. 943-945.

必要なものはほんの一つまみ(A Pinch Is All It Takes)

金属が不均一触媒中で用いられるとき、通常はそれらの特性は小さな金属クラス ターと酸化物担体に由来すると思われている。Fu たち (p.935; Davis による展望 記事を参照のこと) は、水性ガスシフト反応は、水と一酸化炭素から水素を生成す るのであるが、それが金または白金をしみ込ませたセリウム酸化物を用いて進行す るとき、金属種は単なる見物人の役割に過ぎないことを示している。シアン化物で 金属を濾過した後でさえも、見たところでは、Ce-O グループに固く結合した残存酸 化金属種により、その触媒は活性のままである。かくして、これらの金属の低負 荷(low loading)状態は、高負荷(high loading)状態と同じように(そしてより経済 的に)作用するであろう。(Wt)
CHEMISTRY:
All That Glitters Is Not Au0

   Robert J. Davis
p. 926-927.
Active Nonmetallic Au and Pt Species on Ceria-Based Water-Gas Shift Catalysts
   Qi Fu, Howard Saltsburg, and Maria Flytzani-Stephanopoulos
p. 935-938.

攻囲下にあるサンゴ礁(Coral Reefs Under Siege)

地球上のサンゴ礁は、温暖化気候条件によって深刻な衰退が進んでいるということ が幅広く認知され、そしてこれらの衰退(p.929; Hughesたちによるレビュー記事 参照)に関して3つの詳細なレポートが報告されている。この論争で証拠として用い られている多くのデータは個々のサンゴ礁の小規模な調査の寄せ集めであったり、 特例的なもの(anecdotal nature)である。Gardnerたち(p.958)は、地理的に広範 囲のサンゴ礁の衰退のメタ分析を行った。彼らは、カリブ海において25年の期間263 サイトから得られたデータに基づき、サンゴ(coral cover)のサイト内変 化(within-site changes)を分析し、そしてこの期間coral coverにおける劇的な衰 退(50から10%)を明らかにした。これら衰退の開始時期の変動に関してはカリブ海地 域全般に一貫しており、その原因に対する有望な手掛かりを与えてくれるかも知れ ない。Pandolfiたち(p.955)は、網羅的・歴史的データ集合を用いて、過去数千年間 にわたる全世界的なサンゴ礁の衰退を記述している。生態系衰退がたどった道 は、20世紀以前に実質的に衰退した全ての地域の間で、全く同様であった。こうし た歴史的分析は、生態系衰退の特徴的なパターンを理解することにより、個々の場 所における種や生息地の損失を確率的に予想するための管理プログラムを準備する ことが出来る。熱帯で拡大しつつある野火が新たな脅威であると指摘するAbramた ち(p.952)は、サンゴ礁の広範囲で急速な死滅に関する特に目立った例や、それがど のように全世界温暖化と関係しているのかについて示している。サンゴ成長速度、 古温度測定法(paleothermometry)、そして,微量元素シグナル(trace element signals)を利用して、彼らは、1997年インドネシアでの破滅的なサンゴ礁の死滅 は、藻類の異常発生(赤潮)が原因であるとした。そしてそれは、1997年のインドネ シアの野火で大気から降下した養分により起こったものであると論じている。彼ら は、野火の発生は非常に稀であるが、その時の気象条件は例外的ではないと記して いる。(TO,Og)
Coral Reef Death During the 1997 Indian Ocean Dipole Linked to Indonesian Wildfires
   Nerilie J. Abram, Michael K. Gagan, Malcolm T. McCulloch, John Chappell, and Wahyoe S. Hantoro
p. 952-955.

生命起源の合成物への足がかり(Springboard for Prebiotic Synthesis)

生命の起源に関する幾つかのモデルの一つとして、生命を形成する有機化合物が温 水の湧き出る所で無機物触媒により合成され、そして濃縮されたというものがあ る。実際に、以前の研究では、還元条件下で(Fe,Ni)SによりCOがアミノ酸やペプチ ド、及び他の錯体中に重合するということを示している。Huberたち(p. 938)は、こ のような無機硫化物が代謝サイクルの前提条件であるペプチドサイクルを助長して いることを示している。ペプチドはアミノ酸から形成され、そして同一条件下で尿 素に分解される。両者の反応に必要なエネルギーはCOのCO2への酸化反 応に由来する。(KU)
A Possible Primordial Peptide Cycle
   Claudia Huber, Wolfgang Eisenreich, Stefan Hecht, and Günter Wächtershäuser
p. 938-940.

二重スクイーズドレーザー光(Doubly Squeezed Laser Light)

従来のレーザービームからの光を位置決め可能な精度は量子力学によって制限され ている。光のビーム中の光子の位置の雑音やゆらぎは、空間的に広がったスポット になる。しかしながら、不確定性原理は"スクイージング"を許している。このスク イージングでは、一つの量子的なパラメーターのゆらぎは、他のパラメーターのゆ らぎを犠牲とする限り、改良することができる。そして、さまざまな方向の量子力 学的雑音の間の相関関係を工夫することにより、それらを相殺することができ る。Treps たち (p.940) は、これらの方法を用いて、水平及び垂直の両方向の光の スポットをスクイーズした。それにより、スポットを 1.6 オングストロームの精度 で位置決めすることができた。(Wt)
A Quantum Laser Pointer
   Nicolas Treps, Nicolai Grosse, Warwick P. Bowen, Claude Fabre, Hans-A. Bachor, and Ping Koy Lam
p. 940-943.

南北半球の気候の結びつき(Hemispheric Climate Connections)

南半球から得られる気象変化に関する時間的に高精度な海洋記録が相対的に欠如し ていることによって、南半球の海洋、北極海、南極海における気候変動の対応時 期(relative timing)の決定が阻害されてきた。Pahnkeたち(p.948)は、突然の高い 振幅(swings)を表わす、亜南極の南西太平洋から得た一連の古海洋学 的(paleoceanographic)記録を示した。彼らは、こうした激しく突然の気候変動は過 去34万年間、南半球では普遍的な特徴であることを記述している。南半球のいくつ かの部分の気候は、南極大陸にあるヴォストーク(Vostok)からの氷柱に記録されて いる気候変動よりも大きく振幅した。著者たちは、これらの急激なゆれ(swing)は、 北半球の変わりやすさ(variability)と同期して発生したり、南半球高緯度の変 動(variations)と同期して発生したりと、変化していることを示唆してい る。(TO,Og)
340,000-Year Centennial-Scale Marine Record of Southern Hemisphere Climatic Oscillation
   Katharina Pahnke, Rainer Zahn, Henry Elderfield, and Michael Schulz
p. 948-952.

変化し続けるトカゲ(Changing Lizards)

適応拡散によって、ある一部の種は共通の先祖から、生態系のニッチ(間隙)を埋め 尽くすよう、急激に発散する。Harmonたち(p. 961)は形態学に基づく比較手法につ いて述べており、その中で数種のトカゲのクレード(共通先祖から進化した生物 群)の形態学的進化に関するデータとともにDNAに基づいた適応拡散について研究し た。それによると、各クレード毎に、特有な進化の多様性をパターンを示している が、潜在的には予測可能である一般的進化の多様性パターンも明らかであっ た。(Na,Ej)
Tempo and Mode of Evolutionary Radiation in Iguanian Lizards
   Luke J. Harmon, James A. Schulte II, Allan Larson, and Jonathan B. Losos
p. 961-964.

助けるか、邪魔するか(Help or Hinder?)

植物は病原体によって生じた障害に対してカロースを産生することで応答する。こ れによって植物が日和見感染を障害部位で受けてさらに損傷を受けることを防ぐの に重要な役目を果たしていると思われていた。しかし、Nishimuraたち(p. 969) は 逆説的証拠によって、カロースが合成されないことによって、実際は病気にかかり にくくなることを示した。どうやら、カロース合成経路は、別の植物の防御経路で あるサリチル酸情報伝達経路を妨害しているようである。(Ej,hE)
Loss of a Callose Synthase Results in Salicylic Acid-Dependent Disease Resistance
   Marc T. Nishimura, Mónica Stein, Bi-Huei Hou, John P. Vogel, Herb Edwards, and Shauna C. Somerville
p. 969-972.

遺伝的背景でのスプライシング(Splicing in the Background)

多くの遺伝性疾患の重症度は、遺伝的背景により影響を受ける。この様な多様性に 寄与する“修飾遺伝子”は非常に興味深いものであるが、しかし同定することは非常 に難しい。Buchnerたち(p. 967;Nadeauによる展望記事を参照)はここで、そのよ うな修飾因子を一つ同定した。生物医学的研究において幅広く使用され、ナトリウ ムチャンネル遺伝子であるScn8a(Nav1.6)にスプライス部位変異を有するC57BL/6J マウスは、この変異を有するその他の近交系が示すよりも、より重症な神経学的障 害を示す。このマウスは、推定RNAスプライシング因子をコードする遺伝子におい て、修飾変異を有する。この修飾変異はC57BL/6J系統に特徴的なものであり、そし てzincフィンガータンパク質であるナトリウムチャンネル修飾因子1(SCNM1)中お よび推定スプライス因子中にナンセンスコドンを導入する。考えられる限りでは、 スプライシング修飾因子は、その他の遺伝子においてはスプライス部位変異ととも に見出される表現型多様性を説明する。(NF)
GENETICS:
Modifying the Message

   Joseph H. Nadeau
p. 927-928.
SCNM1, a Putative RNA Splicing Factor That Modifies Disease Severity in Mice
   David A. Buchner, Michelle Trudeau, and Miriam H. Meisler
p. 967-969.

遊走能力の欠損(Migration Defects)

腸管の発生が進行するにつれて、神経堤幹細胞が食道から遊走して神経節を形成 し、それらが後腸に神経分布する。ヒルシュスプルング病においては、これらの腸 管神経節が失われている。Iwashitaたち(p. 972)は、神経堤細胞が後腸へ遊走す る能力を欠損することにより、この疾患が生じる可能性があるかどうかを試験し た。単離した腸管神経堤幹細胞のRNA含量を遺伝子-発現プロファイリングすること により、ヒルシュスプルング病患者において欠損していることが知られているいく つかの遺伝子の発現が、全胎児RNAと比較して、非常に上昇することが示された。こ れらのうちの一つであるRetは、グリア-由来神経栄養性因子(GDNF)の受容体であ り、そしてGDNFそれ自体と同様に、幹細胞遊走に必要とされる。しかしなが ら、GDNFは神経堤幹細胞の生存や増殖には影響を及ぼさなかった。このように、Ret の欠損により、神経堤幹細胞が遠位腸管中へ遊走されなくなることにより、ヒル シュスプルング病が引き起こされる。(NF)
Hirschsprung Disease Is Linked to Defects in Neural Crest Stem Cell Function
   Toshihide Iwashita, Genevieve M. Kruger, Ricardo Pardal, Mark J. Kiel, and Sean J. Morrison
p. 972-976.

笑いごとではない(No Laughing Matter)

対流圏の亜酸化窒素 (N2O)濃度は、陸の生物圏と海洋からの細菌性 N2Oの放出量、および、温室ガスとして機能する対流圏と成層圏の間で の大気の交換よって決まっている。Sowersたち(p. 945)は、グリーンランドと南極 大陸からの掘削氷柱に閉じ込められている空気の分析によるN2O濃度と N2O同位体組成を記録している。N2O濃度変動は10万6千年前からのメタ ン濃度変動とかなり相関があった。このことは、“この濃度変動を制御する生物学的 過程には重要な拘束条件がある”という知見を与えている。陸生N2Oと海 洋N2Oの生成比は、最後の退氷期に約2倍の放出量があったにもかかわら ずここ3万年間は一定のままであった。最終的に、最後氷期における低い大気圏での CO2レベルは海洋での大規模な生物生産量によって決まるのではなく海 洋水(海水)のアルカリ度(これは,pHで決まってくるが,海洋のpHは,炭酸 の解離による,微妙なバランスに基づいている)と、海水の成層の度合い海水が深 度とともに,どのような成分を溶かしているか,とか温度構造など)変化によって 決まるという想定とこのN2Oデータが一致していることを彼らは示して いる。(hk,Og)
Ice Core Records of Atmospheric N2O Covering the Last 106,000 Years
   Todd Sowers, Richard B. Alley, and Jennifer Jubenville
p. 945-948.

デザイナーブランド付きタンパク質(Designer Proteins)

最近、天然に存在しないアミノ酸が遺伝的にコードされ、これを効率よく大腸菌の タンパク質中に入れることができるようになった。今回、Chinたち(p. 964)はこの 手法を真核生物へと拡張した。新規な生合性手法によって酵母(S.cerevisiae)中に 天然に存在しない5つのアミノ酸が、ナンセンスコドンTAGに応答して選択的に導入 された。これらのアミノ酸の側鎖にはケト基が含まれており、ケト基は化学プロー ブや光架橋剤で修飾できる。(Ej,hE)
An Expanded Eukaryotic Genetic Code
   Jason W. Chin, T. Ashton Cropp, J. Christopher Anderson, Mridul Mukherji, Zhiwen Zhang, and Peter G. Schultz
p. 964-967.

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