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Science October 11, 2002, Vol.298


短信( Brevia)

両生類の宝庫スリランカ(An Amphibian Hot Spot) 従来、スリランカには18種類のアオガエル(rhacophorine)しか知られていなかったが、著 者たちは140に上る新種を発見した。従来よりスリランカは生物の宝庫と考えられていた が、この140にも上る種の発見は予想を上回った。しかしながら19世紀から博物館に収集 された種の多くは見つかっていない。それらの多くは絶滅したらしい。熱帯雨林の生息地 の95%がなくなっている現実から予想は難しくない。このようにスリランカで新しい無尾 類の種が大量に発見されたことから、熱帯アジアのどこか他所で脊椎動物の新種が大量に 見つかる可能性もある。(Na)
HERPETOLOGY:
100 Frogs A-Leaping for Biodiversity

   Elizabeth Pennisi
p. 339-341.
Sri Lanka: An Amphibian Hot Spot
   M. Meegaskumbura, F. Bossuyt, R. Pethiyagoda, K. Manamendra-Arachchi, M. Bahir, M. C. Milinkovitch, and C. J. Schneider
p. 379.

高速に膜をつくる(Filling in Fast)

等角的(conformal)な薄膜蒸着は、基板に深い溝があっても均一なコーティングが可能で ある。原子層蒸着(atomic-layer deposition:ALD)が高品質の等角的な膜成長に用いられ ているが、一サイクルに単層のみを蒸着するために時間がかかる。Hausmannたち(p. 402)はALDを改良して、一サイクルに30層のシリカを蒸着することが出来た。トリメチル アルミニウムとトリス(tert-ブトキシ)シラノールの蒸気パルスを交互に反応させて、ガ ラス中に深いチャンネルの内部においてもシリカとアルミナの均一な厚さの積層を形成す ることができた。(KU)
Rapid Vapor Deposition of Highly Conformal Silica Nanolaminates
   Dennis Hausmann, Jill Becker, Shenglong Wang, and Roy G. Gordon
p. 402-406.

分子のクロストークを観察(Watching Molecular Cross-Talk)

単一分子の研究をする場合、個々のスペクトル特徴が分離できるように分子が十分離れて いる必要がある。Hettichたち(p. 385; および表紙と、Orritによる展望記事参照)はp-テ ルフェニル(p-terphenyl) 結晶中に包埋しているテリレン(terrylene)分子の近傍の 走査プローブ先端に局所電場を印加し、シュタルク効果を誘発させて、12ナノメートルし か離れてない試料でも、低温で解像できることを示した。彼らは次に、電場が存在しない とき、これら分子の双極子同士間のカプリング効果を観察した。二重励起状態の2光子励 起対状態を示す2つのスペクトルラインのちょうど中央に新しいラインが生じた。この対 を中央の新しいラインで励起すると、放射光子は“束”となって、つまり対になって放射 された。これらの事実から、外部の強い電場の印加で、更に入り乱れた分子発光の状態が 可能であろうと思われる。(Ej,hE)
BIOMINERALIZATION:
Nanometer Resolution and Coherent Optical Dipole Coupling of Two Individual

    Molecules C. Hettich, C. Schmitt, J. Zitzmann, S. Kuhn, I. Gerhardt, and V. Sandoghdar Steve Weiner and Lia Addadi
p. 385-387.

銅で強固になった顎(Copper-Hardened Jaws)

銅が生体無機質成分の一つとして考えられることは滅多にないが、、鉱物のアタカマイト (mineral atacamite〔Cu2(OH)3Cl〕)が、赤ミミズ (bloodworms)(Glycera dibranchiata)のあごの中に存在している。しかしながら、この鉱 物の役割り、というよりそもそもその起源が生来のものなのか、公害汚染の結果なのかす ら、不明であった。Lichteneggerたち(p. 389;WeinerとAddadiによる展望記事参照)は 、atacamiteが細長い結晶をつくり、あごの外側の縁に沿って向きが揃っていることを示 した。この生体鉱物はあごの固さと強さを増し,歯のエナメル質に拮抗する耐摩耗性をも 付与している。(KU,Nk)
BIOMINERALIZATION:
At the Cutting Edge

   Steve Weiner and Lia Addadi
p. 375-376.
High Abrasion Resistance with Sparse Mineralization: Copper Biomineral in Worm Jaws
   Helga C. Lichtenegger, Thomas Schöberl, Michael H. Bartl, Herbert Waite, and Galen D. Stucky
p. 389-392.

分解とスプライシングでのナンセンスを分離(Separating Nonsense in Decay and Splicing)

メッセンジャーRNA(mRNA)中の未成熟終止コドン(PTC)は結果的に加速分解されるが、こ れはナンセンス変異が引き起こすmRNAの分解(NMD: nonsense-mediated decay)として知ら れており、このプロセスによって途中が切れたタンパク質の合成を抑制する結果、潜在的 に危険なタンパク質の合成を抑制する。PTCは、ナンセンス変異が引き起こす選択的スプ ライシング(NAS)になることもある。現在の有力モデルに従えば、このNASはNMDの結果で あることになるが、Mendellたち(p.419; Mooreによる展望記事参照)は、このNMDとNASは 明瞭に区別されるべきものであることを示した。NMDは、PTCを含むmRNA上で「監視」複合 体が出来上がる過程によって先導される。この複合体のタンパク質成分であるhUpf1およ び hUpf2の解析の結果、hUpf2はNMDだけに作用し、NMDとNASは遺伝的にはhUpf1の分離可 能な機能であることを示した。hUpf1が核と細胞質との間を行き来することが 、pre-mRNAのプロセシングにおける役割に合致している。(Ej,hE)
RNA EVENTS:
No End to Nonsense

   Melissa J. Moore
p. 370-371.
Separable Roles for rent1/hUpf1 in Altered Splicing and Decay of Nonsense Transcripts
   Joshua T. Mendell, Colette M. J. ap Rhys, and Harry C. Dietz
p. 419-422.

新星の予定表(A Nova's Time Line)

ある連星系では、白色矮星はより大きな伴星からの物質を降着する。白色矮星の表面に降 着してきた水素がある臨界量に達すると、それは、突如の熱核反応により爆発する可能性 があり、それは新星として観測される。Hernanz と Sala (p.393) は、XMM-Newton(X線 Multi-Mirror 衛星) を用いて新星 V2487 Oph を観測した。この新星は、1998年に爆発し ている。そのX線放射は通常の降着状態の際に特徴的なものであり、この連星が意外にも 、爆発後 2.7年という短期間で典型的な降着状態に復帰したことを示している。また 、ROSAT が1990年に見つけたX線放射源は、今回のデータと位置が一致しており、爆発前 の新星を観測したまれなケースとなった。 (Wt,Nk)
A Classical Nova, V2487 Oph 1998, Seen in X-rays Before and After Its Explosion
   Margarita Hernanz and Glòria Sala
p. 393-395.

核を繋留する(Anchoring the Nucleus)

細胞内の小器官の位置は、精密に決められている。しかし、どうやって位置決めを行うか はよく分かってない。Starr と Han (p. 406)は線虫(C.elegans)の胚中の核の位置決めプ ロセスを調べ、ANC-1と名づけられたタンパク質が、他のタンパク質UNC-84と共同して重 要な働きをしていることを発見した。ANC-1は、核膜上で細胞質アクチンとUNC-84との相 互作用によって、核を細胞のアクチン細胞骨格に繋留しているように見える。(Ej,hE)
Role of ANC-1 in Tethering Nuclei to the Actin Cytoskeleton
   Daniel A. Starr and Min Han
p. 406-409.

水素ブースト(A Hydrogen Boost)

入力光に対するラマン散乱のような非線型光学効果は、レーザーの波長変換や材料のキャ ラクタリゼーションに対する分光において特に有用である。しかしながら、光と物質にお ける効率的で実際的なエネルギー交換には、通常は、出力光の大きな強度、長い相互作用 長、良好なビームプロファイルが必要である。Benabid たち (p.399; Downer による展望 記事を参照のこと) は、ホロー-コア構造が水素で満たされているようなフォトニックフ ァイバーの光閉じ込め特性を用いて、現在得られるものよりほぼ2桁ほど大きなポンピン グ出力で効率良くラマン過程を励起した。(Wt)
OPTICS:
A New Low for Nonlinear Optics

   M. C. Downer
p. 373-375.
Stimulated Raman Scattering in Hydrogen-Filled Hollow-Core Photonic Crystal Fiber
   F. Benabid, J. C. Knight, G. Antonopoulos, and P. St. J. Russell
p. 399-402.

画像は如何に形成されるか(How Images Take Shape)

我々の脳は、多数の手掛かりを使用して、網膜上の二次元(2D)画像から、三次元 (3D)視像を再構築する。2報の論文は、これらの機能を有するヒトおよびサルにおける 脳領域に焦点を当てている(Connorによる展望記事を参照)。長い間にわたって、テクス チャーに勾配が与えられることが深度認識のための重要な手掛かりとなると、提案されて きた。Tsutsuiたち(p. 409)は、テクスチャーによる手掛かり、および差異の両方が手 掛かりとして反応する、頭頂間溝における一脳領域(CIP領域)中のニューロンの活性を 記録した。ニューロンは、手掛かりの別なく同一方向の表面に対してチューニングされた 。さらに、サルは、交差-適合課題において、テクスチャーの勾配から3D表面方向を知覚 的に抽出することができた。移動している物体の3D構造は、その複雑な動きのベクトルか ら導き出すことができ、そして機能的画像化の研究から、MT/V5と呼ばれる領域が、この プロセスに強力に関与していることが示唆される。これらのヒト脳の画像化は、一般的に 、霊長類の視覚的プロセシングの代表的な結果なのであろうか、それとも種間には相違が あるのであろうか?Vanduffelたち(p. 413)は、ヒトおよび覚醒時サルに同一の作業を させながら機能的磁気共鳴画像化を使用して、活性化される脳領域を、明白な3D運動と 2D運動との間でにより比較した。彼らは、いくつかの共通した活性化領域を見出し、併せ てV3A領域と頭頂間溝領域における相違も見出した。この2種は、それらの頭頂葉の活性化 において相違したが、初期の視覚的プロセシング領域には相違はなかった。(NF)
EVOLUTION:
Enhanced: Neural Correlates for Perception of 3D Surface Orientation from Texture Gradient

    Ken-Ichiro Tsutsui, Hideo Sakata, Tomoka Naganuma, and Masato Taira
p. 409-412.
EVOLUTION:
Enhanced: Extracting 3D from Motion: Differences in Human and Monkey Intraparietal Cortex

    W. Vanduffel, D. Fize, H. Peuskens, K. Denys, S. Sunaert, J. T. Todd, and G. A. Orban
p. 413-416.

顎をその場所に(Putting Jaws in Place)

脊椎動物における機能的顎構造の形成により、下あごのない無顎魚類の簡単なボディープ ランからの変遷が可能になったばかりでなく、複雑な頭骨構造および耳構造、ならびに多 数の特殊化した顎構造および歯列構造の進化の扉が開かれた。顎構造は鰓弓から発生し 、その鰓弓は、無顎類においては単純な構造であり、そして顎のある顎口虫類ではより複 雑である。Depewたち(p. 381;KoentgesとMatsuokaによる展望記事を参照)は、マウス の鰓弓におけるDlx遺伝子ファミリーの発現を調べた。いくつかのDlx遺伝子ファミリー構 成分子の発現を阻害したところ、マウスは、正常な下顎の代わりに、上顎を発生させた 。Dlx遺伝子ファミリーは、組み合わせコードが特定の鰓弓の異なる領域を定義するよう に発現し、そして通常は発生的な結果が、上顎と下顎の整合対を形成することになるよう に指示する。(NF)
EVOLUTION:
Enhanced: Jaws of the Fates

   Georgy Koentges and Toshiyuki Matsuoka
p. 371-373.
Specification of Jaw Subdivisions by Dlx Genes
   Michael J. Depew, Thomas Lufkin, and John L. R. Rubenstein
p. 381-385.

スプライシングおよび転写を制御(Regulating Both Splicing and Transcription)

ひとつの遺伝子から、メッセンジャーRNAの異なるスプライシングにより、複数の遺伝子 産物が生成されることもある。この処理イベントがRNA転写に機能的に関連していること の証拠が増えてきた。Auboeufたち(p. 416)は、ステロイドホルモンの核内受容体の場合 には、遺伝子の転写とスプライシングの両方を制御できる受容体の共調節因子の補充によ り、特異的な遺伝子プロモータにおいてこのプロセスが受容体リガンドの相互作用によっ て調和させられることを報告している。この二役によって、ステロイドのホルモンの信号 に応じて適切な遺伝子産物が生成されることを確実にするのかもしれない。(An)
Coordinate Regulation of Transcription and Splicing by Steroid Receptor Coregulators
   Didier Auboeuf, Arnd Hönig, Susan M. Berget, and Bert W. O'Malley
p. 416-419.

パーキンソン病に対する抑制の方法(An Inhibitory Approach to Parkinson's Disease)

パーキンソン病の患者では、運動を制御する脳内の機構からドーパミンを含む黒質の細胞 が損失するため、歩くことが困難であり、顕著な手の震えが現れる。Luoたち(p. 425)は 、パーキンソン病に対する治療として代償アプローチを提案している。著者は、人工的に パーキンソン病を引き起こしたラットの視床下部核にグルタミン酸脱炭酸酵素(抑制性神 経伝達物質GABAを生成させる酵素)の遺伝子を含むウイルスベクターを注射した。視床下 部核内の過興奮性細胞の抑制をも引き起こしたので、黒質への異常な興奮性駆動を減少し た。ラットは、パーキンソン病に類似する障害が少なくなり、ドーパミンを含む細胞が新 たな発作によるダメージから保護された。(An)
Subthalamic GAD Gene Therapy in a Parkinson's Disease Rat Model
   Jia Luo, Michael G. Kaplitt, Helen L. Fitzsimons, David S. Zuzga, Yuhong Liu, Michael L. Oshinsky, and Matthew J. During
p. 425-429.

関連磁性(Correlated Magnetism)

2次元反強磁性物質SrCu2(BO3)2の磁化のプラトー領 域の観察は熱心に理論研究されてきた。スピン-スピン相互作用と巡回励磁の競合の結果 起きているこの現象は、通常は全く磁気的絶縁性を示すが、この大規模磁化配列状態の予 測は、極低温と高磁場が必要とされるので実験的に証明するのが困難であった。Kodamaた ち(p. 395)はこの技術的な困難さを克服し、核磁気共鳴の研究によって、16個のスピンを 含む菱形の単位胞を持つ磁気的超構造を形成している直接的な証拠を示している。その系 は関連物質の量子相遷移研究のための有用なテストベッドとなるはずである。(hk)
Magnetic Superstructure in the Two-Dimensional Quantum Antiferromagnet SrCu2(BO3)2
   K. Kodama, M. Takigawa, M. Horvatic, C. Berthier, H. Kageyama, Y. Ueda, S. Miyahara, F. Becca, and F. Mila
p. 395-399.

アセトアミノフェンの毒性を避ける(Avoiding Acetaminophen Toxicity)

アセトアミノフェンは、疼痛や炎症、発熱の処置に広く用いられている薬剤である。しか し、それは代謝によって毒性のある化合物になるので、大量に投与すると肝障害を引き起 こすことがある。Zhangたちは、この毒性がCARと呼ばれる核内受容体が活性化されると強 められ、それが次にアセトアミノフェンを代謝する酵素の発現を増加させることになる 、ということを示している(p. 422; また、Marxによるニュース記事参照のこと)。しかし 、大量のアセトアミンフェンを投与されたマウスに、引き続いてCAR逆作用薬を与えて処 置すると、毒性は遮断された。この研究は、CAR逆作用薬が、アセトアミノフェンに関係 する肝毒性の処置において臨床的に有用であることを示唆するものである。(KF)
TOXICOLOGY:
Protecting Liver From Painkiller's Lethal Dose

   Jean Marx
p. 341-342.
Modulation of Acetaminophen-Induced Hepatotoxicity by the Xenobiotic Receptor CAR
   Jun Zhang, Wendong Huang, Steven S. Chua, Ping Wei, and David D. Moore
p. 422-424.

前近代における、男児出産の母親の寿命への影響(Effect of Producing Sons on Maternal Longevity in Premodern Populations)

Helleたちは、北スカンジナビアのSami族の産業革命以前の人口統計記録を分析し、男児 を産んだ母親の閉経期以降の余命が、女児を産んだ母親の寿命が延びるのに対して、短く なるということを報告した(2002年5月10日号の短信 p. 1085)。BeiseとVolandはコメント を寄せ、「特異的な社会文化的条件あるいは集団遺伝学的条件のために、そうした集団に おいて観察された効果を一般化することは難しい」と述べ、別の2つのヨーロッパの前近 代集団についての似たような分析を提示している。1つの集団では、産んだ息子の数と母 親の長寿に負の関係があったが、もう一方は正の相関を示した。これに応えて、Helleた ちは、BeiseとVolandは「文化的な過程と生物学的な過程の双方が相互作用的にSamiの女 性の寿命を決定した」という結論は性急すぎる結論である、と論じている。これらコメン ト全文は、下のURLで読むことができる。(KF)
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/298/5592/317a
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