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Science October 4, 1996, Vol.274
宇宙の中では物質はどうしたのか?(What's the matter in the universe?)
遠方の観測可能な宇宙は、星や銀河あるいは銀河団の形態を取っているが、これらの巨大構造を形
作るのに使われなかったすべての物質はどこへ行ってしまったのだろうか?Dodelson et al. (p.
69) は、冷たいダークマター理論を再検討した。この理論では、宇宙の初期の急速な膨張の後、核
反応による元素合成によって、通常のバリオン物質が形成されるのであるが、なお大半の宇宙の物
質を冷たいダークマターとして残したと論じている。そして、このダークマターは、今なお検知さ
れてはいないが、宇宙を一つにまとめている重力を与える、小さなゆっくりと動く素粒子から成り
立っている。彼らは、Cosmic Background Explorer や ハッブル宇宙望遠鏡、および、いくつか
の大規模天空探査による最近の観測に基づく数種類の冷たいダークマターモデルを議論している。
(Wt)
太平洋の気候(Pacific climate)
熱帯太平洋の流域の気候は、東の冷たい領域(『冷たい舌』)と西の暖かい領域(『あたたかいプ
ール』)との間の、赤道に沿った強い海表面温度差によって特徴付けられる。そして、 また、エル
ニーニョ南方振動 (El Ni-no Southern Oscillation (ENSO) )に付随する一年をまたがる海表面
温度の変動によっても特徴付けられる。Jin (p. 76)は、熱帯太平洋の気候の本質的な面を再現す
るような単純な連成モデルを与えている。貿易風と赤道の海表面温度差と上層の海様の熱量の間の
正帰還により、モデル太平洋流域における ENSO的な振動が発生する。(Wt)
地震の前兆(Quake precursors )
ある種の巨大地震、特に大洋の変性断層(トランスフォーム断層)上の地震は、数百秒にもおよぶ
広大な低周波数の信号によ
って先立たれているように見える。そして、この振動では多量のエネルギーが開放されている。し
かし、今までこれを認めることは困難であり、この事象は典型的な地震の記録の中では直接的に見
ることができなかったため、一部には議論の余地があった。McGuire et al.(p. 82)は、中部大西
洋の尾根上の Romanche 変性断層において、時間領域上にゆっくりとした前兆を探知したと報告し
ている。その前兆は、それに続く地震のエネルギーのおよそ半分を解放した。(Wt)
アマゾンの気候記録(Amazon climate record)
最後の最大氷河期中のアマゾンにおける気候や動物相は良く分かっていなかった
が、その理由の一つは、同地域における連続した気候の記録がなかったからであ
る。Colinvauxたち(p.85;およびKerrによる解説p.35)は、低地アマゾン雨林中の
湖から、40,000年遡ることが可能な花粉の堆積記録を得ることが出来た。このデー
タによれば、この地方の雨林は氷河期でも存在しており、また、それほど”分断”
もされていなかったことが推測出来る。また、他の記録でも推測されているよう
な、平均気温が5 ゜C低かったことと記録はつじつまが合っている。(Ej)
T細胞の道具(T cell tool)
Bリンパ球によって仲介される免疫応答は、B細胞表面に結合している免疫グロ
ブリンを認識するモノクロナル抗体を使うことによって容易に定量化することが
できる。しかしTリンパ球応答は、T細胞表面の抗原特異的な受容体を同定する
ツールがないことから、その類似のトラッキングには成功していなかった。
Altmanたち(p.94)は1つの解決法を提示した:すなわち主要組織適合複合体(MHC)
分子とペプチドとの可溶性の複合体の四量体を使い、抗原特異的T細胞を直接標識
するものである。インフ
ルエンザウイルスに対する細胞溶解性Tリンパ球(CTL)を同定するためにペプチド
に特異的な四量体で染色すると、これは、機能的細胞毒性アッセイと相関があ
るだけでなく、四量体は抗原特異性のあるCTLの集団を分類するのにも利用できる。
(Ej,Kj)
ミトコンドリアの介護者(Mitochondrial helpers)
ミトコンドリアは細胞のエネルギーを生産している細胞小
器官であるが、その中の膜タンパク質は、多機能性タンパク質複合体を作るために、
頻繁に特異的な相互作用を営む。これら膜複合体が正確で効率的に組立られることは、ミトコンドリア
が機能するためには必須条件である。Repたち(p.103)は、ミトコンドリアのタン
パク質分解酵素は、タンパク分解性機能とは独立に膜複合体の組立を促進する分
子のシャペロンとして作用することを実証した。(Ej,Kj)
命令の鎖(Chain of command)
クラスII MHC分子は不変鎖(Ii)に付随しており、この鎖は折り畳みや運搬のた
めのシャペロンとして働く。ShacharとFlavell(p.106)は、IiはB細胞の成熟のた
めにも不可欠であることを示した。Iiを欠くマウスでは、末梢B細胞は未成熟で
あり、II型の胸腺非依存性抗原で刺激された場合には増殖しない。この発生を阻
止する現象は、MHCクラスII分子の発現には依存していなかった。(Ej,Kj)
一斉発火(Firing together)
視覚に於ける信号処理で繰り返される質問に、「どのようにして、方位や色と言っ
た個々の異なる特徴量が再統合されて、まとまっ
たイメージを作るのか?」がある。ネコやサルの視覚皮質においては、ニューロ
ンの活性周期が同調すること(20-70Hz)によって、これらの特徴量がうまく結合
されるような機構になっている、との提案がなさてれきた。GrayとMcCormick(p.
109)は新しいクラスの錘体細胞(最も普通に見られる興奮タイプ)について記述
している。この特性から、何段階にもわたる規則的な発火(2ー5個のスパイク
列が、細胞内で連鎖反応を起こし、1秒当り800回ものスパイクが15から50msec間
隔で起きる)と、他のニューロンからのエネルギー補充によって、同調可能な構
造になっていることを示唆している。(Ej,Kj)
考察に対するきつい要求(Demanding thoughts)
より一生懸命考えるときは、脳の中でどんな事が起きているのだろうか?Justた
ち(p.114)は、次第に複雑になる文章を順番に読むような課題を出されたヒトの脳
の活性化部位を調べた。ここで、複雑さは文法構造で定義されており、読書速度
と誤り率で独立に評価される。脳の左半球の古典的な2つの言語領域--Broca領域
とWernicke領域--及び、対応する右半球の領域の両方とも、考察課題がきつくな
るほど活性化ニューロン組織の体積が増加したことを示した。(Ej)
蜜蜂の温度調節(Thermal stability of flying honeybees)
胸腔で適切な温度制御をすることによって飛行中の温血昆虫は動物界の中でも最
も効率の良いパワー出力を達成している。蜜蜂(Apis mellifera)を含む温血昆虫
は、飛行中に熱損失を変化させることによって温度制御をしていると信じられて
いる。Harrisonたち(p.88)は、気温が20度から40度に上昇する時、ホーバリ
ング時、扇動時、あるいは荷物を運搬中の蜜蜂の代謝熱の生成と羽ばたき周波数
が大きく低下することを示した。つまり、生成熱の制御が温度安定性の主要な機
構であり、温血昆虫全般に広く起きていると思われる。(Ej)
メカノケミストリー(Mechanochemistry)
固体にはせん断応力を加えることが出来るから、液体や気体中と異なり、機械的
エネルギーを化学反応に利用することが出来るが、固体中に生じる応力は楕円体
状に広がり、結果として立方対称性の物質が四方対称性に、対称性を低下させる。
これが分子結合の電子構造を非安定化させ、化学反応を起動させることになる。
Bridgmanは1935年に室温で様々なせん断応力による化学反応実験を報告している
が、その中で、反応は無熱(athermal;混合エンタルピーがゼロ)であると言っ
ている。最近の研究を解説して、Gilman(p.65)は次のようなメカニズムを紹介し
ている。共有結合が曲げられた時、最大占有分子軌道(highest occupied
molecular orbitals)のエネルギーが上昇する一方、最低占有分子軌道のエネルギー
は低下する。その結果
、分子結合安定性を決定する両者のエネルギーのギャップが減少する。即ち、逆
ヤン=テラー効果であると。(Ej)
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