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Science September 27, 1996, Vol.273
受容体の突然変異とHIVの病気の進行(Receptor mutations and HIV diseaseprogression)
CKR5のようなケモカイン受容体は、CD4とともに補助受容体としてHIV-1(ヒト
免疫不全ウイルス-タイプ1)を人間の
細胞に導入する機能を持っており、これら受容体の欠失の結果としてウイルス
感染に抵抗を持たせ、病気の進行を抑えることになる、と言うことが最近同定
された。Deanたち(p.1856;Chenによるニュース解説,p.1797)は、CKR5構造遺伝子
が存在する、ヒト染色体3上での位置をマッピングし、カーカサス人種(白人)
の10%にあたる集団に存在している32-塩基対の欠失を同定した。ハイリスクの
HIV-1感染者1955人を検査した結果、この対立遺伝子にホモ接合性の17人はHIV-1
に陰性であり、この対立遺伝子を欠く個人に比べて、対立遺伝子にヘテロ接合性
の個人では病気の進行が遅いことが解った。(Ej,Kj)
形成ステージ(Formative stage)
地球形成の単純な2段階モデルによって、現在の酸化されたマントルが、その
下の鉄に富む還元核と非平衡にあるのかが説明できそうだ。HarperとJacobsen
(p.1814)は、玄武岩と原始隕石の稀ガスの同位体組成を使って地球成長モデル
を作った。それによると、マントルと核は、初め多量の水素に富む還元性の原始
大気と平衡状態を保っており、この大気が原始地球のマグマオーシャンを覆う
事によって軽い稀ガスの取り込みを可能にしたらしい。原始大気が太陽によって
取り除かれるに従って、より重い稀ガスや他の成分が増加し続け、マントルを
酸化させた。(Ej,Og)
巧妙な欠陥(Deliberate defects)
結晶粒が適切に配列され、また、電流の方向が材料に付随する
欠陥によって、ピン止めされた状態にある場合にのみ、
高温超伝導体(HTSC)は高い密度の電流を運ぶことができる。
しばしば、そのような欠陥は材料が成長した後に導入さ
れるのであるが、Yang と Lieber(p.1836)は、ビスマス
のHTSC に ナノメータースケールの酸化マグネシウムの
コラム(柱状微結晶)を結合させる方法について報告している。最も良い多結晶性
の厚膜において見られる値に匹敵する高い臨界電流密度は
、柱状微結晶が酸化銅の面に対し垂直に配向している材料におい
て観察されている。(Wt)
銅(III)の化学(Copper(III) chemistry)
O2 を H2O へと還元することのできるいくつかの酵素は、
三核(trinuclear=3つの金属原子)の銅の核を含んでいる。Cole たち(p.1848)は、
O-Oボンドを破壊し、そしてこの破壊を Cu:O2が 3:1で
ある異常な化学量論的な比率で行なう小さな三核の銅の錯体
を合成した。4-電子酸化が、異常な三価状態にある架橋
した銅の原子をもたらすのである。(Wt)
メタンの水和物(Methane hydrates)
豊富なメタンは、大陸棚上で固体の水和物として蓄えられおり、
また、氷で覆われたいくつかの惑星の月にも存在する
可能性がある。地球上では、水和物と、水プラス自由なメタン
との間の相転移は、顕著に地震に関する状況を反映して
いる。捕らえられたメタンの量を評価するためには、地震の
信号と上述の相の間の関連の意味を知る必要がある。
Stern たち (p.1843;表紙を参照)は、メタン包接水和物
の相の間の関連を調べ、固体水和物の過剰昇温の可能性
があることを示唆している。Holbrook たち(p.1840)は、
サウスカロライナからの、ドリルコアによる地殻の記録と
メタン水和物の層からの地震波による画像とを比較した。そして、
これまで考えられていたよりもメタン水和物は、そこでは少
なかった可能性があると結論している。(Wt)
琥珀の年齢の範囲(Amber range of age)
ドミニカ共和国やカリビア海の関連地域から、琥珀に閉じ込められた
多種類の植物や動物が得られ、進化の研究には不可欠な試料となっている。
これは、多分、古代DNAが抽出する唯一の供給源であろう。しかし、琥珀の
予測年代は6,500万年の範囲にも渡り、あまり良く分かってないので、結果
の解釈には支障が出る。Iturralde-VinentとMacPhee (p. 1850)は、その
地方の層位関係を再構成し、すべての琥珀を含んだ岩石は1,500-2,000万年
前の堆積盆に堆積したものであると結論付けた。(Ej,Og)
植物における殺し過ぎ(Overkill in plants)
植物細胞は病原体に感染された場合、その感染された周辺部のみ細胞死を起こして
これに抵抗するが、ある種の突然変異細胞ではチェックがかからず、葉全体が
死滅してしまう。Jabsたち(p.1853)は、 シロイヌナズナ(Arabidopsis)の突然
変異体を研究し、スーパーオキシド(活性酸素中間体)だけで、このプロセス
を駆動されることを見つけた。正常であればスーパーオキシドを抑制するシグナル
が、突然変異体ではブロックされているらしく、そのため、スーパーオキシドのシグナルを
増幅する。(Ej,Kj)
CD4OLの効果(Effects of CD4OL)
免疫応答を刺激する時の、CD4Oに対するリガンド(CD40L)の役割について、2つの報告が
寄せられている。Grewalたち(p.1864)は、自己免疫疾患のひとつである試験的アレルギー性脳脊髄炎
の誘導は、患者がCD4OLを持ってなければ抗原注射によっては誘発
されないことを示した。また、YangとWilson(p.1862)は、CD4OL欠乏のマウスでは、
予想される、遺伝子治療ベクターに対する抗体反応が生じないことを示した。
これら2つの異なる方法から、CD4OLは、B7を抗原提示細胞に誘導することに
よって効力を発揮し、そして、この誘導によって、
T細胞の応答も同時に増加させるに必要な刺激シグナルが増加する。(Ej,Kj)
核膜孔の制御(Nuclear pore control)
核膜孔は核膜に開いており、この孔を通じて分子が核に出入りする。もし、
核膜にカルシウムが不足すると、核内移行が抑制される。Perez-Terzicたち
(p.1875)は核孔の構造中のコンフォメーション(立体配置)の変化を可視化し、
カルシウムが核膜に欠乏すると、孔を通過するチャンネルの径が縮小することで、
上記現象が説明出来ることを示した。(Ej,Kj)
小鳥のさえずり(Temporal Hierarchical Control of Singing in Birds)
個々の行動単位と、これら単位を組み合わせて経時行動を制御する神経コードは
よく解ってはいない。単純な鳥の音声に間脳の構造が関与していることは知
られていたが、前脳については、よく解っていなかった。YuとMargoliash(p.
1871;Pennisiによる解説p.1801)は、前脳のプレモーター ニューロンが示す
パターンの特徴とゼブラフィンチ(zebra finch)のさえずりの
パターンとユニークな対応関係があることを見つけた。つまり、人間と同じ様に
高度で抽象性の高いさえずりの大まかなパターンを制御する部分と、個々の音声
を発する部分が分かれて、階層的に機能を果していることが解ってきた。(Ej)
プラスチックレーザー(Plastic laser)
レーザーは今まで無機物質を主な発光源としていたが、ここにきてプラスチック
が有望になって来た。有機物質が無機に比べて優れている点は、発光色が殆ど
自由に選べることである。現在までのところ、レーザーと言えるほど光の性質は
良くなく、外部から光で励起されてのみ発光する。この発光を起こすポリマーは、
半導体プラスチックとして知られているものである。しかし、レーザーに必要な、
同一波長のフォトン放出連鎖反応は、プラスチックでは、厳密な意味では起きて
いないが、同じ物質が溶液中ではレーザー発光を示すから、近い内に実現すると
楽観視する研究者は多い、とService(p.1800)は結んでいる。(Ej)
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