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Science August 2, 1996
骨の発達を制御する(Regulating bone development)
軟骨を骨で置換していく制御方法は骨の形成にとって重大なことであるが、その理由
は、これが骨格の基本要素である形と長さを決定するからである。分泌される情報伝
達分子のハリネズミファミリーの一つであるインドハリネズミ(Indian hedgehog=
Ihh)の骨形成における役割が、2つの論文(Roushによるニュース解説p.579)の焦点にな
っている。Vortkampたち(p.613)は、Ihhが軟骨細胞で発現され、肥大軟骨で分化する
割合を制御していることを見つけた。Ihhの情報伝達の標的の一つは、もう一つのシ
グナルである副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)である。Ihhに応答してPTHrP
は、軟骨を包む軟骨膜の中で発現する。Lanskeたち(p.663)はPTH/PTHrP受容体をノッ
クアウトし、軟骨細胞内で発現することが、IhhとPTHrPが軟骨細胞の分化に及ぼす効
果を仲介するために必要であることを示した。(Ej,Kj)
クラスター中の結合()Bonding in clusters)
アルカリクラスターは、単分子反応における様々なタイプの結合の効果を研究する上で
、モデルとな
るシステムである。特に、弱く束縛された複合体を含む場合に有効である。スピン分極
が存在しない
場合は、化学的結合が形成される;整列したスピンを持つクラスター中では、van der W
aals 力によ
る結合が支配的である。しかしながら、後者は、安定化させかつ特性を与えることが困
難な、高エネ
ルギー構造となっている。Higgins たち(p. 629)は、極低温のヘリウム液滴を、最も低
い四重項
状態(スピンの整列している状態)にNa3の三量体を安定化させるために用いた。彼らは、
Na3がひとつ
の原子と共有結合的に束縛された二量体へ解離することを追跡することができた。この
ような研究は
、三体の分子間力に対する洞察を与えてくれる。(Wt)
X線をデジタル化する(Digitizing x-rays)
X線撮影は、健康管理上の主な診断の道具であるが、いまだにアナログ(フィルム)の
形式である。
現在開発中のデジタル形式のX線写真の一形式であるところの、X線に感応する感光体
には材料的な
限界があった。 Wang と Herron ( p. 632 )は、無機材料−有機材料のナノメートル
サイズの合
成材料を作成した。これは、無機材料の要素(高いX線吸収効率を持つ)と有機材料の
要素( 優れ
た誘電的性質と薄膜化が容易)の利点を合わせ持つものである。(Wt)
シベリアの尖器(Siberian points)
北アメリカ(Clovis)の更新世に出現する古代インディアンに特有な物の一部として、
溝刻槍型尖器がある。溝刻の起源は明かでないが、一般的には北アメリカで発生した
と思われて来た;つまりシベリアでは類似技術が見つかってなかった。KingとSlobodin
(p.634)は北シベリアUptar遺跡から出土した、溝刻尖器一つと多数の両面槍型尖器につ
いて記述している。放射性炭素による測定では、この遺物は少なくとも8,300年前の
物である。(Ej)
靜かとは言えない休眠(An unquiet sleep)
3成分の広帯域地震計の改良によって、検出可能な地面の動きの周波数範囲を広
がってきた。Kaneshimaたち(p.642)は、日本の阿蘇火山に、このような地震計を
多数配列し、活火山が休眠状態にある期間に起きる異常な長期間微動(約15秒)
を記録した。この長期間微動は浅部の破砕された水熱系と、下にあるマグマ溜り
との相互作用に関係しているのかも知れない。(Ej)
長期抑圧と学習(LTD and learning)
脳のニューロンのシナプスの強さを長期的に増強したり、長期的に抑圧したり(LTD)
することが、学習や記憶の下地となっている可能性がある。新しいタイプのLTDが海
馬の苔状線維-CA3領域において報告されている。Kobayashiたち(p.648)は、このLTD
が、代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)の活性化によってシナプス前性的にこの
領域で誘発されていることを示した。Yokoiたち(p.645)は、苔状線維-CA3において通
常シナプス前性に発現されるサブタイプ-2 mGluR を発現しないマウスにおいて、以
上の事実を確認した。苔状線維LTDは無効にされてもマウスは空間的学習課題を正常
にこなせるが、このことから、この型のLTDは空間学習の下地にはならないことを示
唆している。(Ej)
酵母のなかのプリオン表現型(Prion phenotypes in yeast)
哺乳類のプリオン疾病は伝染性タンパク質の伝達によって起こされる。酵母において
も、やはり、伝達に核酸を必要としないある種の表現型形質が見つかっている。
Patinoたち(p.622,およびVogelによるニュース解説p.580)は、これら形質の一つが酵母
プリオンとして作用するらしいことを確認した;表現型は、一旦誘発されると他の新た
に合成されたタンパク質に伝達されるタンパク質コンフォメーションとして説明され
る。(Ej,Kj)
メチル化と植物発生(Methylation and plant development)
メチル化された塩基は植物や動物のゲノムのあちこちに存在するが、この機能につい
ては良く解ってない。Renemusたち(p.654;およびPennisiによるニュース解説p.574)
は、メチル基転移酵素遺伝子に対するアンチセンスを使って、ゲノム性シトシンのメ
チル化量の少ないシロイヌナズナ(Arabidopsis)を作りだした。メチル化量の少ない
別の変異体(ddm)において観察されているように、脱メチル化は多コピー遺伝子に見
られる。ddm表現体とは対照的に、メチル基転移酵素アンチセンス遺伝子を保持する
植物もまた、解析した5つの単コピー遺伝子のうち4つにおいてメチル化の欠如が見
られた。植物発生への効果は著しく、脱メチル化される単コピー遺伝子の機能が変化
したことを反映しているのかも知れない。(Ej,Kj)
ニューロンの中のモーター(Motors in neurons)
ニューロンの成長円錐は、アクチン細胞骨格を含むプロセス中に細胞から伸びる糸状仮
足の伸展によ
って動くのである。運動を引き起こすためには、アクチンフィラメントは運動性たんぱ
く質と相互作
用しあう必要がある。Wang たち(p. 660)は、特別の非筋肉性のミオシン、ミオシン−V
が、糸状
仮足の伸展に対する運動性蛋白として作用することを示した。 (Wt)
WEBに成長する生命の木(Web-crawling up the tree of life)
ジャックの豆の木ではないが、Web上に生命の系統樹がものすごいスピードで成長し
ている。Morellがニューズの欄(p.568)で紹介しているのは次のホームページだ(http
://phylogeny.arizona.edu/tree/phylogeny.html)。Univ. of TexasのHillsに言わせ
れば、「Webの最も有効な利用方法である」と。これはUniv. of Arizonaが中心とな
り、生物学者が生物の分類木を完成していくもので、参加者の数だけ成長速度が早く
なる。10個のコンピュータがつながれ、過去20カ月の間に1000ページ以上のサイズ
に膨れ上がり、7500の系統枝まで成長してきた。興味のある生物分類を順にクリック
して行くと写真や豊富なデータがあり、最新の結果をすぐに利用出来る。これは実用
面でも利益がある。例えば、殺菌剤を開発したいと思うとき、その類縁の種をすぐに
調べることが出来るから効率の良い開発が出来る。今までの論文検索では、入手でき
る論文がしばしば古過ぎることが多かったが、これを利用すれば最新データが使える
。異なる系統樹を主張する人のためにも配慮してある。(Ej)
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