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Science July 26, 1996
いまわの際に(Last gasps)
二畳紀の最後(およそ2億5000万年前)の大量の生命体の
死滅は、この過去6億年の中で最大のものであ
った。多くの植物とともに、海洋に住むの種族の
半分以上が消滅した。Knoll たち (p. 452)
は、二畳紀後期の地質は、多くの点において、
----- 海洋の状況も含めて ----- 原生代の最後の部
分(およそ8億年から5億5000万年前)の地質に似てい
ることを指摘している。彼らは、この死滅が、酸
素の欠乏した深海領域の急速な入れ替わりによる
ものであったと示唆している。この入り替わりは、
大気中に有毒な量の二酸化炭素を放出したのであろう。(Wt)
DNAを通る電子(Electrons through DNA)
DNAを経由する電子移動は、DNAらせんの中に電子の供与体と受容体がインターカレー
トされている場合に生じる。Arkinたち(p.475)は、超高速の発光・吸光分光法を使っ
て、正方向と逆方向の電子移動速度を測定し、超高速電子移動速度が金属センター間の距
離に弱く依存しているに過ぎないことを観測した。これらの結果から、これらDNAに
インターカレートされた複合体間の電子伝達機構は、タンパク質での機構とは異なる
ことが推察される。(Ej,Kj)
カーボンナノチュープの均一なロープ(Uniform ropes of carbon nanotubes)
カーボンナノチューブの合成の一つの目標は、
長い、欠陥の無い構造を作ることである。Thess たち
(p. 483)は、高い収率で(70%以上)、一つの壁から
なるカーボンナノチューブの数百からなる束
を産み出すために、(コバルト--ニッケル触媒の
存在下において)グラファイトのレーザー気化法を最
適化した。これらの「ロープ」は、長さが数百
μmにもなりうるのだが、高い金属性の伝導度を示す
。これらの構造の均一性の説明として、触媒の
金属原子の急速な動きによるのであろうという提案が
なされている。(Wt)
競り合う火山(Dueling volcanoes)
1994年、部分的に海水に浸されたパプアニューギニアのラバウル火山のカルデラにあ
る、互いに反対側に位置する2つの噴火口が、ほとんど同時に、しかし、異なる噴火
様式で噴火した。Roggensackたち(p.490)は、地表下でのマグマの動力学をトレース
するために、火口上部のプリューム内の揮発性ガスや、噴出した溶岩に封入されたシ
リカ系(slicic)や苦鉄系(mafic)インクルージョン中の揮発性物質を採集した。その
結果、1つの火口においては海水との相互作用が顕著であるが、他方の火口で見つか
った苦鉄系インクルージョン中の揮発性物質からは、浅部マグマ溜りの下で苦鉄系岩
脈の生成によって噴火が引き起こされた可能性があることが窺える。(Ej,Og)
古代の調理法(Ancient recipes)
古代の文化を理解する上で食物標本を洞察することは極めて重要である。しかし、自
然崩壊によって、特殊な乾燥気候環境以外では、食物残留物があることは希なことで
ある。現在における古代食物の理解は、多くの場合美術品として描かれたものや、記
録されたものに頼っている。Samuel(p.488;およびWilliamによるニュース解説p.432)
は、2000B.C.から1200B.C.の間のエジプトのビールとパンの残留物を光学顕微鏡と
走査電子顕微鏡で調べた。これらの標本は驚くほど複雑であり、現在我々が信じて
いる古代食物の理解とは必ずしも一致しない。(Ej)
ガラスのような秩序(Glassy ordering)
低振動数の振動と速い緩和過程は、過冷却液体
の重要なサインである。しかし、この前者については
、標準的な理論モデルでは説明することはできてい
ない。物質中の中距離の秩序がこれらの振動の源
泉であると示唆されて来た。 UchinoとYoko(p.
480)は、グリセリンの3量体について、第一原理
(アブイニシオ)分子軌道計算を行ない、水素結合
した分子の局在化された集団運動がこのような低振
動数のモードを導きうること、また、三量体の中
の分子の並進運動がこのような急速な緩和過程の起
源であるかもしれないことを示した。(Wt)
破壊への道(Path to destruction)
リソソームは細胞内部の、誤って折り畳まれたり、損傷したり、あるいは不必要に
なったタンパク質を分解する一方で、
タンパク質の取り込みには大容量取り込み経路と選択的経路の両方が働かせている。
飢
餓状態にあったり、成長因子を欠損したような細胞型に於て特に活性化する選択的経
路は、細胞膜を横切って前駆体タンパク質を輸送するような経路に類似している。
CuervoとDice(p.501)は、この経路の基質を結合するリソソームの膜糖タンパク質,
LGP96,を同定した。LGP96は、チャイニーズハムスターの卵巣細胞内で過剰発現するこ
とによって、選択的経路の活性を増加させる。このことから、この受容体はこの経路
の律速成分の一つであることを示唆している。(Ej,Kj)
神経細胞を護る(Getting on the nerve)
グリア細胞の型の一つであるシュワン細胞は分化して、神経軸索を囲み、活動電位を
長距離伝ぱんさせる保護性ミエリン鞘を形成する。POU領域の転写制御因子Oct-6は、
シュワン細胞の分化が完了するまではミエリン遺伝子を抑制するように作用すると思われて
いた。Jaegleたち(p.507)はOct-6ノックアウトマウスを研究し、promyelin細胞が
ミエリン化ステージに発達するまでは、Oct-6が必要であることを示した。しかし、
この段階に達した後では、Oct-6はミエリンの発現には必要ない。
神経細胞をつなぐ(Hooking up the nerve)
脊髄傷害はその痛ましい結果のため、医学的処置が懸命に追求されている。
ChengとOlson(p.510;およびYoungによる展望p.451)は部分的な治療方法を示した。
複数の微細な神経細胞を利用して、完全に切断された成熟ラットの脊髄のギャップを
架橋した。この神経架橋と組み合わせて成長因子を与え、患部を機械的に安定
化させることで、ある程度の後肢の機能回復が達成された。(Ej)
新同位体元素の大量生産(Flood of new isotope creations)
ドイツの重イオン加速研究所(GSI)は、現在のまでの所、ウラニウムイオンを750A
MeV にまで加速できる装置を持つ唯一の研究所であるが、周期律表に6つの最重元素を
追加したことで有名である。GSIは他の研究所と共同して、ウラン238を鉛とベリリュ
ウムの標的にぶつける方法によって、2年間に100種類以上の同位体元素を同定し
ている。Normile(p.433)による解説記事によれば、この装置は、Bernasの理論に基づ
く「ウラン238は中性子に富んだ核を生成し、核分裂反応を起こす可能性がある」こ
とを証明した。Bernasは、また、中性子あるいはプロトンだけからなる「殻(shell)
」を持つ原子核はより安定であり、例えばニッケル78 が、これに相当すると言う。
このニッケル78 は、超新星が重原子を生成するプロセスと思われている、「急速中
性子捕獲プロセス(r-process)」理解の鍵を提供するものと期待されている。(Ej)
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