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Science March 8, 1996
アフリカを出て:遺伝子の証拠 (Out of Africa:Nuclear DNA evidence)
ミトコンドリアDNAの示唆するところによれば現代人の起源は母系を遡ることによっ
て、アフリカに10万年から30万年前に住んでいたとされるたった1人の祖先に突
き当たる。これに対比して、複数地域起源説は、直立原人(Homo erectus)から進化し
て、数カ所で平行的に局地的な人種が生じたとする。Tishkoffたち(p.1380;及びFisc
hmanによるニュース解説p.1364)は、42の異なる民族から抽出された1600人以上の
個人から得られたCD4遺伝子座に存在する2つのマーカー(short tandem repeat pol
ymorphism(STRP)とAluの欠損)を解析した。北東アフリカと、非アフリカ民族からは
、Alu反復はほとんど常に1つのSTRP対立遺伝子を伴っているが、サハラ以南の民族
では数個の対立遺伝子を伴っている。これらの解析から、アフリカからの人類出現はお
よそ10万年か、それ以前であることが推察される。(Ej)
惑星系の見本抽出人 ( A planetary sampler)
火星および月からの隕石の発見により、物理モデルを構築する研究者に対して、地球型惑星と月から地球への
衝突噴出物の輸送効率の再評価を促すこととなった。以前のモンテカルロシミュレーションは、月からの
流星は容易に地球に到達しうることを示しているが、火星からの流星体は、火星の隕石の示唆する宇宙線の
照射年令よりも長く、また、よりうねった進路をとるように思われた。 Gladman et al. (p. 1387)は、
彼らのシミュレーションにおいて、離脱する噴出物の軌道を数値的に積分し、火星からの流星体はより早く
地球に到達するのみばかりでなく、水星からの噴出物が捕捉される、あるいは、地球からの噴出物は再び
捕捉される可能性があることを示している。(Wt)
酸素の活性化 (Oxygen activation)
光合成や酸化反応を含む多くの生化学的経路には、酸素間結合を形成したり、
切断する金属酵素が必要である。Halfenたち(p.1397)は、O-O 結合を可逆的に
切断したり結合したりする、銅複合体を合成し、性状決定(キャラクタライゼーショ
ン)した。
2つの状態(結合と切断)の平衡関係は溶媒を代えることでシフトする。このモデル
の速度論的研究は、どのように酵素がこの様な重要なステップを演じているかを明ら
かにするかも知れない。(Ej)
メタン-水素の相 ( Methane-hydrogen phases)
メタンと水素をいっしょにしたら、どのようなものが得られるのだろうか。周囲の状況下によっては、そ
の答えは単に単純なガスの混合物にすぎない。 しかし、Somayazulu et al. (p. 1400)は、ダイヤモンド
製のアンビルを持つセル中で、1〜8Gpa間の圧力でこれらのガスの混合物を圧しつぶし、X線回折およ
びラマン分光を用いて、4つの固体の分子化合物のキャラクタリゼーションを行った。予想外のこれらの
固体の生成は、基礎化学と材料科学の研究に対し、興味深い手段を与えるであろう。(Wt)
水、二酸化炭素そして気候 ( Water, CO2, and climate)
大気中の二酸化炭素の増加に対する生物圏の反応と、結果として生ずる気温への効果に関しての理論モデ
ルの予測は、不確かなものであった。その理由は、二酸化炭素の上昇と蒸発の両方の効果を考慮する必要
があるからである。 Sellers et al. (p. 1402)は、生物圏と気圏(地球大気の存在領域)との連成モデル
を用いたシミュレーションの結果を与えている。それによると、蒸発効果が熱帯地方で減少するため、生
物圏は、温度を更に上昇させる方向に働くことを示唆している。(Wt)
銅とアルツハイマー病 (Copper and Alzheimer's desease)
アルツハイマー病の特徴的な症状は、脳の中にβアミロイドで出来たタンパク質のプ
ラークが沈着することである。βアミロイドは正常な脳に存在する、機能がよく解ら
ないタンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の分解生成
物である。
Multhaupたち(p.1406)は、APPが銅(II)イオンを還元してタンパク質-銅(I)複合体を
作ることができることを示した。
アルツハイマー患者の神経細胞中でのAPPの集積が、脳中のその他の酸化反応ととも
に、脳での銅代謝を阻害しているのかも知れない。その結果脳中の他の酸化反応と
ともにフリーラジカルを生成し、
さらに神経細胞を痛めているのかも知れない。(Ej)
GAAトリプレットの反復 (GAA triplet repeats)
ある種の病気では、正常では20から30の繰り返しを持つ反復ヌクレオチドトリプレッ
ト(CGCまたはCAGのいずれか)領域が、不安定に拡大し、何百何千と反復しており、正常な遺
伝子発現を妨害する。これらの病気は優生遺伝し、遺伝的前駆症状(反復数は世代を
重ねる毎に増加し、症状の強さも世代毎に増加する)を示す。青少年期にしばしば生
ずる、末梢神経細胞系と心臓の常染色体劣性変質病であるフリードリッヒ病(多発性
不定筋間代症:FRDA)は、強い反復性トリプレットの候補ではないが、Campuzanoたち
(p.1423;およびWarrenによる「展望」参照p.1374)は、χ25遺伝子に伴っているGAA
反復の伸長を同定した。ほとんどのFRDA患者は、
遺伝子生成物であるフラタキシン(frataxin)の、RNA発現を抑制した遺伝子の最初の
イントロン中に不安定なGAA反復を持っていた。(Ej)
損傷に対する応答反応 (Injury response)
血管が損傷を受けた後に、直接組織修復を助ける多数の成長因子遺伝子が誘導され
る。しかし、このプロセスを起動する分子シグナルは、まだ同定されてない。Khachi
gianたち(p.1427)は、ラットの大動脈が損傷を受けた後、傷の縁に転写因子である初
期成長応答遺伝子生成物(early-growth-response gene product=Egr-1)の発現の顕著
な増加が認められることを示している。彼らは、Egr-1が、血小板由来成長因子B鎖(
PDGF-B)遺伝子のための隣接プロモーターと相互作用して、Egr-1の部位とオーバーラ
ップしている転写因子Sp1にとって代わることを
見出した。推定されるEgr-1 の認識エレメントは、傷に伴って活性化される他の遺伝子では
同定されているが、さらに、これらのことから、一般的にEgr-1 は、大動脈損傷後の病理生理
学的因子の活性化に広く関わっているのかも知れない。(Ej&Kj)
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