Science May 24 2024, Vol.384

数を数えるカラス (Counting crows)

数的な能力は、人間以外の動物でもますます確認されるようになってきた。鳥やミツバチのように多様な動物が「数を数える」ことができると証明されており、これらの動物は、異なる数の物を識別したり、より多い物とより少ない物を識別することができる。Liaoたちは、数的な技能と高水準の認識力の両方で知られるカラスが、鳴き声を使って声に出して数を数えることができるかどうかを試験した。これは人間の子どもにとってさえ困難な技能である。カラスは、数値に関連付けられた(指定された数を示す)合図に対応して、柔軟に1回から4回の鳴き声を発した。さらに、彼らは、異なる数に対しては異なる鳴き声を用いた。(Sk)

Science p. 874, 10.1126/science.adl0984

正極用金属結晶中での格子回転 (Lattice rotations in metal cathode crystals)

理論的には、高ニッケル含有ニッケル-マンガン-コバルト(NMC)正極は結晶が大きいほど、粒界と不均質体積変化がないため、多結晶正極よりも高い実用電池容量を持つはずである。しかしながら実際は、70%以上のニッケルを含有する単結晶NMCは、電池容量がより急速に衰え、より性能が悪い。Huangたちは、粒子集合体中での統計的な格子歪みと個々の格子歪みの両方を取得し、これによりX線回折と電子顕微鏡の方法が提供する情報をつなぎ合わる手法を開発した。著者たちは、頻繁に生じるが検出されないことが多い格子歪みである格子回転が、正極用単結晶粒子中での構造的・電気化学的な劣化を引き起こす主要因であることを観察した。(MY,kh)

Science p. 912, 10.1126/science.ado1675

キラル層でより頑強に (Tougher with chiral layers)

ペロブスカイト太陽電池の機械的信頼性を向上させるために、自然界にあるキラル構造の強度が模倣されてきた。Duanたちは、異なる熱膨張特性を有する層間の界面がかかえる比較的低い機械的信頼性の課題に取り組んだ。著者たちは、ペロブスカイト光吸収層と電子輸送層との間にR-/S-メチルベンジルアンモニウム系のキラル構造中間層を挿入して、強固で弾性を有するヘテロ界面を作った。封止された太陽電池は、1200時間にわたる-40℃から85℃の間での200回の熱サイクル後も約26%の電力変換効率の92%を維持した。(NK,MY,kj,kh)

Science p. 878, 10.1126/science.ado5172

カルベンが作る直鎖と格子 (Carbene chains and lattices)

N-複素環式カルベン(NHC)は、遷移金属原子と結合できる炭素原子上の孤立電子対を安定化する。Qieたちはフロンティア分子軌道の解析を行って、炭素-金-炭素によるπ結合を形成できるNHCを設計した。密に充填された(111)表面の金原子と反応した二座および三座のNHCは、走査型トンネル顕微鏡で画像化されたように、それぞれ伸長鎖とカゴメ格子を形成した。これらの網細工が作る電子構造は、アルカリ金属に匹敵する仕事関数をもたらした。(MY,kh)

【訳注】
  • カルベン:2個の価電子と2個の非共有価電子を持つ炭素原子から作られる化学種。
  • フロンティア軌道:最高被占軌道と最低空軌道のこと。
  • カゴメ:ここでは三座NHC分子と金原子が籠目(六角形と三角形が組み合わされた模様)状に配列して格子を形成したもののこと。
Science p. 895, 10.1126/science.adm9814

イネの栽培化の軌跡をたどる (Tracing the path of rice domestication)

人類は1万年以上にわたって植物を栽培化しており、野生種を収集し、最終的に望ましい特性を持つように品種改良してきた。イネは世界的に最も重要な主食作物の1つだが、野生種(Oryza rufipogon)から栽培種(O.sativa)への進化の時期と段階は十分に理解されていない。遺伝学的研究によると、イネの利用は考古学的証拠に記録されているよりも早い、更新世後期に始まった可能性がある。Zhangたちは、揚子江下流域の植物珪酸体サンプルを提示し、栽培化の時期が早かったこと(約1万1千年前)を示唆している。栽培化の時期は、採集・利用の段階(約2万4千年前)と初期の栽培段階に続いていた。この研究は、植物の利用と栽培化が東南アジアと肥沃な三日月地帯で同時に起こったことを示している。(Uc)

Science p. 901, 10.1126/science.ade4487

分離する生体分子凝縮物 (Distinct biomolecular condensates)

生細胞は、巨大生体分子の相分離によって形成される多数の膜のない細胞小器官を含んでいる。これらの細胞小器官は、特定の細胞機能を果たすために別々の細胞内細分区画として分離される必要があるが、この分離を維持する分子機構はほとんど理解されていない。興奮性と抑制性の神経細胞シナプスのシナプス後細胞内構造(それぞれ、ePSDおよびiPSD)は、微小棘突起内であっても互いに混ざり合わないそのような膜のない細胞小器官である。Zhuたちは、ePSDとiPSDの凝縮物がそれぞれ、特異的な分子相互作用を通じて浸透ネットワーク(percolated network)を形成し、自然に互いに分離されることを実証している。ナノモルの結合親和性を持つePSD構成タンパク質群とiPSD構成タンパク質群の間の強制相互作用は、ePSDとiPSDの凝縮物を一緒に混ぜ合わせることができず、これは、非混合が相分離によって形成される膜のない細胞小器官における生体分子の基本的過程であることを示している。(KU,MY,kh)

【訳注】
  • 棘(spine):神経細胞の樹状突起上に多数存在する小さなとげ状の隆起で、シナプス部位として機能する。
  • PSD(シナプス後肥厚):シナプス後部側(伝達物質の受け手側)細胞の細胞膜直下に存在する、多数のタンパク質が集積した構造体。神経伝達物質受容体、足場タンパク質、シグナル伝達酵素など、1,000種類以上のタンパク質から構成されている。ePSDとiPSDはシナプス後部側細胞の1つの微小棘突起内で分離して共存している。
Science p. 920, 10.1126/science.adj7066

マウスとヒト雄用避妊 (Contraception for mice and men)

臨床で用いられている女性の避妊には多くの形があるが、男性の避妊は極めて限定されたままであり、薬物療法的な取り組みに欠ける。STK33(セリン/スレオニンキナーゼ33)と呼ばれる、あまりよく理解されていないキナーゼは精巣に多く存在し、このキナーゼを欠く男性とマウスはいずれも不妊となる。これらの知見に基づき、Kuたちは、STK33の化学的阻害剤を見出すための大規模な薬剤スクリーニングを実施し、いくつかの阻害剤化合物を付加したSTK33の結晶構造を得て、この情報を用いて構造-活性の間の相関性研究を行った(HoldawayおよびGeorgによる展望記事参照)。最も有望な化合物は、雄マウスの生体内で、何ら検出しうる安全性の懸念なく妊孕性を減少させた。重要なことは、この処置の効果が可逆的なことであり、処置を止めるとすぐにマウスは妊孕性を回復した。(hE,kh)

【訳注】
  • セリン/スレオニンキナーゼ:タンパク質のセリン、スレオニンにリン酸を付加する酵素群で、細胞内の多様なシグナル伝達に関与する。
Science p. 885, 10.1126/science.adl2688; see also p. 848, 10.1126/science.adp6432

揺りかごの中で視覚認識を構築する (Building visual recognition in the cradle)

人間は優れた色覚を持っているが、視覚認識は色の変化に対しても高い適応性(頑強性)を持っている。この適応性は成長中にどのように作られるのだろうか? Vogelsangたちは、新生児の視覚経験の影響に焦点を当て、後年に視力を獲得した10人の先天性盲児における認識成績を分析した(Mamassianによる展望記事参照)。後年視力を獲得した子供は、生まれつき目の見える子供と比べて、色彩除去への適応性が低かった。対照実験とコンピュータ・シミュレーションは、生まれつき目の見える子供が新生児の時期に経験した未成熟な無彩色視覚が、その後の人生で色に依存しない認識を促進することを示した。後年視力を獲得した子供は、視力を獲得した当初から彩色光景を経験することで、生まれつき目の見える同年齢の子供よりも色に依存する傾向が高い。(KU,MY,kj,kh)

Science p. 907, 10.1126/science.adk9587; see also p. 847, 10.1126/science.adp6594

大きな赤方偏移における豊富なガス (Abundant gas at high redshift)

銀河中のガスは星形成の原料になる。初期宇宙の銀河は、急速に星を形成していると見られるが(Scarlataによる展望記事参照)、それらの銀河が含むガスの量を観測的に決定することは困難である。Heintzたちは、赤方偏移が8より大きい12個の銀河の近赤外線分光データを分析した。この赤方偏移はビッグ・バンから6億年未満に相当する。彼らは、その銀河と周辺にある中性水素ガスに起因する特徴的な、その銀河に対する静止系で見て紫外領域に吸収を持つ3つの銀河を特定した。高いガス柱密度は、これらの銀河で起こっている急速な星形成を維持するのに十分であるが、それはほんの短期間だけである。(Wt,kj,nk,kh)

Science p. 890, 10.1126/science.adj0343; see also p. 850, 10.1126/science.adp5153