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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science January 22 2016, Vol.351
社会的活動が腸内微生物群ゲノムを変える(Social activity alters gut microbiomes)
社会的行動は,霊長類社会の腸内微生物群ゲノムにどの細菌種が登場するのかに影響を与える.Moellerたちはタンザニアのゴンベ国立公園における何千時間ものチンパンジーの行動観察と,彼らの腸内細菌群落のdeep sequencingとを結びつけた.個体間の広範な社会的相互作用が,細菌種がかなり類似した一揃いの腸内微生物群ゲノムを作りだした.同じ社会的行動はまた,多種多様な細菌種をその集団内に保存した.母子感染によるより、むしろ社会的相互作用により、比較的ありふれた腸内微生物群ゲノムが得られた.(MY,ok,kh)
【訳注】
・deep sequencing:次世代シークエンサーを用いて特定箇所の塩基配列を複数回読み込み,DNA解析を行うこと
遺伝子編集は、強い筋肉作りに役立つ(Editing can help build stronger muscles)
CRISPR/ Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術をめぐる論争の多くでは、病気の原因となる変異を修正するためのヒト胚の生殖細胞系列編集に対しての倫理問題が中心となる。筋ジストロフィーのような特定の疾患に関して、体細胞における欠陥遺伝子を編集することで治療効果を達成できるかもしれない。概念実証研究において、Longら、Nelsonら、及びTabebordbarらは、アデノ随伴ウイルス-9 を使用して、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者で不足する筋肉タンパク質であるジストロフィンをコードしている遺伝子に変異を持つ若いマウスにCRISPR/ Cas9遺伝子編集系を届けた。遺伝子編集が、骨格筋および心筋におけるジストロフィンタンパク質の発現を部分的に回復させ、骨格筋機能を改善した。(hk,KU,kh)
活動中の電波散乱事象を同定する(Identifying live radio scattering events)
遠く離れたクエーサーからの電波放射は、時折、前景にある星間プラズマにより数週間にわたり動させられるのだが、これは極限散乱事象(extreme scattering event: ESE)と呼ばれる。既存の技術は、それらが終了する前に追跡調査して同定できるほど十分に高速なものではなかっため、この過程を理解することは難しかった。Bannisterたちは、実時間で ESEが同定可能な電波サーベイ技術を開発した。最初の活動中の ESEを発見したのち、彼らは、追加の電波望遠鏡と光学望遠鏡によりその追跡探査を行った。その結果は、星間プラズマの大きさと密度に制約(条件)を与え、よく知られた ESEのモデルの一つを排除する。(Wt,ok,nk)
有機物の糸を織る(Weaving organic threads)
織物は本質的に柔軟性に富んでいる。Liuたちは、金属−有機物の骨組みを用いて、分子の布類似体を作った(Gutierrez-Puebla による展望記事参照)。銅金属錯体上のフェナントロリン・リガンドは、イミン結合による有機結合体が付加するように導き、織物状になったらせん状の有機物の糸を作った。銅を除去することにより鎖状の糸は互いに滑りを生じ、その材料の弾性を十倍に増大させた。(Sk)
【訳注】
・フェナントロリン:3つのベンゼン環が結合した多環芳香族炭化水素であるフェナントレンの2個の炭素原子を窒素原子で置換した化合物
・リガンド:錯体の中で、中心原子に配位しているイオンまたは分子などの総称
異なる方法で三重項を活躍させる(A different way to put triplets in play)
ほとんどの分子は一重項スピン構造をとる.それらの分子の電子はすべて,対となって配列する.対をなしていない三重項状態は,さまざまな有用反応に関与するが,生成するのが困難である.量子力学は,一重項から三重項への光励起は非効率であると規定している.その代わりとして,化学者たちは増感剤をあてにする.増感剤は自身で光吸収した後にエネルギー移動を通して近傍の三重項状態の数を増やす.今回,Monginたちは,ある種のナノ粒子が三重項増感剤として振る舞うことができることを示している.(MY,ok,kh)
新しい地殻の手がかりを古い岩石から(New crustal clues from old rocks)
ずっと昔に浸食されて消え去った大陸の地殻の痕跡が、始生代の岩石中に見られる、ある元素比の中に存在するかもしれない。Tangたちは、地球で最も古い岩石の中からは、とっくの昔に風化で失われた、マグネシウム酸化物の存在量指標として、Ni/Coと Cr/Znの比を用いた。これにより岩石の組成の再構築が可能となり、それが、今日の地殻の組成とは非常に異なることが明らかになった。現代の地殻組成への変化は始生代以降に生じており、プレートテクトニクスの始まりを示唆している。(Sk,nk,kh)
年とともに血圧が上昇する(Raising blood pressure with age)
血管平滑筋細胞の肥大は、血圧を上昇させる。アンジオテンシン IIによる、血管平滑筋細胞中のアンジオテンシン AT1受容体の活性化は、年齢次第で、増殖または肥大どちらの引き金にもなりえる。Nishimuraたちは、AT1受容体とプリン作動性P2Y6 受容体の会合体における年齢に伴う増加が、アンジオテンシン II に対する異なった反応の説明ができることを見出した。若いマウスの血管平滑筋細胞は、年を取ったマウスのそれよりも P2Y6 受容体の数が少なかった。アンジオテンシン II は、若いマウスの血管平滑筋細胞の増殖を引き起こすが、年を取ったマウスのそれにおいては、異なる信号経路を活性化することによって細胞の大きさを増大させる。(Sk,KU,nk)
【訳注】
・プリン作動性:細胞外のATPやアデノシンにより媒介される生体反応、血管収縮、血栓形成、免疫、炎症応答などに関与
優しくしたい(Let me comfort you)
慰め行動は、他の人の力を借りて、ある人のストレス減少を促進する。我々は、慰めがヒトや類人猿に存在することを知っている。Burkettたちは、一雌一雄型のプレーリーハタネズミにおいて、ストレスのない伴侶がストレスのある伴侶への毛づくろいを増大させることを観察した。さらに、ストレスのない伴侶はストレスのある伴侶と、そのストレス・ホルモンへの反応により結ばれた。慰めは、動物において、想定されていた以上に一般的なものかもしれない。そして、プレーリー・ハタネズミは、慰め行動の根底にある物理および神経的なメカニズムを理解する有用なモデルになるかもしれない。(Sk,ok,nk,kh)
神経細胞移動は血管経路に従う(Neuronal migrations follow vascular pathways)
発生中の脳において、様々な細胞型は彼らの生まれた場所から活動の場所へと移動する。オリゴデンドロサイト前駆物質(これは軸索に沿う信号伝達をより速くする絶縁性の鞘を形成するよう発生する)は、他の多くの細胞より遠くへ移動する。Tsaiたちは、オリゴデンドロサイト前駆細胞が、どのようにして正確に自分の道を見いだすかを示している (Dejana and Beltsholtzによる展望記事参照)。この前駆細胞は血管やリンパ管のような脈管の内皮細胞に沿って伸びて行く。血管内皮細胞の崩壊はオリゴデンドロサイトの移動を妨害し、脳のいくつかの部分で神経絶縁体が不足な状態となった。(KU,nk,kh)
もっと太陽に頼る(Relying more on the Sun)
太陽エネルギー利用に関する改良技術は、より効率的な太陽電池を創り出すということに限定されるものではない。太陽電池からの電力を家庭や企業へ送電したり、送電網上にこの断続性の電力資源を貯蔵したりすることに関連するハードウェアは、R&Dの機会を提供する。Lewisは、太陽エネルギーの利用のための太陽熱や太陽燃料に関する取り組みとともに、これらの領域の状況をレビューしている。(Wt,KU,nk,kh)
光チップでタイミングをとる(Timing on a chip)
レーザ誘導・光周波数コムは、精密計測に用いられ、多岐にわたる技術分野への応用が期待されている。Braschらは、光学チップ上に光周波数コムを創った(AkhmedievとDevineの展望記事参照)。彼らは、光ソリトン、つまり光弾丸を誘導し、マイクロキャビティー導波管中を伝搬させた。放射された出力光は、2/3オクターブにわたるコヒーレントな光コムを形成した。このようなチップ上実証は、計測技術の微細化及び適応範囲拡大に貢献するであろう。(NK,KU,ok,nk,kh)
正しい種類のドーパント(The right kind of dopant)
酸素還元反応は、燃料電池や他の電気化学的プロセスにおいて一つの重要な反応段階であるが、未だに貴金属を含む触媒に大きく依存している。最近開発された代替の電池はまざまな、むしろ卑金属原子でドープされた炭素材料を含んでいる。Guoたちは、特別に作成したグラファイトのモデル触媒を研究し、窒素ドーピングの役割を理解し、そして活性な触媒部位を解明しようと試みた。二つの炭素に結合した窒素原子は、窒素ドープしたグラフェン触媒のそれに匹敵する活性を持つ活動的触媒部位を形成した。(KU,nk,kh)
細胞死が成長のための部位を確立する(Cell death establishes a site for development)
植物の根は土壌中で成長するにつれ、より多くの栄養物に到達するように側根が出現する。Xuanたちは、プログラム細胞死が側根発生の進路を決めていることを示している。根冠の特定領域における細胞はまとまって周期的に次々に死に、側根がその後に発生するであろう場所を規定する。(KU,nk,kh)
【訳注】
・根冠:植物の根の先端にある組織で、植物の生長点を保護している。
花粉媒介者がもっと多様になれば作物収量が向上する(More-diverse pollinators improve crop yields)
花粉媒介者の多様性が増加すれば、農業作物の収量増加を改善できることは知られている。しかしながら、食物生産と多様性維持の双方をベストにする方法は、未だ議論されている。Garibaldiたちは、世界中で最も多い社会的弱者のために食料供給を行っている小規模農場において、花粉媒介者の多様性が著しく生産性を高めることができることを示している。このように、生態学的な健康という点で作物や周囲領域を管理することは、野生の花粉媒介者の集団や農場主の双方に利益をもたらすと考えられる。(Uc,KU)
子孫が精子の低分子RNAに影響される(Offspring affected by sperm small RNAs)
哺乳類では父親の食餌状態が、子孫の代謝の表現型に影響する.以前の研究は後成的経路の関与を示唆しているが,その機構は明確でないままである.今回,2つの研究が,父親の食事の違いが,マウス精子中の低分子RNAの量に影響することを示している.Chenたちは,高脂肪食で飼育されたオス精子の転移RNA (tRNA)断片を,正常な卵母細胞へ注入した.生まれた子孫は代謝異常を示し,また,それに伴い代謝経路における遺伝子の変化を示した.Sharmaたちは,精子成熟の際における低分子tRNAに由来する断片の発生とその機能を観察した.親が曝された環境により子孫が影響を受ける機構をさらに理解することは,食べ物が誘発する代謝異常のようなヒトの病気にも関係するだろう.(MY,nk)
2段階を1つで(Two steps in one)
細菌は,地球全体の窒素循環(例えば,アンモニア(NH
3
)を硝酸塩(NO
4
-
)に転換することによる)で重要な役割を果たしていて,この転換はおおよそ2つのグループの細菌によりなされる.片方のグループはアンモニアを亜硝酸塩へと酸化し,他のグループは亜硝酸塩を硝酸塩へと酸化する.Santoroは展望記事で,この過程の段階を2つとも行うことができる細菌を見つけた最近の研究を紹介している.この完全なアンモニア酸化生物,あるいはcomammox細菌は,自由生活のもとよりも緩慢な成長を許すバイオフィルムの中で生活する.この細菌は,従来の培養方法では見逃されて,科学者が微生物コンソーシアの濃縮と,無培養細菌の配列決定用に開発されたゲノム方法を結びつけた時に見出された.(MY,kh)
【訳注】
・comammox:「完全なアンモニア酸化」(complete ammonia oxidation;comammox)のこと
・自由生活:他に寄生したり,共生したりせずに独立して生命活動すること
・バイオフィルム:微生物が自身の産生する粘液により膜状に集合した状態
・微生物コンソーシア:複数の微生物が混在して存在している状態
「共有」が「まれ」に勝つ(Share trumps rare)
もはや宣伝文句ではなく、「患者中心医療」及び「データの共有化」が、まれな遺伝病に関する革命的研究を可能にしている。100,000を越える遺伝子変異体がヒトの病気を促進すると信じられているが、浸透度(ある変異が、実際にそのキャリアに病気を引き起こす確率)に関してはほとんど知られていない。この難問は未解決であるが、その理由は標本サイズが小さいために、変異と病気の発生との関連性の評価が不完全となるためである。Minikelたちにおいて、科学者に転向したある患者が、巨大な生物情報学チームに参加し、Exome Aggregation コンソーシアムと 23andMe incのデータベースからの膨大な量の共有されたデータを解析した。その結果は、まれな致死的な遺伝的プリオン病に対して遺伝子-変異体の浸透度と可能な処置方法に関する洞察を与える。(KU,nk,kh)
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