AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 19 2015, Vol.348


タンパク質を設計して自己集合させる(Designing proteins to self-assemble)

1980年代以降、DNAはナノ構築材料として用いられてきた。タンパク質ナノ構造体は、より大きな幾何学的制御と形状可変性を提供する可能性を持っている。Gonenたちは、二次元の配列に自己集合するタンパク質のコンピューター設計に関して記述している。これらのプログラム可能なタンパク質の格子は、生体分子の構造決定や分子レベルのセンシングに新たな方法を可能にするであろう。(KU,nk,kh)
Design of ordered two-dimensional arrays mediated by noncovalent protein-protein interfaces (Science, this issue p. 1365)

地震誘発は注入速度次第(Making quakes depends on injection rates)

廃水注入用の井戸は地震を誘発し、特に地質構造的に不活発な地域において、大きな注目を集めている。Weingartenたちは、合衆国東部および中部の公開されている注入井戸データベースの情報を、過去30年以上にわたる入手可能な最も完全な地震目録と結びつけた。井戸への液体注入速度は、誘発地震の生じやすい地域における最も決定的な要因であろうと思われた。この考えに沿って、Walsh IIIと Zobackは、大規模に廃塩水が注入されているオクラホマの区域と、地震活動の増加を経験している区域との間に明らかな相関を見出した。(Sk,ok,nk,kh)
High-rate injection is associated with the increase in U.S. mid-continent seismicity (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500195 (2015); see also p. 1336)

スフィンゴ脂質によって安定化されるテロメラーゼ(Telomerase stabilized by a sphingolipid)

正常な成体細胞において、テロメアと呼ばれる染色体末端の構造は、染色体が複製を繰り返す毎に次第に短くなる。テロメアが短くなりすぎたり、或いは損傷したりすると、細胞は分裂を止め、老化する。酵素テロメラーゼはテロメアの完全性を維持し、そしてリン酸化がこの酵素の触媒サブユニット (TERTと呼ばれる)を安定化している。正常な線維芽細胞と肺癌細胞の双方において、Selvamたちは、リン脂質 SIPの TERTへの結合が TERTの分解を防いでいることを見出した。SIPと TERTとの間の相互作用の崩壊は、テロメアの維持に障害を与え、培養された細胞の老化を促進し、マウスにおいて異種移植された肺癌細胞の増殖を低下させた。(KU,nk,kh)
Binding of the sphingolipid S1P to hTERT stabilizes telomerase at the nuclear periphery by allosterically mimicking protein phosphorylation (Sci. Signal. 8, ra58 (2015))

電池の充放電サイクル中の欠陥を見る(Watching defects during battery cycling)

転位は材料の機械特性に影響を与える。Ulvestadたちは、リチウムイオン電池中で充放電サイクルを経たナノ粒子における、転位の影響を調べた。欠陥は、充放電サイクル中に材料が膨張したり収縮したりする様式に影響した。将来、制御された格子欠陥の操作を通じて、材料特性を調整することが可能になるかもしれない。(Sk,KU,nk,kh)
Topological defect dynamics in operando battery nanoparticles (Science, this issue p. 1344)

衝突が彗星の形を作る(Collisions give comets their shape)

彗星の形と構造は、遠い昔からの衝突過程の残存特性である。彗星の核の直接測定を行なう最近の、あるいは、進行中の宇宙船飛行計画はあるが、彗星の形状形成に重要なものが何かを調べることは難しい。Jutziと Asphaugは、広範囲にわたる標的と衝突物の質量、及び軌道条件に対して、およそ100回の3次元衝突シミュレーションを行なった。低速で、そう激烈ではない衝突が、層状で二葉状の実在の彗星の形状を作ったのである。(Wt,KU,ok,nk,kh)
The shape and structure of cometary nuclei as a result of low-velocity accretion (Science, this issue p. 1355)

ヒヒは、リーダーではなく、群れに従う(Baboons follow the pack, not the leader)

ヒトを含めて、動物の群れは、どのようにして群れ全体に影響を及ぼすような意思決定をしているのだろうか?群れをつくる動物から集められた証拠は、意思決定のプロセスは或る程度民主的であり、最近傍の隣接者と全体での多数者が全体の集団行動を形成することを示唆している。しかしながら、霊長類や狼といった階層的社会構造を持つ動物において、このような民主制はリーダー支配により複雑化するであろう。Strandburg-Peshkinたちは、ヒヒの群れ内のすべての個体を彼らの日常的活動の経過にわたって絶えず追跡監視した。この高度に社会的に構造化した種においてすら、移動の決定は、共有のプロセスを通して行われた。このように、民主制は、集団行動に関する生まれつきの形質であろう。(KU,ok,nk,kh)
Shared decision-making drives collective movement in wild baboons (Science, this issue p. 1358)

屈曲して形を作る:作用中のクラスリン(Bend me, shape me: Clathrin in action)

エンドサイトーシスのクラスリン被覆小窩は、50年以上前に電子顕微法で描写 された最初の細胞構造の一つである。それにもかかわらず、疑問が残っている:クラスリンが平坦な格子として膜に結合し、次いで被覆小窩が陥入する際に屈曲するのか?そうではなくて、膜が陥入するのにつれて、定められた曲率でクラスリンが集合するのか? Avinoamたちは二つの最先端の可視化方法を適用して、この論争を解決した。彼らは、クラスリンが、エンドサイトーシスの初期に集合して明瞭な平坦な格子になり、それが小胞のサイズを前もっ て決めることを示唆している。構築されたクラスリン被膜は、次にサイトゾル・ プールとのクラスリン動的交換を通して再配列し、形成中の小胞 の周りを包む。(KU,kh)
Endocytic sites mature by continuous bending and remodeling of the clathrin coat (Science, this issue p. 1369)

癌治療における分解戦略(A degrading game plan for cancer therapy)

癌の発生に寄与するある種のクラスのタンパク質は、治療法の標的にするには課題が多い。Winterたちは、関心のある任意のタンパク質の選択的な分解を原理的に可能にする化学的戦略を考案した。この戦略は、希望するタンパク質を他の分子に結合することが知られているリガンドの化学的付着を含んでおり、タンパク質を細胞のタンパク質分解機構へと差し向ける機能を持つ酵素を奪い取る。概念証明の研究において、彼らは bromodomain-containing protein 4と呼ばれる転写共役因子の選択的な分解を実証し、マウスにおいて白血病の進行を遅らせた。(KU,ok,nk,kh)
Phthalimide conjugation as a strategy for in vivo target protein degradation (Science, this issue p. 1376)

溶媒を濾過する複合膜(Composite membranes for filtering solvents)

多くの研究が、水を浄化したり不要な二酸化炭素を抽出できる膜を見つけることに焦点を当ててきた。しかしながら、その他にも有機液体から小分子を除去するという要求がある。多くの既存の方法はエネルギー集約的であり、大量の溶剤を必要とすることがある。Karan たちは、パターンを形成した犠牲支持体上に拘束した高分子層を成長させ、波形の薄膜を作り、その後、その膜をセラミック膜上に配置した(Freger による展望記事参照)。この複合膜は、有機溶剤の高い透過特性と優れた安定性を示し、高い効率で小分子を取り除くことができた。(Sk,ok)
Sub-10 nm polyamide nanofilms with ultrafast solvent transport for molecular separation (Science, this issue p. 1347; see also p. 1317)

気候モデルの成功(あるいは失敗)(On the success (or not) of climate models)

大西洋子午面循環(AMOC)は、巨大な量の熱を低緯度から高緯度に輸送し、気候に関し大きな影響を及ぼす。気候モデルは、地球温暖化が AMOCの減速を引き起こすと予想してきた。しかし、そのような減速の具体的な証拠は十分ではなかった。Srokoszと Brydenは、10年にわたる AMOCの観測結果を再調査し、この期間における全般的な弱まりだけでなく、季節性から10年単位までの時間スケールにわたる予期せぬ大きさの変動を明らかにした。(Sk,KU,kh)
Observing the Atlantic Meridional Overturning Circulation yields a decade of inevitable surprises(Science, this issue p. 10.1126/science.1255575)

長寿命ポーラロンの光誘起(Photoinduction of long-lived polarons)

光合成複合体や有機太陽電池は、光励起によって分離した電荷を急速に作り出すことができる。しかしながら、人工の系では、しばしば好ましくない電荷の再結合が生じる。これは部分的に、電荷受容体と供与体の構造がはるかに大きいからである。Huberたちは、はるかに小さな界面で、共役高分子電解質の電荷供与体とフラーレン受容体を対にした水性ミセルを作り出した。彼らは、数日の寿命を有するポーラロン(分離した電荷の安定した対)の、光誘起による形成を観察した。(Sk,ok)
【訳注】
・ポーラロン:イオン結晶体などの中で、電子が自分のまわりに誘起した分極を引きずりながら移動する状態での、電子と電気分極から成る複合粒子
Long-lived photoinduced polaron formation in conjugated polyelectrolyte-fullerene assemblies (Science, this issue p. 1340)

防御のための正しい組み合わせ(The right combination for protection)

その病気の拡がりにもかかわらず、性感染性であるクラミジア・トラコマチスの感染症を防御するワクチンは何ら存在していない。Staryたちは、可能性のあるワクチン候補の一つに関して報告している(Brunhamによる展望記事参照)。紫外線で不活性化されたトラコーマ病原体を抗原性補強剤(adjuvant)を含む帯電したナノ粒子に結合させたワクチンの接種により、通常のマウスとヒト化マウスのメスをトラコーマ感染症から防いだ。このワクチンは粘膜経路を通して送達されたときのみ防御を与えた。防御は、免疫原性樹状細胞の特定の集団がその細菌を標的にすること、そしてメスの生殖器に存在する記憶 T細胞を誘発するかどうかに依存する。(KU,kh)
【訳注】
・ヒト化マウス(humanized mice):マウスの造血免疫組織にヒト細胞を高度に生着させたマウス
・免疫原性(immunogenic):抗原が個体の免疫応答を誘起する力
A mucosal vaccine against Chlamydia trachomatis generates two waves of protective memory T cells (Science, this issue 10.1126/science.aaa8205; see also p. 1322)

渇水時の水使用を少なくするには(How to use less water during drought)

都市の住民は大量の水を必要とし、それはしばしば、都市周囲から供給されている。カリフォルニアで現在進行中の渇水などの際に実施される節水戦略は、灌水制限や段階的料金設定などを含む。そうした節水戦略は、どれほど効果的なのだろう? 展望記事において、HogueとPincetlは、この疑問を扱うために衛星や水量計などからの分解能の高いデータを用いた最近の研究に光を当てている。先進的なデータ解析ツールとモデルを一緒に用いることで、それらデータは、節水のための最適な地域戦略の決定に役立つであろう。(KF,nk)
Water Conservation (Science, this issue p. 1319)

胞胚から神経堤へ、出発点をとばさないで(From blastula to neural crest, do not pass go)

脊椎動物の発生の際に、神経堤細胞は、色素細胞やニューロン、軟骨など 並はずれて多様な細胞を生じる。伝統的に神経堤細胞は、神経外胚葉からの誘導体だと考えられてきた。Buitrago-Delgadoたちはこのたび、神経堤細胞が、発生のより初期から胞胚細胞に特徴的な分子プログラムの成分をもっていることを示している(HopplerとWheelerの展望記事参照)。胞胚細胞は胚を作り上げるのに必要な、幅広い発生上の潜在能力をもっている。神経堤細胞は、神経外胚葉への分化後の発生プログラムを改めて活用しているというよりは、初期発生に特徴的なプログラムの持続を反映している可能性がある。(KF,kh)
【訳注】
・神経堤細胞:胚発生において生じる脊椎動物特有の構造である神経堤(しんけいてい、neural crest)から遊離する細胞。
・胞胚細胞:胞胚は動物の胚の発達の初期段階の一つ。分化しない細胞が卵の外側に配列し、中央には通常は胞胚腔と言われる腔所が現れる。
Shared regulatory programs suggest retention of blastula-stage potential in neural crest cells (Science, this issue p. 1332; see also p. 1316)

感覚運動の選択の際のシグナルの流れ(Signal flow during sensorimotor choices)

脳を横切る課題シグナルの流れについては、ほとんど知られていない。Siegelたちは、サルが2つの可能な単純な課題の一方を実行するよう合図された際の、感覚性領域や頭頂、前頭葉前部、運動皮質の複数のユニットからのシグナルを同時に記録した。刺激や合図、課題、選択をコードしているニューロンの比率と反応潜時は領域によって異なっていた。頭頂および前頭葉前部の脳領域は、課題情報と選択を同じ潜時でコードしていた。興味深いことに、すべての脳領域がすべてのタイプの情報をコードしていた。しかしながら、それらは、ニューロンの比率とその反応潜時に従って、機能的には異なっていた。(KF,ok,nk,kh,KU)
【訳注】
・潜時(latency):潜伏期ともいう。神経生理学では刺激を与えてから応答が開始するまでに時間
Cortical information flow during flexible sensorimotor decisions (Science, this issue p. 1352)

受容体はいかにしてシグナルを伝えるか(How a receptor transmits a signal)

Gタンパク質結合受容体 (GPCR)は、多様な外部シグナルを細胞へ伝達している。外部刺激によって活性化されると、それは細胞内の Gタンパク質に結合し、結合していたグアノシン二リン酸 (GDP)ヌクレオチドのグアノシン三リン酸との交換を促進し、これが細胞間情報伝達を惹起する。Drorたちは、原子レベルの分子動態シミュレーションを用いて、GPCRがいかにして GDPの遊離を増強しているかを示した。Gタンパク質は動的であり、受容体が結合していなくても GDPを曝け出す高次構造を頻繁にとる。この構造へ結合する GPCRは、GDP遊離に都合のよい付加的構造再編成を行うことになる。著者たちは二重電子-電子共鳴分光法を用いて、そうした予測の正しさを実験的に確認した。(KF,KU)
Structural basis for nucleotide exchange in heterotrimeric G proteins (Science, this issue p. 1361)

多機能なパイオニア(Multifunctional pioneers)

タンパク質は細胞の DNAを取り囲んで、遺伝子発現を沈黙させている。発生の初期に、パイオニア転写制御因子などのタンパク質が、この沈黙したクロマチン構造の開口を促進する。Hsuたちは、線虫(nematode worm)のパイオニア転写制御因子 PHA-4の、それ以外の役割を記述している。PHA-4は、転写開始前に RNAポリメラーゼⅡを標的プロモータに補充したが、この活動はクロマチン開口作業に先行するものだった。PHA-4で確認されたこの多機能性の役割は、他のパイオニア因子にも共有されている可能性がある。(KF,nk)
【訳注】
・パイオニア転写制御因子(転写因子):閉じたクロマチン分子の変化を開始することができる転写制御因子
Recruitment of RNA polymerase II by the pioneer transcription factor PHA-4 (Science, this issue p. 1372)

肉食動物の管理はいつ容認されるのか?(When is predator control acceptable?)

狼などの肉食動物は長らく、管理あるいは更には除去されるべき問題と見なされてきた。今日、彼らの価値はより広く認識されているが、肉食動物はいまだに、絶滅の危機にある餌食となる種の個体数を支えたり、家畜を守るために広く殺されている。展望記事において、WoodroffeとRedpathは、そうした肉食動物管理が、餌食となる種にとって必ずしも有利であるわけではなく、しばしば好ましくない結果をもたらすと論じている。肉食動物の餌食に対する圧力は、生息地の断片化などの人間の行為の結果であり、生息地が回復されない限り、餌食となる種は肉食動物の管理に依存せざるを得ない。肉食動物の管理に関する議論においては、双方の側の情熱が加熱しすぎで、管理の努力は、それが社会的に容認されるまでは、効果を生まない可能性がある。(KF,KU,ok)
When the hunter becomes the hunted (Science, this issue p. 1312)

核膜を封じる(Sealing the envelope)

動物の細胞分裂の際に、細胞核膜は分解し、紡錘体が、複製された染色体を将来の娘細胞へと分離できるよう組織化することを可能にしている。核膜がクロマチンの周囲でどのように再編成しているのかは、謎であった。展望記事で、SundquistとUllmanは、多様な膜分裂イベントに関与している細胞機構が、どのように細胞核膜を封着しているかを記述している。エンドソーム輸送選別複合体(ESCRT)機構は、成長する細胞核膜に構築され、他のタンパク質を補充している。それらタンパク質は紡錘体からクロマチンを遊離し、膜を閉じ、2つの娘細胞の分離を準備している。(KF)
An ESCRT to seal the envelope (Science, this issue p. 1314)

AIREによる自己免疫を明らかに(AIREing out autoimmunity)

AIRE遺伝子における変異のせいで、多腺性自己免疫症候群1型 (APS1)の患者は、複数の内分泌腺に機能障害を被り、しばしば不妊となる。女性不妊症は自己免疫性の卵巣機能不全によって説明しうるが、男性不妊の原因ははっきりしていない。このたび Landegrenたちは、前立腺分泌分子 tranglutaminase 4 (TGM4)が、APS1患者における雄性特異的な自己抗原であり、低受胎に寄与している可能性を報告している。APS1患者における TGM4への自己抗体は、思春期の始めにAPS1患者に出現し、同様の抗体が AIRE欠損マウスにおける破壊的前立腺炎をもたらす。これらデータをまとめると、雄性の APS1患者に見られる不妊症が説明できるであろう。(KF,KU)
Transglutaminase 4 as a prostate autoantigen in male subfertility (Sci. Transl. Med. 7, 292ra101 (2015))
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