AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 15 2015, Vol.348


イエローストーンの探し求められていたマグマのつながり(Yellowstone's missing magmatic link)

イエローストーンは広範に調べられている"スーパー火山(supervolcano)"で,この火山は,地表近くのマグマ溜りとその下のマントルから多量の熱供給を受けている.これら2つの地下の構造は繋がっているのではないかと長年にわたり思われてきた.Huangたちは,地震波トモグラフィー【訳注】を用いて,下部地殻を画像化した(ShapiroとKoulakovによる展望記事参照).彼らの調査結果は,イエローストーンの下に存在する全溶岩量の推定値を与え,また,この領域から漏れ出している多量の火山性ガスを説明するのに役立つものである.(MY,ok,nk)
【訳注】
・地震波トモグラフィー:地球の内部構造による地震波の伝播時間の違いから、地球内部の様子を明らかにする手法
The Yellowstone magmatic system from the mantle plume to the upper crus (Science, this issue p. 773; see also p. 758)

友人,それともと家族?(Friends and family?)

進化論は、遺伝子のいくつかを共有しているということで、親族との生活の重要性を強調している。それにもかかわらず、現代の狩猟採集社会を広く調べた結果では、一貫して非血縁者同士が集まって暮らすという社会構造が確認されている。Dybleらはモデル化の方法を用いて、この難問への可能な答えは、一緒に住む仲間の選定権が男と女に等しく与えられているため であるとした。(hk,KU,nk)
Sex equality can explain the unique social structure of hunter-gatherer bands (Science, this issue p. 796)

自然の貝殻の複雑な形状を真似る(Mimicking complex shapes of natural shells)

海の貝殻において、いかなるデザイン原理が彼らの物理的性質をとても優れたものにしているのだろうか?Tiwaryたちは、海の貝殻で見出された応力分布図に関する彼らの理解に基づいて、この形を3次元印刷した。母なる自然によるデザインを採用することは、これからの技術的応用に強い影響を持つであろう。例えば、カサガイ(limpet shell)の自然な形は、中央の空洞内部の圧力を低下させ、それにより外部負荷から貝殻内部の柔らかな生物本体を保護している。(KU,ok,nk.kh)
Morphogenesis and mechanostabilization of complex natural and 3D printed shapes (Sci. Adv. 10.1126.sciadv.1400052 (2015))

光の量子ダイナミクスを操る(Tailoring the quantum dynamics of light)

量子系のエネルギーレベルは、量子力学の法則と物理的条件によって決定される。空洞内に閉じ込められた光は、等間隔のはしご段状にきれいに配置されたネルギー準位を持っており、個々の段は一定数のフォトンに対応する。Bretheauらは、系を量子ビットにカップルさせて、対象とする段より上にある段の一つのエネルギーをシフトさせ、最も下にある数個の段の間のみに光子の動きを制限する方法を考案した。次に段の間の距離に対応する周波数でその系を作用させると、その変更した準位より低エネルギーの準位のみが反応した。(NK,KU,ok,nk.kh)
Quantum dynamics of an electromagnetic mode that cannot contain N photons (Science, this issue p. 776)

染色体:あなたの案内役にさせてください(Chromosomes: Let me be your guide)

細胞分裂前の紡錘体中央(中期プレート)における染色体の正しい配列は、ゲノムの安定性の維持にとって重要なメカニズムの一つである。しかし、この過程を手助けする紡錘体の微小管に、何か特別なものがあるのであろうか。Barisic たちは、細胞の赤道部分における染色体の配列が、紡錘体の中央部に向かって配向する選択された微小管の特異的な翻訳後修飾により制御されていることを証明している。(Sk)
【訳注】
・翻訳:mRNA情報によりタンパク質を合成する反応
・翻訳後修飾:翻訳後のタンパク質に対する化学的な修飾
Microtubule detyrosination guides chromosomes during mitosis (Science, this issue p. 799)

遠い昔、遥か原始銀河団の彼方で(In a cluster of protogalaxies far, far away)

天文学者は、洞察を与え、銀河の進化のモデルとシミュレーションに制限を与える天体をいつも探し回っている。Hennawi たちは、宇宙の年齢が現在の年齢の半分の時の古い天空を調査して、イオン化した水素の巨大な星雲を探した。スペクトルの赤方偏移が大きい遠方の天体ほど地球まで光が届くのに時間がかかり、昔を見ていることになるので、赤方偏移の値を揃えると指定した年齢の天体を選り分けることができるからである。彼らは、偶然にも、4つの活動銀河核、或いはクエーサーを含む系を見つけた。この天体は、銀河の祖先と考えられている。内部に四重のクエーサーという珍しい系が埋まっている星雲を見出したことで、詳細なスペクトルと運動の研究が可能となる。この発見は銀河や銀河団に関する現在の形成モデルを見直すのに役立つであろう。(Wt,nk)
Quasar quartet embedded in giant nebula reveals rare massive structure in distant universe (Science, this issue p. 779)

南ヨーロッパにおける先史文化(Cultural prehistory in southern Europe)

初期オーリニャック文化(Protoaurignacian culture)は、42,000年前ごろに南ヨーロッパの考古学的記録で出現し、個人的な装飾品や細石刃石器によって特徴づけられる。考古学者たちは、これらの石器や装飾品を作ったのが初期ホモ・サピエンスなのか、或いはネアンデルタール人だったのかを議論していた。Benazziたちは、イタリアにおける二ヶ所の初期オーリニャック遺跡からのヒトの歯を解析し、ホモ・サピエンスであることを確かめた。この文化の到来が、これらの地域のネアンデルタール人を絶滅に導いた可能性がある(Conardたちによる展望記事参照)。(KU,ok,bb)
The makers of the Protoaurignacian and implications for Neandertal extinction (Science, this issue p. 793; see also p. 754)

抗腫瘍性 T細胞を増強する(Giving antitumor T cells a boost)

変異により、腫瘍が分裂し、死を逃れて、治療への抵抗を可能にする。しかし、変異は又、腫瘍に変異タンパク質を発現させ、抗腫瘍性 T細胞の応答を促進するのに利用される可能性がある。Carrenoたちは、正にこれを探索して、小規模第I相試験を行った結果を報告している(Delamarreたちによる展望記事参照)。彼らは、患者の癌の変異に特異的な T細胞を活性化するように設計された、個別化された樹状細胞に基づくワクチンを用いて癌メラノーマの進んだ3人の患者にワクチン接種した。変異ペプチドに特異的な T細胞は実際に成長した。次のステップは、この有望な戦略が患者の結果を改善するかどうかを決定する事であろう。(KU,nk)
A dendritic cell vaccine increases the breadth and diversity of melanoma neoantigen-specific T cells (Science, this issue p. 803; see also p. 760)

凝集体を悪漢させないようにする(Making aggregation less aggravating)

α-シヌクレイン凝集体の蓄積は、パーキンソン病を含む幾つかの神経変性疾患を引き起こす。Danieleたちは、α-シヌクレイン凝集体が生まれたばかりのマウスのミクログリアにある受容体複合体 TLR1/2を活性化し、炎症誘発性サイトカインの産生に導くことを見出した。高血圧治療に承認された薬剤を含めて、TLR1/2拮抗物質は、凝集したα-シヌクレインに応答したミクログリアの活性化やサイトカイン分泌を防いだ。このように、TLR1/2抑制作用をも持つ既存薬剤の適用拡大は、シヌクレイン病を持つ患者にとって有益となるであろう。(KU,nk,kh)
Activation of MyD88-dependent TLR1/2 signaling by misfolded α-synuclein, a protein linked to neurodegenerative disorder (Sci. Signal. 8, ra45 (2015))

いかにして細胞は自分の適 切な大きさを知るか(How cells know when they are the right size)

生物学者は、細胞が広範囲な寸法にわたって存在していることを昔から認識していた.細胞の大きさはまた、柔軟性もある:細胞は大きさが大きく異なる別の細胞型へと分化する.外部要因もまた,細胞の大きさに影響を与えるが,細胞型毎に細胞の大きさがほぼ同じに揃うことは,細胞が自らの大きさを計って,成長速度や細胞分裂速度を調整する機構を持ち、均一性を維持していることを示している.Ginzbergたちは,細胞が,自らが適切な大きさであるかをいかにして知るかについての最近の理解の進展を概説している.(MY,KU,ok,nk,kh)
On being the right (cell) size (Science, this issue 10.1126/science.1245075)

リンの酸化還元サイクル(The phosphorus redox cycle)

海洋におけるリンは、+5と+3の酸化状態をサイクルする。海洋リンのほとんどは、酸化された生物の利用可能なリン酸(+5)化合物として存在している。還元された有機リン化合物も存在しているが、しかしはるかに低濃度である。西部熱帯性の北大西洋における現場測定と一連の実験室培養により、Van Mooyたちは、プランクトン集団によって、少量とはいえ無視できないレベルのリン酸塩が高い速度で還元されて、亜リン酸塩とホスホン酸塩を形成することを見出した。(Benitez-Nelsonによる展望記事参照)。世界的な規模では、このリンの還元サイクルは、人間の活動によるリンの流出が起こる以前に陸地から海へ流れ出ていたのと同じ量の還元リンを海洋へ追加している。(KU,nk,kh)
Major role of planktonic phosphate reduction in the marine phosphorus redox cycle (Science, this issue p. 783; see also p. 759)

いかにしてゼブラ フィッシュの脳を維持するか(How to maintain a zebrafish brain)

人間の脳よりうまく新しい神経細胞を作ると思われる、ゼブラフィッシュの脳においてさえ、再生能力は無限ではないかもしれない。Barbosaたちは、生きているゼブラフィッシュの個々の神経細胞の生死を経時的に地図化した。光る点を見ると、神経幹細胞が神経細胞の数を維持しているが、完全な置換率というわけではない。脳に損傷を受けた後は、より多くの幹細胞が神経細胞経路に取り込まれ、より少なくなった残りが将来の置換に充てられる。(Sk,kh,kh)
Live imaging of adult neural stem cell behavior in the intact and injured zebrafish brain (Science, this issue p. 789)

小さなRNAを伝播させてゲノムを守る(Spreading small RNAs to protect the genome)

動物において、PIWI-interacting RNA(piRNA)とは、我われの生殖細胞系列をトランスポゾンの猛威から守る小さな非翻訳RNAである。それをなすために、piRNAはトランスポゾン RNAを標的とし、切断する。piRNAの合成は、長い一本鎖の RNA前駆体中でなされる切断によって開始される。piRNAはまた、自己永続的な増幅サイクルを経ることもある(SiomiとSiomiによる展望記事参照)。Hanたちと Mohnたちはこのたび、piRNA生合成がまた、厳密にフェーズを踏んだやり方で、最初の piRNA形成部位から伝播することを明らかにしている。piRNA合成が伝播することで、その配列多様性は大いに増加し、それらが内在性のトランスポゾンと新規なトランスポゾンをより効率的に標的にすることを潜在的に助けている。(KF,kh)
【訳注】
・PIWI-interacting RNA:動物の生殖細胞におけるトランスポゾン抑制系の中核をなす低分子RNA
piRNA-guided transposon cleavage initiates Zucchini-dependent, phased piRNA production (Science, this issue p. 817; see also p. 756)
piRNA-guided slicing specifies transcripts for Zucchini-dependent, phased piRNA biogenesis (Science, this issue p. 812; see also p. 756)

温かな心臓を持つ冷水魚(A cold-water fish with a warm heart)

哺乳類と鳥類は,全身を環境温度以上に暖める.一般的に,他の脊椎動物ではこの能力が欠けている.とはいえ,とても活動的な魚の中には遊泳用の筋肉を一時的に暖めることができるものもいる.Wegnerたちは,大型の深海魚であるアカマンボウ(opah)が遊泳用の筋肉を使って熱を作りだし,この熱を使って心臓と脳の両方を温めていることを示している.この能力は,温度の低い深海での代謝機能を高め,また,これは,アカマンボウが他の冷血種と競争する上で役立つであろう.(MY)
Whole-body endothermy in a mesopelagic fish, the opah, Lampris guttatus (Science, this issue p. 786)

あれやこれやを少しずつ(A little bit of this and a little bit of that)

中心体は、動物細胞における微小管形成における主要な役割を果たしている。この機能の鍵となるのは、いくらか謎めいた中心体周辺物質(PCM)である。Woodruffたちは、PCM組立の試験管内での再構成を記述している。細胞中では、PCMは中心小体によって補充され、微小管の中心となり支えとなる中心体を形成するようになる。線虫(Caenorhabditis elegans)の PCM基質の主要構成要素である SPD-5は、試験管内で重合して、マイクロメートル・サイズの多孔性ネットワークを形成した。SPD-5の重合は、後生動物全般に渡って PCM組立を制御する2つの保存された制御因子である poloファミリーのキナーゼ、Plk1と Cep192/SPD-2によって直接制御された。(KF,KU,kh)
Regulated assembly of a supramolecular centrosome scaffold in vitro (Science, this issue p. 808)

反応性 T細胞の役割の再考(Rethinking the role of reactive T cells)

多発性硬化症(MS)の患者では、神経絶縁性の髄鞘(ミエリン鞘)への損傷が、メッセージを伝達するニューロンの能力を阻害する。この傷害は、身体自身の免疫系によって引き起こされると考えられているが、MSの患者と健常な対照群において、ミエリンに反応する免疫細胞が同じくらい存在している。このたび Caoたちは、MS患者からのミエリン反応性のT細胞(これは炎症誘発性である)と健康な対照群からのミエリン反応性のT細胞(免疫調節性のサイトカインであるインターロイキン10をより多く分泌している)との間の機能的差異を報告している。つまり、選択された免疫細胞における機能的分岐が、病気の発生に寄与している可能性がある。(KF,KU,nk)
Functional inflammatory profiles distinguish myelin-reactive T cells from patients with multiple sclerosis (Sci. Transl. Med. 7, 287ra74 (2015))

極度の貧困問題への挑戦(Attacking the problem of extreme poverty)

一日当たり1.25ドル未満で生活している(それが生活と呼べるのなら、だが)12億人の生活水準を改善しようという善意の努力をめぐる持続的な関心は、何が役立つかを明らかにすることである。別の関心は、ある状況でうまくいくものを、別の状況で有効なものにできるかどうかを明らかにすることである。Banerjeeたちは、エチオピア、ガーナ、ホンジュラス、インド、パキスタン、ペルーでの1万1千世帯を対象にした一連のパイロットプロジェクトからの、有望な結果を記述している。各プロジェクトは、参加者が持続的に生活可能な水準まで脱け出せるよう、短期的な支援とより長期の支援を提供していた。(KF,kh)
A multifaceted program causes lasting progress for the very poor: Evidence from six countries (Science, this issue 10.1126/science.1260799)
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